本部と加盟店とが共存共栄を目指していく事業システム・フランチャイズ。昨今、加盟店オーナーの労働問題などが広く取り沙汰されるようになり、本部と加盟店とが歪なパワーバランスのもとで運営されている実態が浮き彫りとなってきました。
日本のフランチャイズが抱える課題を解消していくためには、どのような対策が必要なのでしょうか。愛知大学法学部で、コンビニ問題やフランチャイズ制度をテーマに研究に取り組んでいらっしゃる木村義和教授に、詳しくお話を伺いました。
木村 義和 先生
愛知大学 法学部 教授
関西学院大学大学院法学研究科修了、博士(法)。コンビニ問題やフランチャイズ契約の研究をしている。官公庁から法令調査や職員研修講師の委嘱を受けた経験あり。代表著書は『コンビニの闇』(ワニブックス)。
コンビニの労働問題が顕在化した東大阪セブン-イレブン事件
――先生は今までいろんなフランチャイズ問題をご覧になってきたと思いますが、本部が加盟店への対応を軟化させるきっかけとなった出来事はありますか。
やっぱり1番大きかったのは、東大阪の松本さんの事件(※1)だと思います。それまではコンビニは24時間営業で、365日開いているということが当たり前だったのですが、この事件を機に時短営業が認められました。コンビニ業界だけでなく世の中の意識が変わるきっかけになった事件なのではないかなと思います。
現在は「ワークライフバランス」とよく言われている時代で仕事だけではなく、仕事以外のプライベートな時間も充実させることが求められています。ですから、過重労働は良くないと考えられています。それにも関わらず、加盟店オーナーは経営者であって労働者ではないという理由で、蚊帳の外に置かれていたんです。要するに、経営者は労働基準法の適用外にあたるため、過重労働は許されると考えられていました。
確かに法律は、経営者だ、労働者だ、個人事業主だというように区別しますが、経営者とされる加盟店オーナーであっても勤労者として働く人ですし、働く人々が望むライフスタイルは、その名称が変わったところでさほど変わらないと思います。体を壊してまで無理に24時間営業を続ける必要はないんじゃないか、誰かの過重労働の原因になるくらいなら深夜営業は要らないというように世の中の意識を変えた大きな事件だった思います。
※1 「松本さんの事件」
松本実敏さんはフランチャイズ加盟店のオーナーとして大阪府東大阪市で「セブン-イレブン東大阪南上小阪店」を2012年に開業した。しかし、2018年に妻を亡くし、店舗は人手不足に。本人の過労も重なり、本部の許可なく深夜から早朝にかけて店を閉め、時短営業を行った。その後、本部より加盟店契約を一方的に解除された上、店舗の開け渡しなどを求める訴えを起こされた。松本さん側も、契約解除は優越的地位の濫用だとして逆に訴えを起こし、法廷で争うこととなった。
――本部が加盟店を虐げていると、フランチャイズオーナーをやりたがらない人が増えていくのではないかとも思いますが、そうはならないのでしょうか。
本来、フランチャイズは、本部が加盟店を搾取するものではなくて、両者で成功して幸せになりましょうというシステムです。だから私もフランチャイズのシステム自体が悪だとは思ってないんですよ。元々は本部が加盟店を成功させて、加盟店が得た利益を本部と加盟店で分け合い、「本部と加盟店ともに幸せになりましょう」という発想で始まっているシステムなので、むしろフランチャイズという制度自体は大変素晴らしいものだと思っています。
本部の方もメリットとして、自分たちの資本ではなく、加盟店の方のお金で店舗拡大ができるので出店のスピードを上げられます。加盟店の方も、本部がノウハウを提供してくれることによって、今まで商売をしたことがない人でもすぐに始められるといったような利点があります。
システム自体はすごく素晴らしいものなので、衰えたり駄目になったりすることは起こらないのではないかと思います。ただ、本部と加盟店の非対等性が原因で「本部が加盟店を搾取しているんじゃないか」と思われるようなところが出てきてしまっているという点は問題です。フランチャイズは弱肉強食のシステムではなく、本部と加盟店が一つのチームになって団体戦を戦い勝つという発想なので、本部による優越的地位の濫用のような事態を生じないようにできれば、フランチャイズシステム自体は残っていくのではないでしょうか。
――仕組み自体はいいけれども、それを運用する側が優越的すぎたということですね。
はい。フランチャイズ自体は大変素晴らしいシステムであると考えています。その仕組みを正しく運用されるようにするために法整備が必要なのではないかというのが私の考えです。
非対等な関係を是正するため、フランチャイズ法の整備を
――本部からフランチャイズオーナーへ、優越的な立場を利用した運営が日本で起こってしまう背景には、どのような問題があるのでしょうか。
私の考えとしては、法整備ができてないというところに問題があると思います。要するに、フランチャイズ法が必要だということです。
本部も色々あるとは思いますが、日本のフランチャイズ本部の多くは、セブン-イレブンを代表するように、誰でも知っている、日本を代表するような巨大企業です。それに対して、加盟店オーナーの方は、脱サラしたサラリーマンとか、何の資本も持たない人たちが多い。そういった格差があるにも関わらず、「事業者同士だから対等であり、契約で物事が全てうまく解決できる」と考えられているところに、やはり問題点があると思います。
そもそも対等ではないのに、法律ではそれを対等のものとして扱って契約が結ばれて、そのルールのもとで店舗の運営がなされているというところに一番の問題があると思っています。
――加盟するオーナーさんは、 当然法律の専門家ではないでしょうし、弁護士を雇って事業を始めるわけでもないですよね。
日本ではまず弁護士が雇われることはないと思います。おそらく、いきなり契約書を渡されて読み合わせして、あんまり理解できていないまま契約書に署名捺印してしまうという場合がほとんどで、契約上は明らかに本部に有利な内容で進められてしまっている状況です。
――そういった状況はコンビニに限らず、例えば飲食店のフランチャイズなどでも起こっているのですか。
やはり多くのフランチャイズが、契約書は本部が用意したものになりますので、コンビニに限らず本部が有利なようには作られていると思います。アーリーステージといって、フランチャイズ本部を始めたばかりの企業もありますので、本部といっても色々違いはあるのですが、統一の雛形を作って、契約書の準備しているのはやはり本部でしょう。多くの場合で、本部が有利に働く契約書が使われているというのは事実だとは思います。
――アメリカでは州ごとにフランチャイズ法があって、契約内容をウェブで誰もが閲覧できるようになっているそうですね。
はい。 開示義務はアメリカ全土で義務化されているので、それで定められている内容のことでしたら誰でも閲覧できるようになっています。企業の方もそこに登録しないとフランチャイズ本部として経済活動ができないということになっています。ただ、法整備について言うとやはり州ごとで違いがあります。共和党が強い保守的な州は、フランチャイズ法がないです。一方で、リベラルで革新的な民主党が強い州では、フランチャイズ法によって中小企業であるフランチャイズオーナーを守っていこうという動きになっています。
――先生は日本に合わせてどういった法律が必要だと思われますか。
まず、契約締結前の開示義務は、独占禁止法のフランチャイズガイドラインや中小小売商業振興法の方である程度は整理されているので、今のままで十分だと思います。ただ、一旦契約が結ばれた後の話となる内容規制については、やっぱり法整備が必要だろうと思っています。
例えば、契約期間が終わった後に契約を更新するかどうかは、完全な自由になっています。要するに、本部は加盟店オーナーが気に入らないなどの恣意的な理由でも契約の更新拒絶をすることができます。しかし、家族でコンビニを営んでいる加盟店オーナーの場合、契約の更新拒絶は生活の糧を失うことを意味します。労働者でいうところの雇い止めと同じですね。やはり、加盟店が契約を継続し難いようなミスをしたなどの正当な理由がないのにもかかわらず、更新するのを本部の方が恣意的に拒否できるといったような点は問題であると考えます。
あと、加盟店オーナー達が団体を作っても、それは労働組合ではないので、本部に団体交渉を強制することはできません。そもそも話として、本部の中には加盟店オーナー達が団体を作ったり、そこに加入することを嫌がったりする場合もあります。これらの点も問題があると考えています。労働者のように本部が団体交渉を強制されることはないですが、加盟店団体に対して、団結権や団体交渉権もある程度は認められても良いのかなと思っています。実際、加盟店団体の団結権を保障するフランチャイズ法を持つアメリカの州はありますし、オーストラリアでは一定の条件のもとで加盟店団体の団体交渉権は認められています。
他にも、独禁法のフランチャイズガイドラインが変わって、何の協議をせずに営業時間を強制するのは優越的地位の濫用になりましたが、営業時間についてはさらに加盟店側の裁量が認められるようにしていくことも必要でしょう。独禁法のフランチャイズガイドラインは、本部が「営業時間の短縮に係る協議拒絶」をすることを優越的地位の濫用としているだけなので、契約で「24時間365日営業をする」という合意がなされていれば、加盟店は何があっても店を開けないといけないというのが基本となります。また、営業時間でなく休業日については何のルールもないため、例えば、元旦休業などを加盟店の裁量で行うことは認められていません。今は加盟店の営業に関する裁量があまりにもなさすぎるために、加盟店オーナーの長時間労働が起きやすい状況になっています。
――日本のフランチャイズのオーナーたちも、プロ野球の選手会のようなものを作って本部と交渉できるようにするというのが理想でしょうか。
そうですね。加盟店オーナーが労働者かどうかというのは、難しい問題であるとは思うのですが、それとは関係なく団体交渉ができるようにはなった方が良いでしょう。団体交渉権というのは、加盟店オーナー団体との話し合いの場を作らなければならないということであって、その加盟店オーナー達の要求を全て本部が呑まなければいけないということではないんです。
話し合いをするということすらできていないという現状はおかしいですよね、という話です。
――現状、オーナー同士が連帯して本部と交渉するようなことが阻まれているのは、本部が契約で縛っているのでしょうか。それとも団結しない商習慣でもあるのですか。
集会結社の自由があるので、契約で団体を作ってはいけないということはできないのですが、やはりそういう団体に入ると、例えば「次の契約の更新がなくなりますよ」とか、「2店舗・3店舗と増店はできないですよ。複数店経営はできませんよ」とか、直接的な表現は避けられているでしょうが、脅しまがいのようなことはなされていると思います。加盟店オーナーが団結して何かしようというとする動きを、嫌がって妨害する本部があるのは事実だと思います。もちろん、逆に、加盟店オーナー達が売上アップのノウハウを共有しあうのは良いことだと考えて、活発な交流を推奨している本部があるのも事実ですが。
――私の知り合いがコンビニのフランチャイズ経営をしていたのですが、途中から本部にその店舗を取られてしまったということがあったんです。それは本部が契約解除をしたとか、更新を拒否したといった背景が考えられるのでしょうか。
契約解除の場合は、加盟店側が契約違反をしてないとできません。もしそのケースが解除であれば、何かしらの解除事由があったのかもしれません。
契約期間が満了した後、さらに契約を続けるかどうかは、契約自由の原則がありますからもう完全な自由です。理由は何であろうが、今回は更新しないと本部が言えば、契約の更新拒否できてしまうと思います。そして、店舗の資産が本部所有であった場合、更新しなければ、加盟店は返還せねばなりませんので、当然本部がその店でその後の営業を続けられることになります。
ただ、こういった契約更新に関しても、やはり本部の優越的地位がちょっと行き過ぎている面があります。例えば、加盟店オーナーの努力によって繁盛店となった店舗を本部は取り上げて、直営店にすることもできてしまいます。これは極端な事例ですが、このような悪徳本部からの被害を防ぎ、本部とオーナーの関係を対等にするため、法整備を進めるべきだと考えています。
身近なコンビニから社会問題を考える
――先生の研究に、学生さんはどういった関心を持たれているのですか。
特にコンビニだと、利用したことがない学生はまずいないでしょうし、毎日行っている学生もいるかもしれないので、やはり身近なテーマとして興味を持ってくれていると思います。コンビニで色々な問題が起きているといったことがわかるようになれば、お店を見る目もちょっと変わってきますよね。長時間労働をしているオーナーの実態を知れば、オーナーさんの様子を見て「ちょっと今日疲れているけど、休みは取れたのかな」とか、「今朝お店にいたけど夕方行ってもまだ働いているな」とか、今まで気づかなかった点にも関心をもって、目を向けることができるようになっているのではないかと思いますね。売れ残った商品はどうなるのかとか、廃棄が山になっているといったニュースにも、やっぱり背景がわかれば、身近なところで起きている問題であると気づいて、広い視野を持てるようになるはずです。
特にコンビニでアルバイトをしている学生は、すごく関心を持ってくれています。今までは、「ああ、今日はこんなに売れ残った食品を捨ててるんだ。もったいない。」と感じてはいたけど、なぜこのようなことが起きているのか、アルバイトをしているだけでは、深く考えることまではしていなかったと思います。ですが、その背景や理由が分かるようになれば、自分なりに解決方法を見つけ出そうと考えるようになります。ちゃんと社会問題として見る目を養えていると感じます。
ただ、コンビニの仕事がハードで時給が安いという問題があるので、あまり学生がやりたがるアルバイトでなくなっているというのも事実としてはありますね。
やはりオーナーさんも経営が苦しいので、最低時給に近い額しか出せなくなっている。そうなれば当然学生としては、もっと時給の高いところにいってしまうので。日本を代表する小売システムであるコンビニの現場でアルバイトすることを大学生が避けるのは残念ですが。
――そうすると、加盟店側も当然疲弊していってしまうわけですから、やがては本部の儲けにも響くわけですよね。
加盟店が儲かり、本部もそこからロイヤリティとして儲けの一部をいただくというのがフランチャイズのシステムなんです。結局、加盟店が儲かってない状態になると、フランチャイズ自体がダメになってきてしまいますね。そういった点も踏まえると、やはり法整備が必要だという結論に至るわけです。