森ノ宮医療大学_前川 佳敬教授に訊く:学生が主体となって高齢者の健康を支える「もりもり健康長寿サロン」の意義と役割 

森ノ宮医療大学は地域に根付く医療系総合大学を目標に掲げ、社会連携事業にも力を入れて取り組んでいます。

その一環として2023年から始めたのが、地域の高齢者の健康を支える「もりもり健康長寿サロン」です。医療技術の進歩、医療制度の充実もあって日本の平均寿命は世界1位(WHO発表)を誇るものの、平均寿命と健康寿命の差は依然として約10年あるのが現状です。”健康寿命の延伸”が求められる中、医療系総合大学の強みを活かし、学生が主体となって地域の方の”健康寿命の延伸”に取り組んでいます。

地域の方にとっても学生にとっても有意義な活動となっている「もりもり健康長寿サロン」について、森ノ宮医療大学副学長であり地域連携センター長の前川佳敬教授にお話を伺いました。

前川 佳敬 先生
森ノ宮医療大学 副学長/地域連携センター長/教授

専門分野は内科学、循環器学、老年病医学、認知症学、分子生物学

研究テーマ

・各種疾患・病態の分子レベル病態解明
・認知症と生活習慣病の関連性及び治療
・高齢者外科手術における高齢者総合機能評価(CGA)の臨床応用

地域に根付く医療系総合大学を目指して

――「もりもり健康長寿サロン」を始めるに至った背景や目的について教えていただけますか。

大学の使命の根幹である教育と研究の展開の上に、社会連携が大学の第三の使命として重要性を増しています。特に本学は地域に根付く医療系総合大学を目標にしており、さまざまな社会連携事業を積極的に展開して地域と資源を相互に活用することで、本学だけでなく地域の発展にも貢献したいと考えています。

“健康寿命の延伸”をサポート

もりもり健康長寿サロンは南港太陽の町にお住まいの高齢者の方々を対象に実施しているのですが、太陽の町のある南港ポートタウンは47年前にできたニュータウンで、現在は他のニュータウンと同様に高齢化が進んでいます。

高齢者が集いやすいように地元の方々が町の喫茶室イベントを開催されているのですが、 2019年頃に本学の教員や学生が血圧測定や健康相談などで参加できないかと地域の方からご相談をいただきました。本学としても地域貢献をしていきたいという思いが強くあったので、教員や学生が参加して「もりもり町の保健室」という活動を月に1回開催することにしました。この活動は地域の方々と協力して進めていたのですが、4〜5年続ける中で本学独自の取り組みもしていこうということで、2023年の7月から「もりもり健康長寿サロン」を始めました。

日本は世界1位の平均寿命を誇るものの、平均寿命と健康寿命の差は依然として約10年あるのが現状です。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指し、平均寿命との差は男性で約9年、女性で約12年あると言われています。平均寿命と健康寿命との差が大きくなると、介護が必要な期間が長くなり、個人の生活の質が低下するとともに、医療費や介護給付費などの社会保障負担も大きくなります。国としてはこの差を縮めていこうと、2040年までに健康寿命の3年以上の延伸を掲げています。

健康寿命を考えるときの切り口の1つに、要介護状態があります。要介護状態とは、入浴や排泄、移動、食事など、日常生活上の動作で介護を必要とする心身状態です。要介護の原因の第1位は認知症で、75歳以上の後期高齢者に限るとフレイルとなっています。フレイルとは、加齢により心身が老い衰えた状態で、健康な状態と要介護状態の中間の段階です。コロナ禍が約3年続き、長期にわたって外出を控えなければいけない状況が続いたことで、フレイルの方が増えているといわれています。

本学では、医学的知識を活用し、こうした問題の解決に取り組んでいこうと考えています。認知症予防のポイントとしては、第一に運動、第二に食事、第三に社会的な活動への参加があげられます。運動が行えて食事に対する知識も得ることができ、社会参加できるイベントは意義のあるものであり、こうした場を作ろうということで「もりもり健康長寿サロン」を立ち上げました。

相乗効果で共に元気に

――若い学生さんと触れ合うことでも、良い効果が期待できそうですね。

その効果も期待して取り組みを始めたのですが、実際には想像以上の効果がありました。学生のおじいちゃんもしくは、おばあちゃん世代の方が来てくださるのですが、本当に楽しそうに過ごされています。また、みなさん積極的にお話してくださるので、学生も最初は少し恥ずかしそうに接している様にみえるのですが、時間の経過とともに楽しそうにお互いが高め合っているように感じます。

――地域の方から相談を受けたことが取り組みを始めるきっかけにもなったとのお話でしたが、貴学は地域の方にとって頼りになる大学として根付いているということでしょうか?

そうなれるように、頑張っています。また、2022年11月より附属クリニックが本学に併設されており、「もりもり健康長寿サロン」に参加される地域の方々も多くお見えになります。そういう意味では、地域の方にとって頼りになる大学になっているのではないかと、期待もしています。

――参加された学生さんの反応はいかがですか?

多くの学生が「やってよかった」と言ってくれます。参加者も学生もお互いに「元気をもらった」と言っておられ、良い相乗効果が生まれているように感じます。

将来に活きる実践的な学び

――貴学の学生さんは、医療機関に就職される方が多いのでしょうか?

多くは医療機関に就職されますが、一部は企業に就職される方もいます。

――「もりもり健康長寿サロン」での経験は就職活動でのアピールにもなりますし、学生さんにとっても有意義な活動ですよね。

おっしゃる通りでアピールにもなりますし、高齢者の方と触れ合うことで自信にもつながると思います。

また、個人的には学生時代に現場に触れることが非常に大事だと思っています。もちろん大学でも実習や講義を通してしっかり学修出来ますが、現場に触れることで得られる学びも将来の大きな糧になると思います。地域によって医療状況などは異なると思いますし、そこも含めて現場を肌で感じてほしいです。自身の学生時代を振り返り、あまり現場に触れてこなかったのは反省点でもあります。だからこそ、学生時代に現場に触れていただきたいと強く思っています。

「もりもり健康長寿サロン」では、基本的に学生が主体となってやることを考え、教員はサポート役に徹しています。 自ら考えたことを参加者の方に体験していただき、その反応を直に見られるのは学生にとって良い経験になっていると思います。参加者の方々はとても楽しそうに、そして学生に優しく接してくださるので本当にありがたいです。

――3学部8学科を設置されているとのお話でしたが、学部や学科を横断して活動に参加されているのですか?

そうですね。高齢化が進む中で、特に高齢者医療ではチーム医療が非常に大事になってきます。本学でも全学科混成での多職種連携教育を、一年次から行っています。チーム医療において重要となるコミュニケーション能力や他者と共同する力、課題解決力等を普段の講義や実習を通して学んでいただいていますが、現場で学ぶ、体験することほど強いものはないと思います。チーム医療の根幹となる学びを得るためにも、「もりもり健康長寿サロン」の活動は重要だと思います。

――異なる学年の学生と一緒に活動することも、将来社会人として働く上で良い経験になりますよね。

そうですね、異なる学年の学生と一緒に活動することで、先輩へのあこがれ、後輩への思いやり、社会性や規範意識の高まりなどの効果があるとされており、学生時代にこのような体験をしておくことは非常に重要だと思います。

また、地域連携活動を通じて学生に現場で通用するような実践力をつけていただくことも当然大事なのですが、活動を通して地域に少しでも恩返しをさせていただきたいと考えています。地域から必要とされる大学にならなければいけないと思いますし、地域の中で大学も成長し、学生も育てていただいています。ですから、少しでも恩返しができればという思いで地域連携活動を行っています。