Agent Connect。2023年12月5日、現代表の冨谷皐介(とみたにこうすけ)氏により設立された。何を目指す企業かは、ホームページの冨谷氏の「挨拶」に収斂される。こう語っている。
「不動産取引は多くの人々の生活で、重要な意味を持ちます。しかし不透明な情報や信頼できるエージェントの不足は、適切な選択を困難にしてしまいます。Agent Connectの存在は、この問題に対する解決策です。
私たちは一つの課題に特に注目しています。市場におけるエージェントの質のばらつきです。お客様が価値あるサービスに出会えるような環境に、お客様目線を整えることが、私たちの目指すところです。信頼できるエージェントとの出会いを提供し、お客様一人ひとりのニーズに応えるサービスを展開します。
また私たちは不動産取引におけるセカンドオピニオンの重要性を認識しており、その導入を進めています。お客様がより確かな判断を下せるように支援し、取引の公正性を確保します。
私たちの目標は不動産業界に新たな風を吹き込み、消費者とエージェント双方が成長し発展することです。業界の習慣にとらわれることなく、公平かつ公正な取引の場を提供することを使命としています」。
読者諸氏にも2018年に発覚し、世の中を騒然の渦に巻き込んだ「かぼちゃの馬車事件」は記憶に新しいところであろう。要約すると、「愕然」の二文字がまさに当て嵌まる「大事件」だった。
「時の金融庁長官に“地銀の雄”とまで言わせた、スルガ銀行による巨額の不正融資事件だ。スルガ銀行が後ろ盾となった:スマートデイズが女性専用シェアハウス(かぼちゃの馬車)を、不正な価格でサブリースとして販売。経営破綻。多くの不動産投資家が自己破産に陥った事件」である。
何故、こんな書き出しにしたのか。Agent Connectの創業者:冨谷氏が実は、かぼちゃの馬車事件の「被害者」だからである。2億円の借金を抱え、丸二年余り苦しみ闘い抜いた御仁だからである。冨谷氏は、「かぼちゃの馬車事件」(みらいパブリッシング社刊)と題する著書も残している。Agent Connect設立の背景をこう語ってくれた。
「私の現業の原点は、スルガ銀行による不正融資問題、いわゆる『かぼちゃの馬車事件』です。家族のための将来設計として始めた不動産投資が、一瞬にして“人生を壊しかねない負債”へと変わりました。その経験が、いま私が取り組む『再発を防ぐ仕組みづくり』―すなわちAgent Connectの原点となっています」。
Agent Connect設立の経緯
冨谷氏の「原点」を御本人の「言葉」と、前記の著書の記述から紐解く。
『投資の何故』-「当初の目的は純粋でした。当時の私は40歳代終盤。家族の将来のため時代環境も鑑み、安定した資産形成をしたいという思いから、不動産投資に踏み出しました。ところが融資スキームの実態は全くの別物で、結果として破綻が訪れます」。
【著書】-「シェアハウスが破綻し、あとには巨額のローンだけが残った。最悪の未来図が何度も何度も頭に浮かんでくる。空っぽのはずの胃がむかついて、吐き気が込みあげてきたのに続いて、何度も激しくせきこみ、意識が遠のきそうになる」(第二章「悪夢」)。
『死まで頭をかすめた』-「絶望の中で、家族に迷惑をかけまいとする思いと、責任感と、自己嫌悪が入り混じる日々でした。妻にすべてを打ち明けたとき、彼女は静かにこう言いました。「私と子どもには、迷惑をかけないようにやってね」。その言葉に私は、“自分がいなくなることでしか、生命保険で借り入れを返済することでしか終わらないのではないか”と一瞬思い詰めたことがあります。
【著書】-「確かに自分が自殺すれば、経済的な問題は解決するかもしれない。しかし、心はどうだろう。妻や子どもたちは悲しむだろうなぁ程度にしか考えが及んでいなかった」(第三章)。
『死を思いとどまった理由』-亡き祖母の言葉が頭をよぎりました。
【著書】-「死ぬ気になったら人間、なんだってできる」。「ばあちゃん、俺に力を貸してくれ!俺は死ぬ気でやるぞ!この瞬間「死ぬ」ではなく「闘う」を選びました。人生最大の転換点でした」(第三章)。
『闘った』-私は被害者の一人として声を上げる決意をし、同じように苦しむ仲間たちとつながり、被害者同盟を組織しました。行政・弁護士・国会議員との対話を重ね、報道を通じて実態を社会に訴え続けました。
【著書】-「人気のない夜道を歩いて行くうちに、妻は幾分か落ち着きを取り戻したようだった。・・・互いにこの事件に関係する夫婦のことで、嘘はつかない、隠し事はしないと約束を交わしたばかりだった。・・・先行きの見えない闘い、生活への影響、考えてみれば不安を感じる要素ばかりが今の生活に蔓延していた」(終章)。
『勝った、そして被害者代表へ』-結果として、スルガ銀行による不正の一部が認定され、社会的にも事件の実態が明らかになりました。民事再生の阻止、被害者の救済、そして制度改善への道が開かれたのです。
【著書】-「民事再生は阻止できますよ、きっと」・・・「河合(注、弘之弁護士)先生がいらしたので、向こうの弁護士はびっくりしたみたいです」・・・「多くのメディアでこの一件は取り上げられ、私はこの勢いのままスルガ銀行を打倒すべしと、兜の緒を締めるのだった」(第2回弁護団交渉章)。
<河合弁護士>-経済事件で多々の実績を積んでいた河合弁護士との出会いは、闘争に「勝つ」上で文字通りのターニングポイントになった。冨谷氏はこう振り返った。
「初めてお会いした時、私の実情を聞いて先生は『そりゃあ、おもしろいな』と二度、仰ったのです。他の被害者が耳にしたら不遜に聞こえたかもしれませんが、私は妙に親しみを覚えました。弁護をお引き受け頂いた時は『逃げるなよ』という言葉を頂きました。以来、先生が打ち出される戦略はいま思うと的確で、かつ斬新でした。『スルガなんて、こんな銀行潰しちゃえ』『不動産やと銀行が結託して騙しているんだ。まずはローンの返済をやめちゃいましょうや』。ご指導がなければ・・・いま、心底からそう思います」。
総括
一連の経験が、被害者代表としての私の活動の原点であり、同時に「不正を生まない不動産取引に関する構造を社会に作る」という次の挑戦につながりました。その延長線上に、いまのAgentConnect、そしてReBORNs(消費者被害団体の運営サポート・弁護団サポートを行う、非営利一般社団法人)の存在があります。
「為せばなる、為さねばならぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。私は被害者として終わるのではなく、「再発を防ぐ」仕組みを作る人間として「生き直す」道を選びました。体験のすべてが、いまの私の現業の根幹です。
いま
物書き業に身を置く私は76歳。歳を重ねると「涙」との付き合いが増える。本稿を書きながらも、そうだった。何故なのか・・・。突き詰めると冨谷氏の「かぼちゃの馬車事件」との対峙姿勢、その後の人生。翻って我が身の「悔い」「恥ずかしさ」の多さ、ということだろう。読者諸氏のなかにも「おなじ」方々も少なくないのではないか・・・。
冨谷氏はAgent Connectの構想・枠組みを、こう語ってくれた。

「被害を未然に防ぐため、被害の見える化と中立セカンドオピニオンの二本柱を独立主体として構築しました」とし、改めて我が身に言い聞かせるようにこう話した。
『課題認識』-不動産投資の被害は一度の判断ミスで人生規模の打撃となり、回復も困難。根治には「発生前に防ぐ仕組み」が必要。
『仮説設計』-「営業担当者の実力と姿勢を可視化する評価基盤」+「取引前後での中立的セカンドオピニオン」の二本柱を構想。意思決定の質を底上げし、情報の非対称性を縮小する狙い。
『最小機能の立ち上げ』-「相談受付:不安点の整理、論点の可視化、必要書類のガイド」「セカンドオピニオン:契約書・収支計画・与信条件・物件情報の第三者レビュー」「評価項目の試作:ヒアリング力、説明責任、利益相反管理、アフター対応など」。
『中立性を担保する運営の枠組み』-「不動産会社から独立した運営体制/助言と仲介の切り離し」「利益相反ルールの明文化/手数料の流れ・広告掲載の基準を透明化」「エビデンス主義=評価は体験談+検証可能な事実で裏づけ」。
『品質保証とフィードバック』-「相談記録の匿名化データで評価指標を更新」「誤情報の修正ルート、異議申し立てのプロセスを常設」「事例学習をコンテンツ化し、予備知識として還元」。
『伴走支援の拡張』-「購入前:物件選定・融資条件・リスクの感応度の検討」「購入後:運用KPIの見直し、出口戦略のセカンドオピニオン」「トラブル時:専門家(弁護士・税理士等)への橋渡し」。
更に今後の方針として、「評価アルゴリズムの高度化」「相談ハードルをさらに下げる、即時回答の標準化」「地域・種別(新築/中古/区分/一棟)ごとの比較指標の整備」を標榜しこうも言及した。「将来的にはAI技術の活用も視野に入れています。ユーザーとエージェントとの取引履歴やコミュニケーションデータを基に、トラブルの予兆を察知・予測しアラートを発するなど、リスク回避をサポートする仕組みを構想中です」。
冨谷氏は冷静に喋る。がそこにはすさまじい「熱量」を覚えた。
取材の最後を、こう締めくくった。
「視線の先には、不動産取引に関わる全てのプロセスがプラットフォーム上で円滑に安心して完結できる世界があります。
今後チャット機能の拡充を図ります。エージェントは時間や場所に縛られずスムーズに顧客対応が可能になり、ユーザーもリアルタイムで疑問や不安を解消できる環境が提供できるようになります。
物件情報を自動的に記録・管理できる機能も不可欠だと考えています。ユーザーは将来的な売却やリフォーム相談が発生した際に、過去の書類を探し出す手間から解放され次のステップへ進むことが可能になります。
エージェントにも蓄積された物件情報は大きな価値を生みます。適切なタイミングでリフォームの提案や新たな不動産情報の紹介など、長期的な関係構築に活用できるからです。一回限りの取引で終わらない、生涯にわたる不動産パートナーとして寄り添うことができる。それこそ私どもが実現したい新しいエージェントの在り方です」。
死まで覚悟した身が立ち上げた事業。凄みが違う。


