「リペア」。この言葉ほど、2016年8月に設立された「ユアマイスター」に相応しい言葉を知らない。「修理・補修・修繕・回復・取り戻す」⇔「修理しながら長く、大事に使う」。まさにこの言葉の意図するところと取り組んでいる企業が、ユアマイスターそのものである。
設立者の星野貴之CEOは、こう説く。「パソコンやスマホなどネットで物を買う、ECの時代がこの四半世紀余で形成された。つれてこの5年余りで物を売る市場が拡大した。がネット上には、大事だが使うのが不具合になったものや大事な物を再生する、直す場所がない。モノを大切にするという、日本の価値観を復興させたいというという想いでこの企業を起ち上げた」。
楽天で頭角を現した星野CEOが、現業に行きついた経緯に覚える起業家魂
星野氏は学卒後、楽天の門を叩いた。営業マンが入り口。早々に全国NO1の数字を残し、全社ベースの年間MVPを受賞した。若くして九州エリアの副責任者に抜擢された。そして25歳で幹部育成プログラム1期生に選抜され、IR部門へ移動した。決算・増資・投資家対応を担った。星野氏が委ねられた主なエリアは、欧州。その際に痛感した実体験が、ユアマイスターに色濃く反映されている。
EU市場では、当時既にいわゆるESG投資が主流になっていた。とりわけ世界の大型投資家が籍を置いていたスコットランドの首都:エジンバラでは、「日本でも遠からず企業も社会も、直面する課題と真っ向から向き合わざるをえない時代になる。そうした思想がスタンダードになる。事業を手掛ける際には、意識してやろう」と痛感した。
またECが物販市場で拡大を見せていた。「やはり日本でも同様の流れが起こってこよう。結果、売り手市場も変化が求められる」と、確信した。
そんな思いが、「漠然」から「確信」に日増しに膨らんでいった。それに対する対峙策とし星野氏の中で、現業の起業が増幅していったのである。「幹部候補生として貴方を引き上げた、経営陣に業を興す話をしたのか」という問いかけに「はい」とした星野氏だったが、投げかけた「止められたでしょう」という「!?」には「はあ、まあ」とかわされたが・・・
エンジェル投資家
起業当時の星野氏の個人的な懐具合は知らない。が、「当初、1億円の資金を投じてくれた株主がいた。この有難い株主はいま二桁億円を投じてくれています」と聞いた。ユアマイスターの存在が世の中の認知度を高め、着実に成長の階段を昇っている証しだと言えよう。また星野氏は「当初の3年間は厳しかった。軌道に乗るまでには、外部の企業や人々から多くの援助を頂いた」ともした。例えば、こんな按配だ。
「設立当時から当社の事業のイメージを広めるために、TOKIOさんでCMをやりたい、キャラクターになって欲しいと考えていた。社内でも“目標”として公言していた。出会う機会を頂いた。志や考え方に共鳴していただき、コラボレーションすることが出来た。嬉しかった」(星野氏)。
ユアマイスターのビジネスの枠組み
現在、修理・再生の対象アイテムは70近く。中軸は「ハウスクリーニング」「生活上の不可欠用品の修理」「車の清掃」などなど10アイテム。
ホームページを覗くとまず「靴の修理」画面が登場する。「履き慣れた靴などは文字通り、愛着のある逸品。踵部分が傷んだ、表層部に傷がついてしまった・・・といって捨てることなどできない。可能な限り原状に戻し、履き続けたい。そうじゃありませんか」(星野氏)。全く同感。また空調機のメンテナンスなど「掃除をしなくては埃ばかりかカビも発生する。が専門家の手にかからないと、維持はまず無理」(同)。まさに、ご指摘の通り。読者もそうだろうが私も身の周りを見回すと、「How to」を持つプロに委ねることが賢明。
そこで現業のポイントとなってくるのが、プロとの協業。目下、1千社が登録されている。
カギは、顧客とプロフェッショナルを結ぶ方法。全てweb上で完結。
『ユアマイスター』は大切なモノを大切にしたい人と、広範な業界の職人(プロ)をつなぐサービスECプラットフォーム。要は「人」が「プロ」を修繕等の度合いや料金に応じて選択できる。説明を聞きながらフッと思った。「両者の間で、トラブルなどは生じないのか」と。星野氏は「それが最大の問題」と正直に認めた上で、「仮に起こってしまった場合は、当社の責任。業者とは絶えずその当たりに関してコミュニケーションを執っているし、顧客に苦情があれば即対応できる体制も整えている。幸い現時点では訴訟につながるような大きなクレームは発生していない」とした。そうした上で、「困ったときのユアマイスター頼み」という「顧客が顧客を呼んでくれる状況が着実に醸成されている」とも断じた。
いまユアマイスターはネット広告・SNS広告・会員向けメルマガなど、豊富なマーケテイング手段を用いて集客と向かい合っている。
星野代表が描く、今後の道程
取材中、星野氏の口から「楽天の様な会社に」と耳にした。その意図するところは「有力な柱を次々に打ちたてられる成長企業になる」であろう。それがまた、楽天への恩返しと認識しているのだろう。「大規模な企業への止揚を視野に入れているということか」と問うた。対して返ってきた答えは、「東証グロース市場に上場を果たしたい」だった。東証のホームページではグロース市場を、「高い成長を有する企業向けの市場」としている。