名古屋学院大学:団地コミュニティの未来を創る。みんなの縁側「mochiyori(もちより)」プロジェクトの取り組みと成果

名古屋学院大学は名古屋市営住宅神戸荘の空き住戸を活用し、学生が住民と共に団地コミュニティの活性化を目指す「みんなの縁側 mochiyori」を開始しました。この取り組みは、2018年度からの「文部科学省私立大学研究ブランディング事業」の一環であり、2022年3月30日に名古屋市と締結した確認書に基づいて行われています。

今回のインタビューでは、「みんなの縁側 mochiyori」の立ち上げから携わっている名古屋学院大学の山下匡将先生とプロジェクトに参加している学生の樋口さん、表田さんに、取り組み背景や活動内容、活動を通じた成長についてお話を伺いました。


山下匡将 先生

名古屋学院大学 現代社会学部 准教授
2007年に北海道医療大学大学院看護福祉学研究科臨床福祉学専攻修士課程を修了後、名古屋学院大学人間健康学部助手に着任、その後、スポーツ健康学部助教、経済学部講師、現代社会学部講師を経て、2017年より現職。社会福祉士、精神保健福祉士。

専門

地域福祉、コミュニティ・デザイン。文部科学省「地(知)の拠点整備事業」および「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」、「未来医療研究人材養成拠点形成事業」、「私立大学研究ブランディング事業」に係る学内プロジェクトの主査を歴任。第9期瀬戸市高齢者福祉計画・介護保険事業計画評価委員会委員長、第5次熱田区地域福祉活動計画スーパーバイザーとして、地域福祉や地域コミュニティ形成事業に携わる。

左から樋口さん・表田さん


名古屋学院大学


みんなの縁側 mochiyori(もちより)



名古屋市営住宅神戸荘の空き住戸を活用し、学生が住民と共に団地コミュニティの活性化を目指す。

公式アカウント

Instagram
みんなの縁側 mochiyori


苦境を乗り越え、住民に受け入れられる場に


ーーmochiyoriプロジェクトの目的や設立のきっかけを教えてください。

樋口さん:「mochiyori」は、ボランティアを行う部活「ボラセンCWクラブ」の活動の一環としてスタートしたプロジェクトです。

当プロジェクトを始めたのは、市役所から「市営団地の空き家を活用してほしい」と依頼をいただいたことがきっかけです。ボラセンCWクラブとして地域と関わる活動をしたいと考えていたなかでご依頼をいただき、団地コミュニティの活性化を目的としたmochiyoriを始めることになりました。

山下先生:mochiyoriの活動は、今年で2年目を迎えます。いわゆる「団地」である市営神戸荘の1階にある店舗付き住宅の一室を借りての取り組みですが、団地住民向けの説明会、地域住民(学区、自治会等)向けの説明会、内装整備などやるべきことが多く、初代リーダーは開所するだけで精一杯でした。

2代目リーダーの頃から少しずつイベントなどが企画出来るようになり、現在は樋口くんが3代目のリーダーとしてmochiyoriを引っ張ってくれています。


ーーなぜ、mochiyoriに参加しようと思われたのですか。

樋口さん:ボランティア活動に興味があり、様々な方と関わりたいという思いもありました。市営住宅には多様な方々が暮らしており、自分のやりたいことを実現できると感じて、mochiyoriに参加することを決めました。


ーーmochiyoriには、市営住宅以外にお住まいの方も参加できるのでしょうか。

樋口さん:近隣にお住まいの方も、自由に参加できる場所になっています。

山下先生:実は、団地住民以外の方もいらっしゃるようになったのは最近のことです。

市営住宅の施設や設備は「市営住宅に居住する住民のために活用する」という前提で貸し出しが決まったのですが、その一方で、「mochiyoriのようなコミュニティスペースを(名古屋市という行政が)作るからには、団地以外の地域住民の利用をどのように考えているのか」と学区や自治会から説明を求められ、初代リーダーは何十人もの役員と呼ばれる人たちの前で、自分たちのやりたいことや思いの丈を述べたこともあります。

また、無事に開所することはできましたが、当初は「ここは団地のものだ」という思いを持つ団地住民の方もいらっしゃり、閉鎖的な空間になっている時期もありました。

要するに、蓋を開けてみたら、団地コミュニティが衰退しているという問題だけでなく、団地と団地が所在する地域コミュニティとの間に確執があるという問題が明らかになったのです。

その後、このような閉鎖的な状況をどうすれば打開できるのか、また、団地コミュニティと地域コミュニティとの間をどうすれば取り持てるのか考え、2代目リーダーの時期から、夏休みに小学生の宿題を見てあげたり裏の公園で一緒に遊んだりと、子どもたちが参加できるイベントも企画するようになりました。

神戸荘には子どもが少ないこともあり、そのようなイベントに来る子どもたちは「団地以外の地域住民」ということになります。

「団地以外の地域住民」の利用に否定的だった団地住民の方々も、さすがに子どもたちの利用を拒否する訳にはいきません。

当初は「可愛い」と子どもたちを温かく迎えていた皆さんですが、時間が経つと、「大声で騒がない!」「そこ危ないから走らない!」と、まるで自分の孫やひ孫といった身内のように接している姿が印象的です。

市営住宅の多くは住民の高齢化が進んでおり、大学生が加わるだけでも「世代間交流ならぬ異文化交流」が生まれます。そこにひ孫世代やその親世代が集まると、まるで昭和時代の大家族のような温かいコミュニティが生まれているようで、素敵だなと思います。

ーー住民の方の反響はいかがですか。

樋口さん:「普段はあまり接することのない世代の方々と交流でき、色々な話ができるのが楽しい」という、お声をいただいています。

ーー活動を振り返って、上手くできたことや、もう少し頑張れたと思うことを教えてください。

樋口さん:上手くできたことは、イベントの企画や運営です。ハロウィンにはカボチャを彫ったり、バレンタインには一緒にお菓子を作ったりと、住民の皆さんと一緒に楽しめるイベントをたくさん企画開催できました

心残りなのは、リーダーとして前任者のやり方をなぞるだけで、新しい挑戦があまりできなかったことです。もうすぐリーダー交代の時期を迎えますが、それまでに新しい挑戦ができればと思っています。


活動を通して得た学びと成長

ーーmochiyoriはボラセンCWクラブでの活動の一環として行われているとのお話でしたが、ボラセンCWクラブでは他にどのような活動を行われているのですか。

表田さん:災害支援のボランティアやmochiyoriのような地域活動、子ども向けのボランティアなど、様々な取り組みを行っています。

ーー表田さんはボラセンCWクラブを束ねる主幹を務めていらっしゃるそうですね。主幹としての役割について教えていただけますか。

表田さん:参加者が興味を持つボランティア活動を見つけて紹介したり、活動先とコンタクトを取って調整を行ったりするのが主な役割です。

ーー大変な立場だと思いますが、なぜ主幹になろうと思われたのでしょうか。

表田さん:幅広い経験を通じて自分の視野を広げたいと考えたからです。ボランティア活動は、普段の学生生活では得られない人との関わりや異なる価値観を学ぶ貴重な機会であるため、それらを最前線で体験することができる主幹になろうと思いました。

ーー実際に主幹になられていかがですか。

表田さん:勉強との両立が、意外と難しいと感じています。また、普段は目上の方と接する機会が少ないので、 社会人の方を相手に交渉や調整を行うことにも難しさを感じます。

ーーボラセンCWクラブでの活動を振り返って、うまくできたことや、もう少し頑張れたと思うことを教えてください。

表田さん:ボラセンCWクラブでは、初めてチームをまとめる役割を担いました。当初は、ボランティアの募集をしても3〜4人集まれば良い方で、活動率が非常に低かったため、主幹として何とか参加率を上げたいと考えていました。

ボランティア活動の特性上、強制的に参加を促すことはできないなかで色々と試行錯誤してきましたが、今振り返るともう少し多様なボランティア活動を探すだけでなく、参加者が参加しやすい環境をつくってあげればよかったと感じています。

一方で、新しい取り組みを始めるための対外交渉に関しては、頑張れたと思います。新しいことを始めるには、どうしても腰が重くなることもありますが、積極的に動けた点は良かったです。

ーー活動を通して学んだことはありますか。

表田さん:コミュニケーションの大切さを改めて実感しました。活動では様々な年齢や職種の方々と関わり、一人一人が異なる視点やニーズを持っていることを学びました。自分の考えだけでなく相手の意見や立場を尊重し、お互いに理解を深めることが円滑な協力につながると感じました。特に印象残ったのは、チームで取り組む際にお互いの役割をしっかりと確認し合うことの重要性です。言葉のかけ方やタイミングによっても相手の受け取り方が変わるため、丁寧に伝えることが大切だと気付きました。こうした経験から、人との関わりには「聞く力」や「相手を思いやる心」が必要であり、信頼関係が築けることが成果につながることを学びました。

ーー就職活動にも活かせそうですね。

表田さん:今の時代はコミュニケーション能力が大事だと言われており、非常に勉強になりました。

ーー樋口さんはいかがですか。

樋口さん:報告・連絡・相談の「報連相」が本当に重要だと感じました。例えば、イベントを開催する際には、事前に日程を共有して内容について相談しなければ、部員も動けません。「報連相」を徹底しないと物事がスムーズに進まないことを、mochiyoriの活動を通して学びました。

ーー卒業後はどのような進路を考えていますか。

表田さん:市役所への就職を希望しており、現在公務員試験の勉強をしています。仕事だけでなく趣味も楽しみながら、平穏に過ごしたいと思っています。

樋口さん:IT業界に進みたいと考えています。ITというとコンピューターとずっと向き合っているイメージがありますが、実は意外とコミュニケーションが求められる場面も多く、mochiyoriの活動で培ってきたスキルも活かせると考えています。


行政との会議や講師としての登壇、普通の学生ではできない経験も

ーー山下先生から見て、どのような場面で学生たちの成長を感じますか。

山下先生:mochiyoriやボラセンCWクラブの活動は、学生たちの活動なので、基本的に口出しをしないようにしています。例えば、mochiyoriの場合は、協定の締結や管理・運営規則の制定など学生たちだけで進めるのが難しい部分に関しては私も関わりましたが、その後の空間作りや開所スケジュールの調整、イベントの企画・運営等はすべて学生たちに任せています。

(前文にあるように)mochiyoriは名古屋市との「市営神戸荘の空き家を活用したコミュニティ形成モデル事業に関する確認書」に基づいて実施しており、名古屋市や住宅供給公社との会議も定期的に開かれていますが、こちらも学生たちが出席して対応しています。

受け身な学生も多い中で、自分たちだけで現場に出て、課題を乗り越えていく姿を見ると、大きな成長を感じます。

樋口くん、表田くんの2人には私が担当する「ボランティア学」の講義でゲスト講師として話をしてもらったこともあります。また、熱田区役所で地域コミュニティのあり方について講演を依頼されているのですが、そこでも2人に登壇してもらう予定です。講師の立場で人前で話すことは、普通の学生ではなかなかできないことだと思います。


住民に愛される、学生ならではの魅力

山下先生:先ほど、樋口くんが「先輩たちがやってきたことをなぞることしかできなかったのが心残り」と話していましたが、完璧ではない(何でも思ったことを完璧にこなせるわけではない)ところが、かえって住民の皆さんに好評だったりもします。

以前、学生たちが「みんなでぜんざいを食べよう」というイベントを開催したのですが、その際に学生たちが用意していたのはレトルトのパックが3袋(4~5人分)だったんです。明らかに足りない量だったので(山下としては珍しく)指摘したところ、急遽追加の買い出しに住民の方が学生たちを連れて行ってくれました。

その時ふと思ったのは、「この団地は、確か、買い物難民が多くて支援が必要だとされていたよな」ということでした。ちなみに、ぜんざいに入れるお餅を焼くためのホットプレートも、住民さんが持ち寄ってくれていました。

また、私は社会福祉協議会などで働く専門職の方々とも話をしますが、専門職が住民さんのところに訪ねていくと「何しに来たの?」と身構えられることが多いそうです。

地域サロンを開いても、どこか壁を感じて、本音を言いづらい雰囲気が生じるようです。

一方で、学生たちが相手だと、まるで孫や子どもと話すように気軽に何でも話しているように見えます。

孫や子どものような「できない部分がある(完璧ではない)存在」だからこそ、「手伝ってあげよう」「私がやってあげなきゃ」といった住民の皆さんのチカラを引き出すことができているんです。

これこそ「学生にしか出来ない支援」の仕方だと思います。

ーー最後に、学生と地域の方々が関わる意義を教えてください。

山下先生:今の時代は、テキストに書かれた知識を活用できる実践力が求められています。その中で、地域をフィールドとして活動し、地域の方々と関わることは、学生たちにとって社会で役立つ貴重な経験になっていると思います。

さらに、行政が推進する「地域共生社会」の一翼を担っているのも大きいと思います。厚生労働省は「地域共生社会」の実現を掲げていますが、それを担う人材が不足しているのが現状です。その中で、mochiyoriやボラセンCWクラブの学生たちは地域のマンパワーとしてだけでなく、地域の人々の(地域のマンパワーとしての)パワーを引き出す役割も果たしていると感じます。

大学、行政、地域(住民)、三者が「win-win-win」となる関係の構築に寄与しているように感じています。