昭和の温泉場の楽しみを残す、伊豆長岡の魅力:伊豆の国市地域おこし協力隊 榊田幸平さん

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東京駅から電車で約1時間半、沼津港に近い伊豆の入り口に、伊豆長岡温泉はある。かつて歓楽街として有名な温泉地であったが、現在はレトロな風情を残しつつ、女性客や子ども連れにも親しみやすい観光地として、根強い人気がある。

今回はこの伊豆長岡を中心に活動する、伊豆の国市地域おこし協力隊榊田さんにお話を伺った。沖縄から伊豆に移住した榊田さんだが、移住のきっかけは大学時代の地元の人とのつながりだったという。今回は、温泉地としてだけではなく、人のつながりの深い土地としての伊豆長岡の魅力に迫りたい。

画像引用元:Map-It

大学時代のつながりが、協力隊就任のきっかけに

榊田さんは埼玉県本庄市出身。前職はなんと、埼玉から遠く離れた沖縄県西表島で働いていたという。
「西表島に付随しているに、由布島があります。周囲が2キロぐらいで、島のほとんどが植物園になっていて、水牛車が有名です。そこで、牛舎の運転とかをやっていました」

そんな榊田さんが静岡県伊豆の国市を初めて訪れたのは、大学での研究がきっかけだ。日本大学国際関係学部に在学中の4年間は、大学のキャンパスがある静岡県三島市で過ごした。観光系の学科ということもあり、著名な温泉地である伊豆長岡にも研究で足を運んだ。現地の人とは卒業後も連絡を取り合う仲になったという。卒業後、沖縄で前職にあったとき、ちょうど伊豆長岡の知り合いから地域おこし協力隊の誘いがあったのだという。
「実は求人も見ていたんですけど、現地の人が『地域おこし協力隊の制度があるからどう?』と声をかけてくださって、それで行こうかと決めました」

その後、伊豆の国市の地域おこし協力隊に就任。メインの活動場所を伊豆長岡とし、大学時代に出会った方たちとは今でも一緒に仕事をしているという。

クラシックな温泉地・伊豆長岡の魅力

伊豆長岡に暮らして3年目になる榊田さんに、長岡の暮らしについて伺った。
「全てが程良いというか。ごみごみとしてもなくて、人が少なすぎず、買い物にも困らないし、でも自然もすごく感じられるし。自分としてはすごく住みやすいです」

伊豆長岡温泉は、バブル期に温泉地として急速に発展した地域である。それに比べると現在は落ち着いた印象もあるものの、インバウンドの影響もあって依然として観光客は多いという。
「熱海に比べたらまだまだですけれども、結構ポテンシャルがある街ですから、活動のやりがいもあって面白いです」

地域おこし協力隊としての榊田さんは、一般社団法人伊豆長岡温泉エリアマネジメントという、民間のまちづくり会社への配属となった。市より都市再生法人に認定され、行政とも密接に関わりながら幅広い事業を行っている法人だ。榊田さんの主たる活動は、その法人の作る新しい分散型ホテル「さかなやステイ」の運営である。
「“まちに泊まる”っていうコンセプトを掲げて、私が協力隊に入ったちょうどぐらいにオープンしました。まちづくり会社なので、温泉場のにぎわい作りということで、有休不動産の活用もしています」

「さかなやステイ」のある場所は、かつて老舗旅館「さかなや旅館」が営業していた跡地である。約100年続く老舗旅館だったが、現在は閉業して20年ほどたち、建物は廃墟になっていたという。この建物が伊豆長岡温泉のメイン通りにあったため、景観的にもよくない。そこで、温泉場のメイン通りの活性化を目指し、まちづくり会社がこの建物を買い上げ、取り壊しから建て直しまでを担った。
伊豆長岡温泉は、かつては歓楽街としての色の濃い温泉街であった。その名残として、今でもスナックなどの接待を受けられる施設も多い。射的場など昔ながらの遊びのほか、芸者文化も根強く残り、お座敷遊びも楽しめる。いわゆる“クラシックな温泉場”としての雰囲気を現代に残している場所だ。
「さかなやステイ」の客室は、シンプルなコンテナルームが7棟。2名用の客室だが、布団を敷けば3名まで宿泊できる。浴槽はないものの、周辺の旅館と提携し、温泉街の施設を活用しながらステイを楽しめる分散型ホテルの形をとる。
「宿泊のお客様は、提携先の周りの旅館の大浴場を使えます。あとは、私たちの方で独自に飲食店マップも用意し、飲食店も提案しています。温泉場の雰囲気を味わうのに出歩くのも楽しい場所です」

今後の活動

宿泊業を中心に活動されてきた榊田さん。今後の活動について展望を伺った。
「宿泊をメインに活動してきた中で、自分の中では結構宿泊に適性を感じ、『自分でも宿泊施設をやってみたいな』と常々思っていたんです。活動も残り1年となった今、本格的に宿泊施設をするための空き家を借りました。自分で全部リノベーションして、卒業後は1日1組限定の宿をオープンする予定です」と榊田さん。
「実は協力隊の先輩にも、協力隊を経て宿を開業された方がいらっしゃったので、僕も真似させていただきました」

宿泊に適性を感じたというのは、どういう部分だったのだろうか。
「僕、もともと掃除好きなんです。お客様が来る前にお部屋を綺麗にして、元の場所に物を戻して、お客様が喜ぶアメニティを準備してお迎えするっていう、その作業がすごく好きです。お掃除が苦にならないので、自分としてはすごく合ってる職業だなって」

榊田さんが借りた空き家は昭和40年ころ建てられた建築だという。もとは二世帯住宅だったため、敷地内には建物が2棟ある。そのうちの片方に住みながら、片方を一棟貸しの宿として営業する予定だ。
こうした物件探しも、縁もゆかりもないところから一朝一夕に手に入るものではない。空き家自体は伊豆の国市にたくさんあるものの、不動産サイトで高値がつけられているものも多い。そこで榊田さんは、地域おこし協力隊として築いた人脈や信用を駆使したという。
「空き家は、卒業後最初に始めるビジネスとしては手が出せないような価格だったんですけど、そこは地域おこし協力隊のネットワークを利用しながら、地道に物件を持て余している方を探しました」

空き家の貸し借りには、どうしても信用を得る段階が必須になる。借り手からすれば、家を自由に使いたいという気持ちが強いだろうが、貸し手からすれば、先祖代々の家を見知らぬ人に好きにされるのに抵抗もあるだろう。榊田さんは、地域おこし協力隊としての3年間に加え、大学時代からの経験も含めると、長い期間地元とつながりを維持してきた。そうしたマメな付き合いが、理想の物件に出会えた要因かもしれない。
「自分で言うのは恥ずかしいんですが、今はやっぱりいろんな方が協力してくれていますね」

開業後のホテルは、一棟貸しの宿泊施設に強い予約サイト「Airbnb」のほか、自社ホームページからの予約システムや、SNSの運用などを合わせて、宿泊客を募る予定だ。「さかなやステイ」では無人チェックインを導入しているものの、開業予定の宿は有人での対応を予定している。宿泊客の顔を見ながら接することで、口コミを書いてもらいやすい距離感の近い接客を目指すという。

最後に榊田さんに、伊豆の国市の魅力について伺った。
「焼き増しになっちゃいますけど、非日常を感じる、クラシックな体験ができるところですかね。あとはアクセスがいいので、『手軽に感じられるクラシックな遊び』って感じです」
東京からのアクセスもよく、海も近い伊豆長岡温泉。レトロ好きの方はぜひ一度遊びに行ってみてはどうだろうか。