IVRy創業者の実体験が生んだ革新:AIが電話対応を変える

 IVRy(以下、アイブリー)は、2019年3月に設立された。特異なビジネスモデルを展開する、スタートアップ企業である。主軸商品:IVR(自動音声応答システム)の導入企業の営業開拓を担うCOOの片岡慎也氏は、「人手不足の企業、とりわけ中小企業の電話応対に悩まされる“負”を払拭する事業です」と説明し強調する。8月末で導入累計のアカウントは1万5000以上。日本の中小企業数は99業種(500万社以上)とされるが、既に全都道府県:88業種の☎に悩まされる企業に導入が進んでいる。具体的な機能の詳細は後述するが、ビジネスへの注力は創業者である代表取締役CEO:奥西亮賀氏の実体験がそもそもの入り口だった。

申し込んでいた銀行融資を、逃してしまった

 奥西氏の原体験を片岡COOはこう語っている。

「起業当初、会社の代表電話番号を奥西の携帯電話の番号にしていたんです。かかってくる電話は、殆ど営業の電話。いちいち電話に出ることはない、と電話をとらずにいたんです。実は奥西は当時、融資の話を進めている最中でした。とらなくても大丈夫だろう”とスルーしてしまった電話の中に、銀行から本人確認のものがあったんです。融資話は立ち消えになってしまいました。今後、命取りになる場合がないとは言い切れない。電話ってすごく大事だなと痛感したそうです。ですが実際問題として重要な電話は、全体の1割程度。この課題をクリアする為のサービスを創れないかというのが、いまのアイブリーを起ち上げた契機だったのです。

件の融資失敗もありますが、こう思い立ったのも“いける!”と確信した理由でした。街のラーメン屋さんなどは電話に困っていることが多いです。一生懸命に美味しいラーメンを作っている最中に着信があると、目の前の作業に集中することができない。店にとっても客にとっても芳しくない。そういうお店の経営者向けになればと思い、サービスの開発を進めてきました」

 私もラーメン好きでは人後に落ちない。しばしば通う好みのラーメン屋で、こんなシーンを目にする。鳴り続ける電話に親父さんが「切っておけ」と怒鳴る。スタッフが切る。がその限りでは奥西氏の様に、「融資停止」の憂き目に会いかねない。AIが人の代わりに電話対応ができれば、確かに有効な物となる。

アイブリーが備えている機能

 当初1名のエンジニアにより始まった機能開発も、今では20人体制で進められている。アイブリーを取材した9月初旬時点では、主として以下の様な機能の活用が可能な状況にある。

◆新規の電話番号の取得が、050なら最短5分で可能(フリーダイヤル・市外局番は数営業日)。

◆自由な音声ガイダンス。事業内容に合ったAIによる自動読み上げテキストが自由に作成でき、録音した音声データを使うことも可能。

◆受電通知。受電したらメールやLINE、Slackなどのチャットツールに通知を送る設定が可能。

◆着信フローの作成。電話主の要望に応じ、自動対応/担当者への取次を自由に設定することが可能。

◆取引業者だけを取りつなぎ、担当者に電話の転送が可能。

◆担当者が複数人の場合や、受付窓口が複数の際には転送先の複数指定が可能。電話の取りこぼしが防止できる。

◆留守電機能。設定画面で録音データを確認し、用件により効率的な対応ができる。

◆顧客管理。取引先の情報管理や受電履歴を確認できる⇔ホワイトリストの管理に有効。

◆ブラウザからの発信。電話の受発信を、PC/スマホのブラウザを活用し対応が可能。電話機がなくても顧客対応ができ、かつ対話がPC画面を操作しながらもできる。

◆受信履歴・メモ。顧客との過去の電話の遣り取りの履歴が一覧できる。スタッフ全員で情報管理や伝言を共有できる。

◆AI自動文字起こし・AI要約。録音された通話内容を自動で文字起こしできる。AIの活用で、文字起こしの内容の要約が可能。

◆AI電話。顧客との通話で、AIが認識・理解し電話対応をすることも可能。

アイブリーの強みと営業のいま

 事業拡大のヘッドを担う片岡COOに、「御社の認知度が広まった時期は」と問うた。「コロナのワクチン接種が広範に求められたことが、大きな転機になった」とした。「実施している」「予約ができる」病院情報が求められた。「病院側の人的負担が急増する中で、当社のアイブリーの機能が評価され導入が急増した」とした上で、営業の現状をこう語った。

「最低限の機能で手軽に電話自動応対を実現するプラン、先にも申し上げた通り人手不足に伴う負の負担を実現する基本商品の訴求をベースにしている。具体的には“電話分岐ルールの設定”“音声案内(テキスト読み上げ)”“SMS送信”“音声録音”“(6か月分の)電話履歴表”の機能を持つスタータープラン。そしてスターターに加え“電話転送”“電話発信用ブラウザ・アプリ”、そして“ホワイトリスト・ブラックリスト”を実現するスタンダードプランだ」。

 アイブリーの営業を支える強みは、価格にある。スターターでは月額2980円から。スタンダードで4980円から。人手不足をフォローする電話関連のビジネス(コールセンター等)はある。しかし枠組みも違えば料金も違う。価格的にアイブリーには大いなるアドバンテージがある。24時間365日対応/多言語対応などを含め、「異次元」の表現が当て嵌まる枠組みとなっている。

今後の方針

 片岡COOは、「機能強化、それに伴う導入の拡販」をあげる。「上場」の二文字が、フッと頭をよぎった。ストレートにぶつけた。「我々は時価総額1兆円の企業を目指しているため、意識はしているが上場をゴールとは捉えていない。機能強化にはエンジニア/営業スタッフの増員が不可欠。それには資金が必要。また当社の存在がより広く公知されることもポイント」とする声が、漏れ伝わってきた。