千葉県は全国有数の農業県として知られ、野菜や花きをはじめとする多彩な作物が栽培されています。そんな千葉県で、農業の担い手育成を担う中核的な教育機関が「千葉県立農業大学校」です。
千葉県立農業大学校の「農業研修科」では、農場実習と座学を組み合わせた充実のカリキュラムを通じて、農業未経験者でも基礎から経営までを段階的に学ぶことができます。温暖な千葉の気候を活かしながら、多品目栽培にも挑戦できる環境が整っており、都市部から引っ越して受講する人もいるそうです。
今回は、農業研修科の科長である増田準子さんに、同科の魅力や就農支援の取り組みについてお話を伺いました。
(研修内容は令和7年度のものです)

千葉県の農業振興を担う4つの科
――まずは、千葉県立農業大学校について教えてください。
本校の前身である千葉県農業大学校は、農業短期大学校と農業経営短期大学校を統合し、昭和54年に千葉県唯一の農業者研修教育施設として東金市に開校しました。その後、平成24年には専修学校「千葉県立農業大学校」として新たにスタートを切りました。
現在の千葉県立農業大学校には、4つの科があります。
「農学科」は、高校を卒業した人や高卒同等以上の学力があると認める者が、農業の基礎技術を学ぶ科です。
次に、より専門的な技術や農業経営の手法を研究する「研究科」があり、本校の農学科や、農業系の短期大学を卒業した人が主に進学しています。
「農業研修科」は、千葉県内で新たに農業を始めたいと考える人を対象に、実践的な研修や講義を行っています。
「機械化研修科」では、県内の農業者や新規就農を希望する人に向けて、トラクターやけん引免許の取得に関する研修など、農業機械の安全な操作を指導しています。
――増田さんが科長の農業研修科は、県内で新規就農を目指す人を対象としているのですね。
そうです。令和7年4月に入学した19人のうち、大半は会社勤めを辞めて農業に挑戦しようと決意した人たちです。農家の後継者もいますが、全体としては脱サラして農業を志す人が多くを占めています。


3つの研修で未経験から新規就農を目指す
――では、次に農業研修科について教えてください。
農業研修科では、研修生の目的やスキルに応じて3つの研修を設定し、研修を選択して受講することが可能です。その一つである「農業者養成研修」には、研修期間が3か月・6か月・12か月の3コースあります。4月から始まる前期は3コース、9月から始まる後期は3か月、6か月の2コースを開講しています。
――農業未経験の人でも参加できそうでしょうか。
農業未経験の人でも安心して学べるよう、鍬や鎌の基本的な使い方から指導します。道具の選び方も研修生に合わせ、教員が丁寧にアドバイスしています。



実践的な農場実習と自主プロジェクトで経験を深める
――「農業者養成研修」の3つのコースでは、学べる内容も異なるのですか。
最初の3か月間は、3つのコースが合同で同じ授業を受講します。研修は月曜日から金曜日に行われ、午前中は座学、午後は実習という構成です。
月・水・金曜日の午後は、教員主導によるプッシュ型の農場実習を実施しています。火・木曜日の午後は、研修生それぞれに露地圃場やハウスを割り当て、自らの計画に基づいてプロジェクト活動を行ってもらう流れになっています。
――6か月・12か月のコースを選択した人は、4か月目以降、どのように実習を進めるのですか。
火・木曜日は、トマトやキャベツなど将来栽培したい作物を実際に育てている農家にて、農家実習に取り組みます。月・水・金曜日は大学校の農場で、農場実習と自分に割り当てられた圃場での作業を進めます。6か月コースの人は9月で修了となり、12か月コースの人は翌年3月まで研修を継続します。
――例えば、農業未経験の人が「農業者養成研修」の12か月コースに参加した場合、研修修了後すぐに就農するのでしょうか。それとも、更に別の段階に進む人もいるのですか。
研修修了後農地が確保できた人は、4月から農業を始めています。ただ、農地とのマッチングがスムーズにいかないことも多いので、皆さん概ね土地が見つかり次第、就農に移行するという感じです。
また、農業者養成研修のあとに、「就農実践研修」という段階も設けています。これは、学校が所有するハウスや圃場を使い、農業経営の経験を積むための研修でそこに進む人もいます。


温暖な気候が可能にする多品目栽培
――農業研修科では、どのような品目を学ぶのですか。
主に施設野菜、露地野菜、花きの栽培について学びます。
――施設野菜は、どのような作物を育てているのですか。
春から夏はトマトとミニトマトを栽培しており、夏から秋はナスやピーマンの栽培も予定しています。春先はトウモロコシも育てていました。暖房設備があるハウスを活用してトマトやミニトマト、イチゴの栽培も行います。また、暖房設備のないハウスでは、葉物野菜の栽培にも取り組み、小松菜、水菜、サニーレタス、レタスなどを育てています。
――露地野菜は何を栽培していますか。
露地野菜は多品目にわたります。春から夏は空豆、ネギ、大根、ニンジン、玉ねぎ、ラッキョウ、ニンニク、スイカやカボチャ等の栽培を実施しています。ジャガイモや里芋などの栽培もしています。最近ではサツマイモを希望する人が増えてきたことから、その栽培にも取り組んでいます。
冬はキャベツ、大根、ネギ、ブロッコリー、白菜などを中心に栽培しています。
――施設と露地を合わせると、スーパーで見かけるような野菜はほとんどできそうですね。
同じ千葉県内でも、地域によって栽培の向き不向きはありますが、県全体としては様々な作物が育てられています。
――農業研修科では、研修生は多くの品目を育てながら実践的な経験を積みつつ、将来育てたい作物を見つけていくのでしょうか。
最初から「メロンを育てたい」「サツマイモに取り組みたい」と明確な目標を持って入学する人もいれば、研修のなかで様々な作物に触れ、複数の選択肢から迷いつつ方向性を見つけていく人もいます。



就農を目指して千葉県へ移住。東京都からの受講生も
――東京都から千葉県立農業大学校に通われている人もいるのですか。
はい。東京から希望して受講される人もいますが、通学が難しいため千葉県内に引っ越すケースもあります。県外からの受講でも、将来的に千葉県内で農業を始めるのであれば問題ありません。
――農地は、希望すれば比較的手に入りやすいものなのでしょうか。
マッチングが難しい部分もありますが、現在は農地中間管理機構や市町村の農業委員会などに相談しながら、進めてもらっています。自宅の近くで就農したいと考える人もいれば、場所にはこだわらず「引っ越しても構わない」ということで、千葉県内へ移住して就農する人もいます。
――未経験から研修を受けて就農することは、かなりの決断だと感じます。経済的にも負担がかかりますよね。
そうですね。条件に合う場合は多くの人が、就農準備資金などの制度を活用しています。
――そうして独立して就農された人は、どのくらいいますか。
昨年度は、卒業時点で7〜8割の人が就農しています。
令和6年度の修了生は、玉ねぎやトマト、多品目栽培での就農など品目は様々です。
卒業後も学校に相談に来る方もおり、栽培や営農に関しては農業事務所や市町村の農政課などへも相談に伺っています。
――県立の学校で、基礎からしっかり教えてもらえて、就農まで支援が受けられるのは、とても心強いですね。
ありがとうございます。これからも、千葉県農業の担い手育成に力を入れていきます。
