少子高齢化や地域の過疎化が進むなか、地方の大学には、地域と連携して学生の社会参画を促し、地域社会を支える人材を育成する役割が求められています。
その中で、学生が地域社会での実務経験を通じて自らのキャリアを形成し、同時に地域に貢献するための新たな教育プログラムが注目を集めています。こうした取り組みは、学生にとっては貴重な成長の場となり、また地域にとっても持続的な発展を支える重要な役割を果たしています。
星槎道都大学(北海道北広島市)の独自プログラム「きゃり・プロ」は、有償型インターンシップを通じて学生が実社会での経験を積み、学内では得られない実践的なスキルや社会人としての意識を身につけることを目的としています。
本記事では、きゃり・プロを創設し、運営してきた飯浜浩幸学長に、プログラムの成り立ちやその意義、学生や企業からの反響、そして今後の展望についてお話を伺いました。
有償型インターンシップ「きゃり・プロ」とは
―― 貴学独自の有償型インターンシップ「きゃり・プロ」の概要を教えてください。
星槎道都大学 飯浜浩幸学長 :星槎道都大学の「きゃり・プロ」は、「キャリア プログレス」、つまり「キャリアの進化」を意図した名称がつけられた、本学独自の「有償型インターンシップ」制度です。
この取り組みは、学生が実際に業務を経験することを通じて、就労意識やコミュニケーション能力の向上などの学生自身の成長、就職活動への自信の付与、地域社会への貢献、さらには学生への経済的支援を目的としています。
このプログラムはキャリア支援科目としての役割も担っており、「インターンシップ・きゃりプロプログラムⅠ~Ⅳ」として、1年生から4年生までの学生を対象に開講されています。
通常のインターンシップとは異なり、給与が支払われるため、学生にはより高い責任感が求められるほか、実務能力や職業意識の向上も期待されています。現在、本学の学生の約20%がこのプログラムを履修しており、この意義は大きくなっていると感じています。
学生にとってのメリットとして、まずは自身のライフスタイルに合わせて将来の就職活動に役立つ、さまざまな職場体験ができる点が挙げられます。
また、働きながら単位を取得できることも大きな特徴です。1年生から4年生までの各年度で1単位が認められています。
さらに、本学では資格取得なども含む「サブメジャープログラム」が23種類用意されており、卒業要件として、少なくとも1つのプログラム単位を取得する必要があります。
この「きゃり・プロ」も、サブメジャープログラムの1つに位置づけられており、キャリア支援教育の一環として、学生が自身のキャリアを真剣に考え、成長を促すための重要な機会となっています。
この制度で収入を得ることもできるため、生活費の負担を軽減できる点も、学生にとっての大きな魅力でしょう。
―― 「きゃり・プロ」は、どのような経緯や考えに基づき作られたのでしょうか?
飯浜学長:私たちが本格的にキャリア支援教育に力を入れ始めたのは、今から10年ほど前のことです。当時から、企業の方々をお招きするキャリア支援科目を設けていましたが、やはり学外でのインターンシップ経験が学生にとって非常に重要であると考え、特に外部での実習に重点を置いていました。
その頃、本学には経済的に厳しい状況にある学生も多く、生活費のためにアルバイトが欠かせないという学生も少なくありませんでした。アルバイトを休んでインターンシップに参加することを躊躇する学生もおり、その障壁をなんとかして取り除けないかと模索していたのです。
そんな折、ある経営者の方とお話しした際に、「『有償型インターンシップ』という形があるのではないか」というご提案をいただきました。それまでも頭の片隅にあったアイデアでしたが、実際に受け入れ側となる企業の方からこのようなアドバイスをいただいたことが大きな後押しとなり、1社からスタートする形で導入に踏み切りました。
また、本学には社会福祉学部もあり、地域社会への貢献という観点からも有償型インターンシップは大きな意味を持っています。当時から社会福祉の現場では慢性的な人手不足が問題となっており、きゃり・プロを使い社会福祉法人で働くことは、学生にとっても実習とは異なるかたちで現場を学べる貴重な機会であると同時に、地域に貢献できる取り組みでもあります。
この取り組みは、本学の大きな強みの一つです。今後も学生の多様なニーズに応えられるよう、本学の思いに賛同いただける企業や団体を増やしていきたいと考えています。
きゃり・プロで学生が成長し、地域と信頼が結ばれる
―― 「きゃり・プロ」を学外へ広げるにあたり、貴学ではどのような取り組みをされていますか?
飯浜学長:本学では、有償型インターンシップの普及に向けて主体的に営業活動やPR活動を行ってきましたが、きゃり・プロの存在を知らない企業は、まだまだ多くあります。
時折、人手不足や新店舗オープンに伴い、学生アルバイトの採用を考えているという相談が本学のキャリア支援センターに寄せられることがあります。そうした際には、センター長自らが「本学では有償型インターンシップを実施しており、すでに複数の企業が協力しています」と紹介することで、企業がきゃり・プロに関心を持ってくれるケースも少なくありません。このような流れから、本学と連携協定を結び、きゃり・プロに参加する企業も出てきました。
現在、社会福祉法人を含む6社の企業が賛同しています。直近でもさらにもう1社の社会福祉分野の企業とも協定の締結を進めており、まもなく正式に結ばれる予定です。
私自身も、「協力企業をもっと増やしていこう」と発信しています。特に本学のキャリア支援センターはこの取り組みをとても重要視しており、センター長も積極的に企業に声をかけ、賛同してくださる企業を増やすために努力を続けています。
このプログラムを通じて、「学生を単なるアルバイトではなく、社会人としてしっかり育てていただきたい」という思いもあります。企業から学生へのフィードバックを丁寧に行っていただき、新人職員を育成する時と同じような姿勢で指導していただきたいと考えています。
今の時代、そういった余裕のある企業は少なくなっていますが、それでも「一緒に社会人を育てていこう」という思いに賛同し、受け入れてくださる企業があることに感謝しています。
―― 学生と企業の間に大学が入ることで、学生も安心して挑戦できるのではないでしょうか。学生の方々からは、どのような感想が届いていますか?
飯浜学長 :本学では必ず連携協定を結び、受け入れ企業の方々に来校していただき、説明会を開催しています。窓口はキャリア支援センターが担当し、企業の説明を受けながら研修を行った上でプログラムがスタートするため、学生も具体的なイメージを持って参加するかどうかを判断できるのではないでしょうか。
また、説明を聞いた上で「自分には少し違うかも」と感じた場合は参加しない選択も可能です。その点でも、学生が安心して取り組める環境になっていると感じています。
先日、学生をきゃり・プロで受け入れて1年から2年が経つ民間企業2社の担当者の方と、そこに参加している1年生から4年生の学生が集まり、きゃり・プロのフィードバック会を開催しました。
参加した学生からは、例えば「積極性や協調性が身についたほか、接客の業務の基礎を学ぶことができた」という感想がありました。この学生は、人材派遣会社を通じて、北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドのグッズショップやビールの売り子として働き、貴重な経験を積んだようです。
ほかにも、「さまざまなお客様と会話する中で話し方を学び、諦めない心や挑戦する気持ちの大切さを実感した」「他校や幅広い年齢層の友人ができた。プライベートで一緒に遊んだり、相談できる仲間が増えたのは、この仕事ならではの魅力だと感じた」という感想もありました。積極的にコミュニケーションを取るなど、意欲的に取り組んだことで、就職活動にも自信を持てるようになったようです。
また、生活協同組合コープさっぽろで働いた学生からは、「スーパーでのレジ打ちなど接客の仕事を通じて、働くことのイメージが変わり、大変な中にも楽しさがあることがわかりました」という感想がありました。地域の企業で働くことで地域の方々と関わり、貴重な体験になったと感じたようです。
このような感想を聞くと、本学が目指してきた目的が着実に達成されていることを実感します。接客を通して得られる学びは、学内だけでは得られない貴重なものです。特に「諦めないで挑戦する気持ちが大切だ」と感じてくれた学生がいたことには、私自身も嬉しく思いました。
フィードバック会で学生が熱心に話している様子を見ると、やはりアルバイトとは異なるものだと感じます。裏では手間もかかりますし、受け入れ企業の方々にも苦労をおかけしていますが、それでも「学生を育てたい」という思いで真剣に取り組んでくださっているからこそ、今のような充実した感想を学生が持てるのだろうと感じています。
本学も、企業と一緒に学生を育てたいという思いを持っています。目指している方向が学生に浸透していることが感じられる、非常に意義深い報告会でした。
学生と企業の架け橋となるきゃり・プロ。実践経験が就職に結びつく事例も
―― 「きゃり・プロ」がきっかけとなり、学生の就職につながった事例もすでにあるのでしょうか?
飯浜学長 :きゃり・プロは10年ほど前に始まりましたが、ここ数年はコロナ禍の影響もあり、本格的に軌道に乗り始めたのはこの2年〜3年ほどです。そうした中で、今年3月に卒業した学生の中には、きゃり・プロを経験した後、そのまま受け入れ企業に就職したケースが出てきました。
このような事例が出てきたことは本当に嬉しく、企業と学生双方にとって良い関係が築けた結果だと感じています。この実績をもとに、「きゃり・プロを経て就職した卒業生がいます」とPRすることで、今後さらに説得力が増してくるのではないでしょうか。
さらに、現在の4年生からも、同様に就職につながる学生が出そうだという話も聞いています。こうした形での就職が増えていけば、学生もより安心して参加できるでしょう。今後、きゃり・プロが1つの就職ルートとして定着していくことを期待しています。
―― きゃり・プロが始まって約10年とのことですが、これまでこの取り組みに携わられる中で特に印象に残っている成果や、感じている素晴らしさについて教えていただけますか?
飯浜学長 :先ほどお話ししたフィードバック会では、企業の方が学生に対して「こういう思いを持って指導していました」と話してくださいました。学生の感想や企業の指導方針が、私がきゃり・プロに込めている思いとぴったり一致し、実現していることを実感しています。
一言で言うと、「チャレンジして、得意なことや苦手なことを見つけよう」ということです。きゃり・プロを通じて、企業の方々が学生に体験してほしいこととして挙げてくださった3つの内容が非常に印象的でした。
1点目は、「意識して学外の人たちと積極的に交流を持ってほしい」ということです。これは、多面的な考え方や多様な価値観を身につけるために重要です。
2点目は、「好奇心を持ってさまざまな情報に触れ、得意なことや好きなことを見つけてほしい」ということです。学生に多くのことに興味を持って積極的にチャレンジしてほしいというのは、私自身も強く願っていることです。
3点目は、接客経験を通じて、社会で大切な5つのポイントを学んでほしい、ということです。そのポイントとは、「相手を第一に考えること」「プロ意識」「学習意欲」「根気強さ」、そして「チームワークの中で自分の個性や意見を持つこと」です。
特に、今の若い世代は個性を尊重する風潮があるので、チームの中で自分の個性を発揮し、自分の意見をしっかり持つことは重要です。こうした内容を企業の担当者の方が実際に指導し、学生にも話してくださいました。
これらのポイントは、私たち教職員がいくら話しても実感が湧きにくいものであり、実体験の中でしか気づけない部分です。本学の思いを理解し、それを踏まえて熱心に指導してくださる企業の皆さまに本当に感謝するとともに、学生が得られた気づきに繋がっているのだと実感しました。
この取り組みは、学生を受け入れる企業側にも大変な手間がかかるため、参加に躊躇する企業もまだ多いのが現状です。それでも、「学生と真剣に向き合い、社会人として一緒に育てていきたい」という思いに賛同した企業が受け入れてくださっているのです。この取り組みを通じて、企業と学生が共に成長する素晴らしい場が広がっていくことを期待しています。
「学生成長率ナンバーワンの大学」へ。地域とともに歩むきゃり・プロの挑戦
―― 今後の展望についてお聞かせください。
飯浜学長:企業にとっては、人手が足りないという点だけで考えれば、インターンシップよりもアルバイトのほうが都合が良い場合もあるでしょう。しかし、そこで私たちの思いに賛同し、「社会人として学生を共に育てましょう」という理念を理解してくださる企業があることに、大きな意義があります。
この取り組みには社会貢献の要素も含まれており、ただのインターンシップとは異なる本学のコンセプトに共感いただいているからこそ、企業も時間を割いて学生に真剣に向き合ってくださっているのだと思います。
フィードバック会で報告を聞いていると、企業担当者の方も「学生はこんなに成長したんだ」「こんなことまで話せるようになったんだ」と驚く場面がありました。この成果は、私たちがこの取り組みに込めた思いに企業の方々が共感し、それに基づいて学生に接してくださった結果だと感じています。今後も学内での積極的な発信やキャリア支援センターとの連携を通じて、このプログラムの価値をさらに高めていきたいと考えています。
現在、特に地方の小規模大学に求められるのは、学生が何を身に付けて卒業するかという点です。かつては、教員が「これが大事だ」と一方的に教え込むスタイルが主流でしたが、そうした方法は学生には響かず、力になりません。
今の学生は、自ら体験し、「これは困った」「これが大事だ」と実感し、自分ごととして気づかなければ、主体的に学べません。しかし、一度気づきを得ると「この授業は大事だ」「この分野をもっと学びたい」と自ら学びを深めていくことができます。私が学長になって4年目ですが、この間にも大学での学びはそのような方向にシフトしていると感じます。
本学では「学生成長率ナンバーワンの大学」をスローガンを掲げ、地域を「キャンパス」として、積極的に学生を地域に送り出していく所存です。ただ、本学単独では限界があり、また学生の個性や特長も異なるので、産官学が連携し、地域の皆さまと一緒に学生を育てていくことが重要です。
単なるボランティアではなく、地域の方々や企業、行政の協力を得て学生の学びの場を広げてきました。この取り組みを10年かけて進めてきたことが、現在のきゃり・プロに対する評価にも繋がっていると感じます。
また、本学では「偏差値より変化値」、つまり「学生がどれだけ成長できたか」を重視しています。大学4年間でどのように変化するかということ、それに加えて学内外に「居場所」を作ることが大切だと考えています。
この居場所は、教員の研究室や課外活動の場だけでなく、地域やインターンシップ先での関わりを通じて外にも広がるべきです。学生の感想にもあったように、他校の学生や市民、お客様との交流を通じて勤務先が新たな居場所としての役割を果たしていることが伝わってきます。
このように、スローガンを体現し、本学の強みをさらに活かしていきたいと考えています。今後も本学のユニークな学部学科構成や多様な学生のニーズに応えられるよう、私たちの思いに共感し、賛同してくださる企業をこれからも開拓していきます。