久留米大学_久留米大学生が育む「藍」の可能性 地域、伝統、未来をつなぐ「藍プロジェクト」とは

久留米大学には、地域の伝統工芸「久留米絣(かすり)」の課題に向き合い、未来への可能性を探る学生たちがいます。「藍プロジェクト」に参加する彼らは、藍染め体験や工房訪問を通じて絣の魅力や地域の良さを学び、次世代にその魅力をつなごうと取り組んでいます。

「藍プロジェクト」の学生たちは、藍草の研究や地元企業との商品開発など、さまざまな挑戦を通じて新しいアイデアを生み出しています。そうした活動からは、学生自身の成長と地元への思いが重なり合い、伝統をどう受け継ぎ、どんな未来を描くのかが見えてきます。

「まだまだ知られていない魅力がたくさんある」と語る学生たちが、久留米絣、久留米藍をどのように次世代に伝えていくのか。久留米絣の魅力やこれからの未来について、この活動を担当する法学部国際政治学科の前田俊文教授と「藍プロジェクト」のメンバーの小池颯一朗さん、吉武大輝さん、竹下柊音さん、中村舜さん、池田帆佳さんにお話を伺いました。

前田俊文 先生
久留米大学 法学部国際政治学科 教授 博士(法学)

久留米大学法学部・教務委員長

経歴 

一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位修得後、三重短期大学法経科専任講師、久留米大学法学部国際政治学科専任講師、助教授を経て、2004年4月より現職。グラスゴウ大学客員研究員。

活動実績

専門は近代ヨーロッパ政治思想史研究で、スコットランド啓蒙における大陸自然法学の受容に関する研究では多数の研究業績・学会報告あり。アダム・スミスの法学講義(英語)やプーフェンドルフの義務論(ラテン語)の本邦初訳を行う。2015年から大学の地域連携活動や広報活動にも取り組み、久留米絣をテーマにした産学官連携の絣フェスタを企画・実施している。


若い力で久留米絣を盛り上げる

―― 藍プロジェクトのメンバーである学生の皆様は、いつからこの活動に参加されていますか?

小池颯一郎さん:私は現在2年生ですが、1年生の時から藍プロジェクトに参加しています。今日出席しているメンバーのほとんどは今年から参加しているので、これまでの経験を活かし、プロジェクトを引っ張っていけたらと思っています。

吉武大輝さん:私は今年3月に藍プロジェクトに初めて参加したばかりです。今後も、積極的に活動に取り組みたいと思っています。

竹下柊音さん:吉武さんと同じく、私も今年からプロジェクトに参加しています。これからも小池くんのリーダーシップの下、より一層頑張りたいと思っています。

中村舜さん:私も今年から参加しているので学ぶべきことが多いですが、久留米藍について深く知り、追求していきたいと思っています。

池田帆佳さん:私は最年長で、現在大学4年生です。1年生の時から藍プロジェクトに参加しており、3年生からはプロジェクトのリーダーを務めています。

前田俊文教授:池田さんは、藍プロジェクトの2期生です。これまでに取り組んできた、プロジェクトにおけるすべての部門に関わっています。活動について最も詳しいメンバーの一人ですね。

―― 今年、藍プロジェクトではどのような取り組みをされていますか?

池田さん:藍プロジェクトには、2つの大きな柱があります。1つは、徳島県でしか生産されていなかった藍を久留米で生産する取り組み。もう1つは、企業と連携して久留米絣を活用した新商品を開発することです。

今年は、小池さんたちが前者を担当しています。昨年までは藍草の植え付けのお手伝いが中心でしたが、今年は久留米藍を使った藍染めに注力しています。私は後者を担当し、ふるさと納税の返礼品としての商品開発に取り組んでいます。

―― 1つ目の藍染めに関する活動について、もう少し詳しく教えてください。

小池さん:今年は、久留米で育てた藍草を使った藍染めを体験しました。

3月頃に織元さんを訪問し、実際の藍染でハンカチやさらしがどのように染まるのかを試させていただいたんです。以前までの藍ではあまり上手く染まらなかったのですが、今年は非常に濃い色に染まり、良い成果を得ることができました。

―― 2つ目の商品開発では、具体的にどのような商品を考えられていますか?

池田さん:藍プロジェクトは、今年で5年目を迎えます。これまでも久留米の企業と協力し、若者向けのコラボ商品を開発してきました。

今年は「ふるさと納税返礼品」に焦点を当て、ターゲットを福岡県外や30代以上の方々に拡大しています。具体的には、久留米絣を使用した睡眠用の靴下をテーマに商品開発を進めています。

久留米の伝統と向き合う 藍プロジェクトに参加する学生たちの声

―― 学生の皆さんが藍プロジェクトに参加しようと思ったきっかけを教えてください。 

小池さん:私は、久留米出身ではありません。大学進学をきっかけにこの地域に来たので、初めは久留米絣についてはあまり知識がありませんでした。

大学入学後に久留米絣に出会い、興味を持ちましたが、座学だけでは学びきれない部分があると感じ、実際に絣を体験できるこのプロジェクトに参加しました。藍染めなどの実体験を通して、絣についてより深く学べていると感じます。

吉武さん:私は久留米出身ですが、久留米絣についてはメディアを通じて少し知っている程度でした。プロジェクトに参加してからは、地元の名産品である久留米絣について深く理解することができ、とても有意義な時間を過ごしています。

竹下さん:私も久留米出身ではありませんが、大学の講義を通じて久留米絣や久留米藍に興味を持ちました。もっと深く学びたいという思いから、このプロジェクトに参加しています。

中村さん:私も久留米出身ではありませんが、絣に関する講義を受けたことをきっかけに興味を持ちました。特に藍色という色が強く印象に残り、その原材料である藍についてもっと知りたいと思ったんです。実際の活動を通じて座学では得られない経験をしたいと思い、参加を決めました。

池田さん :私は、1年生の頃、大学の講義を通じてプロジェクト1期生の先輩方が取り組んでいる商品開発や藍染めの話を聞き、興味を持ちました。また、地域連携ができる点にも魅力を感じ、参加を決めました。

―― 実際の活動を通じて、久留米藍や久留米絣への印象は変わりましたか?

小池さん:大きく変わりましたね。授業で藍や絣の製作方法について学んでいたものの、実際に織元さんの作業を見学することで、「この工程にはこういう工夫が必要なんだ」というノウハウを直接教えていただくことができました。

授業では知り得なかった多くのことを学び、現場での経験の大切さを実感しました。

吉武さん:私にとっても、このプロジェクトで初めて織元さんを訪問したことは貴重な体験でした。各作品に込められた職人さんの思いを感じ取ることができ、作品作りへの情熱に感銘を受けました。

竹下さん:大学の講義で説明を受けたときには簡単そうに思えた作業も、実際に藍染めを体験してみると、細かい工夫や手間がたくさんあることに気がつきました。職人の方々のこだわりを強く感じましたし、藍染め体験の際にゴム手袋が破れて手が青く染まってしまったのも、今では良い思い出です。

中村さん:私は藍染め体験には参加できませんでしたが、織元さんの藍染め作業を見学し、その複雑さと大変さに驚きました。映像では伝わらない細かさがあり、職人の方々の手仕事に込められた思いを肌で感じることができるなど、非常に貴重な経験をさせてもらっています。

池田さん:職人の方々の技術力には、本当に驚かされました。染め具合を直感で判断する姿はまさにプロフェッショナルだと感じましたね。一方で、作業の難しさや職人の高齢化といった、現場でしかわからない課題にも気づかされました。

伝統工芸に触れて学生が実感した、久留米絣の奥深さ

―― 藍プロジェクトでの体験を通じて、どのような学びを得られましたか?

小池さん:今年の織元さんの訪問では、それぞれの織元さんが持つ独自のこだわりを直接聞くことができ、同じ絣でも異なる魅力があることを知りました。

藍染め体験では、久留米産の藍を用いて自分たちで染める工程を学んだだけでなく、普段は入れない作業場で作業ができたことも、非常に貴重な経験でした。

吉武さん:私は今回の活動で、初めて藍染めを体験しました。私たちはハンカチやさらしを5回ほど染めましたが、職人さんはこれを50回も繰り返します。プロの仕事の凄さを改めて実感し、プロとしての技術やこだわりの深さに感動しました。

竹下さん :藍染めでは、藍に手を浸して何度も染める作業を行いました。膝をついての作業や、酸素に触れさせるために布を叩く工程は、映像ではわからない大変さがありました。実際に体験してその苦労を知ることで、とても良い経験になりました。

中村さん :織元さんの作業を直接見学させていただき、藍染めの工程がいかに大変かを目の当たりにしました。丁寧に進められる一つひとつの工程に、高度な技術が必要だと感じました。

また、そうした伝統技術を継承していく難しさも実感しました。織元さんのこだわりを直接知ることができ、とても貴重な体験をさせていただいています。

池田さん:4年間の活動を通じて、この藍プロジェクトの活動がまさにサービスラーニングだと感じています。

私自身、藍プロジェクトの活動を通じて職人さんの技術を間近で見たことで、機械では難しい仕上がりを生み出す職人技の凄さを実感しました。

また、学生として微力ながら広報や若者の視点を提供できた点で貢献できたのではないかと思っています。こうしてお互いにとって利益のある交流や、地域連携活動で得られた学びは、私にとって大学生活の中でも特に大きなものです。

私は来年から学校の教員になりますが、この地域連携の魅力やつながりの大切さを子どもたちにも伝えていきたいと思っています。

―― 織元の方々との交流を通じて、印象的なエピソードがあれば教えてください。

小池さん :久留米絣の現場には、高齢化や後継者不足の課題があります。地域の若者が少ない中、外国から興味を持って体験に来る方がいると聞いて驚きました。私たちには織元さんの技術はありませんが、久留米絣や藍の魅力を広める役割を果たせればと思っています。

吉武さん:大学の講義でも後継者不足について学ぶ機会はありますが、藍プロジェクトでの活動を通じて、私も友人たちに久留米絣の魅力を広めていければと考えています。

竹下さん:大学の講義を通じて、久留米絣が衰退している産業の一つだと知りました。その後、織元さんを訪問した際、私たちの訪問を喜んでいただけたことはとても印象的でしたね。

中村さん:久留米絣は重要無形文化財ですが、産業としては衰退が進んでいます。私たちが織元さんを訪問することで喜んではいただけたのですが、若者が情報を発信する意義の大きさも実感しています。今後は、全国の人々にも久留米絣の魅力を広められるよう、PR活動にももっと力を入れたいと思っています。

池田さん:毎年3月には全国から絣ファンが集まるイベントが開催されますが、参加者の多くは高齢者の方々で、職人さんもお客様も高齢化している現状を実感します。私たちが訪問するといつも温かく迎えてくださり、絣の魅力やこだわりを熱心に教えてくださる姿が印象に残っています。

地域の魅力を全国へ 藍プロジェクトが描く久留米絣の拡散戦略

―― 久留米絣がさらに全国に広まりそうな秘策はありませんか?ユニークな発想も含め、何かアイデアがあれば教えてください。

小池さん:現代では、SNSを使った戦略に大きな効果があると思います。ただ、単に発信するだけでは難しく、いかに若者に興味を持ってもらうかが大切ではないでしょうか。

大学で授業を通じて若者に伝える方法もありますし、社会人向けにイベントを開催するのもいいと思います。また、西鉄バスにラッピング広告を出すことで、普段から多くの人の目に留まるような仕掛けも面白いかもしれません。

吉武さん:SNSも重要ですが、紙媒体を活用することもまだまだ有効だと思います。例えば、大学内で「久留米絣とは何か」を紹介するチラシを配ることで、学生が直接触れる機会を増やし、広めていくことができるのではないかと感じます。

竹下さん :若者に人気のブランドとコラボして、絣を使ったアイテムを開発するのも面白いと思います。例えば藍染めのTシャツやデニムなど、少し大胆なアプローチで「これって何だろう?」と興味を持ってもらえるようにすれば、久留米絣への関心が広がるのではないでしょうか。

中村さん:3月の活動では、小学生から久留米絣のコースターをもらいました。こういった小物を、久留米のオシャレなカフェや飲み屋街などの若者が集まる場所で使ってもらうと、自然と目に留まりやすくなるのではないかと思います。

池田さん:若者が絣を嫌いというわけではなく、知らないだけなのではないかと思います。だからこそ、特に地元の小中学生が藍草の栽培から収穫、加工までを課外活動で体験する機会を作ると良いかもしれません。また、絣を使ったアクセサリー作りのキットを授業に取り入れるなど、地元に根ざした活動が効果的だと思います。

久留米藍の知名度を一層高めるためには行政からの積極的な支援もあれば、さらに良いのではないでしょうか。

前田教授:藍には医学的な効果もあると言われており、その点を活かした商品開発も有効ではないでしょうか。たとえば、以前、藍の抗菌作用や抗ウイルス効果を活かして看護師さん用の制服を作ったことがあります。藍染めを使ったジーンズが蛇避け効果を持つとも言われていますよね。こうした特色を商品化すれば、知名度向上につながるのではないでしょうか。

また、今年池田さんたちが取り組んでいるふるさと納税の返礼品開発のテーマは「安眠」です。絣にはリラックス効果やヒーリング効果があるとされていて、医学部の先生方がその実験を行っています。その効果が実証されれば、寝具などにも応用できる可能性がありますね。

地域に根ざした未来を描く—藍プロジェクトから見える学生たちの将来

―― 学生の皆さんが目指す、将来の職業や目標について教えてください。

小池さん:まだ具体的な職業は決まっていないので、これからじっくり見つけていきたいです。大まかな希望ではありますが、人と関わることのできる職業を目指したいですね。

吉武さん:地元である久留米で、公務員を目指したいと考えています。一方で、私の両親が農家をしているので、その方面も視野に入れて考えています。

竹下さん:私も地元に戻り、市役所や県庁で公務員として働きたいと考えていますね。

中村さん:私もまだ将来の方向性が定まっておらず、正直少し焦っています。ただ、一人で黙々と進められる事務職よりも、人と関わる仕事に興味があります。たとえばPR活動のように、さまざまな人と関わりながら何かの魅力を伝えられる仕事も視野に入れて考えていきたいです。

池田さん:私は抱いていた夢が叶い、来春から学校の先生になります。就職活動中は、面接でも藍プロジェクトの話をたくさん伝えました。情報化が進む現代では、都会に憧れる子どもたちも多いですが、私自身がこのプロジェクトを通じて地元の魅力を再発見したように、子どもたちにも地域の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。

また、活動を通じて多くの人の前で話す経験を積むことができて、伝えることの大切さも学びました。この経験を活かして、「伝えること」を大切にできる教師になりたいです。

―― 最後に、前田教授が学生の皆さんの取り組みを通じて感じられていることや、今後の展望について教えてください。

前田教授:池田さんは、入学直後の1年生から藍の植え付け作業に積極的に参加してくれていました。その当時は藍草がうまく育つかどうかも不確かで、初めの2年間は試行錯誤の連続でしたね。ようやく収穫量が安定してきた頃には、次の課題として「どうすれば藍染で濃く染められるか」という技術的な問題が出てきました。

通常の藍であれば濃く染まるはずですが、久留米で育てた藍はなかなか思うように染まらず、技術の改良を重ねてきました。小池くんたちも話していたように、今年の藍染めではようやく期待通りの濃い染めができ、みんなで大いに喜びましたね。

藍染めが安定してきた今、さらに次のステップとして「どのような製品を作るか」が課題になっています。学生たちは現在、織元さんや業者の方と協力しながら新しい製品の開発に取り組んでおり、例えば手に取りやすいアクセサリーやイベントで販売するための製品など、さまざまなアイデアを実現しています。これらをイベントで販売しようという計画も進んでいて、活動の可能性は確実に広がっていると感じます。

池田さんは1年生の頃からイベントでMCを担当したり、積極的に活動に参加してくれました。その姿勢には、サービスラーニングの意義がしっかりと表れていると思います。学生たちにとって、これは単なるボランティア活動ではなく、自分自身も成長し、多くのことを学べる貴重な機会になっているのではないでしょうか。

これからも学生たちの成長と、彼らの活動がさらに進化していく姿を楽しみにしています。