山口県萩市。2005年に旧萩市・阿武郡川上村・田万川町・むつみ村・須佐町・旭村・福栄村が新設合併してできた、人口42,000人弱の自治体です。面積は698.31平方キロメートルで、全国1741の自治体(東京23区を含む・北方領土除く)の中で102位。東京23区を合わせた面積よりも広く、市域の北部は日本海に面し、南東部は中国山地に属します。
一般的に「萩」と言えば、幕末の志士を多く輩出したことや、美しい城下町、萩焼などをイメージする方が多いかもしれません。しかし、平成の大合併で新たに誕生した萩市は、歴史的な魅力に加えて多彩な自然環境をも有する自治体となり、移住先として多くの人々に注目されています。
例えば、移住スカウトサービスSMOUTの“2021年度 SMOUT移住アワード”では全国1位として表彰されています。また、宝島社が発行する雑誌「田舎暮らしの本」における“2025年版第13回住みたい田舎ベストランキング”では、“移住者増の人気地ランキング”で全国36位、“人口3万人以上5万人未満のまちランキング 総合部門”では全国3位に選ばれています。
今回の記事では、そんな萩市の特徴や移住先としての魅力について、萩市おいでませ、豊かな暮らし応援課の堀さんと蛭子さんへの取材を通してご紹介します。

歴史と景観を大切にする町

萩と言えば、まずは美しい城下町。かつての面影を色濃く残しており、歴史的な街並みが好きな人にはたまりません。
「萩の城下町では、江戸時代の地図をそのまま使って歩くことができます。かつての区割りが残っているんです。景観行政には先駆的に取り組んできており、伝統的建造物群保存地区も4つあります。文化や歴史がそこかしこに存在するため、町全体を屋根のない博物館と見立てた『萩まちじゅう博物館』という構想を持ち、まちづくりと観光地づくりをしています」(堀さん)
萩まちじゅう博物館では、市民と行政が一体となって歴史的・文化的な都市遺産の保存と活用に取り組んでいるそうです。日本国内にはヨーロッパのような歴史的景観がまとまった街並みがほとんどありませんので、そういった意味では、萩の城下町は非常に稀有な例といえるでしょう。
暮らし方の選択肢が豊か

萩市のもう一つの大きな魅力は、多彩な住環境が存在する点です。
「萩市は非常に広いので、海岸沿いから中山間地まで自然環境は様々ですが、中心部は徒歩圏内にスーパーや銀行、病院、市役所などが揃っており、車がなくても生活できるコンパクトシティになっています。移住の観点で言えば、その人が移住先でどのような暮らしをしたいかと考える際に、選択肢がとても豊富な市だと思います」(蛭子さん)
自治体として広域合併した利点がここに出ているのではないでしょうか。例えば、海釣りが趣味なら海岸沿い、子どもを野山で駆け巡らせたい家族連れは中山間地、ゆったり暮らしたいけれど利便性を捨てたくない場合は中心部。移住者がそのような選択をできるのが萩市と言えるようです。
手厚い移住支援体制

縁のない土地への移住を考える際に、行政による移住支援の体制が整っていると安心です。萩市では「はぎポルト‐暮らしの案内所‐」を総合窓口として、移住希望者に対する手厚い支援を行っています。はぎポルトには6名のスタッフが常勤しており、移住に関する情報発信や相談の受け付け、空き家の案内、就業支援など多岐にわたるサービスを提供しています。
「移住支援員が3名、移住就業コーディネーターが1名、そして情報発信を担うローカルエディターが2名と、移住希望者の方の幅広いご要望に対応できる体制を整えています。例えば、移住就業コーディネーターは地元企業との連携を通じて移住者が職を見つけやすくするサポートを行っておりますし、『空き家を使って農家民泊を開業してみたい』といった相談にも対応いたします」(堀さん)
更に、広大な萩市内には地域毎に移住サポーターがおり、移住者と地域のパイプ役を務めているそうです。移住後の定着支援もしてもらえるということで、伴走型の体制があることは、移住希望者に大きな安心感を与えるでしょう。
「一口に移住といっても、皆さん目的は様々なんです。なので、私たちとしても多岐に渡る相談に対応できるように体制を整えております」(堀さん)
萩市ではお試し暮らし住宅も用意しています。6泊7日で利用料がなんと一組につき7,000円。破格です。しかも、一つは文化財施設、もう一つは駅舎を改修したというユニークさ。
「非常に人気がありまして、予約は半年先まで受け付けているんですが、すぐに埋まってしまいます。特に、梅屋七兵衛旧宅という文化財施設を改修した『#梅ちゃんち』は市街地にあり、車のない方も公共交通機関で来て、滞在期間中は市内循環バスや施設備え付けの自転車を移動手段として萩市での生活を体験することができるので人気です」(蛭子さん)
萩市での生活体験を終え、いざ移住を検討となった際の一大事が住居探しですが、萩市では空き家情報バンクを整備し、物件の購入や賃貸を支援しています。また、空き家情報バンク経由で購入した物件に関してはリノベーション費用に対する補助もあります。そして、景観の美しい萩市ならではの補助もあります。
「市内にある堀内、平安古(ひやこ)、浜崎、佐々並市(ささなみいち)の4つの伝統的建造物群保存地区内において伝統的建造物を所有する方に対しては、建物の保存を目的とした外観等の改修にかかった費用の4/5、上限800万円まで補助が出ます」(蛭子さん)
移住者も歴史的な街並みを維持する一員になれそうです。

子育て支援も充実

子育て世代の移住支援にも抜かりはありません。
特に、妊娠・出産・子育てに関する相談、こどもや家庭の問題(虐待や貧困、ヤングケアラーなど)に関する相談をワンストップで受け付けている「萩市こども家庭センターHAGU」は、心強い存在でしょう。場所も市役所の2階なので、何かの手続きなど所用のついでに立ち寄ることができます。
他に、施策としても、不妊治療費の助成金や、子どもが誕生した家庭へ萩市共通商品券10万円分の贈呈、多子世帯応援誕生祝金の贈呈(令和4年4月1日以降に出生した第2子10万円、第3子40万円、第4子以降90万円)、24時間保育、小中学校の給食費無償化、高校生・大学生・看護学生への給付型奨学金など、豊富に用意されています。
「妊娠前から妊娠中、産後、乳幼児期、小中高、そして家庭を巣立っていく時まで、子育ての一連の流れに沿った支援体制ができているのも萩市の強みだと思います」(堀さん)
萩市のウェブサイトでは「子育て応援ガイドブック2022」が公開されています。子育てに関わることが網羅されているので、お子さん連れでの移住を検討している方は必見です。
移住担当者自身も萩市に魅せられる
取材の最後に、堀さんと蛭子さんが感じる萩市の良さと、今後の展望について伺いました。
「私が子どもの頃、親が転勤族だったので様々な土地を転々としました。その中で、幼稚園から小学4年生までを萩市で過ごしました。その後、大学生となり就職先を考えた時、萩市に帰ることを選択したんです。先ほどご紹介しましたが、萩の城下町の佇まいは私にとってもすごく落ち着きますし、必要なものが中心部にコンパクトに集まっていることにも暮らしやすさを感じます。それに、菊ヶ浜に代表されるような、日本海の美しいビーチにも囲まれています。
私の友人の中には、萩市にも大きなショッピングモールやスタバが欲しいと言う人もいますが、私にとっては今の萩市が十分に素敵な場所で、心のふるさとです。重要文化財の並ぶ街並みを江戸時代の地図を見ながら歩けて、そのすぐ近くに美しい海と山があって、しかも仕事は農林漁業もIT企業も選べる。そんな環境は今から作ることができませんからね」(堀さん)
「私は結婚を機に萩市に移住してきました。夫が元々こちらで働いていたので、自分の意思で萩市を選んだわけではなかったものの、住んでみたらすごく好きになりました。街中にゴミが全く落ちていなくて綺麗で、海も山も美しいというのはもちろんのことなんですが。何より、地元の方も移住された方も、ご自身の生活を楽しみながら、それを活かして萩市を盛り上げようとしていらっしゃる方が多いのが魅力的です。
それに、私は萩市に来てから規則正しい生活になりました。萩市は『眠る街』で、夜の9時、10時くらいになれば市街地を歩く人はほとんどいません。ずっと電気も点いて音も鳴り続けて、ということがないんです。人間らしい暮らしができるのも良いなと思います」(蛭子さん)
「実は、今私たちがお話しした内容にぴたりと合う移住者の方がいらっしゃいまして。東京でフレンチのシェフとして腕を振るっていた方で、ご結婚と奥様の妊娠を機に移住を考え始めたそうです。満員電車での通勤や、そこにベビーカーを突っ込んでの子育ては想像できず、自然のある落ち着いた環境で子育てをして、ご自身もそこで採れる新鮮な食材を活かしてフレンチ料理を作る。そんな暮らしができないかと模索する中で萩市と出会い、今は菊ヶ浜の美しい景色を眺めながら短時間の通勤をして、仕事を終えたらすぐに家に帰ってお子さんをお風呂に入れているそうです。
私たちは日々の業務の中でそういったお話を伺っており、萩市のゆったりとした時間の流れや自然環境を必要とする方がいらっしゃるのだと実感しています。やはり萩市も少子高齢化は加速していますが、若者や子育て世帯の移住実績が伸びつつあります。今後も萩市としては組織横断的に子育て環境の充実や空き家の発掘、多彩な就労方法の紹介、柔軟な相談体制の構築などに努め、少子高齢化の課題に向き合いたいと考えております」(堀さん)
様々な魅力が掛け合わされ、唯一無二の魅力を持つ萩市。まずはお試し暮らし住宅の予約から始めて、移住先として検討してみてはいかがでしょうか。
