京都文教大学_ファッションを通じた地域連携学生プロジェクト「KASANEO」の挑戦と成果

高齢化の進む現代社会において、多世代間の交流はますます重要性を増しています。しかし、年齢の壁を超えて共通の興味や価値観を見つけ出すことは容易ではありません。そんな中、京都文教大学で2018年から動き出した地域連携学生プロジェクト「KASANEO(カサネオ)」は、ファッションを通じて高齢者と若者がつながる新たな試みを始め、雑誌制作やファッションショーといったクリエイティブな活動を通じて、世代間の交流を深めています。

KASANEOのメンバーたちは高齢者とどのように心を通わせ、互いに学び合い、成長しているのか、また、KASANEOの取り組みがどのように世代間の架け橋となり、新たな価値観を生み出しているのか、メンバーである学生の寺田あゆみさんと小田竜義さんのお二人、大学職員の江崎洋子さんにお話を伺いました。

京都文教大学 地域連携学生プロジェクト「KASANEO」(カサネオ)


世代間の隔たりを少しでもなくすことを目的に、ファッションを共通の話題とし、多世代交流を行うプロジェクト。

京都文教大で学ぶ宇治市高齢者アカデミー(65歳以上の宇治市民を対象にした生涯学習事業)生を「シニアメンバー」として受け入れ、一緒に活動を進めている。

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地域連携学生プロジェクト「KASANEO」

世代を超えたプロジェクト「KASANEO」誕生のきっかけとその想い

――京都文教大学の地域連携学生プロジェクトである「KASANEO」が設立された経緯について教えてください。

寺田 あゆみさん(学生):「KASANEO」は、2018年に学生の発案から始まったプロジェクトです。創設者である先輩が、授業の一環で高齢者の方と学外へ出かけた際、女性の方が身につけていた指輪に興味を持ち、話しかけたことで交流が生まれました。そこで「ファッションが世代間の壁をなくすきっかけになるのではないか」と感じられたことがきっかけとなったと聞いています。

現在は学生18名で活動しており、高齢者の方々から提供された昔の衣類を題材にした雑誌を制作したり、ファッションショーを開催したりと、ファッションをテーマとした活動を行っています。

江崎さん(大学職員):本学では、学生が主体となって地域課題を特定し、その解決策を考える「地域連携学生プロジェクト」を推進しており、KASANEOでもこの制度を利用しています。本プロジェクトでは、毎年、学生のアイデアを募っており、その中から採択されたプロジェクトに予算を支給しています。学生たちはこの予算を活用し、自分のアイデアを形にすることができるという仕組みです。

さらに、本学は宇治市と連携して「宇治市高齢者アカデミー」という生涯学習の場も提供しています。この取り組みは、65歳以上の宇治市民であれば、学生と一緒に2年間で4科目の講義を履修することができるというものです。

KASANEOの創設者である学生は、もともと「高齢者の方と何かしてみたい」という思いを抱いており、学内で見かける宇治市高齢者アカデミーに参加している方々との交流を模索していました。高齢者の方々にも「学生と交流したい」という思いはあったものの、きっかけが掴みづらく、当初は直接的な交流の機会がなかなかなかったようです。

そのような中、ファッションを話題にすることで世代間のコミュニケーションを円滑にできるというアイデアを得た創設者が地域連携学生プロジェクトに応募し、採択されたことで、KASANEOとしての活動が本格的に始まりました。

当初は10名に満たないメンバーでスタートしましたが、毎年新たなメンバーを迎え入れながら、現在まで活動が続いています。

――KASANEOでは、「想い出の衣服」の紹介や、学生モデルが考案したコーディネートを掲載する雑誌を発行されていますが、そのクオリティの高さに驚きました。制作過程について、詳しく教えていただけますか?

寺田さん:KASANEOの雑誌は、デザインも含め、全て学生が手掛けています。

江崎さん:これまでの誌面は、Microsoft PowerPointを使って作成してきましたが、最新刊である5冊目は、より本格的なデザインソフトであるAdobe InDesignを使って作成しています。さらに、今年はAdobe Illustratorにも挑戦しようとしており、学生たちのデザインスキル向上につながっていると感じます。

KASANEOは毎年メンバーが入れ替わるため、毎年得意とするスキルや技術も年々変化していますが、この雑誌制作は、学生たちのデザインスキルやクリエイティビティを磨く貴重な機会として今後も続いていくのではないでしょうか。

現在はデジタルデザインツールに興味を持っている学生が中心となって取り組んでいますが、今後の活動は、新たに加わるメンバーの興味やスキルによって多岐に渡るだろうと思っています。これからも、さまざまな方向でプロジェクトが展開されることを期待しています。

――「KASANEO」ではファッションショーも開催されていますが、どのような形で開催されているのでしょうか?

寺田さん:ファッションショーは、年に5回ほど、学内や地域の行事やイベントなど、様々な場所で開催しています。

ショーにおいても、企画から準備、当日の運営まで、全て学生が担当しています。高齢者の方々にも、衣装選びや音楽の選定など積極的に意見をうかがい、一緒にステージを作り上げます。当日は、司会進行を務めたり、実際に高齢者の方々から譲り受けた衣服をモデルにしたコーディネートでランウェイを歩いたりしています。

――地域の方々との交流は、どのように行われていますか?

寺田さん:地域の方々は、私たちの活動をとても温かく見守ってくださっていると感じます。私たちも、例えばショーの開催場所の許可をいただく際などは必ず企画書を作成し、丁寧に説明するよう心がけています。

皆さんが「応援しています」と励ましてくださったり、「プロジェクトが良い方向に進むなら力になりたい」と言ってくださったりして、地域の方々からのサポートのおかげで良い活動ができていると感じています。

KASANEOで深まるスキルや人間関係

――寺田さんと小田さんがKASANEOに所属した理由を教えてください。

寺田さん:私が参加した理由は、大きく2つあります。1つ目は、新入生歓迎会で先輩方が制作した雑誌を見て、学生自身の手によるクリエイティブなものに強く惹かれました。昔から雑誌を読むことが好きだったので、「自分もこんな雑誌を作ってみたい」という気持ちが生まれ、参加を決めました。

最近の雑誌はスマホなどで手軽に読めるようになりましたが、紙媒体の雑誌には、ページをめくる楽しさや紙ならではの質感、視覚的な情報があると感じています。KASANEOの雑誌制作を通して、紙媒体の魅力を改めて実感しました。

もう1つの理由は、KASANEOの特徴とも言える、多世代の方々との交流ができる点です。学内の小さなコミュニティだけでなく、高齢者の方々をはじめとする多様な世代の方々と交流することで自分の視野が広がるのではないかと考え、参加しました。

小田竜義さん(学生):私は、2回生からKASANEOに参加しています。参加したきっかけは、友人であり、KASANEOのメンバーでもある、中村くんの存在でした。

彼は当時、KASANEOで唯一の男子学生として1年以上活動を続けていました。そんな彼の話を通して私もKASANEOの人間関係や雰囲気の良さを感じていましたし、何より中村くんは非常に面白い友人なんです。そんな彼が楽しそうに活動している姿を見て、私も参加してみようと思うようになりました。

また、「大学生活の間に何かを成し遂げたい」という思いもありました。熱中できる何かを探していた私にとっては、KASANEOがそのきっかけとなったと感じています。

――実際にKASANEOに所属して、現在はどのように感じられていますか?

小田さん:KASANEOに入ったことは、間違いなく大正解でした。学内にはKASANEOの他にも多くのプロジェクトがありますが、KASANEOは客観的に見てもトップクラスのプロジェクトだと自負しています。メンバーになってからは忙しい日々を送っていますが、その分充実していますね。

また、人間関係の面でも良い影響を受けています。以前は先輩との関わりが少なく、特に異性の先輩にはどう接すれば良いのかわからなかったのですが、先輩たちはとても気軽に接してくれますし、活動後には一緒に食事に行くこともあります。温かい雰囲気作りが上手な先輩方のおかげで、私も楽しく活動に参加できるようになりました。

加入当初はプロジェクトについてよく理解できていませんでしたが、いつも優しく接してくれる先輩たちとの交流を深める中で活動への参加意欲が高まったからこそ、今も続けられていると感じています。

ファッションを通じて生まれる新たなつながり

――KASANEOでは、高齢者から想い出とともに譲り受けた昔の衣服をメンバーの私服や小物と合わせてコーディネートされていて、個性的なファッションも多いですね。昔の衣服にはどのような印象を持っていますか?

寺田さん:昔の衣服はどれも個性豊かで、特に肩パットのアイテムは全員が必ず話題にしますね。がっしりとした印象を与えますが、着てみると意外と現代のファッションにも合うような、可愛らしいものが多くて驚きます。

服を提供してくださる高齢者の方々からは、服の年代も教えていただいています。例えば1960年代の服は生地がしっかりしたものが多く、今でも十分に着ることができるくらい状態が良いんです。流行は20年周期だと言われていますし、これらの服は、現代のファッションにも違和感なく受け入れられるのではないかと感じています。

さらに、衣服にまつわる想い出話を聞きながらコーディネートすると、普段のファッションとはまた違った楽しみ方ができて、非常に新鮮な気持ちにもなりますね。

――他の世代の方々との交流を通じて、世界はどのように広がりましたか?

寺田さん:高齢者の方々との交流を通じて、昔の服の話はもちろん、過去にどのような生活を送っていたのかといった個人的な話を聞かせていただく機会も増えたことで、世界が広がったと感じています。

最近では、無地のハンカチに自分で柄をつけるワークショップを新たに始めました。このワークショップには、子どもや保護者の方々も参加してくださっていて、さらに幅広い世代の方々と交流できるようになりました。小学生というと、私たちと10歳程度しか離れていないにもかかわらず流行っているものは全く違ったりして、世代間の価値観や環境の違いを知ることは非常に興味深いですね。

ほかにも、高齢者の方と一緒にスナップ写真を撮る機会があるのですが、いつも杖をついていらっしゃる高齢者の方から「昔は陸上部で全力で走っていたんだ」という昔話を聞き、驚いたことも思い出深いです。過去の意外なお話を聞けることも多く、人との出会いから得られる発見や喜びは本当に大きいと感じています。

――多世代交流の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

寺田さん:衣類を提供していただく際、そのアイテムにまつわる想い出を語っていただくのですが、最近、とあるハーモニカ奏者の方から、本当に忘れられない話をうかがいました。

その方は90歳近くにもなる現役のハーモニカ奏者の方で、戦争中の疎開の際、お父様が「最後になるかもしれない」と言ってハーモニカを吹いてくれたことが忘れられず、今も演奏を続けているそうです。教科書で読んだ戦争のお話とは違い、実際に体験された方から直接話を聞くことができ、その時の気持ちがひしひしと感じられたことは本当に印象深く、貴重な体験でした。

小田さん:KASANEOには学生だけでなく、活動を応援してくださる幅広い年齢の「シニアメンバー」と呼ばれる方々も在籍しています。シニアメンバーの方々は、イベントでは私たちと一緒になって手伝ってくださったり、雑誌の取材や撮影に同行してくださったりと、一緒に活動してくれているんです。

月に一度は、シニアメンバーも交えてミーティングを実施しており、そこではテーマを決めて話し合う時間を設けており、1つのテーマに沿って交流しています。

先日、「10代から20代の頃の推し」というテーマで話した際、シニアメンバーの方々が松田聖子さんのようなレジェンドを挙げてくださるなど、世代を超えた共通の話題で盛り上がりました。自分とは全く違う世代の人と、こんなに共通の話題で話せることに驚くとともに、距離が縮まった感覚があって嬉しかったですね。

江崎さん:私たちに衣服を提供して下さる方々は、90歳近い方から私と同世代の40代の方まで、本当に幅広い世代の方々です。中には、20代の頃に着用されていたというミニスカートのワンピースを提供してくださるような、とてもアクティブなシニアの方もいらっしゃいます。現役で働いていた頃の勝負服や、学校教員時代の思い出の品など、貴重な品々をいただくこともあるのです。

そのような中で、学生たちは、自分たちと年齢の離れた大人に対してどこか構えてしまうような場面もあります。しかし、パーソナルな面も見える交流を通して、大人だって私たちと同じようにアイドルを追いかけたり、好きなことを熱く語ったりする一面があることを知り、互いの距離が縮まったと感じられているようです。

KASANEOで培ったスキルが導く新たな挑戦

――「今後はこんな雑誌を作りたい」など、目標や展望はありますか?

寺田さん:直近で言うと、今年は私たちが中心となって雑誌作りを進めています。源氏物語や紫式部を一つのテーマとして、先日は宇治市源氏物語ミュージアムの方にご協力いただき、撮影を行いました。

小田さん:誌面には、学生とシニアメンバーが対談する「シニアページ」というコーナーを設けています。想い出の衣服をきっかけに、それぞれの年代の思い出話やパーソナルな部分を語り合う座談会形式のページも組み込みたいと考えています。

江崎さん:今回の雑誌では、学生だけでなく、シニアメンバーの方々にも積極的にモデルになっていただいています。

寺田さん:より多くのシニアメンバーの姿を雑誌に載せることで、KASANEOらしい多世代交流の様子を発信したいです。11月頃には完成し、お披露目できればと思っています。

江崎さん:宇治市源氏物語ミュージアムでの撮影についてお話がありましたが、ちょうど今年はNHKの大河ドラマで紫式部が取り上げられていることもあり、宇治は「紫式部ゆかりのまち」として注目されています。この地域では、源氏物語や紫式部が観光の大きなテーマとなっているのです。

そこで、今回の雑誌では、源氏物語の世界観を意識した撮影場所を選定しています。宇治市源氏物語ミュージアムや宇治上神社周辺など、紫式部ゆかりの地で撮影を行い、「紫式部のまち」というテーマを意識した企画を考えています。

――大学卒業後の進路については、すでに考えていらっしゃいますか?

寺田さん:まだ具体的には決まっていませんが、雑誌を作りたいという思いで現在もKASANEOの活動を続けているので、デザイン関連の企業で働きたいと思っています。ただ、本格的な就職活動はこれからですね。

小田さん:私は、不動産業界や営業職に興味を持っています。KASANEOの活動を通じて、人と人との関わりがいかに大切か、そして成長につながるのかを学んだ影響が非常に大きいですね。

例えばイベントの司会を務める先輩の姿を見て、自分も人前で堂々と話せるようになりたいという思いが一層強くなりました。人や会社を繋ぐような仕事を通じて、社会に貢献したいと考えています。