冨士ダイス、75周年を迎えた業界トップ企業の成長戦略

冨士ダイス(6167)。超硬合金(ダイヤモンドの次に硬い)製工具・金型で、シェア3割余りを占める斯界のトップ企業。具体的には耐摩耗工具・金型を手掛けている。今年6月で創業75周年。人間に例えれば、後期高齢者の仲間入り。「これまで、黒字基調で歩んできた」とされる。

至2027年3月期の中計で掲げる、営業利益20億円(前期比2・5倍)への自信

それにしても新社長の春田善和氏は幸運の持ち主といえる。前2023年3月期は「顧客の生産地変更に伴う二次電池向け金型の販売大幅減少」「自動車部品メーカー在庫調整の影響で関連金型の低調」「原材料費高騰」「熊本製造所新冶金棟建設負担」等々で「2・9%減収、29・7%営業減益」。が今期計画は覆いかぶさっていた雲が取り払われ、光が十分に差し込む環境に転じ「7・9%増収(180億円)、26・1%営業増益(10億2000万円)、8円増配40円配」。

 春田氏を囲むzoomIRに参加した。参加した誰の顔にも「今期、早々の増益復帰は本当に大丈夫なの」と書いてあった気がする。が春田氏は「確かに自動車業界には芳しくない雰囲気があるようだが」と前ぶりこそしたが、計画のクリアには自信を示した。かつ問わず語りで至27年3月期の中計を「売上高200億円(24年3月期比約20%増)、営業利益20億円(約2・5倍)、ROE7・0%(約2倍)」、とキッパリ言い切った。 

 春田氏に向けられた主な質問と答えは、以下の様な具合だった。

Q:今後の成長エンジンは?

A:例えば自動車分野で言えば・・・次世代自動車の動力となる駆動モーターに不可欠な金型専用の超硬材種といった具合に、成長必至分野の商品を開発すること。他の領域でも基本は同様。市場で言えばタイ・インドネシアの生産・営業拠点、営業拠点の中国・マレーシア・インドの拡充・充実、及び北米の新規開拓。生産に関しては、熟練度は勿論だがいわば「郷に入っては郷に従え」でそれぞれのマーケットが求めるものを提供していく。

Q:完成品比率が高い。多品種少量生産という基軸は不変か。

A:変わりようがない。それが対価にも反映されている。ビジネス先からの「直接受注」を請け、「直設販売」に今後とも徹する。ただこれまでは「顧客の縁の下の力持ちでいい」という立ち位置だったが、次世代商品と積極的に対峙していくことで付加価値を求める体質が肝要だと認識している。

Q:取引社数は約3000社ということだが、顧客は部品メーカーなのか。

A:その通り。当社は特定の系列に入っていないため、大口の売上高にカウントできる割合は4%程度。特定の業界に影響されない安定性が当社の強みだと認識している。

Q:納入先の大方が中小企業となると、債務を抱え込む危険性もあるのではないか。

A:殆ど無い。勿論、債務を取り込まないような相手先企業のチェック策は講じている。私自身、そういう管理部門に席を置いていた。

 冨士ダイスの歴史を振り返ると、『日本機械工具工業会 技術功績賞受賞』といった技術屋としての功績を認められた実績が多々確認できる。春田社長は「安定した個人株主づくりに象徴される資本政策を進めていくためにはとにかく、うちを真に知ってもらわなくてはならない。そのためにも、これからはIR活動も積極的に行っていく」とした。

差別化の源:技術力は、どう高めるのか:入り口は心の持ち方

 過去の実績を支えてきたのは、どんな要望にも応える技術力であることは論を待たない。がその技術力を如何なく発揮するのは「人」、技術者である。冨士ダイスではどんな風に技術者を育成しているのか。合金自体は極論すれば「原材料を混ぜ合わせる」だけ。要は、千差万別な顧客ニーズを満たす為の加工技術IT技術の駆使も必要になってくる。春田善和氏に教えを乞うた。意外な答えが返ってきた。

「技術者の日々のルーティーンは毎朝の心得の確認から始まる。創業者の教えを学び研修で全身に叩き込んだ、心の持ち方の再確認だ。道徳的・哲学的と言い換えてもいい。腕を磨くには身・技・体が常に整っていなくてはならない」。

「そのうえで、現場の日々の訓練に臨み腕を磨く。例えば同じ材質の合金を右に何度曲げるかという場面では、過去の事例を確実に思い出し活かすことが出来るか。それには冷静沈着な心が必要になる。そうした現場での実践の積み重ねが、腕を磨き熟練工になっていくことに繋がる。最新のマシニングセンターなどの設備を使いこなし、新たな加工技術を習得するためには、技術的なレベルアップだけではなく、常に新しいことにチャレンジする仕事の心構えが重要だ」。

「いま我々は新しい分野での材料開発と加工に取り組んでいる。昨年『日本機械工具工業会 技術功労賞』『日刊工業新聞主催 2023年度第66回十大新製品賞 ものづくり賞』を受賞したレンズの金型などは、その象徴だ。積み上げてきた蓄積で対峙していく」。

 ところで東京証券取引所は「コーポレートガバンス・コード」に基づき、各企業に「取締役会の実効性向上」を求めている。6月25日に発表された冨士ダイスの資料を覗いて見た。2024年度に取り組む方針として、「各取締役や下位の会議体等に権限の委譲を進める」「中長期的な戦略テーマに関する議題を、取締役会に上程する」などなどが記されていた。去年よりも今年/今年よりも来年、進まなくては企業に明日はない。