【麗澤大学×sfcs】言葉の壁に悩み学校に通えない外国籍の子どもたちを救いたい。「1人100時間プロジェクト」で日本語習得を支援

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日本で働く外国人労働者が増加している一方で、言葉の壁に直面して学校に通えない外国籍の子どもは約1万人も存在すると言われています。このような現実に直面し、「一般社団法人外国人の子供たちの就学を支援する会(sfcs)」では、2021年より「1人100時間プロジェクト」を立ち上げ、外国籍の子どもたちが早期に日本語を習得し、学校の授業を受けられるようサポートを始めました。プロジェクトでは、子どもたちがオンラインで1人100時間の日本語レッスンを受けることができます。

さらに、2024年からは麗澤大学の学生も加わり、外国籍の子どもたちの日本語の習得支援に取り組んでいます。
今回は、一般社団法人外国人の子供たちの就学を支援する会(sfcs)代表理事の石川陽子さん、麗澤大学国際学部教授・金 孝卿(キム ヒョギョン)先生、「1人100時間プロジェクト」に参加されている麗澤大学院生の堀越春香さんに、具体的な活動内容や日本語習得支援への思いを伺いました。


日本社会の表面に出ていなかった課題

――石川さんは、なぜ「1100時間プロジェクト」を立ち上げようと思われたのですか。

一般社団法人外国人の子供たちの就学を支援する会(sfcs)代表理事石川さん:

私は2つの団体を立ち上げており、1つが株式会社エルロンで、もう1つが「1人100時間プロジェクト」です。先に立ち上げたのは株式会社エルロンで、主に外国人人材を採用した企業を対象に、2つの研修事業を行っています。一つは日本人社員向けの研修、もう一つは採用された外国人がキャリアアップのために仕事で必要な日本語を習得するための研修です。

多くの外国人の方々と接する中で、最も多く相談されるのが「子ども」のことです。子どもを母国に置いたまま、お母様が日本へ働きに来ているケースが非常に多いんです。介護職ではその傾向が特に顕著です。そして、仕事が安定してきたタイミングで家族を日本に呼びたいと考えているものの、「ご主人は呼ぶとして、子どもをどうするべきか」と相談をされることが非常に多いんです。

最初は、「まだ子どもが小さいなら一緒に暮らす方が良い」と思っていました。しかし、話を聞いていく中で、お母さん自身が日本語を学ぶのに非常に苦労しており、「全く日本語ができない子どもを日本に呼ぶことが果たして幸せなのか」と悩んでいることを知りました。「親と離れて暮らすか」「日本に呼んで苦労をさせるか」という二択に直面しているという印象を受けたんです。

現在は少し減っていますが、100時間プロジェクトを立ち上げた2021年時の厚労省のデータによると、学校に通えていない外国人の子どもが約1万人いると言われていました。小学校に通えない子どもがいることは、想像もしていなかったので衝撃でした。外国人の子どもたちは義務教育の対象ではないため、人数のカウント自体も曖昧だということにも驚きました。

当時は、新型コロナウイルスの影響で会社としてもやることがなくなってしまったため、「今なら新しいことに挑戦できるかもしれない」と思い、「1人100時間プロジェクト」を立ち上げました。


2024年から麗澤大学も参画

――2024年から麗澤大学も「1100時間プロジェクト」に参画されているそうですね。どのような経緯で麗澤大学が参画することになったのですか。

石川さん:私は日本語教師を10年務めているのですが、教師を始める際に金先生に「学ばせていただきたい」とコンタクトを取ったことがきっかけで、それ以来ご縁が続いています。また、私が代表を務める株式会社エルロンでは、就労者向けの日本語教育も行っており、金先生のゼミ生の皆さんともご一緒したいと思い、関わらせていただくようになりました。

麗澤大学には、外国にルーツを持つ子どもたちへの日本語学習支援を目的に、学生が主体となって立ち上げた「すまいる」というサークルがあります。「コラボレーションすることで、より良い形で子どもたちの支援ができれば」と、金先生からもご提案をいただき、ご一緒させていただくことになりました。

――金先生も、「1人100時間プロジェクト」に学生が関わることで、新しいものが生まれるとお考えだったのですか。

麗澤大学国際学部教授 金先生:学生をサポートする立場として、日々何ができるかを考えてきました。その中でも、学生たちの声は特に大切にしています。直接的なきっかけとなったのは、外国人の子どもたちへの支援に関心を持つ大学院生の堀越さんが「支援活動をしたい」とゼミに参加してくれたことでした。

また、本学の近隣にある大学や小学校、教育委員会などともお付き合いがあるのですが、同じ時期に「日本語教育を必要としている子どもたちが多いが何かできることはないか」とご相談をいただいたことも、きっかけの一つとなりました。

学生が「こういうことをやってみたい」と思った時に、社会とどう繋がり、どう広げていくかを考えることが私の役割であり、ミッションです。学部生の中にも外国人の子どもたちへの支援に関心を持つ人がいたため、「組織化してみてはどうか」ということで、堀越さんにリードしてもらいサークルを立ち上げました。学生一人でできることには限りがありますが、組織を作ることで仲間が増え、より多くのことに取り組めるようになります。

石川さんには以前から特別講義なども行っていただいており、学生からは「石川さんが行われているような活動をもっと行うべきだ」という声が上がっていました。しかし、「こういうことをしたらいいのではないか」と発表するだけで満足してしまっているところがありました。そのような状況で、団体を立ち上げた直後にも石川さんにお越しいただき、「活動をより広め、必要な人々に声を届けるためにはどうすればいいか」お話いただく機会があったんです。

その際、学生から「学生が直接関わる機会があればいいのではないか」というアイデアが、いくつか出てきました。もしそれがふわっとしたアイデアであれば、私も行動には移さなかったと思います。しかし、「学生が子どもたちに直接教える」など具体的なアイデアが出され、その必要性についても理由をしっかり説明してくれました。学生たちの意欲的な姿勢やアイデアに可能性を感じ、一緒に取り組んでいくことができないか、石川さんに直接相談しました。

まだ始まったばかりで学生たちにも未熟なところはありますが、日本語教育を必要としている子どもたちが目の前にいるということを学生たちにも知ってもらい、「自分たちが関われることは何か」を考えるきっかけにしてほしいと思っています。

――地域においても外国にルーツを持ち日本語が話せない子どもたちが増加している中で、学生たちの教育への意欲も高まり、タイミングが重なったことでご縁が生まれたということですか。

金先生:そうですね。また、私は国際学部で多文化共生社会における日本語支援や日本語教育に関する授業を担当しており、日頃から学生たちと日本語教育について考えたり調べたりしています。しかし、社会の動きや志を持つ方々のスピリッツを、学生があまりにも知らないと感じていたんです。それを「知らせたい」という強い気持ちが私にはありました。直接的な支援はできませんが、お互いに知らないのであれば、せめて繋ぐことはできるのではないかと思いました。

――先生も相当な情熱をお持ちだったんですね。

金先生:ただ、情熱だけでは花開かない部分もあります。学生や社会の声、社会の動きがあり、いい仲間がいて、それを繋いだ結果だと思います。

現状を知り、日本語支援の必要性を実感

――学生の中で、核になる存在が堀越さんということですね。

金先生:そうです。

――堀越さんは、もともと日本語支援に興味をお持ちだったのですか。

麗澤大学院生堀越さん:学部時代から外国にルーツを持つ子どもたちと関わる機会があり、日本語習得を支援したいと考えるようになりました。私が小学生の頃は同じ学校に外国籍の子どもがいなかったため、日本語で苦労している子どもがいることを知りませんでした。

しかし、学部で副専攻として日本語教育を学ぶ中で、日本語支援を必要とする子どもたちに出会い、その重要性を実感しました。大学院でもこの活動を続けたいと思っていた中で、金先生からお話をいただいて、100時間プロジェクトと繋いでいただき、現在の活動に至っています。

私が子どもの頃とは社会が大きく変化してきている中で、子どもたちの手助けをしたいという思いで「すまいる」を作ったり、「1人100時間プロジェクト」の活動をしたりしています。大学院に進んでからは、はっきりと日本語教師になりたいと思いが芽生え、現在は非常勤講師として働いています。

――堀越さんが子どもの頃というと、15年ほど前でしょうか。

堀越さん:そうですね。田舎に住んでいて気づかなかっただけかもしれませんが、15年前と比べると、外国から来た子どもの数はおそらく増えていると思います。また、小学校の先生側も困っているという話を聞いており、状況は大きく変わっていると思います。

――プロジェクトの中では、どのような役割を担っているのですか。

堀越さん:週に3回レッスンが開かれているのですが、学生も時間が限られているため、 それぞれ都合の良い日に参加しています。私が一人で担当することが多く、基本的に1対3で、子どもたち3人を相手にオンラインで日本語のレッスンを行っています。子どもたちはまだ小さいですし、全国にいるので実際に集まるのは難しい状況です。そのため、オンラインという形で実施しています。

――オンラインで教えるのは難しそうな印象がありますが、実際はいかがですか。

堀越さん:確かに難しい部分もあります。例えば、「ミュートがわからない」「声が届かない」など機械操作の面での難しさもあります。また、画面越しでは身振りや手振りを使わないと伝わりづらい場面もありますし、楽しくレッスンに取り組んでもらうためには、表情にも工夫を凝らす必要があります。対面で教えるよりも、何倍も難しさを感じています。

――やはり日本語のレベルには個人差があるのでしょうか。

石川さん:レベルはまちまちです。同じ年齢やレベルの子どもたちをできるだけ集めるようにはしていますが、日本語学校のように均一に分けるのは難しい部分があります。例えば、ひらがなが読めないという点では共通していても、話すのが得意な子と、ほとんど話せない子が同じグループになることもあります。レベルの異なる子を教える難しさを、感じることはあります。

――日本語を日本人の子どもに教えるのと、日本語が母語ではない子どもに教えるのとでは、全く異なると思います。教える際には、どのような工夫をされているのですか。

堀越さん:「勉強しよう」という気持ちで臨んでいる子はおそらく少ないと思うので、「遊びながら楽しく学べる」ことを最も大切にしています。 例えば、興味を持ってもらえるようにゲームを取り入れたり、オンラインレッスンでは動画を見せて一緒に歌ったりしています。また、子どもたちはおしゃべりが大好きなので、おしゃべりを楽しむ時間も作っています。

――1100時間プロジェクト」というプロジェクト名がついていますが、堀越さんはこれまでに100時間教えられたことはあるのですか。

堀越さん:何回かレッスンしています。

――週にどのくらいの頻度でレッスンを行っているのですか。

石川さん:1回1時間のレッスンを週3回行っています。ですから、100時間レッスンを受けるとなると、合計で100回のレッスンに参加することになります。期間としては、大体10ヶ月ほどで終了となります。

――堀越さんは5ヶ月ほどレッスンをされていますが、実際に教えてみていかがですか。

堀越さん:最初は「本当にこの子たちに教えていけるのか」という不安と、「どのように教えたらいいんだろう」という難しさを感じていました。しかし、石川さんたちのサポートを受けながら、少しずつひらがなを教えたり、おしゃべりをしたりする中で、子どもたちの成長を感じています。表情も変わり、楽しそうにレッスンを受けてくれているのが伝わってきます。

――堀越さん以外に、何名の学生さんが参加されているのですか。

堀越さん:5名が参加しています。学生同士のスケジュールが合えば、一緒に教師役として参加することもあります。ただ、なかなか全員が揃うことは難しいので、基本的には学生1人でレッスンを行っています。

――他の学生の皆さんも先生を目指していらっしゃるのですか。

堀越さん:先生を目指している学生もいますし、別の道に進まれる方もいます。

――若い頃から社会貢献に取り組んでいらっしゃるのは本当に素晴らしいですね。他の大学ではなかなか見られない取り組みだと思うのですが、こうした活動ができるのは、やはり麗澤大学ならではなのでしょうか。

堀越さん:やりたいという気持ちはあっても、実際に教える場や繋がりを持つことはなかなかできません。 その中で、貴重な経験をさせていただいています。

――石川さんは学外の方として、学生さんたちのことをどのようにご覧になっていますか。

石川さん:本当に素晴らしいと思っています。実際に授業に入るのは、勇気がいると思うんです。チャレンジしようとする姿勢が、まず素晴らしいと思います。また、学生さんたちは授業だけでなく、勉強やアルバイトなど、やらなければならないことがたくさんある中で、「誰かのためにやってみよう」と思って行動できるのが本当に素晴らしいです。学生さんたちと関わる中で、私も学ぶことがたくさんあります。


組んで大正解、双方に実りのあるタッグに

――麗澤大学と組んだのは、大成功というか大正解だったということですね。

石川さん:大正解だったと思います。現在は試行錯誤を重ねている段階で、何が「成功」と言えるかはわかりません。しかし、スタートを切れたこと自体が最大の成果だと感じています。このご縁をつないでくださった金先生には、心から感謝しています。

――金先生は、皆さんの活動をご覧になっていかがですか。

金先生:思いがあっても、実際にそれを実践できるかどうかは、私自身にとっても大きなチャレンジでした。今回は、皆さんが心を一つにして取り組んでくださったおかげで実現できたことに、心から感謝しています。

何事もそうですが、実際に始めてみると予想外の出来事が起きたり、思い通りにいかなかったりすることもあります。それでも、まずはやってみることが大事だと思います。特に、私たちは人を相手にしているので、関係を築いていく中で、事前には想像もできなかった新しい関わり方が生まれることもあります。学びとは、そうした動きの中で、動的に生まれてくるものだと私は考えています。

現実世界の中で、自分がどのように関わるのか、関わることができるか、どのように学びが生まれてくるのかは、体験することでしか学べないと考えています。そのような体験を大学や大学院の間に経験できることは、非常に貴重だと思います。教室の中では実現できないことが、「1人100時間プロジェクト」を通して実現できているのではないかと感じています。今後に向けての期待もありますし、活動がさらに充実するよう、引き続きサポートをしていきたいとより一層強く思うようになりました。

――確かに「1100時間プロジェクト」では、異なる場所に住む外国籍の子どもや石川さんのような外部団体の方とも関わる機会もあり、 通常の講義とはまったく異なる環境で学ぶことができますよね。堀越さん以外の学生さんたちも、意志を持って活動されているのでしょうか。

金先生:本学には、外国にルーツを持つ子どもたちへの日本語学習支援を行う学生自主サークル「すまいる」があります。このサークルは、地域の小学生たちと関わることを第一義的にスタートしました。また、本学には国際学部、大学院には言語教育研究科があり、日本語教師や日本語教育に関心のある学生が一定数います。現在、すまいるのコアメンバーは12名いるのですが、その中で特に日本語支援に強い関心を持つ5名の学生が「1人100時間プロジェクト」に参加しています。様々な支援のあり方が求められている中で、直接的な言葉の支援にコミットしてくれている5名が、サポートしてくれています。春香さんは、メンバー同士でプロジェクトに関して話すことはありますか。

堀越さん:同じ大学院生のメンバーもいるので、将来のことやプロジェクトの進め方、子どもたちの反応などについて話すことがあります。「すまいる」の中でも教えたいという気持ちが強いメンバーが100時間プロジェクトに参加しており、それぞれ考えや意欲を持って取り組んでいると思います。


それぞれが思い描く未来

――今後の展望について教えてください。

石川さん:多くの方々の力をお借りしながら、困っている外国人の子どもたちがいるという現状を、まずは多くの方に知っていただきたいです。その手段の一つとして、YouTubeやテレビで活躍されている小原ブラスさんに、当団体の理事長として情報を発信していただいています。彼は6歳の時にロシアから日本に来た経験をもつ、当事者でもあります。

さらに、日本語教師のネットワークに加え、これからの日本語教育を担う大学院生や大学生の皆さんと一緒に、活動を広げていきたいと考えています。

まだまだ小さな団体で子どもたちの支援を細々と行っていますが、今期から麗澤大学さんとご一緒させていただいたことで、参加してくれる子どもたちの国籍も増えました。今後はさらに国籍を増やしていくとともに、サポートできる人数も増やしていきたいと考えています。

また、子どもたちの日本語教育を支援するプロフェッショナルな日本語教師の育成にも取り組みたいと思っています。これらの目標を、長期的な視点で少しずつ実現していければと思っています。

金先生:石川さんが「参加してくれる子どもたちの国籍が増えた」とお話しされていましたが、100時間プロジェクトに携わるすまいるのメンバーも多様な背景を持っています。例えば、堀越さんのように日本国籍の方もいれば、 現役留学生もいます。また、留学生の中でも、大人になって日本に来た人もいれば、支援対象の子どもたちと同じように、小学校や中学校から日本で学んできた方もいます。

ある意味日本語教育も非常に多様化してきている中で、支援対象が多様であるように、支援に関わる人たちも多様になってきていると感じています。 彼らも含めて自身が主役となれるような活動の場が、当たり前に存在する社会になれば良いと思います。私たちの活動は、それぞれの立場からのチャレンジでもあります。こうした場が振り向けば当たり前にあるような社会になってほしいと願っていますし、少しでもその実現に貢献できれば嬉しいです。

堀越さん:せっかく石川さんとご縁をいただいたので、同じ日本語教育支援に取り組む者として、これからも何らかの形でつながりを持ち続けたいと思っています。そして、子どもたちの支援をこれからも続けていきたいと考えています。