食のグローバル化による地域課題に向き合い、誰一人取り残さない循環型の農村社会を目指す「庄内スマート・テロワール」:山形大学_浦川修司名許教授

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 「スマート・テロワール」という概念をご存知でしょうか。地域の風土を活かしながら、農業や畜産業、加工業、流通などを連携させることで、持続可能な循環型農村経済圏を作るという構想です。食のグローバル化に伴う課題に対処し、地域経済の強化を目指す活動として、SDGsにも合致しています。

 山形県の庄内地域では、この構想をもとに、豚肉や大豆・小麦などを原料とした加工品を開発。徐々に消費者にも認知され、取り組みが広がっています。今回は、そんなプロジェクトが始まった経緯について、山形大学名誉教授で同大学アグリフードシステム先端研究センターに所属する浦川修司先生にお話を伺いました。

(記事公開日:2026年1月22日)

浦川 修司 先生
山形大学 名誉教授


1960年三重県生まれ、1983年麻布大学獣医学部卒業。農学博士(京都大学)。1983年に三重県庁に奉職し、三重県畜産研究所、同農業研究所、同中央農業改良普及センター等を経て、農研機構畜産研究所に転職、その後、2015年より山形大学農学部教授、2025年より現職。

「地消地産」で持続可能な経済圏を

 私たち山形大学が取り組んでいるスマート・テロワールがどういうものかというと、地域の風土を活かしながら、生産者と消費者の関係が非常に深い「持続可能な循環型農村経済圏」のことを指します。「スマート」は英語で、「洗練された」とか「賢い」という意味です。「テロワール」はフランス語で、ワインを飲まれる方はよくご存じのようですが、土壌や気象を含めた風土や作物の生育環境全体を総合したものを指します。それを組み合わせた造語が「スマート・テロワール」です。
 スマート・テロワールでは、地域の風土や土壌などの「自然環境」と、栽培法・加工法などの「生産技術」に加えて、消費者の「購買行動」という要素を共有するユニットと定義しています。現在ではエシカル消費の重要性が持続可能な社会の実現には不可欠だと言われていますが、、スマート・テロワールでも消費者の価値観や、どういうものを選択するのかという点を重視しています。

 もう少し具体的に、どういう取り組みかを説明します。スマート・テロワールの大きな目標は、地域作りなんです。その手段として加工食品作りがあります。地域づくりという目標に向けて、大学だけでなく、地域の色々な人たち――私は「ステークホルダーの共創活動」と呼んでおり、スマート・テロワールは以下の四つのピースから構成されています。
 まず一つ目が「耕畜連携」。耕種農家(畑作農家や稲作農家など)と畜産農家が連携し、堆肥や飼料などをやりとりすることで、作物を栽培する土壌を改善しながら地域に適した農畜産物を生産します。
 二つ目に、出来上がった農産物を加工するにあたって、農業者と加工業者が連携して加工食品を製造する「農工連携」。
 三つ目に、加工業者とスーパーマーケットなどの小売店が連携して、加工食品を地域内で販売していく「工商連携」。
 最後に、地域の消費者に届けていく「地」があります。ところで、よく「地産地消」って聞きますよね。地域で生産したものを地域で消費することですが、私たちが取り組んでいるスマート・テロワールは、前後を逆にして「地消地産」としています。というのも、あくまで地域の消費者が望むものを地域で作るので、地産地消とは立ち位置が反対なんですね。主役は消費者なんです。

スマート・テロワールのはじまり

 スマート・テロワールという用語はもともと、ポテトチップスで知られるカルビー株式会社の元社長・会長の松尾雅彦さんが、著書『スマート・テロワール』で提唱されました。この本を書いた時点では、松尾さん自身、全然農業をやったことがなかったそうで、ご自分の構想を実践する場所を探しておられました。山形大学では、松尾さんと打ち合わせを重ね、2016年に寄附講座「スマート・テロワール形成講座」を開設しました。5年間の寄付講座という形で始まったんですけども、残念ながら松尾さんは、2年経過した時点でお亡くなりになりました。その後は、大学の色々な外部資金も活用しながら、今まで続けています。

 私自身は、このプロジェクトを始めるために大学に来たと思われているようですが、全く関係なく転職したんです。私のキャリアとしては、最初は三重県の職員をやっていて、次に農研機構という国の研究機関に10年ぐらい勤め、そのあと2015年に山形大学に転職しました。同じ時期に松尾さんから山形大学でスマート・テロワールを実践して欲しいとの話があって、このプロジェクトが立ち上がり、そのプロジェクトリーダをやってくれというので始まりました。

 当時の私は「テロワール」という言葉も知らなかったですし、大学でどういうプロジェクトをやるのかわからなかった状況で、本を参照しつつ、打ち合わせを重ねながら進めてきたという感じです。別にものすごく高度なことをやっているわけではなく、本当にありきたりの組み合わせではありますが、これは今でいうSDGsの達成に向けた取り組みにも合致しています。そういう意味では、この取り組みは当時から先駆的だったと思います。

食料安全保障に寄与する

 取り組みを開始した2016年から現在までで、世界の情勢はものすごく変わりました。エネルギー問題もありますし、餌や肥料の価格も高騰しました。国際情勢も「もうちょっとなんとかならないかな」と思うぐらい不安定ですよね。加えて、今は落ち着いたものの、パンデミックもありました。畜産サイドでは豚熱とか鳥インフルエンザなどの家畜の伝染病の発生。そして気候変動で地球温暖化も進む。猛暑であったり、干ばつが起こったかと思ったら洪水になったり、自然災害が非常に多発しているという現状です。

 何が言いたいかというと、世界的に考えても不確実性が高まっている現状で、「“今まで通り”という選択肢はもうない」と考えておいた方が良いということです。
 そこにはまず、食料安全保障の問題があります。こういった不安定な世界情勢の中、現代は食についても非常にグローバル化しています。つまり、サプライチェーンそのものが非常に長大化し複雑化しているということです。例えば家畜の飼料ひとつとっても、海外の飼料生産者から倉庫業者、輸送業者、日本の輸入業者やトラック業界などが関わってぐるぐる回って、日本に届いているのが現状です。

 日本の食料自給率は約38%ですが、グローバル化が進む中で、大量生産、大量消費の経済システムにおいて、これまで日本は輸入食料に依存してきたわけです。今後はそうしたサプライチェーンを短縮化、簡素化していくことが重要になります。
 そこで、スマート・テロワールでは取り残されがちな、農業者や地域の加工業者、小売店のような地方の中小規模の経営体が連携することによって、食と農に関する経済を地域内で循環して完結させる経済システムを構築することで、あくまでも地域住民の消費をベースに地消地産を促し、コンパクトな経済圏を作っていくことです。この取組みはグローバルな食糧情勢の中で、フードセキュリティを強化していくには非常に有効な対応策じゃないかなと思っています。

月山高原牧場

6次産業化との違い

 こういう取り組みの説明をすると、「それって6次産業化ですよね」ってよく言われるんですが、スマート・テロワールはそれとは大きく異なる点があります。一般的な6次産業化とは、非常に優れた農業者が、加工や販売まで手掛けることが一般的です。この場合、一部の優れた農家の人たちが、どうしてもその地域で独り勝ちをしてしまい、そうじゃない人たちが取り残されていくということになります。私たちが取り組んでいるスマート・テロワールは、それぞれの専門分野の人たちが、特異な技術や自分たちが持っている施設などを活かして、地域全体で取り組むことをいいます。

 一般的な6次産業化が個人戦とすると、私たちのスマート・テロワールの取り組みは団体総力戦と言っています。つまり、この概念自体も「誰一人取り残さない」というSDGsの概念と合っているんですね。

ナショナルブランドに負けない味をつくる

 では、手段として加工食品をどう作っていくかということなんですが、原料(豚肉、大豆、小麦)を単位として3つのチームを作り、加工食品の開発と販売に取組んでいます。一つが畜産分野の「豚肉チームMD」、それから「大豆チームMD」、最後に「小麦チームMD」です。以前ジャガイモのチームもあったんですけど、この庄内地域ではなかなかうまくいかずに、今は、この3つのチームで活動しています。ここで言うMDとはマーチャンダイジングの略で、加工メーカー、卸、小売店などが一つのチームになって商品開発を行う手法のことで、チームMD(チームマーチャンダイジング)というそうです。
 この取り組みの特徴としては、流通チャネルの最も川下に位置する小売業者、つまりスーパーマーケットのバイヤーにもチームに入ってもらうことで、消費者のニーズに基づいた商品の開発を行うことができます。また、商品を開発した後も、その商品をどれぐらい生産していくかなど、数量や市場に出すタイミングなどを柔軟に調整できます。また、開発商品の販売戦略など、色々なことをチーム内で話し合っています。

 取り組みの中で最初に出来上がったのが、豚肉の加工品ですが、商品の選定にあたっては、スーパーマーケットでの最も売れ行きの高い商品を調べ、ウィンナーソーセージ、ロースハム、ベーコンの三つを選定しました。チャーシューも試作したのですが、紆余曲折を経て最終的に売り出したのはこの三つです。この地域には「株式会社東北ハム」という、世界レベルで評価された加工メーカーさんがあり、加工はそこに依頼しています。このウィンナーソーセージはコンセプトや味が認められて、山形県のふるさと食品コンクールで山形県知事賞をいただきました。

 商品化にあたって基準となるのは、「一番売れ筋のナショナルブランドに負けない味であること」です。海外の豚肉を原料としたナショナルブランドと比べても劣らない味で、最終的に消費者アンケートで商品を買ってもいい人が50%を超えた時点で上市する、という基準を設けていました。
 ロースハムやベーコンは比較的早くに50%を超えたんですが、一番難しかったのがウィンナーソーセージです。ロースハムとかベーコンは、肉のつなぎに何も利用していないので、本来の肉の味が非常に評価されました。しかしウィンナーソーセージの最初の試作品は非常に肉肉しく、手作り感のあるもので、私個人は非常に気に入ったのですが、消費者アンケートを取ってみると「美味しいけれども、なかなか毎日は食べられない」というような評価でした。スマート・テロワールの商品は、「365日毎日飽きずに食べられる」というのを1つの基準にしていましたので、それから何回か改良を加えてきました。油の比率をどれぐらいにするか、塩味をどうするかなど、色々と改良を加えながら、ようやくアンケートで半分以上の評価を得られたので、上市に至りました。
 年々販売数量が増えていますので、消費者の方にも認知されつつあり、地域に愛される商品になってきているというのは感じていますね。その他、生ハムの製造にも着手していますし、ボロニアソーセージも新しい商品として企画しているところです。

地域の発酵文化に合致した大豆製品

 その後に上市したのが大豆製品の味噌です。リーダーになってくれている加工メーカーは、山形県の鶴岡にある「鷲田民蔵商店」で、明治元年創業で、歴史と伝統があります。私は、発酵食品は地域の文化そのものだなと思っていて、土地の数だけ発酵食品があります。鶴岡もまた、味噌を使った食文化が定着していて、春には孟宗汁があって、秋になると全国的に有名な芋煮があって、冬になると寒鱈汁があります。内陸の芋煮は醤油と牛肉で作りますが、庄内の芋煮は、味噌味で豚肉を使うんですよ。そうした文化があることもあって、味噌もよく売れています。

 また、去年から出し始めたのが納豆です。東北地方は、皆さんよく納豆を食べるんですよ。私は関西の出身ですので、あんまり納豆食べないんですけど。栽培した大豆のうち、大粒のものは味噌に回し、中粒以下のものは納豆にすることにしました。加工メーカーさんは酒田の会社で、天明8年創業で、創業200年の、「加藤敬太郎商店」という会社です。
 納豆は2024年の3月から出し始めて、ちょうど1年ぐらいになります。消費者のアンケートを見てみると、「柔らかくて自分好みの食感」「香りもいい」「ふっくらして優しい味」といった評価もありましたし、バイヤーの評価も非常に高いんです。現在の納豆は小粒とか、引き割りが主の納豆市場の中で、あえて中粒を狙いました。東北の人はもともと納豆好きなので、粒の大きい中粒が喜ばれたのかもしれません。

ラーメン県、やまがたにおける小麦製品

 その後、小麦製品がスマート・テロワールのラインナップに入りました。それによって、小麦の製粉副産物である「ふすま」を、豚の餌に利用することができるようになり、「耕畜連携」の新しい循環に仕組みもできました。
 小麦製品で最初に出したのが、ラーメン、つまり中華麺ですね。山形県は実はラーメン県なんですよ。全国で、一人当たりのラーメン消費額が一番多いのが山形だそうです。また、2023年の「日本ご当地ラーメン総選挙」で、「酒田のラーメン」は日本一になりました。そのベースになっているのが、庄内産の小麦を使ったラーメンで、これも非常に売れていますね。その他、「麦切り」という、庄内のうどんも出しています。

 今一番新しい商品は、パスタと餃子の皮です。これは去年の3月にテスト販売を始めて、その後、本格的な定番販売を行っています。富樫製麺という会社が取り組んでいるんですけども、生パスタは庄内のスマテロ小麦を60%配合し、餃子の皮は100%使っています。
 最初はどこまで売れるのかちょっと不安だったんですが、今ではお客さんがついてくれていますね。アンケートでは、生パスタ、餃子の皮とも「もちもち感があっておいしい」という反応です。餃子の皮は極厚なので、餃子だけではなく、ピザソースを塗ってプチピザにしたり、チーズを置いてそのまま焼いたりしても、おやつやおつまみに使えるので、皆さん喜んで買ってくれています。

 どの商品もそうなんですが、次の商品を納品するまでの間に、全て売り切るようにしています。生パスタなどは添加剤を使っていませので賞味期限は短いけれども、在庫は絶対に抱えないよう、数量をバイヤーと一緒に調整しながら販売しています。

適正価格と「こぶ」の事業

 豚肉の加工品第一号を出した当時、まだカルビーの松尾さんが健在で、価格をどうするか議論しました。私たちが、生産費などの原価を積み上げていって、最終的な売価を試算していると、松尾さんが「だから浦川くん、お前はダメなんだ」って言われてですね。松尾さん曰く「一番売れてる商品に対して、それと同等以上の味で、それの20%から30%安く売る。それだったら絶対に売れる」と。それは、売れますわね(笑)。当時私は、絶対無理だと抵抗しながらも、結局、豚肉加工品はその値段で販売を始めました。
 ただ、この頃思うのは、やはり適正価格でいいんじゃないかということです。消費者が買いやすい価格ではあるけれども、良いものを適正な価格で売っていくことも必要だなと思います。持続可能と言っておりますので、そこで無理に価格を安く抑える必要はないと思います。

 豚肉加工品はナショナルブランドの30%引きで売っていたんですが、ナショナルブランドが近年どんどん値上がりしていて、今は価格差が開いています。近年、他のメーカーや資材の値段が上がる中で、スマテロ製品も一緒に上げようかと思ったりもしました。ただ、ナショナルブランドと同じように値上げするんだとしたら、何のための地域の商品かということになりますので、そこは少し持ちこたえるようにしていました。ただ、バイヤーとも話して、もう少し値上げをしてもいいかなとは思っています。あくまで他の商品や、全体の資材が上がっているから上げるのではなく、地域内で餌を供給する、地域内から原料を持ってくることで、抑えるところは抑える。それは頑張っていきたいなというところですね。
 こういう時、大学も含めて関わっている色々な人たちで、少しずつ痛み分けと言いますか、我慢できるところは協力しあいながら行っています。一方で、儲ける時も、独り勝ちするのではなく、均等に適正な分配をやっていくのが、再生産に繋がっていくのだと思います。決して、どこかだけが大儲けしているというような仕組みではないということですね。

 製造会社の加工メーカーさんらに、この話をするときに、「こぶ」の事業という言い方をしています。たんこぶのこぶですね。本体となる、しっかり収入を得られる事業を持ちながら、一方でこのスマート・テロワールの事業は、既存の施設や機械をうまく活用して作っていく「こぶ」として行う。減価償却などなどは、「こぶ」の商品(スマテロ商品)の中に加えず、できるだけ本体の事業で対応してもらうようにしています。

地元愛の商品を、地元愛で支える

 スマート・テロワールの考え方は、食料を単に安価に確保すればよいわけではなく、あくまで地域が持続的な方法で生産、供給できる体制を構築するということにあります。そのためには、地元愛に溢れた商品を作り、それを地元愛で支えていくというのが非常に重要になります。やっぱり消費者が入らないとこういった取り組みも続きませんので、あくまでも消費者を巻き込んでいくことは大事だなと思っています。

 地元の商品を地元愛で支えるということは、どういうことかというと、消費者エンゲージメントを高めることです。生産者と消費者との関係を良い関係(信頼、共感、愛着など)で強化していくというのが重要ですし、スマテロ商品の価格以上の価値をどう消費者に伝えるかというのが非常に重要だなと思っています。消費者に愛され、持続的に買ってもらえるようにしないといけません。

スマート・テロワールを全国へ

 最後に、このスマート・テロワールの活動の中で、食育などの社会貢献も大きなテーマに置いています。食育活動との一つとして、一昨年からスマート・テロワールの納豆を、学校給食へ提供を始めています。また、啓蒙活動として小学校や中学校の講話会にも行ったりしました。また、酒田のラーメンが日本一になったのを記念して、酒田市が10月9日の酒田ラーメンの日に制定したこともあり、その日に合わせて酒田市全域の小学校にラーメンを学校給食で出すこともできました。
 その他、全国のイベントに参加して、試食をやったり、ゲームやったり、スマート・テロワールを全国的に広げるような取り組みもやっています。

 これからのスマート・テロワールの目標は、風土あるいは社会条件が違う地域でもスマート・テロワールを実現できるようにすることです。
 私たちがやっている作物は大豆と小麦、飼料用のトウモロコシですが、違う作物でも構いませんし、畜産も豚ではなく、牛や鶏、また羊でもいいと思います。扱うものが異なっても、それぞれの地域の風土あるいは社会条件を活かしながら、地域の特色のある循環型の農村経済圏を構築していってくれればいいなと思います。

 庄内地域(2市3町)は人口28万人ですが、まずは同規模の広域農村連合体を、庄内地域から山形のそれぞれの地域に普及させ、さらに全国に大体20~40万人ぐらいの規模で50か所のスマート・テロワールができたらいいなと思っています。そして、最終的には、それぞれの各地域のテロワールが連携して足らないものを補い合えば、海外のグローバルサプライチェーンを短縮し、国内だけでも色々な食事を楽しめるのではと思っています。スマート・テロワールの今後の10年としては、このような取組みを進めていきたいと思っています。

 冒頭にも触れたように、あくまでスマート・テロワールの取り組みは地域づくりです。加工食品の他にも、水産物や木材、さらにエネルギーの自給も含め、それぞれの地域の特色を生かした地域づくりの役に立てればと思います。

稲作地帯・庄内で、畑作にも取り組む意義

 実はですね、私、このプロジェクトを任された時に、庄内地域で取り組むのには非常に厳しいと思っていました。庄内地域は元々、庄内平野を抱えた稲作地帯です。ただ、10年くらい前から、米の消費は減っているのに、小麦、大豆、そばなど他の穀物が全然自給できていないという課題がありました。
 スマート・テロワールの取り組みが重要なのはわかるけども、この米どころ庄内で、米ではなく畑作穀物を生産するプロジェクトは、受け入れられるわけがないと思っていたんです。
 ただ、庄内のような米どころでも、高齢化などの理由で、水田の荒廃地が増えていました。主に耕作放棄地になっているのは中山間地帯の水田なんですが、もともとその辺りは、法面を作って無理に水田に造成したんです。そのため非常に効率が悪く、荒廃地になってきているのが現状で、そこを緩やかな傾斜のある畑地にする。これは、つまり、水田地帯と畑作地帯、そして畜産地帯に地域をゾーニングすることが重要なんですよね。

 このプロジェクトは、水田そのものを否定するものではありません。基本的に、お米ができるところは効率的にお米を作りながら、畑もあって、畜産もあって多彩な作物を生産することで、美しい景観の造成にもつながると思っています。そのためには、地域の皆さんが主役となって、この地域をこれからどうしていきたいのかというデザインを描くことが重要だと思います。
 スマート・テロワールが始まった当時から、日本でも有数の稲作地帯である庄内地域でさえ、若い農業者を中心に「やっぱりもうお米だけじゃダメなんだ」というような危機意識も持っていたんですね。そういう意味ではこのプロジェクトは、この地域での社会情勢にも合っていたのかも知れません。最後に、庄内平野を抱えたコメどころ庄内において、このプロジェクトが成功すれば、全国への波及効果は極めて大きいだろうなと思っています。