福岡県豊前市の地域おこし協力隊として「多文化共生コーディネーター」を務めるレー ティ ニャット リンさんはベトナムの出身です。19歳で来日後、様々な学びを経て現職へ着任しました。
現在は豊前市内に暮らす外国人と地域社会との懸け橋になるべく、それぞれの生活に密着した支援を地道に続けています。リンさんの協力隊としての活動と、日本での生活についてお話を伺いました。

初めての就職が地域おこし協力隊
――リンさんはベトナムの何という所の出身ですか。
リンさん:ベトナム中部にある、クアンチ省です。
――中部というと、ハノイとホーチミンの間ですかね。最初はいつ来日されたんですか。
リンさん:10年前に留学で日本に来ました。19歳でベトナムの高校を卒業して、半年くらい日本語を勉強してから日本へ来ました。その後は日本語学校で2年間勉強してから、キャリアデザインコースで1年間学んで、九州産業大学芸術学部(福岡市)に入学して、4年間学びました。そこを卒業した後に豊前市の地域おこし協力隊になって、今は3年目です。
――ということは、最初に就いた職業が今の協力隊ということですね。九州を選んだのには何か理由がありますか。
リンさん:九州は日本の南なので、暑くてベトナムに似ているところがあるかな、と思いました。冬もそんなに寒くないから。
――福岡県内でも、豊前市は気候的に過ごし易そうですよね。福岡市や久留米市は凄く暑いから。今、豊前市で暮らしていて、日本の他の所と違うなと感じることはありますか。
リンさん:あります。魚や海老が生きたまま売られていたり、30kgの玄米袋が売られたりしていることです。あと、地域のスーパーでベトナムと同じ野菜を見つけました。空心菜やつるむらさき、晩白柚が売っていて、祖国の食卓を思い出しました。
――食べ物が美味しそうですね。ベトナムと同じ物が売っているのなら、苦労なく暮らせそうですね。
リンさん:はい、新鮮な魚や美味しい旬の野菜も食べることができますので。

ベトナム人が多く住む豊前市
――リンさんの協力隊としてのお仕事は「多文化共生コーディネーター」ということですが、豊前市に住んでいる外国人の方と関わるんでしょうか。
リンさん:そうです。豊前市には外国人が500人以上住んでいます。その中で、ベトナム人が一番多くて約半数です。だから、多文化共生コーディネーターの応募条件が「ベトナム語ができること」でした。
――半数はとても多いですね。豊前市にはお仕事で来ている方が多いんですか。
リンさん:はい、技能実習生の方が多いです。自動車関連工場や食品加工工場などに勤めています。農業や介護職の方もいます。
――リンさんはそういった方々に豊前市の生活に馴染んでもらうために活動されているということですね。
リンさん:はい、Facebookに豊前市の情報や外国人に関する情報を「やさしい日本語」にして伝えています。あと、毎月2回日本語教室を開催しています。
――豊前市に住んでいる技能実習生の方々などは、日本語のレベルはどのくらいなんですか。
リンさん:働きに来ているので、すでに日本語は勉強していて、日常会話はできます。仕事でもN4,N5(日本語能力試験のレベル)くらいはできていると思います。
――そうなんですね。皆さん、豊前市での生活は楽しそうですか。
リンさん:豊前市は田舎なので、休みの日は小倉や中津などの賑やかな町にショッピングに行く人が多いです。

多文化共生コーディネーターの最終年度
――リンさんは今年で協力隊3年目ということですが、1年目から振り返って「こんなことができるようになった」といったことはありますか。
リンさん:最初は、多文化共生をどのように進めていくべきか悩んでいました。できることから少しずつ取り組み、直面した課題を一つずつ解決していきながら、ようやく自分の中でやるべきことが明確になってきました。
Facebookで外国人向けに「こういうイベントがあるよ」とか、「こういうことを注意した方がいい」といった情報が手に入りやすくなるようにしています。
例えば、多文化共生の過程で生まれる課題として、ごみ分別があります。豊前市は18種類の分別なのですが、それは外国人には難しいところもあると思います。そこで、私が大学で学んだグラフィックデザインの知識を活かして、日本語版の「ごみ分類図」からポイントを絞って、外国人向けに分かりやすくまとめ直しました。

――では豊前市に住んでいる外国人は、リンさんが作った図を見てごみ分類がわかるようになってきたんですね。
リンさん:はい。あと、地域の方々に異文化の紹介もしています。公民館でベトナムの旧正月を紹介したり、人権の集いに呼ばれてベトナム料理教室を開いたりしました。
日本人向けにやさしい日本語の講座もしました。外国人に話をする時は、英語よりもやさしい日本語の方が通じるんです。やさしい日本語指導者と日本語教師2名に頼んで、技能実習生のいる企業や公民館で講座を行いました。日本人の話し方は外国人には難しいところがあります。最後まで言わないとか、敬語とか。
――例えば、「食べてください」を敬語にすると「召し上がってください」になりますね。確かに外国の方には難しいかもしれませんね。あと、最後まで言わないというのは…
リンさん:断ってるけど最後まで言わないから、外国人からすると断ってるのかわからない。
――そうですね。「ちょっと考えておきます」とかね。日本人はやりますね、曖昧な言い方で。
リンさん:そうなんです。日本人としては相手の気持ちをちゃんと考えていますが、外国人相手だと通じない。

――それは、色々な国の人が日本人に対して思うことかもしれませんね。
リンさん:はい。で、これまでも色々なイベントを計画してきましたが、ずっと日本人と外国人を分けて行っていました。なので、今年の8月は、日本人と外国人が気軽に交流できるイベントを行います。「食を通して多文化交流」です。日本人と外国人20名ずつで、一緒に会話しながら色々な料理を作ってみませんか、というイベントです。
――面白そうですね。ベトナム料理と日本料理と、あとはどこですか。
リンさん:中国、台湾、インドネシアです。それぞれが自分の国の料理を教えながら交流します。ベトナムは生春巻き、中国はジーダンビン、台湾は豆花、インドネシアはナシゴレンです。
――その場所では、やさしい日本語で会話するわけですね。
リンさん:そうです。参加してくれる日本人は、豊前市だけでなく近隣の市町からも来てくれます。外国人は技能実習生が多くて、皆19歳か20歳です。かわいいですよ。
――若いですね!ちなみに日本料理は何ですか。
リンさん:流しそうめんです。日本語教室の先生が、ぜひ日本の文化を体験してもらいたいと。本物の竹を使って流します。私も竹を使って流す流しそうめんは初めてです。

協力隊卒業後も多文化共生に携わりたい

――リンさんは来年の3月で協力隊の任期満了ですよね。卒業後のことは考えていますか。
リンさん:さらに深く、多文化共生に関わる仕事に携わりたいと考えています。今、次の仕事を探し中です。公務員だと多文化共生だけでなく色々な業務があるので、他を考えています。私は多文化共生に関する仕事に集中したいです。
――ということは、このまま日本にずっと住むんですか。
リンさん:はい。
――気に入ったんですか。日本、豊前市が。
リンさん:はい、とても。田舎の生活は過ごしやすいです。畑もやっていますし。キュウリ、オクラ、ナス、トマトなど作っています。旦那さんもベトナム人で、一緒に豊前市に住んでいます。
――そうなんですね。お二人とも日本が合っているんですね。このまま住み続けたいと。
リンさん:はい。ここまで来ることができたのは、パートナーや周りの方々の支援のおかげなので、本当に感謝しています。
――最近、日本人は内向きの傾向が強まっているので、リンさんのような方が異文化を知る面白さや大切さを伝えてくださるのは、とてもありがたいことだと思います。リンさんが協力隊卒業後も多文化共生に関われることを願っています。
