大人が子どもを管理しない。子どもは自ずと意志を育む:デモクラティックスクールASOVIVA!_代表理事 長村知愛さん

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 近年、学校に行けない、行かない子どもたちの居場所としてフリースクールなどの民間の教育機関が話題となっています。こうしたスクールは、学校復帰を目指す場合や、居場所としての機能を重視する場合など、それぞれの理念に基づいて運営されています。

 大阪府南河内郡河南町にあるデモクラティックスクールASOVIVA!(認定NPO法人ASOVIVAが運営)は、子どもたちが自主性や創造力を大切にしながら「自分はどう生きたいか」を探っていくことを目的としています。代表理事の長村知愛さんは、自身が中学生の頃からASOVIVA!の設立に関わり、学校に行かない選択をした子どもたちが学ぶ場を運営してきました。

 今回は、長村さんにASOVIVA!の普段の様子や子どもたちについて、また運営する上で大切にしていることなどについて伺いました。

デモクラティックスクール ASOVIVA!とは

 ASOVIVA!は、5歳~18歳の子どもたちが通うデモクラティックスクールです。「デモクラティックスクール」とは、「本来人間には自ら学ぶ力がそなわっている」という理念のもと、子どもたちが大人と一緒につくる学校のことを言います。
 ASOVIVA!では宿題や成績は無く、子どもたちが主体性をもってスクールの運営を行っています。一日に2回子どもたちによるミーティングが行われており、議題は日によってさまざまだそう。

「たとえば、みんなで使うタブレットがASOVIVA!にはあるんですが、その使い方について話し合ったことがありました。『自分が使おうと思ったら充電がない状態で転がっていた、自分はスマホを持っていないからASOVIVA!でタブレットを使いたいのにほったらかして帰られたら使えないから、1回充電をしたり定位置に戻したりするのを忘れたら、その人はタブレットを1カ月使えないようにしてほしい』という要望が議題に上がったんです。ただ、その時タブレットを戻さなかった子の年齢が低かったので、スタッフが『本当にいいの?1回忘れただけで1カ月も使えなくなるっていうのはどう感じる?』とその子に訊きました。そしたら『長いと思う』と言うので、何回戻すのを忘れたら何週間使えないようにするかをみんなで話し合いました。結局、4回忘れたら1カ月使えないようにしよう、ということになりました。私は厳しいなと思ったんですが(笑)、でもみんながいいならそうしよう、と。基本的にそんな感じで決めていきますね。」

 他にも、遠足の行き先や運営費の使い方、スタッフを予約して買い物に行きたい、など行事や日々の予定、困りごとについて話し合います。
 義務教育ではなかなか自分たちの学校について議論することはありませんが、子どもたちは入学したらすぐ議論に慣れるのでしょうか。

「いや、やっぱり最初はできない子が多いですよ。話を聴くだけから始まりますね。もちろん何も言わなくても全然いいと思っていて。その子のタイミングで、自分のやりたい活動をするために予算やスタッフの予約が必要になったら、ミーティングに参加するようになります。そうしたら遠足や運動会などの行事の楽しさも味わい始めて、他の子とも仲良くなっているから、自然とミーティングに入っていく、そんなパターンが多いですね。」

 実はミーティングへの参加も自由だと言います。当初は強制参加がいいのではという意見もあったそうですが、ミーティングの目的は自分の意志で主体性をもってスクールの運営をすること。それを踏まえると、仕方なく参加していたら、ミーティングが面倒なものになってしまうと考えました。逆に自分に関係のあることや自分がやりたいことのためなら意志をもってミーティングに参加でき、他の参加者もストレスを抱えずに済むのではないか、ということで任意での参加になったそうです。

 結果的に長村さんの思い描いた通り、子どもたちはそれぞれの意志をもってミーティングに参加し、主体的な討議が行えているとのこと。

「大人よりも話し合いが上手やなって思います。腹が立ったり、嫌だと思ったりしても、話し合いをして謝れば、その後すぐに仲良く遊んでることが多いです。大人同士だとちょっとギクシャクしちゃうじゃないですか。謝ってからも引きずっちゃったり。でもそういうのがあんまりなくて。議題も一人の人間としてきちんと手を挙げて発言するし、書記も司会もしっかりやっています。年下の子の意見を年上の子が上手に引き出しているのなんかを見ると、すごいなって思いますね。」

刺激し合って学んでいく

 子どもたちが過ごすASOVIVA!の建物は、築100年以上の古民家です。大事に手入れされた家の中で、子どもたちは思い思いに活動をします。部屋ごとに用途が分かれており、1階には創作室と音楽室、みんなが集う和室、キッチンとダイニングが。2階には図書室とゲーム室があります。古民家の特性上、どの部屋に行くにもどこかの部屋を通らなければなりません。

「2階に本を読みに行こうって思ってても、なんか和室で楽しそうなことしてるから、と吸い込まれていったり(笑)。創作室でレジンを使って何か作っているのを見ると、やりたくなって一緒にやりだしたり。そういう風に、個々人に分かれ過ぎず活動できていますね。」

 一人で過ごしたければそうすることもできますが、みんなが交差し合い、刺激を与え合って過ごしているそうです。

 ASOVIVA!があるのは焚火や水遊びもできる自然豊かな環境です。長村さんたちスタッフは、とにかく子どもたちがいろいろなことを経験できるように心がけています。

「子どもたちの意見で何か物を買うこともありますが、やっぱり目に見えている物から自分たちがやることを選ぼうとするので、その選択肢を増やせるようにと考えています。」

 実際は本や家具はほとんどが寄付で集まったものだそう。子どもたちもそのことはよくわかっていて、大事に使っています。

「スタッフはああしなさい、こうしなさいとは言いません。管理しないので。自分のことは自分で決めて、というスタンスでいると、自然に自分たちで動いていくようになります。」

 管理しようとすると、大人も疲れてしまい、子どもたちも管理されようとして主体性がなくなっていってしまいます。結局のところ、大人がどう関わるかが子どもたちの成長にとってとても大事だと長村さんは言います。

必要な時に必要なことを学ぶ

 現在は小学生が7割、中学生が2割、高校生が1割程度のASOVIVA!。小中学生は出席認定を受ければ、出席日数がきちんと確保された状態で卒業することができます。

「日本は義務教育学校に行かなくても自動的に卒業できるようになっているのですが、良くもあり悪くもあるシステムですよね。一見学校に行かなくても卒業認定されてありがたいですが、アメリカなどでは一定の学力が身についているかを審査されて初めて卒業、という制度になっていますし、ホームスクーリングだとしてもある程度厳しい。学力の面では、日本の制度は放置になってしまっている側面があると思います。」

 確かに、同級生のいわゆる「学力」に追いつこうと思うとかなり自分で勉強する必要がありそうです。しかし、ASOVIVA!では「学力」のみを重視せず、子どもたちが必要なタイミングで必要なことを学んでいく、という考え方のもと運営がなされています。

「たとえばお菓子作りをすることにした時、引き算や割り算が必要になってくるじゃないですか。算数を学んでるつもりはないんだけど、気付いたらできるようになっている。そういう形で、その子が自分が生きていく上で必要なことをその時々で吸収していく、という考え方です。」

 もちろん一般的な義務教育における勉強をしたい子は、自宅で学習することもあるし、ASOVIVA!で一緒にすることもあると言います。ただ、子どもたちは基本的にはやりたくないことはやりません。自分自身の必要に応じて、学び、成長していきます。

 一方、ASOVIVA!高等部は沖縄の八洲学園大学国際高等学校と提携し、通信制で勉強をできるシステムを整えています。年に一度スクーリングのため沖縄に出向き、授業を受け、3年で卒業できるようになっています。

「今年卒業した4人のうち3人の高等部の子たちはそれぞれ勉強をして、専門学校や短大、大学に進学しました。通信制と言えど意外と教科書を見れば自分で勉強できるもので、みんな成績が良かったですよ。」

中等部から公立の高校を受験し、進学する場合もあるのだとか。そうなると勉強が大変そうですが…。

「実際勉強はなかなか大変だと思います。前もって計画を立て進める子もいれば、試験が近づいてギリギリになってから勉強に火がつく子もいます。でもやるしかないですよね。誰のためでもなく自分のために。そうなったら勉強する、それだけの話です。」

 進学も自分で選んだ道。必要ならば学ぶ。その精神がどこまでも貫かれます。

公教育に混じった時、周囲の主体性のなさにびっくりする

 ASOVIVA!でのびのびと主体性を育んだ子たちが外の世界に飛び出すと、やはり戸惑うこともあるのでしょうか。

「そうですね、進学してから浮いちゃったりしんどくなったりするんじゃないか、と不安もありましたが、みんな楽しく学校に通っていますね。ただ、公教育を受けてきた人たちと出会った時に、主体性があまりない子が多いことにびっくりして苦しんでいる子はいますね。」

 ASOVIVA!では5歳から18歳までが一緒になってスクール運営をしています。行事もルールもミーティングで決めてきた卒業生たちにとって、そうでない環境で育ってきた人たちとのカルチャーショックがあるようです。

「でもぶっちゃけ、ASOVIVA!にいても折り合いの連続なんです。ルール決めもみんながそれぞれ納得できる地点を探して決めていきます。嫌だなって思う出来事があっても、何をどうやってそれを自分の糧にしていくのか、そこから何を学ぶのか考え続けます。そういうことをずっとやってきた子たちなので、折り合いをつけながら頑張っていくと思います。」

 ASOVIVA!のような教育の場を作りたいと、大学で学ぶ卒業生もいるのだとか。苦しみながらも、自分のやりたいことのために一所懸命がんばっているそうです。

自分との関係をしっかり作ってほしい

 代表の長村さんは2003年生まれ。10代でASOVIVA!の代表となり、以来子どもたちのために奮闘してきました。

「ASOVIVA!の周囲の人たちにはすごく恵まれていました。『知愛ちゃんはどう思う?』と意見をたくさん聴いてくれて、言いたいことを言える環境だったと思います。」

 しかしASOVIVA!の外で法人関係の人や支援者と出会っていく中で、はがゆい思いをすることもあったそう。自分の意見を主張しすぎて反省をすることも度々あったと言います。

「ASOVIVA!の代表として恥ずかしくないようにいよう、と思って。そういうことをやめてからは特に問題はないですね。」

試行錯誤をしながら運営に励む長村さん。しかし経営面では厳しい局面が続いていると言います。

「本当に厳しいですよ。大変です。ぎりぎりのラインでがんばっていますね。」

 教育にかける予算の問題は近年ますます議論の種となっていますが、長村さんはその必要性を誰よりも感じている一人です。ASOVIVA!では金銭的、人材的支援を行うサポーターの募集を行っています。子どもたちの主体性を育む教育に魅力を感じ、ぜひ応援したいという方は公式ホームページをご覧ください

 最後に、子どもたちにどう生きていってほしいか、長村さんに伺いました。

「とにかく幸せに生きていってほしいなと思っていて。誰かの人生ではなく、自分の人生を歩んでいってほしいなってすごく思っています。自分は何がしたくて、何が嫌なのか。そういう『自分の声』を聴ける人になってほしいです。自分との関係性をちゃんと作れている人は、他の人と関わる時も健全なコミュニケーションを取れます。だから自分とのお付き合いがしっかりできる状態で、ASOVIVA!を卒業してほしいですかね。そのあとはもう本人たちの選択なので。彼らが望む方向に進めるのであれば、それを応援しているよ、って思っています。」

 子どもたちの主体性を大切に育てるASOVIVA!。今日も子どもたちが自分の意志で遊び、学んでいます。