看護師7割が苦しむ夜間オンコール。介護崩壊に挑むドクターメイト

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ドクターメイトは2017年、現役の医師:青柳直樹氏により設立された。詳細は後述するが「(夜間)オンコールの代行」を柱に、介護施設の医療関連を支える事業に携わっている。オンコールをフリー百科事典:ウィキペディアは、「医師や看護師は必要時に備え、入浴時や就寝時でも携帯電話を聞こえる場所に置くなど常に待機した状態を指す」と記している。

 周知の通り「高齢化社会」が急速に進行している。その一方で「介護職者の高い離職率」が指摘されている。忌々しき事態である。双方の因果関係は、「特養老人ホームや有料老人ホームの看護師の7割以上が、夜間のオンコール待機が負担」としている調査結果に象徴されると捉えられる。オンコール代行はその意味で「今後の介護業界」を考える時、極めて興味深い。

オンコール代行のイメージ画像

青柳氏がドクターメイトの設立に踏み切ったのは、医療現場での実体験

 自らも幼い頃、小児喘息に苦しんだ。祖父をくも膜下出血で失った。「医者を目指す」原点だった。千葉大医学部に学んだ。医学部生、研修医、医療現場を歩むうちに青柳氏は、ある課題に直面した。こう語っている。

「私が勤めていた病院は、介護施設からの外来・入院というケースが非常に多かったんです。若い患者同様に高齢者の方も入院してこられ治療を受け元気になって退院していく、と医学生時代は思っていた。それが現場勤務で幾多のケースを目の当たりにするうちに、強い問題意識を抱くようになったのです」とした上で、こう具体的に振り返った。

「介護現場から病院に救急搬送をされる人は、なぜもっと早く連れてこなかったのかと思うぐらい重症化して来る人もいる。医療と介護の連携が驚くほど取れていないと感じました」。

 現実を目の前にしながら青柳氏は「当初は介護現場のプロ意識について考えるところがあり、特養老人ホームなどの現場に通じた人に話を聞きに出かけました。現場の声はほぼ、『以前は日常生活を送れる入居者が殆どだったが、いまは10人のうち8人から9人が寝たきりで、介護施設は病院化している。医師は週に1度診察に来るが、半日程度。夜間も昼間同様に、介護スタッフが全てに対応しなければならない』というものでした」とし、「医療と介護が互いに支え合えるような枠組みを早々に整備しなくてはならない。何故、そんな動きがなかなか進まないのかという点に、強い問題意識を持つようになっていった」と言い及んだ。

 私は「週刊高齢者住宅新聞」で「ヘルスケア企業の株価研究」を連載している。介護業界・介護施設運営者を取材している。いま最も関心を抱いているのは終末期患者の安らかな看取りを行うホスピス事業であり、介護業者が頭を抱え込む:オンコール課題。後者は咀嚼すると彼らが共通して訴えるのは、『ネックとなり介護士・看護師が集まらない⇔介護・医療の素人の管理者が重荷を背負っている』という現状。

 夜間オンコールを主軸とした:ドクターメイトを利用している介護施設数は既に1200施設を超えている。

 が実は、そんな現状も一朝一夕に実現したわけではない。

現状の実現まで9回の事業転換/手元資金30万円で倒産の危機に晒されたことも

 青柳氏は起業家と呼ばれることに「むず痒さを感じる」というが「医師として現場で抱え込んだ課題」に対峙するためのドクターメイト設立は、まごうことなき起業。

 ドクターメイトでは介護施設向けの現業を、こう具体的に説明する。

(Ⅰ)日中医療相談:昼間の時間帯に介護施設職員がインターネット上で、(入居者の症状に関する)全ての診療科にわたって医師に相談が行える。

(Ⅱ)夜間オンコール代行:施設の夜勤スタッフが行っていた相談を、ドクターメイトの医療チームが「代行」する。

 そして施設向け医療サービスは、その幅を広げている。(Ⅲ)昨年からは青柳代表の出身医療分野でもある皮膚科オンライン診療サポートが、また認知症などオンライン精神科医診療指導にも着手している。更には詳細は後述するが、(Ⅳ)介護職員を対象にしたeラーニングシステム「DM-study」の提供が進んでいる。

 認知症診療指導に対し専門領域である精神科医が臨んでいる点などには、緻密な体制を覚える(ありていに言えば76歳の筆者も、認知症になるまでに可能な限り時間距離を保つため月に1回、物忘れ科という名の精神科医を訪れている)。

 ところで青柳代表は、こう打ち明けている。

「創業から2年間は介護士や看護師の方には一定の評価を頂きながらも、収益が上がらなかった。辛かったですね。9回の主軸事業の転換を強いられサービスの変更を重ねるうちに銀行の預金残高も30万円を割り込み、あと20日で会社は潰れるというところまで追い込まれました。残金を使い切るまでに次のサービスを開発し、軌道に乗せないことには・・・・。あの時の気重さは、未だ身体に残っています」。

「窮地というか倒産の危機からうちを引き上げてくれたのは、夜間のオンコールサービスの代行です。正直言うと、はじめはやりたくないビジネスモデルでした。オペ―レーションが大変なので。しかし、現場で求められていることに応えないことには未来はないと思い、踏ん切りをつけて始めたのが功を奏しました」。

 昨年初夏に104歳で他界した父の最後の住処となった老人ホームのケアマネージャーに、件の「夜間のオンコールサービスの勘所は」と聞いた。ケアマネージャーからは即座に、「看護師が夜間オンコールの代行を、自宅で行える点でしょう。多くの看護師から募集があると聞いています。但し合格の難易度は高く、研修も含め事前学習が必要だとも聞いていますよ」と返ってきた。

 青柳氏は今後について昨年起ち上げた新規事業:前記の(Ⅳ)を引き合いに、「施設の病院化によってスタッフの負担が増加し、人材が定着しない。入居者の重症化サインを気づかず悪化させてしまう。そうした問題解決のために施設内の医療リテラシーを上げ、対応の質の向上をサポートしたい。この仕組みが広がれば不要な緊急入院も減らせ、入居者の方に安心が提供できます」と、自らに言い聞かせるように語った。

 ちなみに「DM-study」はこんな事業を指す。「1200施設以上(2025年5月時点)の介護現場から寄せられた12万3000件以上の医療相談をもとにしたeランニングサービス」「560本以上の研修動画から学べる」「動画を受講しながら、分かりづらいことは専門家に質問できる」⇒介護士のレベルアップが図られる事業、である。

 なお、現状で契約施設のドクターメイトに対する直近1年の継続率は99%以上。

 取材の最後に青柳氏に「株式上場をどう認識しているのか」と問うた。返ってきた答えは「視野に入れているとご理解ください」だった。3年前から、ベンチャーキャピタルかの資金提供(株式取得)が始まっているという。