安曇野の新しい風:「ヒカリ農園」の創業と太田光亮さんの歩み

長野県安曇野市にある「ヒカリ農園」代表の太田光亮さんは、高校を卒業後、土木業界に身を置きました。その後、多様な経験を積みながらアート制作や味噌作り、麹作りに携わってきました。

ある時から自然栽培や自給自足に興味を持ち始め、個人事業主として独立。現在はヴィーガン・グルテンフリーのお菓子や健康ドリンクを提供しながら地域の人々と温かな関係を築いています。多彩な人生経験が、自然との共生を目指す現在の活動に繋がっています。太田さんの物語をぜひご覧ください。

キャリアの始まりは土木業界

私は農業高校を卒業した後、土木関係の会社に就職しました。その会社では入社すると同時に土木の専門学校へ通う機会もいただきました。

そこで5年間働いたのですが、ある時、仕事先で知り合った会社の社長が高齢で会社を廃業することになり、そこで働いていた従業員の方が独立して諏訪市に会社を設立するということで、私を誘ってくださり、一緒に働くことになりました。新しい会社では、その方と私の2人で会社を経営し、少しずつ社員も増えて6年をかけて事業拡大していきました。

しかし27歳のとき、弟の結婚をきっかけに会社を退職し、安曇野市の実家へ戻って家業を継ぐことにしました。実家へ戻ってからは、アルバイトをしながらオートバイの部品を素材としたアート作品を制作する工房「JANK BIKE GARAGE KIX’S」を開業しました。その後18年間、アート活動や作品の制作・販売などに没頭しました。

麹に魅せられて

アート活動の傍らさまざまな仕事に挑戦してきたのですが、その中で後の私の人生に影響を与える出来事がありました。それは友人の紹介で松本市の老舗味噌蔵で味噌作りの仕事をしていた時のことです。ある日、体調を崩し食欲がなくなってしまいました。しかし不思議なことに甘酒だけは喉を通り、そのおかげで忙しい日々を乗り越えることができました。

この経験をきっかけに、甘酒や麹についてもっと知りたいと思うようになり、安曇野市の麹屋に転職して麹作りを学び始めました。お伝えしたように、これまで土木や味噌蔵で働いた経験があったため、同様に体力を要する麹の仕事にも自信がありました。高温多湿な環境で行う麹室でのハードな作業にも、問題なく取り組むことができました。

やがて社長からも信頼を得るようになり、勤め始めて3ヶ月で正社員になりました。社長とは非常に意見が合い、麹への情熱や技術を惜しみなく教えていただき、実り多い時間を過ごしました。その社長の世代交代を機に私も退職しましたが、4年間にわたり麹造りに対する熱い想いを共有させていただきました。

「ヒカリ農園」を設立

麹屋を辞めると同時に18年間続けてきたアート活動にも終止符を打ち、心機一転、味噌蔵で学んだことと麹屋の前社長から受け継いだ技術を活かして「ヒカリ農園」を開業することにしました。そこで自分の麹室を持つため、実家の空きスペースをリフォームして小さな作業場を手作りしました。

同時に農業も始めたのですが、その頃にお付き合いしていた彼女から自給自足と自然栽培の農法を教わり、自給自足のライフスタイルに興味を持ち始め、「田んぼを借りて、自分で育てたお米で麹をつくり、甘酒を飲むこと」がひとつの目標になりました。幸運にも親から田んぼを借りることができたので、目標に一気に近づくことができました。

動物性の物を食べないヴィーガンだった彼女の影響で私も同じようなの食生活を始め、「アニマルウェルフェア」にも関心を持つようになりました。特に鶏が一番かわいそうな動物だと知り、鶏を飼ったり保護したりして、「アニマルウェルフェア」の重要性を伝えていきたいと考えるようになりました。

畑が形になり、テイクアウトスタンドも開始

畑は父の土地を間借りしていて、最初は6畳ほどでしたが徐々に広げていきました。自然栽培を始めた当初、周囲からは否定的な意見も多く、地元の方々にもなかなか受け入れてもらえず、役場に畑の貸し出しを頼んでも断られることがありました。

しかし1年、2年と経つうちに畑の形が整い始め、少しずつ収穫できるようになりました。思うようにいかないことも多々ありましたが、諦めずに真剣に取り組んでいると応援してくれる人も現れるようになりました。

ヒカリ農園を開業した当初は、味噌や醤油の製造業の許可を取る計画でしたが、スペースの制約で認可が難しいことが分かりました。そこで、比較的取得が容易な飲食店の営業許可に目を向け、そこからステップアップしていくことに決めました。

まずは自分で作業場を改善し、厨房を作り、玄関を整備して無事に飲食営業の許可を取得しました。そして今年の3月15日、「ヒカリ農園『空の下で』」というテイクアウトスタンドを苦労の末にオープンさせ、自家製の玄米粉を使ったヴィーガン・グルテンフリーのお菓子など作って販売することからスタートしました。

さらに健康効果が高いとされる松葉を取り入れたドリンクもメニューに加わり、現在では「ヒカリ農園」の看板商品となっています。また、目標の一つだった甘酒も少しアレンジを加えて商品化することができました。

テイクアウトスタンドは金・土・日の週末に開店となっており、その他にも味噌作りや米醤油作りを伝える活動にも力を注いでいます。

温かな化学反応

これまでの人生で、多くの人々との出会いを通じてさまざまな経験を積ませてもらい、人の温かい心に触れました。何度も転機がありましたが、それらすべての経験を活かして現在はテイクアウトスタンド、地元の自然食品店での販売、インターネット通販、自給農体験といった形で充実した暮らしを送っていることに心から感謝しています。

テイクアウトスタンドを1人でオープンした時は「どうなるかな?」と不安もありましたが、嬉しいことに新たな出会いが次々と訪れ、その度にさまざまなアイデアをいただいたり、助けていただいたりと温かな繋がりが生まれて、多くの方々に支えられていることを実感しています。

ヒカリ農園に来てくださるお客様の中には「なんだかよくわからない場所だから行ってみたくなる」という方もいて・・・。訪れた人々が何かを感じたり、ここで出会った人同士の交流から新しい発見や化学反応が生まれる場所となっています。

今、過去の自分には想像できなかった生活をしています。食べる物も暮らし方も大きく変わり、自然と共に生きる世界に心底満足しています。

私は農業や自給自足を通じてまず自分自身を豊かにし、その豊かさをみんなと分かち合うことを目指しています。今までは、幾度となく夢や目標に向かっては失敗するという挑戦の日々でした。これからは、ヒカリ農園に集まってくれた人々の心が温かさに包まれるような場所を創り上げていきたいです。