市を挙げて、自然環境と歴史が育んだ豊かな食文化を磨き上げていく:新潟市食と花の推進課_食文化創造都市推進会議

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 豊富な日本酒、つやつやのコシヒカリ、甘い南蛮エビ、幻の高級魚サクラマス。のっぺや笹団子といった郷土料理。
 新潟と聞くと、数々のおいしい食べ物を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。新潟砂丘を活かして栽培されたメロンやスイカなどの果物、枝豆やナスなどの野菜、食用菊…挙げ出せばきりがないほど、新潟はおいしいものであふれています。

 新潟市では、そんな豊かな食文化を大切に守っていこうと「新潟市食文化創造都市推進会議」を立ち上げ、情報の発信や補助事業などを行っています。今ある食文化を次世代に繋ぐだけでなく、新たな魅力を発見していこうと10年活動を続けてきました。そこには並々ならぬ食文化に対する愛がありそうです。

 そこで今回は、「新潟市 食と花の推進課」の春川さん他、担当の方々に設立の背景や取り組みについてお話を伺いました。事業者支援プロジェクトや観光も可能な公共施設についてのお話もありますので、ぜひ最後までご覧ください。

ユネスコ登録を目指して「新潟市食文化創造都市推進会議」が設立

 新潟市では、平成23年ごろから「ユネスコ創造都市ネットワーク」(※1)における食文化分野への加入を目指し始めました。そこで新潟市の食文化を磨き上げ発信していこうと、平成26年に産官学民が連携して立ち上げたのが「新潟市食文化創造都市推進会議」です。
 平成26年・27年にユネスコ創造都市ネットワークへの加入申請を行いましたが、いずれも落選してしまったそう。現在ではユネスコ加入にこだわらず、地域活性化や産業振興のために食文化創造都市推進に励んでいます。
「当初はユネスコがきっかけでしたが、今は新潟市の食文化を洗練させ、交流人口を拡大させることが大きな目的となっています。」

 令和6年度時点では新潟市内外の335団体・個人が会員となっており、飲食業やイベント企画を行う事業者、広報関係、農協など様々な事業者が登録をしています。会員になると事業者同士の交流会への参加や新潟市食文化創造都市推進会議の配信するメルマガの受信が可能になるほか、「食文化創造都市推進プロジェクト」に申請することができます。

※1 ユネスコ創造都市ネットワーク

経済的、社会的、文化的、環境的側面において、創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識している都市間の協力を強化することを狙いとして発足した枠組み。クラフト&フォークアート、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアート、音楽の7つの創造的な分野を対象としている。

(参考:文部科学省https://www.mext.go.jp/unesco/006/1357231.htm

食文化創造都市推進プロジェクトで事業者を応援

 「食文化創造都市推進プロジェクト」とは、新潟市の食文化や食産業に関わる事業者の取り組みに対して支援を行うプロジェクトです。異業種と連携して継続する意志のある取り組みに対して補助を行い、新潟市の食文化をさらに活性化させていこうと始まりました。

 令和6年度には、4つの事業が採択されました。例えば「唐辛子“鬼殺し”やガーリックオイルを使ったラーメンの期間限定提供」。家計調査によると、新潟市は山形市に次いでラーメンをはじめとする中華そば(外食)の年間支出金額が全国2位だそう。そこでラーメンと新潟市にある唐辛子屋「大祐」の激辛唐辛子「鬼殺し」などをかけ合わせ、市内外で期間限定で提供しました。
 また、実は新潟市で盛んに栽培されているイチジクをもっと知ってもらおうと、高円寺の飲食店24店舗とコラボし、PRを行った事業も採択されました。
 このように、既存の食文化の活性化だけでなく、新たな魅力をアピールする取り組みも促進。条件によって補助率は異なりますが、上限20~30万円の補助が受けられます。
 令和7年度もプロジェクトは進行中です。既に募集は終了していますが、これから審査や採択が行われますので、ご興味のある方はぜひHP(https://www.niigata-shokubunka.com/project/)をご覧ください。

「会議を設立して10年が経過しましたが、令和7年度時点で累計161件のプロジェクト申請をしていただいています。途中コロナの影響もあり、なかなか事業の継続が難しい場合もあるとの声を聞きますが、それでも形を変えて続けたり中断したものの復活させたりしているプロジェクトもあるようです。」

 全国的にも、飲食業はコロナ禍で特に大きなダメージを受けました。こうした支援事業があることで、貴重な食文化が失われずに済む。そんな効果もあったのではないでしょうか。

過去には料理コンテストも開催

 新潟市では、他にも様々な取り組みを行ってきました。
 その中の一つが「若手料理人コンテスト」です。こちらは現在では終了していますが、過去に計4回実施。35歳以下の料理人を対象に、新潟の食材を使った料理のコンテストを行いました。
 受賞者やファイナリストによる特別講義やデモンストレーションなども開催。新潟市内にある4つの調理師専門学校で、次世代の料理人たちに向けて新潟の食文化や食材の魅力を伝えてもらいました。学生たちからも新潟市の食文化・食材への理解や関心が高まったと、評価の声をもらっているそうです。

「コンテストは終了しましたが、若手料理人から市内産食材の魅力を発信してもらうため、コンテスト受賞者やファイナリストから『新潟食材おすすめレシピ』を考案いただき、広報誌に掲載したりレシピ集にしたりしました。レシピ集に載っている中から食べたいと思ったレシピをSNSに投稿すると、抽選で旬の農産物が当たるキャンペーンなども開催し、若手料理人の世界を盛り上げてきました。」

公共施設で食育を推進

郷土料理「のっぺ」

 また、市の指定管理施設「いくとぴあ食花 食育・花育センター」では、1年になんと70回ほどの料理教室を開催しています。講師として若手料理人や栄養士会の会員、地元で料理教室を開いている方などを招いているそうです。

「新潟市産食材を使った親子向けの料理教室や、笹団子やぽっぽ焼きなど郷土料理を作る体験など幅広い内容の企画を行っています。」

 さらに新潟市には農作物の収穫や酪農などの農業体験ができる「アグリパーク」という公立の教育施設があります。新潟市の農業に触れてもらうことで、新潟地域への愛着や誇りを持ってもらいたいという想いで運営されています。体験提供だけでなく就農支援も行っており、研修のための宿泊施設も完備。農作物の販売店舗やレストランも併設されているので、観光でも訪れることができる施設です。

「新潟市では公の施設で農業や食を発信できるよう、力を入れているところなんです。」

 公共施設で食育を推進するようなものは全国的に見ても珍しいのでは、とのこと。新潟市がいかに食文化を大切に想っているか、伝わります。

自然環境と歴史が作り出した豊かな食文化

(C)新潟観光コンベンション協会 提供

 豊かな食文化を盛り上げ、新たな魅力を発信してきた新潟市。なぜ新潟市にはこのような豊かな食文化があるのでしょうか。

「実は市の我々にも、なぜこんなにおいしいものがたくさんあるのかよくわかっていなかったんです。そこで昨年度は地形や歴史を紐解くことで新潟市の食文化を再考しようと、リーフレットを制作しました。作っていく中で分かってきたのは、豊かな自然環境と港の歴史が背景にあるということです。」

 約76万人が住む新潟市は、本州では日本海側唯一の政令指定都市です。一方で面積の約45%が農地であり、都市と田園が調和した街と言えるでしょう。農業がこれだけ盛んなのは、信濃川と阿賀野川という二大河川に加え、山から流れ出す雪解け水に恵まれてきたから。長い川が運んだ砂は砂丘を作り出し、海では魚介類が捕れます。こうした地理的条件が、四季折々の豊かな食材を生み出しているのです。

「ただ忘れてはならないのは、新潟平野はもともと水害を繰り返した湿地帯で、苦労して農地改良や品種改良をしてきた結果、現在のような米どころになったということです。昔は泥に腰まで浸かって農作業をしていたと言います。」

 決して恵まれた環境とは言えなかった新潟平野。先人たちの努力が今日の豊かな食文化を支えています。
 また、新潟の港は大阪と北海道を日本海回りで結んだ北前船が寄港し、港町として江戸時代から明治時代にかけて栄えました。明治時代にはなんと日本で一番人口が多い街だったとか。港を訪れる人々のおもてなしをするため、料亭料理や日本酒が洗練されていったことも頷けます。

「新潟県全体としても山形県、福島県、群馬県、長野県、富山県の5県と隣接しているため文化交流も盛んで、食文化が発展していったのではないかとも考えています。」

郷土料理。左から時計回りに「かきあえなます」「くじら汁」「かきのもとお浸し」

「人」に光を当てて

 食文化の背景を紐解き、新たな魅力を発信してきた新潟市ですが、今後はどのような活動を行っていく予定なのでしょうか。

「令和7年度からは「人と農産物」をテーマに発信をしていく予定です。新潟市では地物を使って積極的にPRしている料理人の方や頑張っている農家さんがたくさんいらっしゃいます。そういう方にスポットを当てて、活動を発信していけたらなと考えています。それを通して「新潟の食って素晴らしいんだよ」ということを、市内外に伝えていけるような取り組みをしていきたいです。」

 新潟と聞くとおいしいものがいっぱい。そんなイメージは地元の方々の愛ある努力や発信によって形作られてきたのかもしれません。今度新潟市を訪れたら、そんな活動に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

(C)新潟観光コンベンション協会 提供