岡崎女子短期大学_丸山笑里佳先生に訊く:現場で輝く保育者へ。リカレント教育で支える成長の道

子どもを取り巻く現場では、保育・教育の質向上や、学び直しのニーズが高まっています。現職の保育者・教育者が、現場で直面する困りごとを解決し、専門的な知識技術をブラッシュアップしていける。そんな成長の場を目指し、岡崎女子大学岡崎女子短期大学では働きながら学ぶ機会としてリカレント講座を実施しています。
今回お話を伺うのは、岡崎女子短期大学 幼児教育学科で心理学を専門とされている丸山笑里佳准教授です。リカレント講座から見えてくる、現場の保育者の先生方が抱えている課題と、研修の場で丸山准教授が伝えていることについて教えていただきました。

丸山 笑里佳 先生

岡崎女子短期大学 幼児教育学科 准教授

公認心理師・臨床心理士。

臨床心理学、発達心理学を専門分野とし、授業では主に「発達と教育の心理学」、「幼児理解の理論と方法」、「教育相談の理論と方法」を受け持つ。
共著として「エピソードで学ぶ 子ども家庭支援の心理学」(ミネルヴァ書房)、「個と関係性の発達心理学 : 社会的存在としての人間の発達」(北大路書房)。
名古屋市障害児保育巡回指導 統合保育スーパーバイザー。

心理士の立場から伝える、発達障害・愛着障害への対応

保育現場の「気になる子」

私は公認心理師・臨床心理士として、心理に関する分野を専門としています。岡崎短期大学は保育者の養成校ですので、普段は幼児教育学科の学生たちに、発達心理学とか、教育心理学・教育相談といったことを教えています。

研修会になりますと、お話しするのは、お子さんや保護者のことといった、子育て支援に関する内容が中心です。保育の現場で働く先生方や、放課後児童支援員という学童の先生方向けの研修を行う機会が多い中で、やはり大きな括りで、「気になる子」への対応に関する研修の依頼が多くあります。

どうしても現場では「気になる子」と一括りになるんですけれども、その背景には発達障害や愛着障害といったさまざまな要因が考えられます。気になるお子さんをどう理解するか。お子さんの姿を受け入れられない保護者にどうやって対応したらいいのか。現場ではそういったことにお困りで、研修のお話をいただくことが多くなっています。

◆発達障害・愛着障害に対する世の中の理解

発達障害については、最近話題になることも多いですし、保護者側の関心も高まっています。専門機関に行かれる方も増えましたので、そういう意味では保護者の方もある程度受け入れていらっしゃって、診断や支援を受けている子どもも多くなってきました。

けれども現場では、「気になるけれども、まだ診断を受けてない」「保護者が子どもの姿を受け入れにくい」ことが多いというのが現状です。

発達障害だけでなく、「気になる子」には愛着に障害のあるお子さんたちも含まれます。愛着障害と聞くと、すごく大ごとのような感じがするかと思うんですけれど、児童相談所が関わるような虐待のケースだけに限りません。保護者との関わりや、生まれてからこれまでの養育の中で困難を抱えている子どもたちは、愛着障害の診断がつくまでではなくても、園や小学校の生活の中で、友達との関わりなど人間関係に難しいことが出てくる場合が多いです。特に園だと、まずは先生と関係を作るというところが大事なんですが、その段階でつまずいてしまったりする場合もありますね。そう思うと、愛着障害についても、専門機関で診断を受ける子というのは全体のごく一部分で、そこまでいかないという子が多いです。

難しいのは、発達障害と愛着に問題抱えた子たちの症状が似通っている部分があるということです。なかには、発達障害と愛着障害、両方持っているというケースもあります。

お子さんが発達障害の特徴を持って生まれてくると、保護者も関わるのが難しいんですね。「子育て難しいな」と困難を感じることが多くなり、そこから、お子さんとの関わり方が適切ではなくなってしまうということもあります。

もちろんその逆もあって、保護者側に子育てが難しい要因があり、お子さんとの関わり方にいろんな困難が生じる。その結果、お子さんに発達障害のような症状が出てくる、というような時もあります。その辺りの区別は、専門機関で診断をされているお医者さんであっても、難しいといわれています。

発達障害についての知識が今とても普及していて、保育者の先生や学生も発達障害の研修をたくさん受けていらっしゃるんです。発達障害にはこういう傾向があるよ、自閉症スペクトラムのお子さんだとこういう症状があるよ、という知識も一般的に多く出回っています。気になる子に出会った時に、「この子はこの症状に当てはまるのかな」と認識されることも多いんです。けれども、一見すると発達障害かな、と思っても、もう少し広い視点で、家庭のことだったり、保護者のことだったりを総合的に見ていきましょうというお話を研修では伝えています。

学び続けることを支援する「リカレント教育」

岡崎女子大学・岡崎女子短期大学のリカレント講座

学生のうちは免許取得のために授業を受けたり単位を取ったりがメインになりますが、保育のお仕事というのは卒業後も勉強をし続けていく必要があります。そういったところを支援しようというのがリカレント研修になります。本学のリカレント部門では、卒業生だけでなく、現場で働かれている方を対象としています。何回か継続して研修を行う「スパイラルUP研修」、テーマに関して一回で完結する「ステップUP研修」とで名称を分けております。キャリアアップを目指されている方はもちろんですが、現場に出て初めて難しさに直面する方も多いので、そういったことをサポートするための研修だと思っていただくといいのかと思います。保育の基本を学んで、免許・資格を取るというところがスタートラインであって、お子さんや保護者と関わったりしながらまた改めて勉強してみると身に入ることがたくさんあるんです。そういう意味でもやはりリカレント教育というのは必要なことだと感じますね。

幼児教育学科にはいろんな専門性をもった教員がおりますので、現場の方からはそれぞれの園で課題になっている部分に関しての研修を依頼されることが多いです。私だと気になるお子さんのことや、子育て支援のことをお話しできますし、障害児保育、音楽、造形といった、それぞれ専門の保育内容に特化したいろいろな研修を用意しています。本学のホームページに研修の内容を掲載しています。

リカレント部門から出されているチラシが、大きなテーマでしか掲載していないということもあり、実際にご依頼をしてくださった研修担当の方とは、「研修でどんなお話をしましょうか」と内容の調整をしていく感じになります。

◆受講者の声

まず、学生も現場の経験という意味では、実習に何度か行きますし、免許・資格がなくてもできる、子どもたちと関わるアルバイトやボランティアを積極的に行っている学生がおります。そういう学生は、やはり子どもたちの姿がある程度イメージできるので、授業の内容が経験と繋がりやすいところがあります。一番良かったなと思うのは、授業を通して、「あの時のあの子の行動はこういうことだったんだな」とふっと腑に落ちた瞬間を感想で書いてくれたのを読むときですね。

現場の先生ですと、研修を聞きながら思い浮かぶお子さんや保護者が必ず出てくるので、切迫感や真剣度といったものが学生とは全然違います。もちろん学生が不真面目というわけではなく、これは経験の問題ですね。先生たちはリアルタイムで関わっているお子さんや保護者がイメージできるので、「帰ったら実践してみます」という風に研修後のリアクションペーパーを書いてくださる先生もいらっしゃいます。保育者の先生も、迷いながら現場でお子さんや保護者と向き合っているんです。「自分がやってきたことは、やっぱり大事だったんだな」と再確認されて、日々の保育の自信に繋がるといいなと思っています。

私自身が今「乳児との関わり方をどういう風に身につけて習得していくのか」というところをテーマに研究しているので、子育て支援という大きな括りでは、現場の先生の声を聞くことは研究にも活かされますし、励みにもなります。あとは研修を通して、「次はこういう視点を入れた方がいいのかな」と反映をしていくことになるので、そういう意味でも現場の先生のお話を聞くのはとても楽しみです。

また、愛知県では「子育てネットワーカー」といって、家庭教育支援を行っていらっしゃる方がおられます。そういった地域で子育て支援活動をされている方の研修や資格プログラムをお引き受けすることもあります。子どもたちの心の発達や、保護者が子育てを難しいと感じやすくなる時期に(難しいと感じやすくなるタイミングで)、どうやって対応していこうかというお話を伝えています。ご自身の子育てが一段落してから支援活動をされている方が多いので、「自分の子育ての時に聞きたかったな」という風に言っていただけるのが一番の褒め言葉ですね。そうやって支援者の方に思っていただいたことが、今現役で子育てしているお母さんと関わる時にきっと活きていくので、大変光栄なことだと思っています。

心理士・准教授・母。それぞれの経験が活きている現在のキャリア

◆丸山先生のこれまでのキャリア

私は、本学には2013年に着任しましたが、その前は心理士として色々な現場で仕事をしておりました。 愛知県は乳幼児健診の後に、お子さんの発達や子育てのことを相談できる機会がありまして、そこでは心理士として関わっておりました。小児科に勤務したり、乳児院に行かせていただいたりしたこともあります。今でも名古屋市の障害児保育の巡回指導のスーパーバイザーをしておりまして、園の方に足を運ぶ機会があります。

私自身も子どもが2人おりますので、今大学で教鞭を取っていると、これまでの心理士としての経験と母親としての経験とを合わせて、子育てや発達のことを伝えることができています。

◆保護者としての想いも伝える

2人の子どものうちまだ下の子は保育園に通っているんですが、子育てをしていると、現場の保育者の先生に、日々のちょっとした感謝の気持ちを伝える場が意外とないんですね。 卒園式などお伝えできるタイミングもあるんですけど、普段は仕事が終わって時間ギリギリに「ありがとうございました」と迎えに行くという感じで。自分が思っているほど感謝の気持ちを伝える機会があまりないというか。

本当は、実際お世話になった先生に直接お伝えできるのが一番だというのは重々承知なんですけれど、いつも研修を引き受けたらその場で、保護者としての感謝の気持ちや想いをお伝えするようにしています。
意外だったのが、研修の場で「今度子どもの保育参観があってすごく楽しみです」ということをぽろっとお話したら、「行事の準備ちょっと憂鬱だったんですけど励みになりました」って言ってくださった先生がみえて、そういうこともあるんだな、伝えてよかったな、と思えたエピソードですね。

◆間接的な子育て支援

今でも私は現場に出るのは好きですし、心理士としての仕事もすごく自分のやりがいになっていると思います。一方で、将来保育者になる学生や、すでに保育の現場にいらっしゃる先生方に、臨床心理学や発達心理学の内容をお伝えすることで、現場で子どもたちや保護者の方と関わる時に役に立つことがあるというのはやっぱり嬉しく感じます。 この幼児教育学科で心理学を教えることはすごく私自身やりがいを感じているところですので、間接的な子育て支援になればいいなと思います。

学生たちは、机に座って講義を受ける座学の内容が好きな子もいれば、音楽や体育といった体を動かすことの方が好きだという子もいます。なので、私が教えている内容は必ずしも学生のうちに、みんながみんな好きな科目ではないんです。でも、彼女たちが卒業後、現場を経験したときに、本学で習った知識がプラスアルファになって役に立つことがあればと思っています。