SMBC Wevox株式会社_川本周 副社長に訊く、アトラエ×SMBCグループ新会社、Wevoxで切り拓く新たな市場

アトラエ(6194)。成功報酬型求人メディア「Green」を運営している。またここにきて俄かに注目を集めている組織力向上プラットフォーム「Wevox」の展開も手掛けている。私がアトラエを知ったのは4年近く前。アルティーリ千葉(プロバスケットボールクラブ)を立ち上げ、運営に乗り出した時だった。「スポーツビジネスは儲かるのだろうか」といった程度の認識からだった。

今年に入りアトラエは、興味深いニュースリリースを配信した。5月14日に発信されたのは『アルティーリ千葉の株式譲渡/特損計上』、『今9月期、配当開始(年15円配)』。がこの限りでは、「負担の重い事業からは手を引き、配当を実践する」姿勢としか受けとめきれなかった。

アトラエはいま、転換期を迎えている

 2021年9月期に連結化、営業利益10億1000万円。以降の営業利益の推移は「10億6000万円」「9億5200万円」。上にも下にも、さしたる変化は見受けられなかった。対して「配当開始」を宣言した今9月期計画は、「25・0%増収(97億円)、47・0%営業増益(14億円)、169・6%最終増益(9億200万円)」。

 どう受け止めたらよいのか。

 「Green」事業の改善。アトラエも「来期にはAIを活用したマッチング理由の解説などで、面接対応の支援体制強化する」としている。

 また前記した「Wevox」の展開が大きな節目を迎えようとしている、という要因がクローズアップされている。

アトラエに部長や課長はいない。その理由

株式会社アトラエの運営サービス「Green」「wevox」

 長年企業取材をしてきた私には俄かには信じがたいが、アトラエは創業時から従業員の働き甲斐を原理原則にした組織づくりに拘り続けてきた。

 新居佳英代表取締役CEO以下、役員陣は社外取締役を含めて7名体制。だが、部長・課長職者は皆無。役職を撤廃し自律分散型組織で職務遂行に徹している。例えば新規事業の提案・創出も、役職の無いメンバーが担う。2016年の、組織力向上プラットフォーム「Wevox」の開発もそうだった。爾来、Wevoxを通じ3260社を超える顧客(企業)の組織づくりと関わってきた。

 そうした流れの中で昨年7月、アトラエは「三井住友FGとの間で、企業の組織力や企業価値の向上を支援する合弁会社の設立を目指す基本合意書を締結した」と発表した。

 昨年10月2日に設立された合弁会社は「SMBCWevox」。三井住友55%/アトラエ45%の出資比率。手元の会社四季報では「三井住友FGとの合弁会社の始動は、アトラエのWevox事業拡充のかっこうの引き金になる」としている。

 実はこの合弁会社も、三十路入り口の若いメンバーの牽引で実現している。

 川本周氏。2016年の新卒入社。就職活動中のイベントで出会った当時の新居代表のプレゼンを、こう振り返っている。

「正直、驚きました。面白い企業があるんだなと思いましたね。1時間のうち50分近くが、何故うちは役職を撤廃しているのかにはじまり、なぜ理想の組織を創りたいのか?どうすれば創れるのか?に終始していたんです」。具体的には、こんな話が縷々続いたという。

「会社とは関わる全ての人を幸せにするための仕組みであり、ビジョンを実現するために意欲と想いのあるメンバーが集まってできるチーム。そんな意欲と想いがあるメンバーが、社内政治や出世争い、派閥や悪しき慣習などの無駄なストレスによって、活き活きと働けないような組織にだけはしたくない。意欲あるメンバーが無駄なストレスなく、自分達が信じることに情熱やエネルギーを注ぎ、挑戦し続けることができる組織であり続け、社会に価値を届ける」。

合弁会社設立への道程

 事は、川本氏の社外イベント登壇に始まった。2019年。合弁の相方となった三井住友銀行(FG)の杉本秀和氏が、そのイベントにたまたま参加していた。杉本氏も当時は30代前半。「何かを変えたい、何者かになりたいという焦りに似たものがあった。ヒントを求めて講演会などの社外イベントに参加する中で、アトラエの川本さんと出会った。自分よりも若い方でこんなにも活き活きと、組織と向かい合っている人がいるのだと感動したことを覚えている」(SMBC DX―link 2023年10月2日配信)と振り返っている。その後の懇親会で川本氏も、「こういう人に我々のサービスをもっと届けたいと強く思ったことを覚えている」という。

 が、早々に合弁会社云々が浮上したわけではない。

 2023年初め、杉本氏は外部企業への出向から三井住友銀行に戻った。「事業の成長は、結局のところ人。ビジネスパーソンのエンゲージメントや働きがいは、組織のパフォーマンスに直結し事業の業績にも大きな影響を与える」という想いをより強くしていた。かかる中、「川本氏の顔がフッと浮かんだ。話を聞いて欲しいと連絡した。100枚にわたる資料を持ってお目にかかった。合弁会社構想も含め、具体的に一緒に日本の組織を良くしませんかと提案した」。川本氏は「レポートを拝読し、合弁構想にも触れ鳥肌が立った」とその時を思い返す。

 川本氏は、杉本氏の熱意と合弁構想をすぐさま新居代表に伝えた。新居代表は「やってみたら?」とだけ頷いた。そして時折、「進んでいるか」と聞くだけですべてを川本氏に任せていた。新居代表の「チーム論」の浸透が窺えるこの上ないエピソードである。

 いま川本氏には、肩書がついている。SMBC Wevox取締役副社長(社長は杉本氏)。自ら創り上げた会社で、「日本を世界で誇れる国にする」というビジョンのもとに、新たな挑戦に邁進している。