大阪公立大学の履修証明プログラム「大阪文化ガイド+(プラス)講座」は、地域貢献や学問の社会的な役割が求められる現代において、大学がどのように地域と連携し、学びの場を提供していくのかを考える中で生まれた講座です。
本講座は、地域のボランティアガイドに携わる人々のスキルアップを目指すもので、受講生は学術的に大阪の豊かな歴史と文化を学びながら、同時に受講生同士の交流も深めることができます。
そんな「大阪文化ガイド+講座」について、文学部文化構想学科文化資源コースの天野景太先生に伺いました。
天野 景太 先生
大阪公立大学 文学部 文化構想学科 准教授
大阪公立大学大学院 文学研究科 文化構想学専攻 准教授
博士(社会学)(中央大学)
研究分野
観光学(都市観光論・観光形態論・観光メディア論)、社会学(都市/地域社会学・社会情報学)、文化資源論(観光まちづくり研究、地域文化論)
文学部ならではの社会貢献
――「大阪文化ガイド+講座」はどういった経緯から開講されたのですか。
近年、大学の社会貢献や地域貢献といったものが求められていますが、世間的に、私たち文学部には商学部や法学部の学びのように、直接的に実利に繋がるイメージはないと思います。とはいえ、文学部ならではの貢献の方法はきっとあるということで、学内で検討を重ねました。
例えば、日本史や地理、語学。それに、今は大阪公立大学ですが、かつては「大阪市立大学」でしたので、大阪市とその近隣の歴史や文化の研究に関しては最先端であり、蓄積もあります。本学の研究者にはその分野の第一人者が揃っています。
そういったことを勘案しながら創ったのがこの「大阪文化ガイド+講座」です。地域でボランティアガイドをしたり歴史を学んだりしている方々が、私たちの授業を受けることで、歴史を見る方法論や学術的な地域研究の手法を身につけてスキルアップできるように図っております。
ボランティアガイドの横の繋がりができる
――受講生の皆さんはどのくらいの年代の方が多いのでしょうか。
平日に開講しておりますので、60歳以上の退職あるいはセミリタイアされた方が多いですね。一番上は80代です。中には現役で働かれている30代の方もいらっしゃいますが、ごく少数で、平均年齢は60代後半くらいです。
――皆さん、普段は地域のボランティアガイドをされているか、もしくはそれを目指していらっしゃるのでしょうか。
そういった方々が中心ですね。もちろん、ガイドとは関係なく生涯学習の一環として、ご自身の興味を深めていきたいということで講座に参加されている方もいらっしゃいます。
――この講座では、貴学の授業の中でも特に大阪の歴史・文化・観光に関するものを受けられるということですが、貴学には元々大阪に特化した授業があったのですか。
大阪の文化や歴史に関する授業の一部は新しく設置しました。また、英語で観光客を案内するためのスキルアップや、古文書の読み方、まちあるきの設計、マップ制作などの授業も設置しました。
おかげさまで受講生の皆さんには大変好評でして、講座は最長2年間受けられるのですが、もっと長く受けたいという声も挙がっております。
――そうなんですね。やはり受講生同士で仲良くなることもありますか。
はい、それも好評の要因の1つですね。ある地域のボランティアガイドに所属すると、他団体との横の繋がりを持つことはあまりなく、他の地域が何をやっているのかがわかりにくいんですね。ところが、「大阪文化ガイド+講座」には、大阪府内全域はもとより兵庫や奈良からも受講生が集まりますので、幅広い情報交換ができるんです。そして、講座が修了した後も交流が続いて、お互いのまちあるきのイベントに呼び合うなどしていらっしゃいますね。
歴史の蓄積が身近に感じられる大阪
――先生は、大阪にはどのような魅力があるとお思いですか。
よく言われるように、大阪は人情深いとか食文化が豊かであるということもありますが、講座に関連する歴史や地理の分野でいうと、どんな地域にも歴史的な物語の蓄積がありますね。例えば、何の変哲もない住宅街であっても、実は縄文時代から古代、中世、近現代に至る歴史を連綿と辿れるような、さまざまな過去の痕跡を見出すことが出来ます。
私は東京出身ですが、関東との比較で言うと山が身近ですね。関東平野は広く、ずっと宅地が広がっていますので、登山をしようと思ったら都心から1時間以上移動しなければならないけれども、大阪平野には山が近くに迫っているので都心からでも通勤電車で20分くらい行けば山や渓谷に着きます。都会的な雰囲気と自然の近さが魅力的です。
また、京都・奈良という古都にも近いですし、文化的なバリエーションも非常に富んでいて、色々な種類の観光体験をしやすい都市だと思います。
シニアと若い学生の交流も
――ボランティアガイドは、そういった魅力的な大阪を伝えていく人達なんですね。
例えば、本学は大阪市住吉区にありますが、住吉区役所主宰の歴史講座が発端となって設立されたNPO法人「すみよし歴史案内人の会」には、ボランティアガイドが50人くらい所属しています。そういったものが区や市の単位で設立されている地域も多いですね。また、大阪城を中心に大阪全域をガイドする団体(NPO法人「大阪観光ボランティアガイド協会」)や、外国語の善意通訳ガイド(大阪SGGクラブ)もあり、今やボランティアガイドは各地域に根付いています。
――そういった各団体からも貴学の「大阪文化ガイド+講座」を受けに来る方がいらっしゃる訳ですね。
そうですね。大学の授業というと、大教室で100人~200人で教員が一方的にマイクで喋るという印象もあるかもしれません。しかし、私たちが講座で提供している授業には、若い学生達と年の離れた受講生の方々で小さなグループを作って、「ああでもない、こうでもない」と話し合いながらガイドツアーのプランを練るものもあります。また、実際に現地に行って、自分達で作った英語の原稿でガイドを実践するなど、体験的な授業となっています。
実際に、授業で作ったプランをガイドの現場でやってみようという流れもできており、スキルアップという意味での一定の成果は出てきています。
――実践的な学び直しができて良いですね。先ほど、80代の受講生もいらっしゃるとのお話がありましたが、講座ではそういった方が20歳前後の学生さんと一緒に受講するわけですよね。どんな雰囲気なのでしょうか。
お互いに世代間のギャップを楽しんでいるようなところも見受けられますね。シニアの受講生にとっては、孫くらいの年代の学生達と机を隣り合わせて学ぶことはなかなか経験できないので、新鮮な気持ちになれるとおっしゃいますね。また、社交的な学生は積極的にシニアの方々とコミュニケーションして、「飴ちゃん」をもらうなどしています。
この「大阪文化ガイド+講座」が、受講生の皆さんと学生達にとって新たな人生の刺激になっていれば幸いですね。