大分大学_大下晴美准教授に訊く:女性のキャリアアップを支援「おおいた女性人財育成プログラム」に込めた意識改革への想いと役割

大分大学の大下晴美先生は「おおいた女性人財育成プログラム」の推進に精力的に取り組まれています。

大下晴美先生が「おおいた女性人財育成プログラム」で実現したいこと、今後の展望について伺いました。

大下晴美 先生
大分大学 医学部医学英語教育学講座 准教授

ダイバーシティ推進本部 

男女共同参画推進室・若手研究者育成等支援室 副室長

研究分野

外国語教育

研究キーワード

読解指導、多読、NIRS、EMP

研究内容

●英語多読および英語の読み聞かせに関する脳科学的研究

●英語医療面接の評価方法に関する研究および英語医療面接自動採点システムの開発

「おおいた女性人財育成プログラム」の立ち上げ

本学は文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」(2017-2022)に採択されたことを機に、産学で女性のキャリア向上のためにできるプログラムはないかと模索していました。その結果、「おおいた女性人財育成プログラム」を2019年度から始めることになり、現在6年目になります。

私自身は本学の男女共同参画推進室副室長であるため、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」事業に携わることになりました。この事業の一環であった「おおいた女性人財育成プログラム」を始める際に、まず大分県内の企業有志の女性社員で構成されているワーキングウーマンミーティング等にお話を聞きに行き、どのような内容を行うべきか調査することから始めました。

当初は事務的なスキル向上のための講座を考えていましたが、業種間で必要なスキルがかなり異なること、また人によってもレベル差が大きいということから、内容面を再考しました。そして、女性がキャリアアップを目指すためには、まず女性が自分に自信をつけることが必要なのではないかと考え、意識面の改革を行うような講座を検討することにしました。

実際にいろいろなアンケート調査でも、女性は管理職になりたがらないとか、上位職を目指すことをためらうという意識の問題が顕在化していました。そのため、そのような意識を変えていくことが女性のキャリアアップには必要なのではないかと考え、意識改革やコミュニケーションスキルの向上を目的とした講座を設定しました。また、そのような講座であれば、どのような業種の方でも参加しやすいのではないかと考えました。

幅広い年代がプログラムに参加

「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」(2017-2022)で立ち上げられた「おおいた連携ダイバーシティ推進会議」は、本学を代表機関とし、大分県内外の企業様が共同実施機関・協力機関として参加し、現在14機関で構成されています。「おおいた女性人財育成プログラム」は、その推進会議の構成機関様、先ほど述べたワーキングウーマンミーティング等、および大分県内の中小企業様にもご案内させていただき、今後上位職での活躍が期待される女性、もしくはキャリアアップをしたいと考える女性に紹介していただいています。 
参加者は、企業で働く女性が中心ではありますが、学内の事務職員、育休中の方もいらっしゃいます。また、20代から50代・60代まで、幅広い年齢層の方が参加してくださっています。参加者の皆さんの中には、将来のためにキャリアを考えたいという方もいれば、指導的立場として今後後輩の育成をどのようにしようかと模索されている方もおられ、参加の目的も様々です。

講義はワークショップを中心に、異業種の方とのコミュニケーションを通して共に学ぶ形式となっています。また、プログラム終了後には異業種交流会も開催し、異業種間の交流を推進しています。この交流会は、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」(2017-2022)の承継事業内容の一つなのですが、「おおいた女性人財育成プログラム」と並行して実施することによって、参加者数も増加しますし、プログラム内では十分に交流ができなかった方のための補完的役割も担うことができています。

異業種交流会の意義

異業種交流会では、さまざまなテーマを設け、まず講師の方に「子育て中にどうやって仕事と子育てを両立させてきたか」、「管理職に就くとどのような点が大変か」など、体験談をお話ししていただきます。その後、講師の話をもとにグループディスカッションを行い、悩みや解決法などを異業種間で共有する会としています。

異業種間で交流することによって、これまでとは異なる新たな視点で問題を考えたり、先進的な取り組みを行っている企業の参加者との話によって、グッドプラクティスを共有することができます。また、同じ会社にロールモデルがおらず困っている方にとっても、個人的な体験を共有することによって、異業種の方を新たなロールモデルとすることが可能です。そのため、毎回、交流会の終了時間が過ぎても参加者の皆さんの話が尽きることはありません。

県との連携で広がりを見せる参加者

「おおいた女性人財育成プログラム」は先ほどもお話したように、ワークショップが中心であるためか、参加者の皆様から大変好評をいただいております。プログラム開始時は、学外の先生にすべての講義をお願いしていましたが、最近では、学内の先生方にもご協力いただき、実施する講義を増やしています。また、今年度は初めて大分県消費生活・男女共同参画プラザ様との連携実施を試みています。
これまでは、「おおいた連携ダイバーシティ推進会議」(代表機関:大分大学、共同実施機関・協力機関)が中心に行ってきたため、どうしても参加者が限定的であった点が問題であったのですが、今年度は初めて県と連携させていただき、より幅広い大分県内の企業様にお声がけすることができ、これまでよりも多くの方に参加していただいています。

参加者同士のつながりを大切に

今年度は第1回の「おおいた女性人財育成プログラム」を「おおいた連携ダイバーシティ推進会議」主催で実施し、その中で現在の自分の状況を見つめなおしていただき、現在の自分の問題を解決し、さらにキャリアアップを目指すために、県の「次世代の女性リーダー育成研-Next Stage-」を紹介させていただきました。こちらは、ヘルスマネジメントコース、キャリアマネジメントコース、ビジネスマネジメントコース、ピープルマネジメントコースの4コースの中から参加者のニーズに合わせて、1~2コースを選択することができるようになっています。また、コース開始前にキックオフセッション、修了後に成果報告会・交流会を実施し、各コース間の交流や内容の共有が可能となっています。私もキャリアマネジメントコースの第1回の講義を担当させていただきましたが、20代~60代までの非常に幅広い年齢層の様々な業種の方が参加されておりました。また、この県の「次世代の女性リーダー育成研修-Next Stage-」は11月に終了する予定なのですが、翌年1月頃に、今度は「おおいた連携ダイバーシティ推進会議」が異業種交流会を主催し、さらなる交流の場を提供する予定となっています。このように、県と連携して女性のキャリアアップのための研修を実施することによって、参加者の皆さんの交流を継続し、大分県内の企業のさらなる活性化を図ることができればと考えています。

これまでの参加者のアンケートによると、他業種の方と交流することによって、様々な刺激を受けたというご意見が多いようです。また、このような研修を受講しなければ、他職種の方と交流する場がほとんどないため、非常に貴重な機会だったというご意見も非常に多いです。

これまでの「おおいた女性人財育成プログラム」や異業種交流会での情報を会社に持ち帰り、新しい育児休業制度を導入したという企業もありましたので、このような様々な業種の方が参加することができる研修や交流会は非常に良いことだと感じています。

良きロールモデルが見つかる

ダイバーシティは女性だけが頑張ってもなかなか進展しません。男性の理解・協力も欠かすことはできません。しかし、様々な場で頑張っている女性を応援することはとても大切なことだと思います。また、そのような場を大学として提供することができているということは、とても嬉しいことだと思います。建設業など業種によっては、見本になる女性の先輩が少ない職場もありますので、そのような時は業種が違えども、活躍している女性の先輩たちのロールモデルを知ることによって、活力を得ることもあるのではないでしょうか。

一方、このような研修や交流会に参加することができず、孤軍奮闘している女性もたくさんいるのではないかと思います。そのため、参加者の裾野をこれからもどんどん広げていきたいと思っています。今年度の県との連携は、参加者の裾野を広げるための大きな一歩になったと考えています。

女性が社会で生き生きと働くために必要なことは

難しい問いですが、私は女性が社会で生き生きと働くために必要なことは、まず女性自身が自分の仕事に生きがいと誇りを感じることができるということではないかと思います。そのためにも、女性が精神的にも、身体的にも健康を保つことができる環境づくりが大切だと思います。

私生活も含め、仕事にも楽しさや達成感・幸福感を感じることができれば、きっと女性が社会でもっと輝くことができるのではないかと思います。自分が幸せと感じることができれば、周りの人をもっと幸せにすることができ、そのようなプラスのサイクルが社会全体の活性化に繋がるのではないでしょうか。そのためにも、まずは女性が自分自身に自信と誇りをもつことが大切だと思います。

少しでも新しい学びを届けられるよう毎回工夫をこらしている

毎年、「おおいた女性人財育成プログラム」の内容は見直し、検討を行っていますが、その際に最も重視している点は、できるだけ参加者のニーズに沿った内容を提供することです。例えば、参加者のニーズの中には、学び直しやAIなどの最新技術の習得などもありますが、このような内容は大学の別事業に棲み分け、最初に述べたように、本プログラムは多様な業種の方が受講可能な意識改革、コミュニケーション能力の向上を主としています。
しかし、毎年開催となると、内容の固定化が懸念されます。内容が固定化すれば、過去に参加された参加者が再度受講することはなくなるでしょう。そのため、アンケート結果等を参考にしながら、毎回目的は変えずとも、視点を変えたり、活動内容を見直したりして、毎年参加していただいても新しいことを学ぶことができるように内容の充実を心がけています。

実際に、これまで複数年参加された方はいらっしゃいます。そのような方からも、毎回新しい発見があったというコメントを頂いており、本当に嬉しく思っています。このように、今回参加してよかったので、また次回も参加しようと参加者の皆さんに思っていただけるような魅力的なプログラムにしたいと試行錯誤しています。

企業研修プログラムとしての役割を果たしたい

今年度からの県との連携を踏まえ、今後の展望としては、このような女性研修プログラムが定着し、大分県内の企業の研修プログラムの一環に取り入れていただくことができればと考えています。現在は、どの企業も様々な研修を独自に企画し、自社内で実施するというパターンが一般的だと思いますが、このような企業外の研修プログラムと連携することができれば、各企業の負担も軽減できますし、研修に参加した社員が外部の刺激を受けて、会社に新しい風を吹き込んでくれる可能性があると思います。さらに、大分県内の企業同士の交流・絆も一層強まるのではないかと期待しています。そのため、今後も様々な企業のニーズや研修内容を調査しながら、大分県および大分県内の企業の皆様と一緒に、大分県内の企業研修のプログラムの一つと位置付けていただけるプログラムを構築していきたいと考えています。