人が緩やかに繋がる場づくりは災害時のリスクヘッジにも:大谷大学_まちの居場所づくりプロジェクト

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 大谷大学社会学部コミュニティデザイン学科では、授業の一環として社会福祉施設と協働しながら「まちの居場所づくりプロジェクト」に取り組んでいます。京都市北区で開催される「原谷子どもカフェ」、京田辺市にある福祉事業所「三休」での取り組み、この二つを中心として活動している学生たち。そこでは施設の利用者に限らず、まちの子どもたちや地域でさまざまな活動をしている人が集まり、繋がりが生まれています。
 今回は発足のきっかけやプロジェクトに込めた想いなどを、大原ゆい准教授と4回生の海老名ひなたさん(取材時3回生)に伺いました。

(記事公開日:2025年6月20日)

大原 ゆい 先生
大谷大学社会学部

コミュニティデザイン学科 准教授

立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学・立命館大学)。中間支援NPOスタッフ、立命館大学産業社会学部社会福祉実習指導室、京都府立大学公共政策学部助教を経て、現在に至る。社会福祉士。
単著として『社会を変える〈よりそう支援〉 −地域福祉実践における省察的実践の構造分析−』を2022年に出版(晃洋書房)。

食と遊びを子どもたちに。「原谷子どもカフェ」

――まずはまちの居場所づくりプロジェクトの一つ、「原谷子どもカフェ」についてお聞きします。こちらはどのような経緯で始まったのでしょうか。

大原先生:原谷子どもカフェは、2018年の10月から開始しました。もともとカフェは地域の高齢者の方へ生活支援を行う福祉事業所が主体となって開催しておられたのですが、そちらの職員さんが「地域貢献活動の一環として居場所づくりをしたい」という思いをお持ちだったということ。さらに、その福祉事業所の施設内に別法人の就労継続支援A型の事業所もあるのですが、その責任者の方が食に関するお仕事を障害者の方々と続けてきた中で、「食を通じて地域に関わることができないか」と考え始めておられたこと。その両者の思いが発端としてありました。
そして、福祉事業所内のものとして閉じた活動ではなく、地域に場を開くことを目指す上で、社会福祉協議会やボランティア、近隣の大学に声をかけたという経緯になります。
私もその事業所さんとは個人的に長いお付き合いがあったので、本学の学生も関わることになりました。

――子どもカフェの中で、学生さんはどのような役割を務めているのですか。

海老名さん:原谷子どもカフェでは子どもたちが「食べる場」と「遊びの場」の2つを用意しているのですが、私達学生は遊びの場の企画運営を担っています。この間は「日本の遊びに触れる」をテーマに福笑いをみんなでしたり、クリスマスにはビンゴカードを作ってクイズ形式でビンゴをしたりしました。
学生が持ち回りで企画を考えるのですが、関わっている大人の方々にも進行の段取りなどを指示しなければならないので、やはり最初は緊張しました。でも、「子どもと一緒に成功させよう」という気持ちで全員が取り組んでいるし、みなさん優しく接してくださるので、楽しく企画運営をすることができています。

大原先生:学生も単にボランティアとして関わるのではなく、この場を作っている一員としてレクリエーションの場をどう回していくのか、主体的に考えています。原谷子どもカフェは月1回開催していますが、どんなテーマでレクリエーションを行うのか、試行錯誤しなければなりません。同じレクリエーションをずっとやっていると子どもたちはすぐに飽きてしまうので、例えばゲーム性を持たせるとか、勝ったら景品がもらえるとか、そういった工夫をしながら場を作っていきます。企画書を書き、グループの中で共有し、準備をし、役割分担をして、どんな風に動くのか。そういった流れをすべて学生が考えてくれています。


――子どもカフェにはいつも何人くらいの子どもさんがいらっしゃるのですか。

大原先生:コロナ禍前には120人分の食事を用意していても無くなるほどたくさんの子どもたちが来ていたのですが、コロナ禍を経て多くても70人ほどになりました。最近は毎回40~50人くらいの子どもたちが来てくれています。

――かなり多くの子どもさんたちがいらっしゃるのですね。対してこのプロジェクトに参加されている学生さんは何名くらいなのですか。

大原先生:2回生と3回生が合同で行っている授業なのですが、全体で15名ほどです。原谷子どもカフェともうひとつ別のプロジェクトがあるのですが、企画チームをその2つに分けていて、当日は15人全員で運営を行うようにしています。

――海老名さんはその中でも原谷子どもカフェの企画チームに所属されているのですね。どうしてこのプロジェクトに参加しようと思われたのですか。

海老名さん:元々子どもがすごく好きで、1回生の時から貧困など子どもに関わる社会問題に興味がありました。そこで、もっと子どもに関わり、社会問題について知りたいと思い、2回生から参加することにしました。私はこれまで20回以上、原谷子どもカフェで遊びの場を経験しましたが、実際のところ子どもカフェ自体は貧困家庭に対象を限定しているものではないので、社会問題を目の当たりにすることはあまりないです。ですが子どもと関わっていく中で、どうすれば子どもたちが楽しい空間を作れるだろうか、どうすればいろいろな経験をしてもらえるだろうかと考えながら活動できることは、すごくいい経験だなと思っています。

もっと地域の人に事業を知ってもらいたい。「三休」での取り組み

――では次にもうひとつのプロジェクトである就労継続支援B型事業所「三休(さんきゅう)」との取り組みについてお話を聞かせてください。こちらはどういった経緯で始まったものなのでしょうか。

大原先生:こちらのプロジェクトは2024年から始まったものなのですが、三休自体も5年ほど前に始められたばかりの新しい事業所なんです。三休では、障害のある方が農業に従事することで、就労の場づくりや農業の担い手確保に取り組む「農福連携」を通して、障害者の社会参加・就労を支援しています。しかしまだ三休の事業があまり地域に浸透していないということで、もっと知ってもらうためにどうしたらいいのか、との想いからプロジェクトがスタートしました。

三休は作った農作物などを使って商品を製作し、マルシェや道の駅で販売をされたり、事業所のカフェで提供されたりしていました。そこで、私たちは地域の方に商品やカフェのことをもっと知ってもらうため、三休の皆さんと一緒にフリーカフェを開催することにしました。隔週土曜日にカフェの前で「ご試飲、ご試食どうですか」と道行く方に声をかけ、三休という場と提供されているものを紹介したのです。すると、いろいろな方が足を止めてくださいました。その中には前から「何か建物できたけど何やろうか」と、この場が気になっていたという方もいらっしゃって。「こういう事業所でこんなことをやっているんです」とひたすらお伝えする、初年度はそんな1年でした。

1年目はとにかく道を歩いている不特定多数の方に知っていただく、という活動だったんですが、2年目に入って三休という場を活かして何かできないかと考えました。そこで今年度(※取材時2024年度)は「三休night」と銘打ち、夜の時間帯に三休で作った作物を使った料理を提供したり、地域でいろいろな活動をされている方に来ていただいたりして交流の場を作ることにしました。例えば中高生向けの性教育に取り組んでおられる方に来ていただき、料理やドリンクを楽しんだり子どもが遊んでいたりする空間で、性についての相談会を開いていただきました。それから、一息つける場所を作りたいと活動をされているアロマセラピストの方に、ワークショップをやっていただいた時もあります。

そこに行けば、地域でソーシャルな活動をしている人と繋がれる。三休の皆さんの作ったおいしいお野菜を使った料理をいただきながら、地域の人たちがいろいろなことをきっかけに繋がっていく。そういった場を作ることを意識しました。
場づくりと言っても、大層なプログラムがあるわけではなく、美味しいご飯を食べたり飲んだりしながら気軽に話をして顔見知りになっていける、そんな場ができればいいのかなと思います。それが直接何かの問題解決に繋がるものではないですが、それでいいのではないかと。相談室や診療所をやりたいわけではなく、ふらっと行ったら顔なじみがいたりいなかったり、誰かと知り合いになったり、そんな場が必要だと思っています。

人と関われる場はいざという時の予防線でもある

――最近はそういった誰かと繋がれる場所が少ないですから、三休nightのような場は貴重ですね。

大原先生:そうなんですよね。かつてはそういう場が街の中に自然にあったと思うのです。縁側に誰かがふらっと訪ねて来たり、喫茶店で常連さんが顔を合わせたり。しかし現代ではそういった場をわざわざ設けないと、人と関わることが少ない。そのことが私の中で問題意識としてありました。そこで、人が繋がる仕掛けを地域の中に作っていく必要性があるのではないかと考えていたのです。

今はコーヒー一杯飲むにも、コンビニに行けば一言も喋らないで飲むことができてしまいます。人と意識的に関わっていかないと、コミュニケーションの場が本当にありません。もちろん人と関わることは煩わしさと表裏一体ではありますが、あえて煩わしさの中に飛び込むようなことが必要だと思います。

こうしたコミュニティは、いざという時の予防線でもあると考えています。例えば災害が起こって避難所に行く時、そこに全く顔見知りがいないのか、多少なりとも見知った顔がいるのか。後者であれば、そんなにお付き合いはなかったとしても、避難時の不安はある程度緩和されるのではないかなと思います。もちろん「向こう三軒両隣」のような、旧態依然としたお付き合いは、現代の私たちのライフスタイルや価値観には合いません。とはいえ、挨拶を交わすくらいの緩やかな間柄を構築していくのは、リスクヘッジの一つになるのではないかと考えています。

――海老名さんの世代にとってはそういった地域の人との関わりはあまり馴染みがないのかもしれませんが、参加されていてどうお感じになりますか。

海老名さん:そうですね。私が小学生の頃は今よりも地域の人と関わりがあって、挨拶などご近所付き合いをしていました。そんな関わりの中で、いろいろな大人に守られてきた感覚がすごくあって。

でも周りを見ているとだんだん関わりが無くなってきていて、繋がりができる場も減っているように思います。そうした繋がりが地域の子どもたちを守る、そんな側面もあると思うので、私たちにはこのプロジェクトを通して人との繋がりを増やしていく役目があるのかなと感じています。

――確かに、人と繋がることはさまざまな点において重要なのかもしれませんね。この度はお話をいただき、ありがとうございました。