首都圏への人口集中と地方の過疎化は、日本社会が抱える大きな課題です。その解決策の一つとして近年注目を集めているのが「地方移住」ですが、「仕事はどうなる?」「子育て環境は大丈夫?」といった不安から、なかなか一歩を踏み出せない方も少なくありません。
そんな中、栃木市移住定住支援コーディネーターとして活躍されている青山直人さんは、自身の移住経験に基づき、地方移住の利点と課題の両方を見つめながら、精力的に活動を続けています。
現在、青山さんは自身の出身地である栃木市に東京からUターン移住して暮らしていますが、勤務先はそれまでと変わらず東京の企業のままです。その状況で栃木市の移住支援活動にも携わっています。移住者の視点を持ちながら、仕事、住まい、子育てなど、移住に関するさまざまな疑問に応え、多岐にわたる支援やネットワークづくりに取り組んでいます。
本インタビューでは、青山さんの移住のきっかけや、栃木市での暮らしを通して得られた発見、そして地域の人々との繋がりがもたらす豊かさについて掘り下げます。さらに、具体的な移住支援策や、移住における仕事の課題解決に向けた新しい取り組みのアイデアについてもご紹介します。

「都会から地元へ」栃木市へのUターン移住を決意した背景
私は地元である栃木市に戻り、栃木市移住定住支援コーディネーターして活動しています。また、現在も東京都の企業に所属し、主にテレワークで仕事を続けています。
移住前は埼玉県草加市に住み、東京の豊洲にある職場へ毎日通勤していました。草加市から豊洲までは地下鉄を乗り継いで1時間以上かかるため、日々の通勤による負担は大きかったですね。現在は栃木市に住みながらも、以前と変わらず同じ仕事を続けています。
移住を考えた一番のきっかけは、両親が元気なうちに地元に戻りたいという強い思いがあったことが挙げられます。将来的な介護の必要性や、いずれは実家がなくなってしまう可能性について考えた時、早めに移住を決めて地元に戻っておくことで、何かできることがあるのではないかと思い、移住を決意しました。現在の住まいは実家から車で20分ほどの距離にあり、移住後も安心感があります。
実際に栃木市に戻る前は、もちろん不安もありました。かつての私は、栃木市は郊外であるが故に仕事が少ないという印象を持っており、都会への憧れから東京都に出た経緯があったためです。
しかし、それから数年が経ち、移住を検討していた頃、都内ではちょうど地方移住や地方創生をテーマにしたイベントが数多く開かれていました。それらに参加したことで、栃木県内で活躍する多くの方々と出会う機会に恵まれ、その交流を通じて、栃木市が非常に魅力的な地域であることに気付くことができました。
実際に栃木市に戻ってみると、元々住んでいた地域でありながら、まだまだ私の知らなかった素晴らしいところがたくさんあることに驚きました。地元を再発見している気分です。イベントで出会った方々に会いに行けることも含め、移住したことで喜びや楽しみが増えました。
移住しやすい条件が揃っていた栃木市

移住前に抱えていた大きな不安の一つは、子育て環境でした。
例えば、幼稚園や保育園などの受入状況はどうなのか、子どもが遊べる場所はあるのか、地域の人々との関わりはどの程度あるのかといった点は気がかりでした。私自身が地方出身であることもあり、地域での繋がりについては懸念もあったのです。
しかし、このような不安は、移住に関するイベントや相談の場でさまざまな方々とお話ししているうちに、徐々に解消されていきました。特に、栃木市を拠点に新たなことに挑戦している人々との出会いは、私にとって大きな力になりました。
例えば、空き店舗を利用して新しいお店を開いている方々と話していると、エネルギーをもらえますし、応援したい気持ちが湧き上がってきます。そして、「自分も何かできるかもしれない」と前向きに考えられるようになりました。
また、栃木県には移住希望者向けのコミュニティや相談会などが用意されており、私も栃木県と地元のNPO団体が共同で開催していたイベントなどに参加させていただきました。
その関わりの中で、栃木市の隣に位置する小山市の移住ツアーに参加し、駅近の室内型キッズランドや公園など、子どもが遊べる施設を見学する機会もありました。
私が栃木市への移住を決意した最大の理由は、費用面や環境面のメリットです。現実的な話として、都会では高い生活費が必要ですが、栃木市であれば広い一軒家を建てて暮らしていくことができ、子どもがのびのびと成長できる環境が整っています。これらの点から、「栃木市で十分に生活していける」と思えたことが、移住を決めた最大のポイントです。
充実した移住支援

私は現在、栃木市移住定住支援コーディネーターとして、多岐にわたる活動をしています。2021年4月からこの役割を担っており、今年で4年目になりますが、活動開始当初はコロナ禍の影響もあり、相談件数が大幅に増加していました。特に1年目から2年目にかけて顕著に伸び、3年目以降は横ばいからやや増加傾向にあると感じています。
主な業務としては、栃木市への移住に関心を持つ方々への相談対応があります。メールや電話での相談窓口を担当するほか、着任後にはLINEを活用した相談体制も整えました。このように、相談のハードルを下げるための取り組みを進めています。
また、栃木市についてまだよく知らない方々に向けて、市の魅力を伝える活動も行っています。例えば、移住希望者向けのイベントや、実際に移住してきた方の体験談を聞けるイベントなどを運営しています。さらに、SNSを活用した情報発信に加え、今年4月に開設した栃木市の移住専用ウェブサイトの運営も担当しています。
実際の相談対応を通して感じるのは、移住を決断される方は非常に決断力と行動力に溢れているということです。
たとえば、栃木市には2箇所の移住体験施設があり、移住希望者の方が1週間程度滞在し、実際の暮らしを体験できる仕組みがあります。この施設を利用された方の中には、滞在中に土地を見ただけで「ここに住む」と即決された方もいました。もともと移住への強い意志を持っていたのかもしれませんが、こうした行動力と強い思いは、移住を実現する方々に共通する特徴です。
栃木市には、移住を迷っている方もさまざまなサポートを受けられる環境が整っています。少しでも皆様の検討の手助けや後押しができていれば幸いです。
栃木市に移住することの魅力と課題

実際に移住を検討する際、多くの方が心配されるのは、住まい、仕事、そして子育てといった点ではないでしょうか。
栃木市では、それぞれの希望に応じた手厚いサポートを提供しています。特に住まいについては、「空き家バンク」という制度が充実しており、その成約率は全国トップクラスで、空き家を探している方へのフォローがスムーズです。
不動産業者と行政の連携が密に行われているため、栃木市の「空き家バンク」制度は、移住希望者が「空き家バンク」に掲載されている物件について相談すると、地元の不動産業者を直接紹介できる仕組みになっています。このような体制のおかげで、物件のマッチングが円滑に進み、高い成約率に繋がっています。
一方で、課題として認識しているのは「仕事」の面です。もちろん、ハローワークなどを通じた仕事探しのサポートも行っているものの、都会から地方に移住した場合、どうしても給与水準が下がるケースも少なくありません。その結果、なかなか希望に合う仕事が見つからず、移住を断念される方がいらっしゃるのも現状です。このような状況は、栃木市が移住先として選ばれない理由の一つにもなり得る課題ではないかと感じています。
しかし、栃木市は東京都へのアクセスが良く、電車で通勤できる距離に位置しています。実際、私自身も東京の企業に在籍したまま栃木市で暮らし始めました。勤務形態や会社との調整が必要ではありますが、転職せずに今の仕事を続けるという選択肢も十分に可能です。こうした形で栃木市への移住を検討していただければ、転職による負担を軽減しながら新しい生活を始められるのではないかと思います。
さらに、栃木市には東京都通勤者支援補助金という補助制度もあります。月額1万円まで補助されるこの制度は、通勤者の負担の軽減を目的に設けられたものです。このようなサポートも活用することで、移住後の生活がより快適になるのではないでしょうか。
住まい、仕事、子育てに関する課題や不安に対し、栃木市は多方面からサポート体制を整えています。ぜひ、栃木市も移住の候補地として前向きに検討していただければ幸いです。
地域との繋がりを大切に 栃木市への移住で意識が変化
私は現在、移住定住支援コーディネーターとしての活動と、移住前から勤務していた企業でのテレワークを並行して行っています。正直なところ、この生活では多忙だと感じることもありますが、やりがいを持って取り組んでいます。
東京都でこれまで通りの仕事を続けながら、移住定住支援コーディネーターとして活動する中で、移住を検討する方々に的確な情報を伝えるためには、地元の状況や特徴を深く理解することが不可欠です。
そのため、栃木市について深く知る必要があり、市内各所や周辺地域を訪れる機会が増え、日々異なるスケジュールで各地を回ることもしばしばです。このような生活ではセルフマネジメントが課題ですが、地元で精力的に活動する方々との交流から刺激を受け、「自分も何か貢献したい」という気持ちで、楽しみながら活動しています。
一方で、時間が足りないと感じることも少なくありません。移住を検討する方には、「田舎でゆったり暮らす」というイメージを抱いている方も多いですが、実際は都心とは異なる忙しさがあります。特に地域の人間関係やコミュニケーションが重要となるため、「人と関わることが好きな方でなければギャップを感じるかもしれません」とお伝えすることもありますね。
私自身、上の子どもは小学生、下の子どもは幼稚園に通い、妻は幼稚園のPTA役員を務めています。大変なこともありますが、その役割を通じて地域との繋がりが生まれ、多くの情報やサポートを得られるようになりました。
大変さもあるものの、地域と関わることで私たちの生活は豊かになっています。
また、移住前の生活との大きな違いは、住む地域への意識が格段に高まったことです。以前は、自分がどこに住んでいても特に地域との関係を意識することはありませんでした。しかし、今では「住んでいるからこそ地域のために何かしたい」「それが自分や家族のためにもなる」と考えるようになりました。
これは栃木市に移住したからなのか、子どもが生まれたからなのか、家族を持ったからなのか、明確なきっかけは分かりません。しかし、移住後は地域に目を向ける機会が格段に増えたことは間違いありませんね。
また、市内では、空き家や空き店舗等が目立ち、少子高齢化が進展しています。このような現状を目の当たりにして、「このままではいけない」「自分に何かできることはないだろうか」と考えるようになりました。
移住をきっかけに、地域との関わりや自身の役割について深く考える日々を送っています。
人が繋がり、新たな挑戦が生まれる栃木市の魅力

移住を検討されている方々を支援する中で感じていることですが、都会から栃木市への移住の大きな壁となっているのは、先ほど申し上げた通り、やはり「仕事」面です。そのため、今後は地元企業と東京の大手企業をつなぐ仕組みを作ったり、移住者が働きやすい環境を整備したりと、私自身も何かできることはないか、具体策を考えているところです。
私自身、東京の企業に勤めながら栃木市で暮らしている経験を活かし、地元と都会を結ぶパイプ役として力を尽くしたいと思っています。自身のネットワークや特技を活用し、移住希望者が地方で生活を続けられる仕事や働き方に結びつける活動を進めたいです。
最近では、地域の経営者の方々と話す機会も増え、求人の難しさや具体的な課題について伺うことも多くなりました。これらの声を受け止めながら、少しでも皆さまの課題解決に寄与できるよう努めていきたいと思っています。
栃木市の大きな魅力の一つは、活動的な市民が多いことです。老若男女問わず、市民活動が非常に盛んで、他の地域と比べても多種多様な組織やグループが存在します。この環境は、移住者が地域活動に参加することで、新しい繋がりや充実した生活を築くきっかけを与えてくれるはずです。
私自身も、栃木市に移住してから、趣味や地域活動に取り組む方々と出会う機会が増えました。そうした出会いを通じて、「自分も何かやってみたい」と思えたり、既存の団体に参加して一緒に活動したりと、積極的に関わる楽しさを実感しています。この点こそ、栃木市の最大の魅力だと感じています。
ぜひ一度、栃木市を訪れてみてください。実際に足を運ぶことで、この地域が持つ可能性や魅力を感じていただけるはずです。