社員の健康が企業の未来を支える– Smart相談室の挑戦

 知人のベンチャーキャピタリストに、「貴君がいま、スタートアップ企業で着目している企業は」と問うた。返ってきたのが、Smart相談室。ホームページを検索してみた。まず目に飛び込んできたのが『企業の成長は健康な組織づくりから』という見出しと、「Smart相談室は、240名以上の専門家が登録している法人向け対人支援のプラットフォームです。カウンセリング/コーチング/研修など、課題に合わせて最適な対人支援サービスをご活用いただくことで、人材定着/人材開発/人材育成を支援します」とする文言だった。
 周知のとおり「企業は人なり」といわれて久しい。が絶えず「企業と社員」の間に、問題が指摘されているのも事実。昨今では「健康企業」なる言葉が登壇している。「社員の健康⇔企業の健康」がクローズアップされている。

一念、岩をも通す

 2021年に設立された、「Smart相談室」の代表取締役・CEO:藤田康男氏を取材した。取材を終えた直後に頭に浮かんだのが、前記の「一念、岩をも通す」だった。
 何が藤田氏を、現業の起業に駆り立てたのか。
拙稿を読む前に今年6月21日に出版された藤田氏の著書、『社員がメンタル不調になる前に』(日本能率協会刊)の編集者が記している解説に是非触れて欲しい。書籍の帯には「前触れもなく 突然社員が辞めてしまうのを防ぐ「相談」の仕組みづくり」とある。
「21年に設立された御社がいま、世の中での認知高めていると聞く。その背景は」という問いかけに藤田氏はまず「当社のサービスを導入してくださった企業のお陰です」とした上で、「そして今回の出版が大きな出来事だった」と断じた。出版に至った経緯に関しては、「顧客開拓を進める際には当然だが、僕は当社の考えや想いを、さまざまな場面で何度も熱心に話していた。それが、幸いした。版元の編集者の関心を惹いた。結果、出版ということになった」と正直に打ち明けてくれた。
 アマゾン経由で早々に一冊を購入した。編集者「一冊が訴えていること」を理解し、通読した。編集者は本書を、こう位置付けている。

人間は何故、“モヤモヤ”するのか

 ちなみにSmart相談室では、(心の)不調を「モヤモヤ」と表現している。
『第1章』:メンタル不調の原因は自分ではなかなか気付けない/不調は「風邪のようには治らない」ため長期的に付き合い続けることになる/不調の原因の多くは会社の人間に相談できない悩みであることと、捉えられる。
『第2章』:相談対応を行う人事労務担当者(担当者)の視点に立ち、担当者とメンタル不調者の想いの間の「深いギャップ」に迫る。担当者は相談者に寄り添いたい気持ちがある一方、会社の代弁者とならざるを得ず、板挟みの状況にあることが大半。誰にでもメンタル不調に陥る可能性がある。それなのにそもそも「相談」はなぜ難しいのか、安心して相談する場をどうつくるのかという内容は、担当者以外も考えさせられるところだ。
『第3~5章』:「モヤモヤ」段階で相談することの大切さやメンタル不調との向き合い方、筆者が「Smart相談室」の開設を通じて理解したカウンセリングの要諦等について解説されている。
『6章』:メンタル不調の事例を取り上げている。「Smart相談室」に寄せられた赤裸々な悩みと、不調者が「相談」を通して変わった心境を語る声を紹介しつつ、相談することの有効性、相談を受けるということの重要性や有効性、相談を受けるとはどういうことかを説いている。担当者がカウンセラーとして相談を受ける際に把握すべき注意点も理解できる内容になっている。

Smart相談室のカウンセリングの実態

 取材時点(10月初旬)で既に、400社以上が導入。累計相談数は1万1000件に達している。
 実はSmart相談室の創設は、藤田氏の実体験がベースとなっている。医療系人材紹介会社で、マネジメントを行っていた。「売り上げを伸ばしたい」。が、右から左にとはいかない。自らの中に「モヤモヤ」するものが溜まっていった。と同時にマネジメントの対象となる社員が、メンタル不調に陥ってしまった際に、調子が悪くなってからでは遅いと感じた。ちょっとしたモヤモヤの段階で「早めに・何でも」相談できる手立てが必要だと痛感した。
 とは言え、現状のモヤモヤ対応策が2021年当初から整備されていたわけではない。大きな転機は「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)の確立だった」(藤田氏)。
 一口で言えば、簡素化だ。カウンセリングを受けたい向きはPCやスマートフォンなどのweb上で「ID/パスワード」を入力しアクセスし、ログインできる。でもモヤモヤに悩む向きは平日、それも勤務時間中に衆人環視の元でカウンセリングは憚るのではないかと思いそんな疑問を藤田氏にぶつけた。藤田氏曰く。「早朝・夜分でもOK」。妙に感心した。
 先に240名以上の専門家(カウンセラー)体制が敷かれている、と記した。国家資格キャリアコンサルタントや産業カウンセラーなどの資格を持ったプロフェッショナルが多数在籍している。かつ「採用率は約10%」(同)。狭き門を潜ったプロカウンセラーとモヤモヤ組は、どんな風に最適者とマッチングできるのか。
<ユーザー自身が相談相手を選ぶことが出来る>のが、最大のポイント。保有資格や性別、年代等でフィルタリングが可能。どんなキャリアの持ち主(属性)か。会社の人間関係にどんな見識の持ち主か。などなどで候補を絞り込み、直接それぞれと遣り取りをすることも可能。それでも万一選びきれない場合は、悩みに合わせて最適なカウンセラーをSmart相談室がマッチングをフォローしてくれる。
 好スタートを切ったスタートアップ企業の経営者がそうであるように、藤田氏も「モヤモヤの解消に役立つ、広範な展開を今後とも生み出していく」とした。
 世界の「メンタルヘルスデー」である10月10日には、東京の渋谷マークシティ イーストモール1階マークイベントスクエアに「Smart相談POST(スマソウポスト)」を設置した。気軽にモヤモヤを外に吐き出す場の提供だ。「相談は良いこと」という新しい価値観を生み出すことで、メンタル不調に陥る前に誰かに相談することの重要性が社会全体に広がる契機となることを目指したものだった。