立正大学は、性別や年齢、国籍を超えて多様な人々が参加できる生涯学習を推進し、地域の社会課題である高齢化にも取り組みながら、世代を超えた学びの場の創出に挑戦しています。
その一環として立ち上げられた「生涯学習インクルージョン化プログラム」では、学生たちが小中学生を対象に、デジタルデトックスや食育など、現代社会に欠かせないテーマを取り入れたユニークな学びの場を提案。世代間の交流を通じて、多様な価値観を育む場づくりに取り組んでいます。
今回のインタビューでは、プロジェクトに参加している学生たちや、指導者である小林一博さん、野垣貴子さんに、取り組みの背景や活動内容、学生たちの成長について伺いました。
柔軟な発想と実践的なスキルを磨きながら、新たなアイデアを次々と形にしていく学生たちの姿が印象的です。彼らが挑む多世代交流と学びの場の実態とは? 生涯にわたって活かせる学びを体現するプロジェクトの魅力に迫ります。
世代を超えた学びと地域貢献を目指す「生涯学習インクルージョン化プログラム」
―― 立正大学のイベント企画提案プログラム「生涯学習インクルージョン化プログラム」とは、どのような取り組みですか?概要を教えてください。
立正大学 総務部 研究推進・社会貢献課 小林一博さん:
「生涯学習インクルージョン化プログラム」は、2024年6月からスタートした、学部や学年を超えた学生たちがイベントを企画・立案するプログラムです。
本学の品川キャンパスでは、地域の方々と連携した生涯学習講座の開設を検討していました。その中で、品川区の方から「高齢化が地域の課題の一つなのです」というご意見をいただいたことが、このプログラムを始めるきっかけとなりました。
生涯学習というと、これまではどうしても60代から80代のシニア層が中心となるイメージが強かったのでないかと思います。しかし、自治体をはじめとする地域からは、年齢の壁を取り払い、小中学生など若い世代も参加できる講座を求める声がありました。
そこで本学では、年齢や性別、国籍に関係なく、誰もが参加できる「インクルージョン」な講座を実現するために学生を募り、「生涯学習インクルージョン化プロジェクト」を立ち上げました。プロジェクトを開始してから、すでに何度かワークショップを開催し、講座の企画を進めていますが、最初の頃は学生からも「生涯学習は年配の方が参加するイメージが強い」という意見が多く出ました。
そのような状況の中、今回は小学生から高校生の課題解決能力や主体性を育むことを目的に、品川区でも活動されている「一般社団法人キッズM」で代表を務めている野垣さんと協力して企画を進めています。
―― 社会人向けのリカレントプログラムは多くの大学で実施されていますが、小中学生もターゲットとした取り組みは珍しいのではないでしょうか。野垣さんは、大学から声をかけられた際、どのように感じられましたか?
一般社団法人キッズM代表理事 野垣貴子さん:
最初に立正大学さんからお話をいただいたときは、正直なところ驚きました。しかし、「生涯学習」は「一生涯の学び」を意味するように、いつ、誰が学んでも良いものだと思います。
学びは、授業や講座だけでなくさまざまな経験からも得られるものですし、「学びたい」という気持ちがあれば、場所にとらわれることなく続けられるものです。また、「学ぶことが楽しい」という感覚を子どもの頃から育むことで、その後もずっと学び続けられるのではないか、という考えもあり、このプロジェクトに共感しました。
現在は小学校でも探求学習が導入され、子どもの頃から自ら学ぶ姿勢を身に付けることが重要視されていますが、大学生になるとその意識が少し薄れてしまう場合もあるようです。だからこそ、この取り組みにはとても意義があると感じ、参加させていただいています。
立正大学生が挑む、新たな生涯学習のかたち
―― 学生の方々は、どのような経緯でこのプロジェクトに参加されているのでしょうか?
小林さん:本学が開催した説明会に参加し、そこで興味を持った学生たちがこのプログラムに参加しています。アルバイトやインターンなど、さまざまな活動と両立しながら、現在は約10名の学生たちが企画に携わっています。学生たちは皆それぞれ忙しいので、Teamsを活用してオンラインでもコミュニケーションを取っています。出欠確認や連絡事項の共有はもちろん、ちょっとしたアイデアも気軽にチャットで共有できる環境を整えています。
野垣さん:ワークショップは、授業が終わる18時頃から開催しており、終わりが21時を過ぎることもあります。さらに、このプロジェクトは単位認定の対象ではありません。その点を説明会でも明確に伝えましたが、それにも関わらず複数名の学生さんが自発的に申し込んでくれました。普段の活動の様子からも、皆さんの意欲の高さを感じています。
野垣さん:ワークショップは、授業が終わる18時頃から開催しています。この取り組みは、単位認定の対象ではありません。その点を説明会でも明確に伝えましたが、それにも関わらず複数名の学生さんが自発的に申し込んでくれました。普段の活動の様子からも、みなさんの意欲の高さを感じています。
―― 単位が認定されないのに遅くまで活動されているんですね。参加する学生の皆さんは、どのような目的や目標を持っているのでしょうか?活動の様子についても教えてください。
野垣さん:学生さんたちの参加の動機はさまざまだと思いますが、「授業では学べないことを学びたい」「他学部の人たちと交流したい」という思いがあるように感じています。
また、自ら進んで参加を続けている姿勢からは、まさに生涯学習の本質を経験している様子が見受けられます。誰かに教えられたり押し付けられたりするのではなく、「自分の経験から何を学んでいくか」という姿勢が身に付けば、生涯学習はいつでも続けていくことができます。そういったことを私は学生の皆さんに伝えていきたいと思っています。
小林さん:ワークショップではいくつかのチームに分かれ、小学生が楽しく参加できる生涯学習の企画アイデアを出し合っています。例えば、ホワイトボードに付箋を貼って視覚的にアイデアを整理する手法も取り入れるなど、アウトプットを大切にしていますね。
野垣さん:ワークショップでは、私が一方的に教えるのではなく、私が提示したフレームワークを基に皆でが考え、議論し、アイデアを形にしていくことを重視しています。
ディスカッションを中心に進めている一方、最終的にはプレゼンテーションで自分たちのアイデアを発表する機会も設けています。そのため、プレゼンの基礎についてもしっかりと伝え、繰り返し実践することで、自然にプレゼンスキルが身につくような工夫も取り入れています。
実は、私は以前、企業の人材育成に長く携わっていました。プレゼンテーション能力は、社会人にも必要なスキルです。学生さんたちがこのスキルを早い段階で身につけておけば、社会に出たときに大いに活かせるだろうと思い、その点も意識して伝えています。
こうしたスキルは、社会人になってから学ばなければならないものではなく、むしろ学生のうちに習慣として身につけておくことで役に立つはずです。私自身も、大人になってから新しい習慣を身につける難しさを痛感し、子ども向けのキャリア教育プログラムを立ち上げました。
―― ワークショップやディスカッションの雰囲気や様子はいかがですか?
野垣さん:ワークショップでは、「生涯学習って何だろう?」「小学生や中学生は生涯学習のことをどう思っているんだろう?」という根本的な問いから、生涯学習に触れる具体的なイベント企画へと発想を広げています。
どうすれば生涯にわたって学び続けられるのか、そして学びに興味を持ってもらうにはどうすれば良いのか、そうした視点から、学生さんたちと共に考えていますね。遅い時間にもかかわらず非常に熱心に取り組んでくれる様子から、皆さんの勉強熱心さを感じています。
小林さん:本学の社会貢献課が行っているカリキュラムは、単位を取得できるものではなく、社会に出た際の糧となるような実践的な学びの場を提供するものです。多くの学生がこうしたプログラムに参加してくれることから、特に意欲の高い学生が集まっていると感じています。
また、生涯学習インクルージョン化プログラムだけでなく、短期海外留学や北海道で行うプロジェクトなど、さまざまな取り組みに多くの学生が積極的に参加しています。1つのプログラムに留まらず、多様な経験を求めて活動している姿勢が印象的ですね。
学生たちが語る、自主性やスキルの成長
―― 生涯学習インクルージョン化プロジェクトに実際に参加されている、立正大学の学生のお二人にお話を伺います。お二人は、なぜこのプロジェクトに参加しようと思ったのですか?
森川悠大さん:僕は今年大学に入学してから、「大学生として自主的に何か行動を起こしたい」と考えていました。ちょうどその時、友人がこのプロジェクトに参加すると聞いたことが最初のきっかけです。
自分自身の経験を積むことができるだけではなくて、大学や地域に貢献するというか、僕なりの提案はできると思って、色んな面でプラスになるなと感じ、参加しました。
梅澤里菜さん:私は大学2年生になった時、「1年生の時は何もしなかったな」と感じていました。そこで、大学のさまざまな企画に片っ端から応募していた中の1つに、このプロジェクトがありました。
あと、高校時代は学校の指針として生徒がプレゼンをすることが多かったんですが、大学に入ってからはその機会が減ってしまいました。あらためてプレゼンスキルをしっかりと磨きたいと思ったことも、参加理由の一つです。
―― 実際にワークショップに参加してみた印象はいかがでしたか?
森川さん:最初の印象は、「自由だな」と。誰かが前で話している時も気軽にお菓子を食べたり、それでいて実践的なスキルを学ぶこともできたり。
梅澤さん:普段は他の学部や学年の人と関わる機会が少ないので、新鮮でした。最初はどう関わっていいのか分からなくて少し戸惑いましたが、今ではみんなと自然に話せるようになりました。
―― 小学生でも参加できる生涯学習について考えているとお聞きしました。現時点では、どのようなアイデアが出ていますか?
森川さん:「学び」をテーマに、現時点では三つのアイデアを検討しています。「デジタルデトックス」と「食育」と「情操教育」です。
「デジタルデトックス」は、人気番組「逃走中」の要素を組み合わせて、楽しみながらデジタルデバイスから離れる体験を提供したいと考えています。
「食育」では、フードロスに着目しています。品川の商店街の方々とコラボして、商店街に行く機会が少ない子どもたちに食の大切さや街の人との交流を学んでもらえるような企画を考えています。
最後に「情操教育」なんですが、ワークショップの当初から、小学1年生から6年生の全学年を対象にするのは難しいと話題に挙がっていました。最近のディスカッションでは、むしろ中学生も視野に入れようかという意見も出ています。他人の感情を読み取ったり、自分の感情を理解したりする力は、思春期の中学生にとっても必要です。ただ、小学生と中学生ではできることに大きな差があるので、そこをどう埋めるのかが一番の悩みどころですね。
小林さん:最近は小学校でもタブレットが支給されていて、子どもの頃からテレビやYouTubeを見る機会が増えています。デジタル環境から少し離れ、別の世界を体験してもらうことが、学生たちが考える重要なテーマの一つとなっているようです。
森川さん:プロジェクトを始めるにあたって、現代の子どもたちに必要な学びについて話し合った際、「デジタルデトックス」や「食育」が挙がったんです。特に、今はスマートフォンを持つ子どもが増えているので、実体験から学んでほしいと感じているメンバーは多いですね。
梅澤さん:ディスカッションでは、「逃走中」のような要素が最初の頃から話題を集めていました。ただ単に追いかけっこをするんじゃなくて、品川区の魅力や立正大学について学べるクイズなどの要素も加えることで、楽しみながらデジタルデトックスを体験できる企画を考えています。
―― このプロジェクトに参加してみて、ご自身の生活や学びにどのような影響がありましたか?
梅澤さん:ワークショップで学んでいることを、普段の生活でも活かせるようになりました。例えば、ほかの授業の発表でも、意識して言葉を選んだり、周囲に分かりやすく伝えることを意識するようになりました。
あと、普段は考える機会のないテーマについてみんなで話し合っているので、日常的に「これいいな」「あれもいいかも」といった発想が出やすくなったなと。
森川さん:僕も全く同じです。今回のプロジェクトは、小学生や中高生といった自分たちより若い世代が対象なので、その年代ができることやしたいこと、飽きずに楽しめる企画を考えることが難しいです。
自分一人で考えていたら「学び」という言葉に引っ張られて凝り固まってしまうところが、他のメンバーの柔軟な発想を聞くと「そんな考え方もあるんだ」「こう組み合わせられるんだ」みたいな、新しい発見がたくさんあります。 プロジェクトに参加しているとプレゼンのスキルも上がりますし、色んな面から視野が広がっているのを感じます。
学生の柔軟な発想と積極性で、生涯学習の未来を拓く
―― 野垣さんと小林さんは、取り組んでいる学生さんたちの姿勢を見てどのように感じていますか?
野垣さん:今の取材で答えている姿を見ても、彼らがワークショップで学んだことを自然に活かしてくれていると実感しました。経験から学び、それを自分の習慣にしていく姿勢は、私がキッズMで大切にしている信念でもあります。それを学生さんたちが体現し、言葉にしてくれていることは、本当に嬉しいことです。
森川さんもお話ししていたように、立正大学の学生さんは非常に素直で柔軟な発想を持っており、伝えたことをすぐに取り入れてくれると感じています。このプロジェクトはまだ始まって間もなく、月2回と決して多くない頻度ですが、その中でここまで理解を深めているのは、立正大学の学生さんならではだと感じています。
小林さん:このプロジェクトに限らず、こうした有志活動に参加する学生たちは非常に意欲的で、順応力が高いです。
森川さんから「ターゲットを小学生だけでなく中学生にも広げてはどうか」という話がありましたが、実はこの取材の直前に行ったワークショップでは、職場体験で本学を訪問している中学生を招き、皆でインタビューを行っています。
毎年、異なる個性を持った学生がこうした取り組みに参加してくれるので、私たち職員にとっても新たな発見があります。
野垣さん:私が立正大学さんとお仕事をさせていただくのは昨年に続いて2回目ですが、「学生さんにさまざまな経験をさせたい」という大学職員の皆さんの強い熱意を感じています。
このような熱心な職員の方がいる大学で学べる学生さんは、本当に恵まれていると思います。私が学生だった頃と比べても、地域との連携が非常に強く、素晴らしい環境です。立正大学さんは、学生一人一人のことを真剣に考えている姿勢がすごく良いですね。優秀な学生さんも多く在籍していて、前向きで素直な校風が魅力だと感じています。