崇城大学_川副智行教授に訊く: 未来のビジネスリーダーを育てるアントレプレナーシップ教育の魅力

「アントレプレナーシップ」という言葉を大学教育において目にするようになりました。

本記事では、2015年から本格的に学部横断で行われている崇城大学アントレプレナーシップ教育について、川副智行教授にお話を伺いました。川副先生は30年近く国内化粧品メーカーでお勤めになった後、教育界に転身。自身のご経験から、社会に出て必要となるマインドや視点を学生たちに伝えています。

川副 智行 先生
崇城大学 総合教育センター 教授/博士

熊本大学大学院理学研究科(生物学専攻)修了後、同年国内大手化粧品会社に研究職として入社。以降大型ブランドのヘアケア製品の開発、消費者調査、触感の研究、デジタルコスメの開発などを担当。オープンイノベーションや新規事業の推進にも関わる。2013年信州大学で博士(工学)の学位を取得。
2020年5月より現職。領域を問わない幅広い知識、常に新しい発想を目指す創造性、迅速な実行力により、崇城大学アントレプレナー教育の発展を担う。

学部横断でアントレプレナーシップを育成する崇城大学

崇城大学でアントレプレナーシップ教育が本格化したのは2015年ぐらいからです。通常は起業家精神として紹介される「アントレプレナーシップ」ですが、崇城大学では起業有無にかかわらず、分かりやすく「チャレンジ精神」と説明しています。学生が大学で学ぶべきベーシックスキルという位置です。


近年、学生起業を推奨する風潮も高まっていますが、崇城大学は学生起業だけにこだわっているわけではありません。学生が起業を目指しても、実際はタイミングが合わないこともありますし、保護者の方の理解も必要です。そのため、起業は学生のチャレンジしたプロセスの最終結果として考え、まずはベーシックスキルとしてアントレプレナーシップを身につけてもらうことを目指しています。


卒業研究の推進においてもアントレプレナーシップは役立ちますし、研究室のシーズに触れて起業を目指すこともあるかと思います。さらには首都圏に憧れて県外で就職した学生が、仕事の本質に気づき、社会人としてのスキルを身につけた後に地元で起業するということもあると思います。アントレプレナーシップを身につけておけば、将来の選択肢が広がると考えています。

崇城大学のアントレプレナーシップ教育プログラム


崇城大学のアントレプレナーシップ教育は、1-2年次に開講される5つの講義と、課外教育活動であるアントレプレナーシップLabで構成されています。講義は、全学部学科の学生が受講できる共通科目であり、1年生で3科目、2年生で2科目の講義があります。1年生の3科目では、自分の視点で社会に興味が持てるため知識と、自分が興味を持ったことに挑戦するマインドを身につけます。1年生の講義の中には、ビジネスプランコンテストへの参加を必須とするものもあります。2年生の2科目では、スキルアップにフォーカスしており、学生が自分のアイデアを発想できる創造力、またそのアイデアを社会実装していくための企画提案力を身につけます。


課外教育に位置づけられるアントレプレナーシップLabには、さらに実践的な活動を希望する約60名の学生が所属しており、自分で考えたオリジナルのビジネスプランの具体化に挑戦する活動を行います。この活動の中から実際に学生起業を行ったメンバーもいます。この活動においては、学生のチャレンジプロセスにこそ価値があると考えていますので、成功・失敗に関わらず挑戦をして振り返ることを重視しています。


崇城大学アントレプレナーシップ教育では、「創造性×個性」によって、将来個人の強みとなる「独創性」を作り出すことを目指しています。本来勉強とは個性が出にくいものですので、高校生が個性を前面に出すのは難しい状況でした。しかしながら、近年高校での探究活動によって個性やオリジナリティが発揮しやすくなってきました。今年度アントレプレナーシップLabに入ってきた学生を見ていると、探究活動とアントレプレナーシップ教育がうまく結び付き始めているように感じます。今後、学生が高校時に取り組んだ探究テーマを継続して検証・実現することもあると思っています。

学生たちの地元への貢献意識は高い

また崇城大学で起業を志す学生は、首都圏で私が接したベンチャー企業の方とは少しニュアンスが違うと感じています。これまで接点のあったベンチャーの方は、確かな自信と経営者としての意識を強く感じましたが、現在私の身近で起業を志す学生は、地元に貢献したいという意欲が強い印象を受けています。これは地方創生の観点では、非常にいいことだと思っていますし、実際に崇城大学で起業した学生も地元に貢献する活動を行っています。

崇城大学は、学生の本気のチャレンジに対応するため、学内に出資会社を持っており、学生起業環境を整えています。一昨年の12月に起業した会社もこの制度を利用しています。アントレプレナーシップLabの延長線上に起業が位置することから、起業支援、経営支援を受けるメリットがあります。またセーフティネットも整備されており、起業した学生の希望によっては学生間で事業承継を行えますので、学生の将来の選択肢を残すという利点もあります。

起業する学生には、最初から大きすぎる目標を立てるのではなく、まずはしっかり地元で役に立ち、地元でできることをきっちりやっていくスモールスタートを目指すようにしています。その後状況に合わせて徐々に規模を拡大していく方が、地方の学生の意識にフィットしているように感じています。

学生の発想の豊かさ、深い思考に驚かされることも

多くの人はアイデアをだす力を持って生まれた才能だと思っているようですが、私は経験と意識で習得できるスキルだと思っています。世の中でアイデアマンと言われる人は、それ以前の生活の中で、意識的なのか無自覚なのかはわかりませんが、創造性を高める体験をしているのだと思います。

アントレプレナーシップ教育では、アイデアを発想する機会が数多くあります。私は、発想力とは、全く関連のない別の事柄を結び付けること、通常当たり前のこととスルーしている事柄に課題を見出すことなどと考えていますが、その点でよく考えている学生の発想の豊かさには驚かされることがあります。「いい視点やよいアイデアには力がある」。これは私が、創造性の大切さを伝える時に話す言葉で、アイデアには人を魅了して、人を引き付ける力があると思っていますが、学生がこれを実践するのを見ることもあります。

一般企業から教育界へ入った理由

私は佐賀県出身で、大学時代は熊本県で過ごし、関東にある大手化粧品メーカーに研究職として入社しました。その後27年間も勤務していたので、実は辞めるつもりはなかったのですが、熊本地震をきっかけに熊本に貢献するのも選択肢としてありかなとぼんやりと思っていました。また少子高齢化の影響は、地方に深刻な影響を与えていますし、もはや国難といってもいい社会課題ですので、これからの時代を担う人材を育てることは、私の中では国家戦略並みに重要だなと考えていました。

我々が学生だった頃は、自分の将来のことだけ考えて就職すればよかったのですが、今の学生は、自分の将来に加えて日本の将来も考えて働かなければならない状態になっています。昔のように大学時代を楽しく過ごし、「タイミングが来たら就職するかー」という気楽な感じとは、もはや全く時代が違いますね。起業家・会社員・公務員に関わらず、社会で活躍できる学生を増やしていくことが今の使命だと思っています。

いつになってもチャレンジ精神は重要


以前より、社会人はチャレンジをしなくなる傾向なのを疑問に思っていました。一見ルーチンのように感じる仕事も誰かのチャレンジによって構築されたものなのですが、なぜかチャレンジをする人が少ないなと。特に年齢が高くなりマネジメントを行うポジションになると、若い人のチャレンジをリスクと捉える傾向があるように感じます。本来であれば、ルーチンのミスは叱り再発を防止する、チャレンジのミスはきちんと振り返ることを意識すべきですが、社会はそうはなっていないようです。業務におけるチャレンジは、仕事に対して意欲に直結する傾向にありますので、学生時代にアントレプレナーシップを学ぶことはワークエンゲージメントにおいても重要だと考えています

世間は大学生に対する見方をアップデートすべし

最近の学生を見ていると以前よりも頑張る学生が増えているような気がします。以前であれば、選択や選択必修の科目では、必要な単位数をそろえれば、さらに講義を取って学ぼうとする学生は皆無だったような気がします。そう考えると以前の単位は、卒業のための数字合わせのように認識されていたように思えます。現在の頑張る学生は、単位が取得しやすい楽な講義をとるという考えではなく、興味があって自身に必要な科目を受講している傾向があるように思います。単位とは、自身が修得した知識やスキルの証明になるので、単位数が数字以外の本来の意味を認識され始めたと思っています。

一方で、社会から学生を見た場合は、以前からの固定概念である「大学生は暇だ」というイメージがずっと残っているように思います。アルバイトなどで学生が社会と接点を持つと、「大学生は暇だから」「自由でいいね」と言われることが多いようです。頑張っている学生にとっては不本意な言葉になっているようですので、社会における大学生の認識を変えていく必要があると思っています。

大学は人生のスタートライン

私は、大学は人生のスタートラインだと思っています。高校時代に遠いと思っていた将来は、大学に入ると一気に輪郭がはっきりしてきて大学卒業とともに具体化していきます。そのため大学は専門的な学びと共に、社会で活躍するための準備期間とも言えます。ひと昔前までは、大企業に入ったら安心とか、公務員になったら安定と言われた時代もありましたが、現在では必ずしも正しくありません。自身の将来は、企業や自治体に保証される時代ではなく、自分自身で守るものだと思います。

そのためアントレプレナーシップLabの教育方針として、3つの原則を掲げています。1つ目は、少し高い目標に向けた挑戦を行い、成功・失敗に関わらず、その結果をきちんと振り返ること(挑戦と振り返り)で、2つ目は、学生は自身の経験以上のことは実行しにくいことから、経験値を高める体験に積極的に挑むこと(体験)で、3つ目は、自分たちは自分が思っている以上にできることに気づくこと(自己肯定感)です。学生がかかった費用以上に成長をすることが最大の成果だと思っています。

高校生が大学を選択する際には、当然ながら偏差値が重要な要素になっていますが、これからは、自分の考えにフィットして成長できそうな大学かどうかも加えてほしいと思っています。アントレプレナーシップ教育は学生の成長の鍵となると考えています。