福岡県の南端、有明海に面した大牟田市は、かつて炭鉱の町として栄え、多くの人が行き交った歴史から、市外から来た人を温かく迎え入れる懐の深さが息づくまちです。有明海のおかげで冬も比較的温暖な気候で過ごしやすく、動物園や絵本美術館など、子ども連れで楽しめる施設も充実。また、市を挙げて認知症への理解と支援に取り組むなど、誰もが安心して暮らせるまちづくりを住民主体で進めています。
今回は、そんな大牟田市の魅力について、大牟田市企画総務部広報課の石丸さんにお話を伺いました。


画像引用元:Map-It
JR、私鉄、新幹線、高速道路が通り空港も近い

―まず大牟田市の立地的なことを伺いたいのですが、地図で見ると大牟田は九州の中の交通の要衝的な場所になるのでしょうか?
その通りです。鉄道の路線としては、JR鹿児島本線と、西鉄天神大牟田線が通っています。西鉄天神大牟田線の終点となる大牟田駅は、実はJR鹿児島本線の大牟田駅と同じ場所にあります。
東京など都市圏では、そういった駅もたくさんあると思いますけど、例えば福岡市の主要駅である博多駅(JR)と天神駅(西鉄)は離れているので、バスや地下鉄での移動が必要ですが、その点、大牟田駅は同じ駅で2つの路線が利用できるので、とても便利です。
更にもう少し東の方に行くと、九州新幹線が通っており、新大牟田駅があります。JR鹿児島本線では、博多⇔大牟田間が70分のところ、九州新幹線の利用で博多⇔新大牟田間が30分で移動できます。また、新大阪駅まで乗換せずに直通で行く便が一日2往復あります。
鹿児島本線の大牟田駅から九州新幹線の新大牟田駅までは少し距離がありますけど、バスが出ているので皆さんそれに乗って行かれることも多いですね。


―鉄道もとても便利そうですが、それだけでなく車での移動も便利そうですね。
そうですね。高速道路は市の東側を九州自動車道が通っていて、市の中心部から20~30分でアクセスできるみやま柳川インターチェンジか南関インターチェンジを利用して、九州各地に行けます。熊本や阿蘇に行く時は、高速利用と時間がほとんど変わらないので、一般道路で行くことも多いです。
また、佐賀・長崎方面へは、有明海に沿って通っている有明海沿岸道路という無料の自動車専用道も便利ですよ。今後、熊本・佐賀まで繋がる予定です。有明海沿岸道路を利用すれば、佐賀空港までは約45分で行くことができます。
―空港の話が出ましたが、熊本空港も結構近いですか?
はい、熊本空港まで高速利用で約1時間。更に福岡空港は約70分なので、おおよそ1時間圏内で三つの空港にアクセスできるというのも大牟田の立地のいいところです。空港によって就航している航空会社や路線が異なるので、目的地によって皆さん使い分けていますね。ちなみに佐賀空港は2000台以上の無料駐車場を完備しています。
―それはすごい。大牟田が交通の要衝と言われる所以がよく分かりました。

過ごしやすい気候とわかりやすいエリア分け、歩いて暮らせる中心地

―続いて市内のエリアについて伺っていきたいのですが、大体どのようなエリア分けになっているのでしょうか?
新幹線より東側はほぼ山で、有明海沿岸道路より海側は工業地帯です。ざっくり言うと、新幹線と有明海沿岸道路の間が居住エリアになります。その中でも中心市街地となるのが、西鉄の新栄町駅と大牟田駅の間ですね。このエリアには高層住宅もありますが、その他の地域は戸建ての住宅が広がっています。
新幹線の新大牟田駅を東西に延びる県道10号の北側が、田畑の多いエリアになります。新幹線沿線近くは三池山を含む山々が広がり、三池公園や臥龍梅で有名な普光寺など自然豊かなエリアですね。新大牟田駅から南関インターにかけては、みかん畑も広がっています。

―みかんが取れるということは、冬も温暖なのでしょうか?
はい、暖かいです。大牟田市は有明海に面しており、内海の有明海があることによって、冬も温暖です。福岡県内の他の地域では雪が降っていても、大牟田では降っていないことはよくあり、雪が積もるのは、年に数回あるかないかです。
夏は、九州ですからそれなりに暑いし、日差しは強いです。ただ、都市部のようなビル街の熱気がこもる感じの暑さとは違って、青い空、白い雲、そしてサンサンと照り付ける太陽!そんな夏です。そして何より、日照時間が長いので、夏は20時前まで、冬は17時頃まで明るいです。
―最近は気候が極端なので、夏や冬の過ごしやすさは非常に大事なポイントですよね。お話を伺うと大牟田市は過ごしやすそうだなと感じました。次に伺いたいのが、中心市街地だと車を使わなくても最低限の生活の用は足せるか?ということなのですが、その点はいかがでしょうか。
先ほど申し上げた大牟田駅から新栄町駅のエリア内だと、車がなくても生活できると思います。新栄町駅近くに「ゆめタウン」、大牟田駅の西側に「イオンモール大牟田」という大型商業施設ができて、それに伴いマンションや住宅街が開発されました。生活に必要な施設は一通りそろっています。この辺りであれば、車が無くても買い物も便利で、医療機関もあり、生活は便利だと思います。
―それは、自動車生活に慣れていない人も安心ですね。


大きな産業エリアと昭和の街並みも売り
―続いて、大牟田市の産業や仕事について伺えますか?
大牟田はかつて石炭産業で栄えたという歴史もあり、有明海沿いの産業団地には製造業や建設業を中心とした企業が多く立地しています。三井系をはじめ、世界進出をしている企業も複数あり、転勤に伴う人の出入りは多い方かもしれません。本市は熊本県との境にあり、隣接する荒尾市とは生活圏が共通しています。そのため荒尾市や近隣のみやま市、柳川市から通勤・通学してらっしゃる方も多くいらっしゃいます。

―大きな働き口があるのはいいですね。起業する方もいますか?
そうですね。石炭で栄えていた頃は、デパートや商店街もたくさんあり、市の中心部はたくさんの人でにぎわっていました。現在は、空き物件を利用して飲食店を開業したり、起業する方が少しずつ増えてきています。
中心市街地に立地している旧商工会館が2年前にリノベーションされ、IT企業が進出したり、コワーキングスペースもありますよ。
―「月曜から夜ふかし」の影響か、地域の自虐を売りにする風潮もありますし、昭和の街並みも逆に若い人には受けが良さそうですね。また賑わうといいですね。
そうなんですよ。「昭和レトロがたまらなくいい」とか市外の方から言われることも増えてきています。そうそう、大牟田を舞台にして、オール大牟田で撮影をした映画が、今秋に公開予定です。主人公が、商店街の空き店舗で焼き菓子店を開業するというストーリーです。この映画を通して、大牟田のまちの雰囲気が伝わると思います。


「待機児童ゼロ」と教育環境は我がまちの自慢
―保育園や子育て支援についても伺いたいのですが、保育園は待機児童ゼロなんですね。
はい、保育所の「待機児童ゼロ」は私たちとしてもPRしたい点です。保育園だけでなく認定こども園、幼稚園も充実しており、兄弟姉妹で同じ園に預けることは本市では当然のことです。ちなみに小学校は19校、中学校は公立7校と私立2校、公立の夜間中学校が1校、高校が7校、国立高専が1校、四年制大学の「帝京大学福岡キャンパス」もあります。
―兄弟で同じ園に入れるのはいいですね。「下の子は自宅から近い園に落ちちゃった」なんてことが起こらないのは。あと、学校数もすごく多いんですね。ちなみにおすすめの子どもの遊び場所はありますか?
休日にお子さんと遊べる場所としては、諏訪公園と大牟田市動物園があります。動物園の中に「ともだちや絵本美術館」を併設しています。ともだちや絵本美術館は、動物園の開園80周年に合わせて、絵本原画の収蔵や絵本の読み聞かせのほか、動物園の休憩施設として、令和3年に新しくできた施設です。動物園を見て回って、疲れたら絵本美術館で休憩して、という感じで、お子さんも一日遊べる施設だと思います。
人口10万人台で動物園があって、動物園の中に絵本美術館が併設されているのは、日本でここだけです!




石炭で栄えた歴史が残した豊かな恵み
―人口10万人台で立派な動物園はあまり聞いたことがないですね。
はい。石炭で栄えた歴史があり、最盛期では人口が20万人超であり、地方自治体には珍しく動物園があります。更に珍しい例を紹介しますと、大牟田市には令和2年まで保健所がありました。保健所って通常は県が所管しているので、小さな市が保健所を持つことは全国でも少ない例です。保健所があったことで、小児科医をはじめとして市内の医療機関との顔の見える関係が築かれており、小児科で受診できる乳幼児健診や妊婦に対する歯科健診など母子保健のメニューが充実しています。また、平日夜間の小児救急や休日の救急医療体制も充実しており、安心して子育てができる環境が整っています。
「子ども民生委員」と認知症を支えるまちづくり
―「子ども民生委員」という制度も、大牟田市ならではのものではないかと思いますが、こちらについても教えていただけますか?
大牟田では、公立小・中・特別支援学校のすべてがユネスコスクールに加盟し、SDGs(持続可能な開発目標)/ESD(持続可能な開発のための教育)に取り組んでいます。その一例として、中友小学校では、15年前から「子ども民生委員」活動を行っています。5年生になると「子ども民生委員」となり、一人暮らしの高齢者のお宅を訪問して手作りの名刺を配ったり、敬老会のお祝いの品を届けたり、校区の民生委員と一緒に活動をします。
大牟田市は全国の中でも高齢化の進行が早く、10年以上前から65歳以上の人口比率が30%を超えているんです。そのため、認知症について市を挙げて取り組んでおり、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを、医療や介護従事者だけでなく地域住民も自主的・主体的に推進しています。
例えば、認知症の方の行方不明の問題に対して、最近ではGPSを使って捜索するとか、デジタルを活用した取組みが一般的には進んでいると思うのですが、大牟田市は「地域で見守ろう」というアプローチをとっています。
具体的には、認知症の方とそのご家族を地域や地元企業が見守り支える「ほっとあんしんネットワーク」の仕組みを構築し、行方不明者のご家族の同意が得られたら、「いつどこで誰々さんがいなくなりました。そのときの格好は…」といった特徴や写真をメール配信システム等により前記ネットワーク加盟団体に提供し、住民が日常生活の中で行方不明者を探します。
そうすると、メールを受信した住民・企業の皆さんが探してくれたり、子どもたちも学校で認知症について学習しているので、様子の違うお年寄りを見かけたら自ら声をかけたり、先生や近くの大人に声をかけて保護につながったというケースも珍しくありません。
学校の授業でも、福祉についてはすべての学校が総合的な学習のテーマとして取り入れているので、恐らく大牟田は他の自治体と比較して、子どもたちと大人や高齢者の距離感が近いのではないかと思います。
ほかにも、地域で行方不明が発生したという想定で、実際に行方不明役の人が地域を歩き、SNSを使った捜索・目撃情報の伝達や、行方不明役の人への声かけを行う「ほっとあんしんネットワーク模擬訓練」も20年以上行っています。これからは、捜索・保護だけではなく、本人が外出の目的を達成できるよう、地域での日頃からの関わりも大切にした声かけにも取り組んでいます。この訓練には、民生委員の方、子ども民生委員の方も参加いただくなど、安心して暮らせるまちづくりに地域ぐるみで取り組んでいます。
―とても良い取り組みですね。年を取ってからも安心して生活できそうですし、認知症の方への支援が地域づくりに繋がっているのが素晴らしいと感じました。

大牟田市の一番の良さは「人」
―子どもたちのコミュニケーション能力も高そうな大牟田市ですが、市の案内パンフレットに、「大牟田の人は親切で世話好きだけど、距離を詰めすぎることはない」といったことが書いてあったのですが、実際そんな感じですか?
確かにそうですね。先ほど申し上げたように、転勤に伴う人の出入りが激しいので、外から入ってきた人も気兼ねなく受け入れるような気質を、みんな何となく持っているんです。そういった懐の深さがあるので、人と人との距離がほどよく近いという状態が生まれたのかもしれません。
スーパーで小さな子ども連れで買い物していると、全然知らない人が子どもさんに話しかけてくることがよくあります。転入してこられた子育て中のお母さんから「こんなふうに声かけてもらったのは初めてです。大牟田ってなんだかあたたかい町ですね。」と言われたことがあって、大牟田でずっと住んでいると当たり前の光景なんですけど、そんなふうに映るんだなと。
飲み屋でたまたま知り合ってというか居合わせて、意気投合して盛り上がることは、結構あると思いますよ。
今、日本中で「移住合戦」みたいな感じになっていて、各自治体が様々な地域資源をアピールしていますよね。きれいな海があるとか、富士山の雄大な自然があり景色が最高だけど東京に近いとか。大牟田にはそういった形の「売り」が特に見つけられません。景色も至って普通のまち。だから私たちとしてはアピールの難しさに日々悩んでいます。大牟田にしかないものっていうと、「人の良さ」というか、先ほどの認知症への取り組みなんかにも表れている、住民が作り上げている良さというのは挙げられるかもしれませんね。住んでいるとなかなか気が付かないのですが。
―確かに、そういうのって実際住んでみないと分からないし、ずっと住んでいると逆にそれが普通になって気が付きませんが、生活する上では極めて重要なポイントのように思えます。

お試し住宅に泊まって大蛇山まつりを観よう!
―お試し移住のような制度はあるのでしょうか?
築50年の古民家を活用した「お試し住宅」があります。日額1,000円で3日~14日間宿泊ができます。お試し住宅は、住宅エリアである草木にあり、JR銀水駅と西鉄銀水駅からほど近くです。自転車も置いているので、それを使ってもらえば町中の移動も問題ないかと思います。
最後に、毎年7月の第4土曜・日曜に「おおむた『大蛇山』まつり」という大きなお祭りがあり、それを見てもらうと大牟田の人の熱さを肌で感じていただけると思います。大蛇山とは、和紙、竹、わら等を組み合わせて作った大蛇の頭・胴体・しっぽが飾り付けられている、全長約10メートル、高さ約5メートル、重さ最大3トンにもなる木製の山車のことです。この大蛇が大きな口から火煙を吐きながら頭を振って町中を練り歩く姿は本当に圧巻です。神社に由来する大蛇山は6つ(祇園六山)、商店街や地域団体等による「地域山」が12あるんですが、これらの大蛇山が一斉に火を噴きながら大通りを練り歩く「祇園六山巡行」や「大蛇山大集合パレード」は、他の祭りとは比べ物にならないくらい、迫力がありますよ。勇壮です。「これが大牟田の祭りたい!」という感じです。
―それはとても興味深いです。九州の祭りと言えば、博多の山笠や長崎くんちが有名ですが、大蛇山まつりも是非行ってみたくなりました。お話を伺う中で、地理的・文化的・経済的に大牟田市は有明海の拠点都市だということがわかりました。この記事をお読みの方にも訪れていただきたいですね。
