農業だけじゃない!協力隊制度を利用した漁業の担い手育成:南房総市役所農林水産課

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 千葉県南房総市は、地域おこし協力隊制度を利用して漁業者の育成を行う、全国でも珍しい自治体です。農業でも地域おこし協力隊を利用する一方で、漁業での試みはまだ始まったばかり。今回は南房総市役所・農林水産課 林業水産振興係の苅込さんに、漁業分野での募集に至った経緯や、漁業分野での活動内容、今後の展望などについて伺いました。

(記事公開日:2026年3月2日)

画像引用元:Map-It

千葉県で唯一、二つの海をもつ南房総市

――南房総市は、千葉県で唯一、内房と外房に面した地域ですよね。漁業の幅も広いのではと思いますが、どういった特色がありますか。

 外房と内房では、採れる海産物も異なります。大きな割合を占めているのが外房での養殖で、主な産物としては、アワビがあります。アワビの稚貝、要はアワビの子どもを、漁協さんの方で購入してもらって、それを海に放流して、育ったものを採るというような方法で生産しています。特に千倉地区や白浜地区は、千葉県内でもトップクラスに多く採れる地区です。内房ですと、アワビやサザエのほか、アジやヒラメが採れます。
 また、特徴的な業種としては、クジラ漁があります。和田漁港から出漁していて、古くからの歴史があります。商業捕鯨が解禁になったとはいえ、いまだに反発があったり、実際漁に出てもなかなか取れなかったりと、捕鯨をやられる会社さんも苦労はあるようです。

協力隊制度を利用した漁業者育成の背景

――漁業の担い手を育てるのに、協力隊を利用するという試みは、どのような背景から始まったんですか。

 初めて漁師になってみたいという方がいたとして、まず漁業権を行使するためには、漁協の組合員になってもらう必要があります。ただ、漁協の組合員になるための漁協の内規で、地元で一定期間活動する必要があります。地元の方たちと協力して、ちゃんとルールを守って活動できるのかどうか見極めるため、また、漁業者として必要な技術を習得させるためこうした内規が設けられています。
 その一方で、地域おこし協力隊は最大任期が3年取れることから、地域おこし協力隊を活用して新規漁業者の確保ができればいいのではないかというところから始まりました。

 この制度は3年前の令和4年度から始めて、初めに入った協力隊の方が3年間の任期を終えました。
 活動としては、「漁の手伝い」が中心になります。また、採用条件に、南房総市内という大きいくくりではなく、「白浜地区に移住する」という条件を定めております。これは、市内でも、「白浜あま連絡協議会」という、現状で最も地域おこし協力隊という制度を受け入れる基盤がある白浜地区を、受け入れ先と決めているためです。

仕事と日常生活が密接な「漁師」という仕事

――そもそも今、全国的に漁業の人手不足が深刻だと思われますが、南房総市ではどういった状況でしょうか。

 人数が少ないというところももちろんありますが、他の自治体と同じく、やはり高齢化が問題になっています。なるべく若手の新規事業者の確保が課題になっているところです。
 応募される年齢はまちまちですけれども、なかなか協力隊として採用するまでに至らないというのが現状です。卒業された隊員も含め、3名は全員が白浜に移住され、漁師さんの手伝い、刺し網(エビ網)漁など網を使った漁なども経験しています。漁業全般に関わっていくというような形ですね。

 一番重要なのは、その地区の人たちと仲良くなって、一住民として生きていくということです。男性の方であれば、消防団に入ったり、青年会に入ったりですとか。その他にも地元の祭りや草刈り作業など、漁業以外の活動にも積極的に参加するように伝えています。

――今までに就任された漁業者育成枠の3名の協力隊の方は、それまでとは全く違う仕事であろう漁業に就くにあたって、どういった理由でいらしたんでしょうか。もともと、漁業に関心はあったんですか。

 地域おこし協力隊としての採用条件が、都市部から田舎への移住なので、皆さん都市部にお住まいの方でした。千葉県、茨城県、東京都から来られています。
 全国いろんなところに話を聞いてみたりした方もいます。最終的に、南房総市の地域おこし協力隊募集にちょうどタイミングが合って、応募してくれたということでした。
 そうやって積極的に、自分からやっていこうっていう方でないと、なかなか年間通して活動を続けていくのは難しいのかなと思います。

――漁業が特殊な仕事であるということもありますよね。漁師の仕事仲間は、生活している地域の仲間でもある。仕事と日常生活が切っても切り離せない関係にありますよね。

 そうですね。現代はテレワークが普及し、完全に一人でできる仕事っていうのも増えてきてはいますけれども、漁業はそういうわけにもいかないです。
 漁業は、もちろん一人でできる部分もあるんですけれども、やっぱり漁師仲間の人たちとの協力関係があってこそ成り立つものです。地域の漁師仲間に認めてもらえないと、長く続けていくのは厳しいのかなと思います。漁師さんからの話を聞く素直さだったりとか、協力する姿勢を見せるであったりとか、そういった人間性の部分もすごく大事かなとは思いますね。

漁業で募集する協力隊を、もっと広めたい

――協力隊を卒業後は、晴れて漁協の組合員として活動できるんでしょうか。

 組合員になれるかどうかは、3月に各漁協で開かれる組合員の資格審査会で決定されます。この審査会で組合員として認められると、晴れて漁協の組合員になれます。万が一認めてもらえなければ、また来年を目指すのか、別の道を目指すのかということにはなります。審査もあるということで、なおのこと普段から関係を築いておくことが重要ですね。

――ということは、協力隊の採用面談や小論文ではそういうところを見ているわけですね。ちなみに、令和7年度の協力隊募集ではどのくらい応募が来ているんですか。

 1件の応募がありました。ただ、条件が合わず採用には至りませんでした。協力隊制度は人材確保という意味でもすごくいい制度だと思うので、今後も来てくれればいいなと思います。
 南房総市は農業でも地域おこし協力隊を募集しているんですけれども、そちらでは複数件の応募が来ているそうです。比較的、「協力隊といえば農業」という認知がされているように思うので、農業の方が応募しやすいのかなと思いますが、漁業もあるよ!ということをもっと知ってもらえるようにしたいですね。

 ただ、漁業をやりたいという思いだけで白浜地区に住むには、ハードルもあります。これまで協力隊が3名とも同じことを言っているんですけれども、白浜地区は交通の便が悪く鉄道がないため、自家用車を持っていないと移動できないんです。買い物する場所がすごく少ない地域なので、そういった生活に納得して移住してもらえるかどうかは、ちょっと難しいところではあります。

――都会に生まれ育った人は、免許を持っていない人も多いですしね。

 やっぱりそういう方が多いんですかね。私も田舎出身なので、免許は当然持ってるものという感覚なんです。漁業は仕事上、絶対に車が必要になりますので、仕事にならないという意味でも免許は必須ですね。

継続は力なり

――協力隊と漁業制度に関しての今後の展望としては、どのようにお考えですか。

 今のところ、1人目が卒業後、どういった様子になるかがまだわからないので、なんとも言えないんですけど、継続していくことが大事になってくるのかなと思います。
 地域おこし協力隊って、やっぱり一番最初は地元の方も受け入れに不安があるかと思います。でも、これまでの3人が積極的に活動していってくれて、地元の方に協力隊制度を良いものだと受け入れてもらえれば、むしろ地元の方から「協力隊募集しないのか」と要望がくるような位置付けになると思っています。そして白浜地区だけでなく、ほかの地区にも派生していければ、より新規漁業者も増やせて漁業の発展に繋がるのかなと。

――そうですね。それで、「漁業の協力隊といえば南房総市」という位置づけになるといいですよね。

そうですね。私自身も勉強しながら、そのくらいを目指していきたいです。

白浜地区