地方では人口がますます減少し、スーパーや病院など、暮らしに必要不可欠な施設が次々と存続の危機を迎えています。もしそうした施設が無くなれば車による移動が必須となり、高齢者や子育て世代などが暮らしにくい町になってしまうかもしれません。そうした危険をはらんでいる自治体は日本全国にあり、さらなる人口減少は避けられないように思われます。
こうした状況の中、農村地区である北海道雨竜郡沼田町では「歩いて暮らせるまちづくり」をコンセプトに「農村型コンパクトエコタウン構想」を掲げ、学校や診療所、商業施設を駅周辺に集中させることで交通弱者が住みやすいまちづくりを行っています。人口3,000人弱という小さな町でも、歩いて暮らせる環境を実現している沼田町。地方の人口減少や移動手段の確保が課題となっているこの時代に、新たなまちづくりのヒントがありそうです。
今回は沼田町産業創出課主査の大原利啓さんに、この構想の背景や改革を進める上で大切にされてきたことなどについてお話を伺いました。

少ない人口規模に合わせたまちづくり
――まずは、このコンパクトエコタウン構想ができるまでの背景についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
沼田町では、町で唯一の病院とスーパーマーケットが老朽化し、経営も悪化していました。これらは人口が多かった時代に作られたものだったので、もしそのまま建て替えたとしても、人口が少ない今の時代には合わないものができてしまう可能性がありました。
そこで2013年、時代に合わせた再整備が必要だということで、「歩いて暮らせるまちづくり」をテーマに改革が始まりました。小さな町をもっとコンパクトにすることで、子どもから高齢者までが安心して暮らせる町にしようという考え方です。また、沼田町は豪雪地帯なので、住宅や施設が点在していては除雪費用もかかりすぎてしまうため、町の存続にはコンパクトなまちづくりが必要不可欠でした。


経営危機にあった沼田厚生病院とAコープ沼田
コンパクトエコタウン構想を掲げて
――なるほど、町をコンパクトにすることで、さまざまな問題解決を図ろうとされたのですね。実際にどのように構想を練っていかれたのですか。
当時の町長の指揮の元、病院と買い物問題を一度に行政の方で解決するのは難しいと判断し、病院の改革を町が、スーパーの改革を商工会が主導して進めていくことになりました。病院の方は医療だけでなく福祉や介護を、スーパーの方は農協の事務所が中心となって買い物支援全体に関わる問題を担当しました。それぞれのチームで分かれたものの、やはりどちらもまちづくりの上では大きな施設なので、「コンパクト化の推進」という大きなくくりで考え、事業を進めていきました。ちょうど国の補助制度もありましたので、そういったものを活用もしました。

町の人たちが主体的に考える
――行政だけでなく、商工会も一緒にまちづくりを進めていかれたのですね。
はい。それだけでなく、住民みんなでコミュニケーションを取りながら、町について考えていくことを大切にしました。studio-Lという、公共分野のコミュニティデザインを手がける会社に協力していただいて、住民参加型のワークショップを何度も開催しました。
従来の行政のやり方は、町で考えた施策を住民説明会で公表して終わり、という進め方が一般的だと思います。しかし、沼田町では住民と一緒に町にとって何が必要なのか議論することを重視しました。まず町の皆さんに集まってもらい、病院や買い物、子育てなど課題ごとにチームに分かれて考えていきました。
考えるにあたって、こんな場所やこんなものが欲しい、という意見の出し方のみだと現実的になりません。そこで、あるワークショップでは沼田町特産のトマトを仮想通貨に見立てて、たとえばトマト10個を使えば良い病院が建てられるけれどもスーパーができなくなるよね、じゃあこのトマト10個をどう配分して使っていこうか、というようにやりたいこととお金との兼ね合いを原理的な感覚で考えていきました。こうした話し合いを何度も何度も重ねながら、建設予定地にも出かけていって見てもらうなどして、さらに具体的なイメージを共有しました。
こうしたやり方は当時の町民にとってはかなり斬新なものでしたので、中には戸惑い、怒って帰ってしまう人もいたそうです。しかし子育て世代から高齢者までが一緒に考えることができたのは、非常に意義のあることでした。


多世代が交流できる施設を

――町民の皆さんが当事者意識を持ちながら改革を進められる、そんな例はなかなか無いように思います。そうした議論を経て、現在ではどのような施設が出来上がったのでしょうか。
やはり元々あった病院やスーパーをそのまま建て替えるだけではなく、いくつかの施設をどうにかして集約しようと考えました。
まず病院については、入院用ベッドを管理する金銭的な余裕が無くなってきていましたので、住民の方と十分な協議を重ねつつ無床化に踏み切りました。一方で、クリニックとしての機能だけでなくデイサービスやカフェ、トレーニングセンターも兼ね備えた施設が欲しいということで「暮らしの安心センター」ができました。建物も昔ながらの四角い箱を建てても面白くないよね、とデザイン性を持たせました。また、建物の中に道を通し、クリニックを受診する人、デイサービスを利用する高齢者、カフェに来た若者が行き交えるような空間づくりを行いました。クローズドなイメージのあるクリニックやデイサービスをあえて開けた施設にすることで、たとえば若い人たちが「自分が年をとったらああいう風になるのだな」と実際に見ることができ、しかもそこに良い印象を持てるような仕組みにしたかったのです。
買い物支援においては、スーパーと一緒に農協の事務所や金融機関などが入った複合商業施設「まちなかほっとタウン」が作られました。まちづくり会社を立ち上げ、運営をしてもらっています。中では日用品の販売はもちろん、イベントスペースでの催しなども開催できるようになり、町民の大切なライフラインとなっています。


暮らしの安心センター(上)とまちなかホットタウン(下)
移住者が、離農し中心部に移り住んだ高齢者の後継ぎに

――住民との話し合いを経て、着実にコンパクトなまちづくりが進んでいるのですね。
元々このプロジェクトは、沼田町の駅を中心とした半径500mの範囲に学校や福祉施設、商業施設を集約しようというのがコンセプトです。この500mとは何かというと、高齢者が歩いて暮らせる範囲なのです。
しかし沼田町は農村地区なので、農家をしている方は郊外に住んでおり、集約された町に通うにしても大変です。そこで農家を辞められた高齢者の方が町の中心部に住めるよう、行政の方で高齢者向け住宅を作りました。そうして空き家になった家を移住者が買い、農家を継いでいる例もあり、良い流れだなと思っています。
北海道は開拓地ですから、本州と違って土地に対する執着がさほどなく、高齢者の方も住み替えへの躊躇があまりないからこそ、実現できている側面もありますね。かといって行政の方から住み替えるよう無理に働きかけることはありません。中心市街地が便利になっていれば自ずと人が集まってくると考えています。長い目で見て町の機能が集約される仕組みづくりをしている感じですね。
また、町に住んでいても足が悪く自力で移動できない方や、免許や車を持っていない方もいらっしゃいますので、電話で呼べば来てくれるデマンド型交通の整備もしています。改革以前からある制度なのですが、施設が新しくできて仕組みの再編をしたことで、高齢者の外出の機会も増えつつある状況です。

公園の整備や高齢者施設の建て直しも予定

――施設や住宅の整備など、さまざまな取り組みを行っていらっしゃいますが、コンパクトエコタウン構想の計画は全て完了しているのですか。
いえ、まだ計画の途中です。もちろん一つの施設整備に何億円とかかるところもありますので、少しずついろいろな状況を考慮しながら進めているところです。
今後は、高齢者住宅やクリニック、スーパーのそばに大きな公園を作る計画があります。また、町内にある特別養護老人ホームと養護老人ホームの老朽化も進んでいますので、再整備に向けてどうしていこうか考えているところです。
――なるほど。沼田町は今後さらに暮らしやすくなり、農村型コンパクトエコタウン構想は全国の小規模自治体のモデルとなりそうです。貴重なお話をありがとうございました。