共愛学園前橋国際大学:限界集落で地道なみまもり活動をする「共愛 COCO」の素朴で誠実な孫たち

群馬県前橋市にキャンパスを置く共愛学園前橋国際大学。同大学で2015年からスタートした学生プロジェクト・共愛COCOは、みなかみ町の限界集落を拠点に、これまで10年にわたり地域の「みまもり隊」として活動を続けています。
今回は、共愛COCOのリーダー松阪萌々子さん(心理・人間文化コース3年生)、サブリーダー堀越丈稀さん(情報・経営コース3年生)、マネージャー外丸詩さん(心理・人間文化コース3年生)の3名と、顧問を務める奥山龍一客員教授に、活動について詳しくお話を伺いました。

みなかみ町の限界集落で活動する学生プロジェクト

左から、松阪さん・外丸さん・集落の林明男さん・堀越さん

共愛COCOの活動内容について教えてください。

松阪さん:私たち共愛COCOは、群馬県利根郡みなかみ町の藤原地区平出集落という過疎地域で、「地域の孫になる」というコンセプトのもと、地域のお手伝いを通して住民の方々とコミュニケーション取り、そういった存在になれるように活動を行っております。

月に2、3回ほど中山間地域にある集落に行き、農作業を中心にお手伝いをしながら、作業中にお喋りしたり、住民の方のお宅を拠点にして交流を深めたりしています。

個々のお宅を訪問する戸別訪問という活動も行っていて、そこで集落のみなさんに顔を合わせてご挨拶する機会がありますが、主にお手伝いさせていただく住民の方は4名です。

学生が主体の活動ですので、集落の窓口になってくださっている林明男さんという方に、私たちから連絡を取ってみまもり隊が行く日程を決めています。現地に行くメンバーはLINEでまず日程を提示して、行ける人はここに投票してくださいという形で、自分の予定に合わせて自由に行ってもらう流れとなっています。

現在メンバーは何名で活動していらっしゃるのでしょうか。

松阪さん:今年はメンバーが増え、60人が活動しています。2023年度から授業のカリキュラムに変更がありまして、共愛COCOの活動が選択必修科目の中の一つになりました。単位を取るという意味でメンバーが増えたということもありますし、「農業をやってみたい」と興味持ってきてくれる人が今増えているという印象があります。

60人もいると、最初から活動にすごく興味を持って入ってきたメンバーは少し減ってしまったようには感じますし、今年の前期はまだメンバーそれぞれがバラバラという印象ではありました。ですが、やはり一緒に「みなかみ」に行くことでメンバーが仲良くなって、そこからまた新しい繋がりが出来ています。活動期間が5〜6か月経った後期からは、学年を超えて仲良くなったり、新しいコミュニティが生まれたりして、だんだんまとまりが生まれてきているように感じますね。

活動のお話に戻りますが、みなかみ町の観光に携わる機会もあると伺いました。

松阪さん:みなかみ町の観光協会が主催しているイベントを、お手伝いさせていただくこともあります。光と反射による空間作品を展示したり、ワークショップを行ったりする「水と光のナイトガーデン」もその一つです。
また、みなかみ町には3つのダムがあって、春に点検放流をします。毎年その日に合わせて行っている町の「3ダム点検大放流」にも参加しています。観光イベントなどにもかなりお手伝いの機会をいただいていますね。

他にも、昨年から関わっている商品開発の活動もあります。みなかみ町は林業が盛んなので、みなかみの木材を使って積み木を作ったり、木の香りがするキャンドルを作るプロジェクトが進行しています。
木育という観点から手作りデコのカスタネットや竹とんぼのワークショップもやっています。

街に住む学生からみた集落の生活

皆さんが共愛COCOの活動を始めたきっかけと、実際に集落で活動をされての印象を教えてください。

外丸さん:私は元々おじいちゃんおばあちゃんと話をするのが好きで、自然も大好きなんです。高齢の方といっぱい話したり、一緒に作業したりしたいなと思って、共愛COCOに入りました。

私自身は前橋出身で、これまで農業には全く縁がありませんでした。農業というと複数人で行うイメージを持っていましたが、実際行ってみると、皆さんお一人で農業をされていることも多いことに驚きました。かがんだり、重いものを運んだり、派手な動きではないのですが、普段使わない筋肉をすごく使います。他にも、農作業はやろうと思えばどこまででもできるので、終わりが見えないこともすごく大変だなと作業に行く度に思います。明男さんには「ここまででいいよ」と言っていただきますが、暗くなるまで落ち葉清掃をしていても、まだまだ道路に落ち葉が残っていたこともあります。自分たちで「ここまで」と決めないときりがない感じです。

松阪さん:母が福祉関連の仕事に勤めているということもあり、私も高齢者福祉に興味を持っていました。外丸と同じで自然豊かな場所がすごく好きだったので、その2つがマッチしている活動だった共愛COCOに入りました。

祖父母が農家をしているので、小さい頃から農作業の手伝いをする機会はありましたが、住民の方々は中山間地域の山奥で畑をされているので、鳥獣被害が目に見えることに驚きました。道で猿を見かけたり、農作物を食べた痕跡が残っていたりすることがありますし、実際「頑張って育てたけど食べられちゃった」みたいなお話をかなり聞きますね。

住民の方は60〜70 代くらいの方がほとんどで、今までの自分には祖父母以外そういった年代の方と関わる機会が全くありませんでした。こうやって別の場所に行って世代を超えた人と関われることがすごく新鮮でした。農作業しながらお話する時間は、自分もリフレッシュできて楽しく感じています。私自身すごく共愛COCOの活動が好きなので、先輩方に今年度のリーダーに推薦いただいて、主体的に活動できる機会がもらえたというのは貴重だなと思っています。

街と集落の暮らしを比べて思うことは、自然豊かなところはすごく好きですし、居心地がいいんですけれど、集落は最寄り駅から30分ぐらい離れた場所にあるので、やはり交通の便が良ければなと思うことはありますね。

堀越さん:自分は1年生の最初に、何か大学で頑張ってみようかなと、学生プロジェクトを行っている団体を色々探していました。その中で、共愛COCOが自分に合っているかなと思ったのがきっかけです。自分の学んでいる情報や経営という分野とはあまり関係がなかったのですが、何事もチャレンジと思い参加しました。

1年生の時は、「本当にこういう地域があるんだ」ということにまず驚きました。地域の課題をどんどん考えていくようになると、10数人しかいない集落で、住民の方たちがコミュニケーションを取りながら色々工夫して地域を守っていることにもすごく驚きと関心を持ちましたね。活動して3年経つと、それにも慣れて当たり前みたいになるのですが、そもそも学生だけで限界集落に行くという団体自体がとても珍しいので、こうやって活動できるというのは本当に貴重な機会だなと思います。

自分は農作業自体も本当にやったことがなくて、初めてのうちは大変でした。中山間地域はすごく気候の変動が激しいです。例えば、山の標高が高い分、夏は涼しいですが、日差しが強くて日焼けしやすかったり気温以上に暑さを感じたりします。逆に冬は平地と比べて気温が5度くらい低いので、雪が降っていたりする状態ですね。1年生の時はそういった環境の違いにも慣れるまでに時間がかかって、終わった後、家に帰ってからの疲労感がものすごくありました。今はそこまで疲れが残ることはないですし、こういった仕事を住民の方は1人、2人でやっているというのはすごく大変なことなので、私たちが力になれているなということを日々感じながら作業をしています。

また、明男さんからよく昔の暮らしや文化についての話を聞きますが、今私たちがお手伝いしている活動に対しても、こういう意味があるということをちゃんと教えてもらっています。
雲越家住宅資料館という、昔の暮らしや農具を資料として残している文化財の家がみなかみにありまして、その周りの石碑や石像を雪から守る補強作業に行いました。木を建てて、雪が積もらないように守る作業ですが、建てる木を結ぶのに、ホームセンターで売っているような紐ではなく、自然の蔓を使って縛っていきます。蔓を使うことで、水分がだんだん抜けていくと鉄ぐらい硬くなるんだよ、という話をされていました。集落の昔ながらの文化や暮らしについて、本当に話をすればするほど色々な知識がついていくので、やっぱり3年になっても勉強することがいっぱいありますね。

学生自身が感じる自分の変化

皆さんはこの活動を続けてきて3年目ですが、1年生の頃の自分と比較して変わったと感じることはありますか。

外丸さん:私は1年生の時に比べて、自分が外交的になったと言いますか、人とのコミュニケーションをより良く取れるようになったと思います。共愛COCOの会議で違う学年の人とグループワークをしたり、集落の住民の方とお話したりと、コミュニケーションをたくさん取らせていただいているので、本当にいろんな人と話せるようになりました。

松阪さん:私もやはりコミュニケーション能力というのはすごく上がったなと思っています。私たちの大学には、英語コミュニケーションコース、国際コース、情報・経営コース、心理・人間文化コース、児童教育コースと5つのコースがありますが、学年やコースが違う人たちとは普段あまり授業でも関わることがありません。そういった人と関わる機会が増えたことで、人脈が広がったというのはすごく大きいことだと思います。

また、観光協会の方だったり、町役場の方だったりと、地域イベントや活動報告会で社会人とも関わる機会が多いので、社会における基礎力が身についたかなと思っております。

堀越さん:メンバーがすごく仲がいいので、自分の居場所が増えたなというのを共愛COCOに所属して感じているところです。大学でいえば、例えばサークルとかゼミとか、そういう色々なコミュニティがあると思いますが、その一つに共愛COCOが入るぐらい居心地のよさを感じています。

3年間続けているので、現地の方とも深い関わりや関係ができて、本当に孫になったような感覚で活動できています。実際1年生の時よりもワクワクした気持ちで現地に行けているんです。集落で楽しい時間を過ごせているという感覚も、3年生になってより感じているところです。

社会の多様性を学び、学生の将来にもつながる社会連携教育

―続いて、先生にも伺います。学生さんたちのお話を聞いていて、成長の濃さを感じるのですが、先生からご覧になって皆さんの姿はどう映っていらっしゃいますか。

奥山龍一先生:講義を受けるにしてもサークルに参加するにしても、キャンパス内でそういった学生生活が完結するのが一般的ですが、キャンパスから社会に出て活動をしている共愛COCOの学生たちは、1年間で大きく成長するのがよくわかります。

この活動は、言ってみればPBL( プロジェクト・ベースド・ラーニング)の1つのなんです。
今年は特に60人ものメンバーが集まり、言ってみれば中小企業1社分や大企業の1事業部ぐらいの人数がいます。その中で、リーダーたちはマネジメントしたり会計に携わったりしながら活動をしています。他のメンバーであっても、各班に分かれて活動しているので、またそこのリーダーや役割を担っている。そうやって組織を作って、その組織の中でそれぞれ活動しているという経験は大きいと思いますね。

あと、1年から4年までいるという活動が、大学では他にあまりありません。1年経験した学生は、次の年になると後輩のメンターとして指導をしなくてはいけない。先輩として後輩に関わる経験ができることも成長する要素だと思います。それも単に学内でやっているのではなくて、実際に現地で引き継いだり、集落の人に新人を紹介したりしながら一緒に活動するので、それが結構大きいのかなと。

同じ属性の人だけで集まっているわけでなくて、年齢や育ちも違う人との関わりの中で成長していくということですね。

奥山先生:やっぱりそれが重要だと思います。集落に行けばおじいちゃん、おばあちゃんが多いですし、役場や観光協会の人は社会人として働いている人だし、地域でいろんな活動をしている人とも協力する必要がある。ナイトガーデンでスタッフをやったり、あるいはマルシェで物を売ったりする時には、小さなお子さんとか小学生といった世代と関わる機会もある。とても多様性がある活動だと思います。

活動のフィールドが、社会の縮図そのものみたいなところにあるんですね。

奥山先生:そうです。そこはこの教育の狙っているところでもあります。「社会連携教育」という言い方をしていますが、この活動を始めてから10年かけて、1つの教育のスタイルになったかなという気がしていますね。

卒業後の進路に影響を受けた学生さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

奥山先生:実際、共愛COCOのOB・OGには、みなかみ町の観光協会や役場に就職した卒業生がいますね。もっと初期のメンバーには、みなかみ町の社会福祉協議会に就職している者もいます。その彼は、一度は別のところに就職しましたが、「みなかみの社協に来ないか」という話をもらって、今も元気に働いていると思います。観光協会に行った彼女も、協会の人に「あの共愛COCOをやっていた学生か!」という話になって、すぐに就職が決まったみたいですね。
みなかみ町役場に就職した彼女は観光商工課に配属されて、コロナ禍後に復活した「水上温泉おいで祭り」を担当しています。
農業に興味持って農機具メーカーに就職したりとか、学生たちをみているとそれぞれ自分の経験をもとに、いろんな就職活動をやっているように見受けられます。みんなが真面目に取り組んでくれているので、それが本当に嬉しいです。