熊本県生まれ福岡市育ちの山口さんは、田舎暮らしに憧れ、ご夫婦で熊本県阿蘇郡南阿蘇村へ移住され、地域おこし協力隊に就任しました。阿蘇五岳を含む景観のすばらしさに惹かれて移住を決めたものの、住む家が決まるまでには何度も「心が折れた」そうです。今回は移住の際にぶち当たった壁のことや、ようやく手に入れた田舎暮らし、南阿蘇村の特徴や移住のヒントについて、お聞きしました。

アウトドア好きが高じて九州の田舎へ移住
――山口さんはどちらから南阿蘇に移られましたか。
福岡市からです。熊本にはおばあちゃんの家があって、よく親戚で集まっていました。なので熊本は昔から大好きなところでした。
南阿蘇村に決めた理由の一番は景観です。水源が多くて水も綺麗だし、空気も綺麗だし、特に星が綺麗で、南阿蘇村では、毎日キャンプ気分を味わえます。
九州の真ん中あたりにあるので、周りの県とアクセスが良く、私たちがキャンプによく行っていた大分にも近いし、実家がある福岡にも2、3時間で帰れます。いろんな条件を総合しても、すごくいいなと思えたので、思い切って南阿蘇村に移住しました。
――いろいろご覧になった中で南阿蘇が一番良かったんですね。気候的には過ごしやすいですか。
春夏秋は過ごしやすいです。ただ、梅雨の時期には、市内の約4倍の降水量が降るといわれていて、まさにバケツをひっくり返したような雨が降りますね。標高が400メートル以上あるので、冬がすごく寒いですね。雪は積もるほど降るのは年に何回かなんですが、寒さで道が凍結したり、水道管が凍ったりします。
――なかなかダイナミックな気候なんですね。水が豊富な南阿蘇は、田んぼが多いイメージがあります。お米もおいしいんでしょうか。
去年、たまたま村でとれた新米を頂くことができ、食べたらとても美味しかったです。
南阿蘇村は農業と観光が栄えていて、田園風景が広がり、おしゃれなカフェも多いです。農政課の地域おこし協力隊は、任期中に、実際に田んぼや畑で作物を育てて農業を学ぶことができるので、退任後は新規就農していく協力隊がほとんどです。定住にそのまま繋がっていくので、農業をしたい移住者には、すごく良いと聞きました。

とにかく山が近い!風光明媚な南阿蘇
――南阿蘇村は、阿蘇市などの周辺の地域と比べて、どういった特徴がありますか。
一言で阿蘇と言っても広く、阿蘇五岳の周辺は主に阿蘇市と、高森町と、南阿蘇村の3つの市町村があります。その中でも南阿蘇村を選ばれる方は「南阿蘇村は他の地域にくらべると阿蘇の山々や外輪山を近くに感じ、より自然と共存できて良い。」といわれる方が多いみたいです。スーパーが無く生活には不便ですが、それだけ緑が多い風景があるというところが、南阿蘇がいいなと皆さんが感じる理由だと思います。

需要に対して少ない空き家事情
――山口さんは、地域おこし協力隊の「定住促進プロジェクト担当」とのことですが、南阿蘇村の現状はどうですか。
地元の方で家を売りたいと言われる方もいらっしゃいますが、提出しないといけない書類がたくさんあるので、手続きに時間がかかっているようです。また、県外に出られて、家だけが残っている方は手続きをしに南阿蘇まで通うのが大変です。だから、素敵な空き家は結構残っているけれども売りに出すまでに時間がかかるようです。
私自身も、家探しでは住みたい家がなかなか見つからず、何度も心が折れました。移住希望者は田舎暮らしに憧れてくる方が多いので、やはり空き家を購入したい、もしくは賃貸の一軒家に住みたいと思われる方は多いです。私たちも理想に合う家が見つからなくて諦めそうになっていたんですが、先輩移住者が「住みたい家は、探し続けたら必ず見つかるから、妥協せずもう少し探してみたら」と励ましてくださいました。その言葉に背中を押してもらい、探し続けたところ、最終的に気に入った家に住むことができました。
壁を乗り越えたからこそ見える景色
今は賃貸の一軒家に住んでいます。ご近所さんがとても優しい方で、その方の畑で私たちと一緒に家庭菜園をしてくれています。畑を耕し、畝を作って、マルチ張りをして、苗がおおきく生長したら、支柱を立てて、肥料をやって下さいます。もう至れり尽くせりで、私たちは苗を選んで植えるだけで収穫体験をさせてもらっている状況ですね。
また、地元に住んでいらっしゃる魚釣りが趣味の方から、釣った新鮮な魚を頂くこともあります。南阿蘇村は内陸にあるので、新鮮な海鮮はすごくうれしいです。
その他にも料理上手な方が多く、美味しいものをたくさんいただきます。地元の方には感謝してもしきれません。私たちも自分たちなりにお返しできるものを返していこうと思っています。
転職するにも、知らない土地に来るにも、エネルギーがいります。壁にぶつかりながらもそれを乗り越えられたからこそ、慣れないことや不便なことがあってもやっていけるのかもしれません。
――その経験は、移住希望者の方にぜひ伝えたいですね。
移住希望者の方にはすぐに住める空き家が少ないという現実はお伝えしないといけません。しかし、「あきらめずに探し続ければ必ず理想の家を見つけることができる」ということは自分のエピソードと共に伝えたいですね。
また、南外輪山側の久木野地区は、景観が良く移住者に人気が高いですが、新阿蘇大橋が近い長陽地区は、市内へのアクセスが良く、JRの立野駅があります。水源がたくさんある白水地区は、日当たりが良く外輪山が綺麗に見えます。他にも、南阿蘇には住んでみないとわからない地域の魅力があり、はじめは、「阿蘇五岳がきれいに見える古民家一軒家がいい」と思っていた私たちも、「外輪山や田園風景もいいな」「水源の近くに住みたいな」等、住むからこそ分かる地域の魅力を知りました。



水が豊かで美しい南阿蘇
また、景観が素敵なところではありますが、その景観を保つために、野焼きや清掃活動等が、頻繁に行われます。自然のままでできる景観じゃなくて、人の手が入ってからこの景観だというところも、住んでから気づきました。特に夏は清掃活動が多く、草刈りも月1でやっても追いつかないくらい、自然との戦いです。だけど、夏祭りでは村内で花火が上がって、場所によっては家から眺められますし、南阿蘇村には移住者が多く、出身地が同じであれば話も盛り上がって交流がたのしいです。
――南阿蘇暮らしを楽しんでいる山口さんとしては、協力隊任期後も住めるように、今お仕事を探していらっしゃるということですか。
村内で仕事が見つかれば1番嬉しいですが、見つからなかったら、近隣の市町村に行く方法もあります。近隣で探せば、車で30分ぐらいのところには大きな町がありますし、市内にも1時間ぐらいで行くことができます。住む家は南阿蘇に持ちたいので今後の生業を見つけていきたいですね。
(参考リンク:南阿蘇村移住サイト)


