二拠点生活を満喫しながら独自事業で空き家対策に貢献:栃木県那須町地域おこし協力隊_高山千恵さん

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2023年から栃木県那須町で地域おこし協力隊として活動している、さいたま市(旧浦和市)出身の高山千恵さん。もともとは東京でインテリアの仕事に10年以上携わっており、その仕事柄よく見聞きしていた地方の空き家問題にも関心を寄せていました。

そんな中、偶然出会った那須町地域おこし協力隊の求人内容は「空き家対策」。高山さんはすぐに応募し、採用となりました。そして、平日は那須町、週末はさいたま市の二拠点生活をスタート。

インテリアの仕事も続けつつ、協力隊員としては空き家バンクに載らない物件を紹介するウェブサイト「アキカツベース」や、人が集まるコミュニティスペースの運営など、那須町の人や他の協力隊員と関わりながら活動の幅を広げています。とても能動的に働き、生活する高山さんにお話を伺いました。

画像引用元:Map-It

空き家問題に関心。都市と地方の二拠点生活を開始

――さいたま市から那須町へ移住を決めたきっかけは何ですか。

私は生まれも育ちも浦和…今は合併してさいたま市ですが、たまたま那須町地域おこし協力隊の募集を見つけたことが、移住を考えるきっかけになりました。調べてみると、さいたま市から那須町までは車で2時間、新幹線なら大宮駅から1時間くらいだったので、ここなら二拠点で仕事ができると思ったんです。
もともと地方の空き家問題に関心があって、「空き家を使って何かできないか」と考えていたんですけど、協力隊の募集内容が空き家対策だったので、「近いし、やりたいことだし、最高じゃん」と思ってすぐに応募しました。

――空き家の活用はいつから関心があったんですか。

これまで東京で10年以上建築やインテリアの仕事に携わる中で、地方で増え続ける空き家の問題にも触れる機会が多くあり、関心を抱いていました。ただ、キャリアを始めたばかりの頃は、自分が地方で何をできるのかが分からず、まずは都会で経験を積むことを優先してきました。その後、35〜36歳でインテリアコーディネーターとして独立したことを機に、地方にも目を向けようと考え始めたタイミングで、那須町地域おこし協力隊の募集に出会ったんです。

――タイミングが良かったんですね。二拠点での仕事はいかがですか。

平日は那須町で地域おこし協力隊として活動し、週末は夫のいるさいたま市に戻って、インテリア業務の打ち合わせを行っています。さいたま市では、ハウスメーカーと業務委託契約を結んで仕事をしているんですけど、忙しいときは仕事をセーブしたり、状況に応じてインテリア業務を増やしたりと、バランスを取りながら両立させています。

那須フラワーワールド

空き家バンクに載らない物件に「アキカツベース」で光を当てる

――那須町地域おこし協力隊の活動はいかがですか。

協力隊1年目は会計年度任用職員として那須町に雇用されて働いていたんですけど、インテリアの仕事も並行して続けていきたくて、もっと柔軟に働けるようにしたいと町に相談しました。その結果、2年目から業務委託契約に切り替えて活動することになりました。
那須町での主な取り組みは、空き家バンクの整備や、1年目に開設した空き家相談窓口の業務です。これは、ふるさと定住課の事業として行っていて、私はその窓口で訪れる人の相談に対応したり、空き家バンクの利用を促したりすることを中心に活動しています。

――業務委託になってからは、活動内容は変わったんですか。

2年目も引き続き、空き家バンクの運営と相談窓口の活動に取り組んでいます。あと、1年目の終わりに立ち上げたウェブサイト「アキカツベース」の運営にも、本格的に着手しました。

――アキカツベースについて詳しく教えてください。

アキカツベースは、空き家バンクに登録できない物件を紹介する、独自に立ち上げたウェブサイトです。Instagramと連携して物件情報を掲載しています。興味を持ってくださった人と一緒に現地を内見して、所有者とのマッチングをサポートしています。

――空き家バンクに登録できない物件があるんですね。

那須町では、不動産業者を介さない物件の取り引きは、後々のトラブルに繋がるケースもあるので、原則として空き家バンクに載せられないんですよ。
じゃあ、不動産業者が取り扱わない物件は何かというと、物件に農地が付いていたり、築年数が極めて古かったりする物件、あるいは価格が極端に安くて市場での流通が見込めない物件などです。
こういった物件の所有者の方が相談窓口に来ても、「ごめんなさい、登録できません」の一言で終わってしまっていたんですよ。でも、これを掘り起こして流通させていかないと空き家が全然減らないので、その一助になればということでアキカツベースの運営を始めたんです。

空き家調査中

隙間産業で地域活性化

――これまで、どのような物件がアキカツベースでマッチングしたんですか。

相談窓口に「無償で譲りたい」と申し出があった空き家があったんですよ。農地もあわせて手放したいとのことだったんですけど、農地法が絡んできたり、物件を取得する人が農家として登録するための手続きが発生したりして煩雑になるので、空き家バンクで取り扱うのは難しいんですよね。そこで、アキカツベースでお預かりすることになって、私の方でPRをさせてもらったんです。
マッチングには半年ほどかかったんですけど、那須町のお菓子屋さんが関心を持ってくれて、話が進みました。その方は農業もやりたかったとのことで、農業委員会にも積極的に行ってくださったんです。その結果、無事に物件を取得されました。
実際、農地付きの物件を探している人は珍しくないんですよ。ただ、農地を取得するのは簡単ではないので、これまで足踏みしていた人が、アキカツベースに相談に来てくれることがあります。

――まさに隙間産業ですね。世の中に貢献できる事業で、素晴らしいですね。

そうですね。ただ、これ、全部無料でやっているので、協力隊卒業後にも続けられるかはわからないんですけどね。この活動のどこでお金を生み出せるのか、という難しさはあります。公共事業として、町から業務委託してもらえると一番いいんですけどね。

――成功事例が積み重なったら、もしかするかもしれませんね。

そうですね。他の事例としては、もともとは飲食店として使われていた物件で、オーナーさんから「次に使ってくれる人を探してほしい」とご相談を受けたものがあって。そのときはまだ那須町に空き店舗バンクがなかったので、アキカツベースで物件をお預かりして周知を進めたところ、シェアキッチンとしてうまくマッチングできました。
あと、那須町地域おこし協力隊の仲間から使いたいと申し出があってマッチングした物件もあります。その隊員は福岡のB級グルメを那須町バージョンとして広めたいと言っていて、そのお店をオープンする予定です。現在は賃貸借契約を結んだところで、まさにこれから動き始めようとしている段階です。

――すごいですね。どんな空き家にも需要があるんですね。

アキカツベースで紹介したほとんどの物件がマッチング済みで、現在取り扱っているのはごくわずかなんです。これまでの事例を振り返ると、やっていてよかったなって思いますね。

DIYしたゲストハウスで里山の魅力を発信

曲輪

――アキカツベースのHPを拝見したところ、ゲストハウスも作っていらっしゃるんですか。

そうなんです。たまたま良いご縁があって、空き家を借りられることになって。「曲輪(くるわ)」という名前を付けてその物件をDIYで改修しています。難しいところは大工さんに入ってもらっているんですけど、私たちが床の解体をしたり、クッションフロアやクロスを貼ったりしています。

――「私たち」ということは、手伝ってくれる人がいるんですか。

「一緒にゲストハウスやろうね」って言っている協力隊員がいまして。彼女は観光担当でインバウンド向けの発信をしているんですよ。なので、空き家と観光でタッグを組んで卒業後のことも考えながらやっています。
完成したらゲストハウス兼コミュニティスペースになる予定です。芦野エリアにあって、城下町としての歴史がありながら田園の雰囲気も味わえる場所なんですよ。でも、その辺りには宿がないので、曲輪ができたら色んな人に泊まってもらって、将来的には那須町への移住に繋がったらいいなあと思っています。実は那須町は移住者が多くて、人口の約半分が移住者とも言われているんですよ。地域全体としても移住者に対して寛容な雰囲気があるので移住しやすいんです。

曲輪を拠点に芦野エリアを盛り上げたくて、「あしのおと」というグループを那須町地域おこし協力隊の仲間たちと作りました。月に一度くらいのペースで敷地内の竹林と里山の整備やイベントをしているんですけど、地元の人と町外出身の人が集まって交流しています。そんな風に、曲輪に来る人たちが芦野をもっと好きになって、何度も足を運んでもらえるようなコミュニティスペースになったらなって。

――交流拠点を兼ねたゲストハウスはいいですね。宿泊業なら卒隊後の収入源にもなりますもんね。

そうですね。那須町の協力隊は任期中にビジネスを始めてはいけないので、私の任期が3年目に入ったら、モニター期間として無償で曲輪への宿泊を受け入れようと思っています。で、正式オープンに向けて、泊まってくれた人には「無償だけど代わりにSNSでPRしてね」と。

あしのおと

那須町での日々を満喫

竹林整備中

――那須町で約2年を過ごされて、生活には慣れましたか。

慣れました。実は10年以上ペーパードライバーだったので、那須町で活動するためにペーパードライバー講習に通いました。私の住んでいるエリアはインターチェンジやスーパーも近いので割と便利なんですけど、基本的に那須町の生活は車がなければ成り立たないんですよ。車の運転、最初はビビりましたね。

――東京で働いていると車に乗りませんもんね。気候的にはどうですか。涼しそうな印象があります。

私のエリアは平地なので、夏の日中はさいたま市と変わらない暑さですね。湿度が高くて、洗濯物が乾きにくかったり、一戸建てだと床下が腐ったりします。でも朝晩は涼しくて、少し肌寒く感じることもあります。冬は、雪が意外と少なくて、特別に寒いとも感じません。
同じ那須町でも、山のエリアはまた全然違いますけどね。私は、スリップが恐くて冬は山の方へ車で行けません。


――平地の気候は意外と関東平野と大差ないんですね。食べ物はどうですか。

食べ物はどれも美味しいですね。曲輪がある芦野エリアは米どころで、とにかくお米の味が格別なんですよ。それに、野菜も味わいが違いますね。さいたま市にいたころはあまり好んでいなかったトマトやきゅうりも、ここでは美味しく感じられるようになりました。道の駅で安く野菜が手に入るんですよ。今まで見たことが無い、よくわからない名前の野菜もたくさんあって。あと、水も良くて、水道水をそのまま飲んでも美味しいですし、空気も澄んでいてとても心地いいです。

――那須町での生活を満喫されていますね。

満喫してますね。温泉施設も多くて、よく温泉巡りをします。隣の白河市(福島県)もすぐなので、ドライブにも行きますね。自然に囲まれた暮らしを、一人でゆっくりと楽しんでいます。夫には「もう帰ってくんな」と言われます(笑)

こぢんまりとした宿の夢も

――那須町との二拠点生活が本当に合っているんですね。協力隊卒業後も含めて今後の展望を教えてください。

実は、宅地建物取引士(宅建士)の資格取得に何度も挑戦しているものの、民法の言い回しがどうしても苦手で、理解できないんですよね。今年も受験してだめだったら、諦めようと思っています。

協力隊を卒業した後は、物件をサブリースしたり、購入して賃貸に出したりしたいんですけど、そういった個人でやる業務に限れば、宅建士の資格はなくてもできるんですよ。ただ、将来的に事業を大きく展開するときには資格があると便利なので、その際は宅建の資格を既に持っている人と一緒に取り組めばいいかなと。

卒業まであと1年と少しなので、その間に物件の掘り起こしは頑張ってやっていこうと思っています。田舎の空き物件は、待っていてもなかなか出てこないので。

あと、個人でこぢんまりとした一棟貸しの宿もやりたいんです。曲輪は賑やかな交流拠点なので、それとは別に。

――すごい。たくさん取り組まれるんですね。

楽しいからこそできるんですよね。インテリアの仕事の方が、色んな制約があって辛いです。那須町ではお給料もいただきながら、楽しくやっています。

――楽しみながら行っていることが町のためになっているのは、何よりですね。素敵なお話をありがとうございました。

芦野コメ市
関連リンク

アキカツベース  :高山さん運営。空き家バンクに掲載できない空き家のマッチングサポート。
那須町空き家バンク:那須町が運営する空き家バンク
曲輪(くるわ)   :高山さんたちが空き家をDIY中。ゲストハウスとコミュニティスペース。
あしのおと    :那須町地域おこし協力隊の有志グループ。芦野エリアを地元の方と盛り上げる。
ゆうゆうジテキなす暮らし:那須町の移住・定住サイト。
那須町観光ガイド :那須町観光協会による観光案内。