三洋貿易|2024年9月期の業績予想が過去最高、長期経営計画で営業利益90億円目指す

三洋貿易(3176)。ゴム・化学品や自動車内装部材、再生可能エネルギーやバイオ関連機器を取扱う独立系専門商社。営業社員の約半数が技術系で、自動車向けが主軸。
 5月に24年9月期の業績予想を上方修正した。新たな予想は「4.5%増収(1260億円)、4.2%営業増益(68億円)、5.8%経常増益(75億円)、2.4%最終増益(49億円)、年間2円増配45円配」。過去最高の売上・利益・配当額である。

過去最高売上高・利益・配当予想の何故


 執行役員経営企画部長の難波嘉己氏を取材した。難波氏は上方修正の背景を、こう説明した。「中国などの景気減速の影響はあったが、日系自動車企業の生産好調や飼料加工機器の好転、バイオ分野の研究支援機器の販売好調などで過去最高の売上高となった。利益面でも化成品セグメントで高付加価値商材の販売増・価格見直し効果による利益率改善、海外現法での新規商売開始等による利益増加、為替差益の計上などで過去最高となった」とした。株価も素直に好感した。
 饒舌な説明に接すると、ついつい「意地悪虫」が頭をもたげる。
 こんな遣り取りをした。三洋貿易は至2028年9月期の長期経営計画で「営業利益90億円(23年9月期比33・5%増)、ROE10-12%」を掲げている。
「自動車関連は、競争状況が指摘されているが!?」-『得手(高付加価値)分野で攻めている。トヨタの豊田(章男)会長も言っているように、業界は100年に1回の転換期を迎えている。EV化の流れなどがその象徴だが、並行して内装も当然進化しており、チャンスと捉えている。車内の内装はリビングルーム化していこう。当社ならではの内装材の開発で対応していく』。

「総投資額200―300億円としているが、内容を具体的に知りたい」-『事業投資が主。具体的にはM&Aだ。これまでにも120億円程度のM&Aを実施している。これまで一件当たりは決して大規模なものではない。当社にとって有益な特異な技術を持つ企業で、一件当たりは多くても10-20億円規模だった。ただ、今後の案件規模は、成長戦略を勘案し、戦略的に柔軟に対応していく』。
「株主対応策として配当金の着実増を掲げているが、28年9月期の目標配当は視野に入れているか」-『目標はあるが、いま公にはできない。要は投資妙味を示し、株主数・出来高の増加を図りたい。今年3月には、取引金融機関が保有する当社株式の売出しを行い、株主数・出来高の増加に大きな成果を得た。安定個人株主を増やすことが当社のこれからを見据える上で、重要だと考えている』。

歴史の節目と脈々と受け継がれる企業体質

 戦後の財閥解体で1947年、三井物産神戸支店の有志により設立された。創業社長は玉木榮一氏。実は有志の中で商社分野に通じた人物は、玉木氏だけだった。玉木氏が陣頭に立ち、商社事業を切り開いていった。
事業は着実な歩みを進めた。1960年代に入ると業容が拡大。とりわけ東京エリアで大幅に増加。東京に本店を移し、同時に幅広い領域で事業展開を推進。国内ばかりでなく海外展開にも歩みを踏み出した。米国に現法を設立したほか、バンコク・ハノイ・ホーチミン・デトロイトなどに拠点を開設した。

ところで周知のとおり、1980年代終盤に日本経済は「バブルの泡」に酔いしれた。そして泡が吹き飛ぶのと同時に、「失われた20年」と呼ばれる超低迷期に突入していった。商社の多くも「財テク」に走り、多重の不良債権を抱え込んだ。が、三洋貿易は泡に酔いしれることはなかった。経営企画部 広報・IRグループのグループリーダー:木村康行氏は、「当時の経営陣の一口で言えば、王道を行くという判断の結果」とした。価格(引き下げ)競争に巻き込まれることなく、安定供給/付加価値提供に徹したのだった。
そんな三洋貿易だが、21世紀を目前にして大きな決断を下している。屋台骨の一つだった、一次産品ビジネスからの撤退である。木村氏は、こう噛み砕いた。「相場性による波が伴う事業だった。経営陣は工業製品に特化する判断をした」。痛みを伴う経営判断だが、選択と集中。これを機に自動車用内装部材を核とした、産業資材部門が急成長した。「モビリティ」「ファインケミカル」「サステナビリティ」「ライフサイエンス」の四つの市場に注力する今日の三洋貿易を捉える上で、まさに大英断だった。

好調下でも抱える看過できない課題

 本稿作成時の時価は1600円水準。予想税引き後配当利回り2・26%水準。中長期投資の妙味も、時価の予想PERは9・40倍に止まる。東証プライム市場企業の平均15倍超と比較すると、人気の低さが否定できない。
 認知度アップが不可欠。「その認識は高まっている」とし、木村氏は、こう指折り数えた。「新谷(正伸)社長をはじめ幹部クラスがIR活動の一環として、メディアに積極的に登場している」「昨年11月にはロゴマークを刷新した。宣伝活動の前面に押し立てている」「ドーム球場に、看板を設置した」etc・・・
 認知度向上は⇔好収益企業の存在認識、に繋がる。「企業の通信簿」とされる株価への影響も期待される!