宮城でも女性が硬式野球を続けられる環境を。東北地方初の大学女子硬式野球部を創設:仙台大学女子硬式野球部_入澤裕樹監督

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東北地方では、女子硬式野球部を設ける高校が増えつつあります。ところが、大学の女子硬式野球部となると一つもなく、硬式野球を続けたい女子生徒は他の地方へ進学せざるを得ませんでした。
そうした状況に風穴を開けるべく、仙台大学は2023年4月、東北地方初となる大学女子硬式野球部を立ち上げました。初年度から全国大会へ挑み、2年目には初勝利を記録。チームは「大学日本一」だけでなく、「宮城から女子野球の魅力を発信」をスローガンに、次世代へと希望のバトンをつなごうとしています。
創部の経緯や活動の様子、今後の展望について入澤裕樹監督にお話を伺いました。

東北地方の大学として初の女子硬式野球部を創設

――女子硬式野球部を創った経緯を教えてください。

女子硬式野球部を持つ高校が東北地方で増え始めていて、2022年ごろには7校ほどありました。でも、東北地方には女子硬式野球部のある大学が一校もなかったんです。そこで、本学が高校卒業後も硬式野球を続けたい女子たちの受け皿になりましょうと。2022年1月には、理事長や学長をはじめとする大学関係者によって協議が行われ、7月には正式に女子硬式野球部を創設することを発表しました。

――2023年4月の創部ですから、協議開始から1年半。本当に急ピッチですね。創部を求める声が高校側から多く寄せられていたのですか。

男子硬式野球部でご縁のあった関係者の方々も交えてのことではありましたが、とんとん拍子で話が進んでいきました。

2023年4月、14人から始まった仙台大学女子硬式野球部

――創部時点では何人くらい部員が集まりましたか。

2022年7月に創部することを発表した際には、本学の体育学部に在籍していた学生の中に、硬式野球やソフトボール経験者がいることを見越していたんです。「女子硬式野球部を立ち上げますが、入部に興味はありませんか」という案内をメールで送りました。その結果、在学生の中から5人が名乗りを上げ、設立メンバーとして関わってくれることになりました。

翌2023年4月、本格的に活動を始めるタイミングで、新1年生9人が加わります。設立メンバーの内の1人は当時4年生だったにも関わらず、入部してくれました。しかも、彼女は野球未経験なんです。高校までは陸上競技部に所属し、ハンマー投げに取り組んでいた選手でしたが、「大学生活の最後の一年間、新しいことにチャレンジしたい」との思いで入部してくれたんです。現在は大学を卒業し、栃木県で保健体育の教員として働いています。

――野球未経験でも気合の入った部員がいるのは心強いですね。創部時は合計14人集まったということですが、当時1年生だった9人は、女子硬式野球部に入るために入学されたのでしょうか。

そうですね。うちへの入部を希望してくれたことと、かつ、本学の体育学部には多くの学科がありますので、そちらで学びたいと進学してきた学生たちです。ほとんどは高校時代に硬式野球の経験がありました。

――ということは、人数も足りていますし、創部1年目から試合はできたのですか。

1年目から「全日本大学女子硬式野球連盟」に加盟することができたんですが、当初は遠征が難しかったので、東北6県の高校が加盟する連盟にも加わり、リーグ戦を中心に春・秋のシーズンには多くの高校生と試合を重ねていきました。また、本学と同じく2023年4月に創部された千葉県の秀明大学女子硬式野球部さんとも練習試合を行いました。

創部当初は部員や投手が限られていたので試合数も限られていましたが、現在では週に1〜2回ほど試合を行えるようになっています。

――コンスタントに試合を組めるのはすごいですね。平日は練習をしているのでしょうか。

練習は月曜日を原則休養日とし、それ以外の日は体調等も考慮しながらではありますが、毎日実施しています。体育系大学である本学には国内有数の施設である専用のウエイトトレーニング場が整備されていますので、週に2回、有資格者である職員による専門的な指導を受けながら身体面の向上にも力を入れています。野球が上手になるための体づくりや技術の向上に力を入れています。

――練習を積み重ねてこそ勝利を目指せるのでしょうね。これまでの戦績について教えてください。

創部1年目は、全日本大学女子硬式野球選手権の2大大会(高知・和歌山)の両方に出場しましたが、いずれも力及ばず、勝利を挙げることはできませんでした。ただ、創部2年目の5月に開催された高知大会では、初勝利を挙げることができました。さらに、8月の和歌山大会では、リーグ戦で1勝2敗という結果ではありましたが、2勝目を挙げることができました。決勝トーナメント進出を逃し、悔しさが残る敗戦だったものの、手応えのある試合でした。3年目、4年目には、よりチームの形を整え、これまで以上の成績を残していきたいです。

少しずつ広がる、女子硬式野球の環境

――女子硬式野球というと、近年では、イチローさんが率いるアマチュアチーム「KOBE CHIBEN」が高校女子野球選抜チームとエキシビションマッチを開催したことが話題ですよね。

昨年、私は運営委員として東京ドームで観戦しましたが、盛り上がりがすごかったですね。松井秀喜さんも参加されていましたし。出場した高校生の中には、本学に入った学生も1人いますよ。

――そうした盛り上がりを受けて、女子硬式野球の競技人口が増えている実感はありますか。

私が子どものころにも、女子で野球に取り組む同級生はいましたが、年齢を重ねるにつれて継続できる環境が限られてしまっていたように思います。現在は、競技の魅力を発信しようと全日本女子野球連盟をはじめ、各連盟の様々な取り組みによって、女子選手が野球を続けられる環境が少しずつ整ってきていると思います。

――そんな環境の一つである仙台大学には、東北以外の地域から入部してきた選手もいるのでしょうか。

おかげさまで、東北地方に限らず、全国各地からも学生が入部しています。また、東北出身だけど他地域の学校に進学し、卒業後に東北へ戻り、本学で引き続き硬式野球に取り組むというケースもみられます。

卒業後も硬式野球の道へ。その先にあるアマチュアの現実

――女子硬式野球部メンバーの卒業後の進路希望について教えてください。

本学は体育学部ですので、保健体育教員やスポーツトレーナーを志す部員が多い傾向にあります。今年の4年生部員4人も、保育士やジュニアスポーツの指導者、高校の教員になって女子硬式野球部の指導に携わりたいなど様々です。また、3年生以下の部員の中には、卒業後も競技を継続したいという意志を持つ部員もいます。

――卒業後も野球を継続したい場合、女子の硬式野球チームに参加するのですか。

そうですね。全国各地に女子硬式野球クラブチームがあります。ただし、いずれもプロではなく、選手たちは働きながら野球をしているという人がほとんどと聞いております。男子のようにいわゆるプロ契約ではない立場ですので、様々な課題はあるようですが、大学卒業後も女性がプレーを続けられる環境が各地で整いつつあります。

宮城から女子野球の魅力を

――仙台大学での創部は、女子野球界に対する大きな貢献となったのではないでしょうか。

いろいろな地域で、幅広い年齢層の女性が硬式野球をプレーできる環境が少しずつ整い、裾野が拡大していく中で、本学が創部したことが女子野球界発展の一助となれているのであれば、立ち上げた意義がありますし、大変うれしく思います。

創部当初に多くのメディアに取り上げられ注目されましたが一過性で終わることのないよう、今後も情報発信していきたいと考えています。

――今後の構想があれば教えてください。

大会での勝利を目指すことは、競技者としては当然の目標です。さらに、私たちは「宮城から女子野球の魅力を発信できる組織づくり」を理念に掲げ、野球教室などを通じて、子どもたちに野球の楽しさを伝える活動にも力を入れています。こどもたちやそのご家族の方に「お姉さんたち、すごいなー」とびっくりしてもらいたいですね。

中高生には「大学でも女子硬式野球に挑戦したい」「仙台大学の女子硬式野球部に入りたい」と思ってもらえるような、かっこいいチーム・かっこいい選手が育つような環境を少しずつ整えていきたいですね。

――お話をありがとうございました。これからも応援しております。