女子大生とダジャレ――一見ミスマッチに思えますが、フェリス女学院大学のダジャレサークル「ダジャレ・ヌーボー」は、なんと20年以上も活動を続ける老舗サークルです。ダジャレはややもすると「おやじギャグ」として敬遠されがちですが、実はその奥には言葉遊びの妙と、人との心の距離を縮める力が秘められているようです。
今回は、部長の“キューティーみく”こと牧田未来さん(4年生)、新入部員の“かいりきモモ”こと増子桃香さん(1年生)、そして顧問の“ジョルジュ齋藤”こと齋藤孝滋先生に、ダジャレの魅力とサークル活動について語っていただきました。
女子大生に新しい世界を提示
―ダジャレ・ヌーボーというサークルとして活動を始めたのは2003年からと伺いました。20年を超える歴史のあるサークルですが、設立の経緯を教えていただけますか?
キューティーみく:
2003年はちょうど私が生まれた年なので(笑)、詳しいことは分からないのですが、先輩方と先生の雑談から設立されたということは聞いています。
ボジョレーヌーボーとかけて「ダジャレ・ヌーボー」という名前になったとか。
ジョルジュ齋藤:
本学ではゼミや授業単位で教員と学生とでイベントをしたり食事会をすることが結構あるのですが、授業後にみんなで食事に行った帰りに「ダジャレのサークルがあったらいいよね」という話の流れで出来た感じですね。
―キューティーみくさんはどういうところに惹かれてダジャレ・ヌーボーに入部したんですか?
キューティーみく:
入部したのは1年生の頃で、新しい世界に飛び込んでみたいと思って入部しました。身近にダジャレを言うタイプの人がいなかったので、私にとってダジャレは新しい世界だったんです。
初めはダジャレもまったくできなかったのですが、先輩方のようにうまくなりたいという思いで続けていくうちに「ダジャレって面白いな」と魅力を感じるようになり、今に至ります。

後輩を魅了するかっこいい“だじゃらー”とダジャレの魅力
―普段の活動内容を教えていただけますか?
キューティーみく:
基本は週に一度、毎週月曜日のお昼にみんなでご飯を食べながら、雑談したりダジャレの練習をしたりしています。
埼玉県加須市で開催されている「D1ダジャレグランプリ」というダジャレの大会があるのですが、そこには毎年出場させていただいています。
―やっぱり皆さん好成績を修められるのですか?
キューティーみく:
そうですね、去年は当サークルの副顧問が2位を取りましたし、毎年ベスト8に入るメンバーも多く、皆頑張って結構良い成績を残していると思います。

―現在サークルの部員数は何名くらいいらっしゃるのですか?
キューティーみく:
現役の学生が7名、OGが2名です。先ほどお話しした副顧問の“エース田中”さんはOGの方です。“かいりきモモ“こと増子さんは今年入部してくれた、期待の若手です。
かいりきモモ:
入学してすぐにこのサークルの存在を知ったのですが、ここにいる先輩方がかっこよすぎて、今ここにいられるのが幸せです。
ダジャレ・ヌーボーの先輩全員に共通しているのですが、皆さん本当に行動力があるんです。コミュニケーション能力も高いし、学生時代からいろんな記事を書いて活動している方もいたり、同じ大学生として尊敬するところがすごく多くて。それで私も入部したいと思いました。
―かいりきモモさんもそうなれると良いですね。
かいりきモモ:
将来の夢というか願望なんですが、Vtuberとして活動できたらいいなと思っているんです。
仮にVtuberになったとして、例えば「無理」っていう言葉を単語として伝えると、相手に結構冷たい印象を与えると思うんですよね。しかも生身の人間であれば表情とかでその冷たい印象を和らげることも多少はできますが、Vtuberの場合はそういうことも出来ないので、言葉で伝えきれない部分を補うのがすごく難しい。
でもそういうときにダジャレを駆使することで、例えば「無理」を「むりむりむりむりカタツムリ」っていうダジャレにして伝えることで、ふと笑いが起きたりすることもあると思うんですね。
そういう存在になれたらという思いもあります。

謙遜する部長・“キューティーみく“は実力者
―なるほど、言葉の伝え方の一つとして、ダジャレは結構良い手段ということですね。キューティーみくさんは入部してから丸3年経っていますが、ダジャレが言えるようになって良かったというエピソードはありますか?
キューティーみく:
私はまだまだダジャレの技術が低いので、先輩方のように駆使することは出来ていませんが、今まさに就職活動の時期なので、面接の場で「特技を披露してください」とか、サークルの話をした際に「何かダジャレ思いつきますか?」といった無茶振りにもダジャレで答えることができるようにはなりましたね。
初対面の方と話すときでも、ダジャレを交えて話すことでより親しくなれたりとか、そういう意味でもすごく良いなと思っています。
―そうですよね。正直いって、女子大生とダジャレって普通あんまり結びつかないので、私もそこに惹かれて取材を申し込んだ訳ですが、やっぱりその組み合わせのインパクトは大きいと思います。ちなみにキューティーみくさんの中でヒット作のダジャレがあれば教えていただけますか?
キューティーみく:
えーなんだろう・・・
ジョルジュ齋藤:
みくさんは自分では言わないけどかなりの実力者で、彼女が1年生の時にD1ダジャレグランプリのチャンピオンになっているんです。そのときの作品はいかがですか?
キューティーみく:
そのときの決勝戦のお題が「メダイ」でしたので、「目、大にして、金メダイを願う」というダジャレを作らせていただきました。
ジョルジュ齋藤:
少し補足しますと、D1ダジャレグランプリの入賞メダルが鯛の形をしていて、金メダルを金メダイ、銀メダルを銀メダイというふうに呼んでいるのですが、今のみくさんの作品はその決勝戦のときのもので、優勝を目指すぞっていう文脈の作品ですね。お題を出されてから30秒で作り上げなければならないのでなかなか大変です。
もう一点補足すると、D1ダジャレグランプリは40名から50名程度のトーナメント戦なんですが、人数的には男性の方が多いんです。でもここ3年ほど、決勝戦に進むファイナリストはみんな女性なんですよ。しかも、みくさんのように若い女性がおられるので、今やダジャレの世界は女性、特に若い女性が活躍していると思います。

―そうなんですか。ダジャレって「おやじギャグ」とか言われて冷遇された時代があったと思うんですが、逆に今は若い女性が活躍している領域なんですね。キューティーみくさんは普段の生活の中でどんなときにダジャレを言いますか?
キューティーみく:
私は初対面の方だったり、久しぶりに会う友人に「ダジャレサークルに入ってて…」という話をすることがあって、そうすると大抵「なんかダジャレ言ってよ」となるので、そういうときに言ったりしますね。
ダジャレ=おやじギャグみたいなイメージは今もありますが、若い人が言うことで印象が変わったとか、純粋に面白いねと笑ってくれたりするので嬉しいです。
―先ほど就職活動でもダジャレの話をすると伺いましたが、実際にどんなダジャレを披露したか良ければ教えてください。
キューティーみく:
ある新聞社の最終面接で、その会社の社長さんから「地域」というお題を頂いたので、「その新聞を読むと地域の人たち生き生きするね」というようなことを言いました。
―すごい、その場で示されたお題に即答えた訳ですね。これは日頃の訓練の賜物というか、普段からダジャレを考えていると頭の回転が早くなりそうですね。
キューティーみく:
そうですね、普段から2文字・3文字の言葉を見ると、これだったらどういうダジャレができるかなって常に考えているかもしれません。
―かいりきモモさんは入部されて間もないと思いますが、ご自身のダジャレ作品はありますか?
かいりきモモ:
齋藤先生のダジャレ学の授業で「福の神」というお題が出たので、「福袋開けたら福の神の服が出た」っていう、「ふく」縛りで作ったことがあります。
入部してまだ1,2回しか活動参加していないのですが(※取材時4月)、これから瞬時にダジャレを出せるように腕を磨いていきたいと思います。

ダジャレは学問と仕事に通ず

―齋藤先生に伺いたいのですが、ダジャレ・ヌーボーを卒業された方ってコミュニケーション能力が上がっていくものなんですか?
ジョルジュ齋藤:
そうですね、色々な場面でダジャレを活用して良いコミュニケーションが取れているようです。古いメンバーの中には、ダジャレを修士論文のテーマにして、ダジャレの定量的なイメージ調査を論文にまとめた卒業生もいますが、一般企業に就職したり、高校の教員になった方もいますし、皆さん色んな方面で活躍されていますよ。
先ほどみくさんのダジャレ作品を紹介しましたけれども、みくさんは2つの文を1つの表現の中に綺麗にまとめてダジャレを作っていくんです。それがとても見事なので「形態素の魔術師」とかって呼んでいるんですが、私の専門分野である言語研究の観点からも非常に興味深いですね。
モモさんも、ダジャレ学の授業の中で生成AIを使ってダジャレを画像化・動画化させながら発信するという新しい活動を始めているので、そういったところで活躍してもらうことで今後もこの分野を牽引していってもらいたいなと思っています。
―ダジャレを画像や動画にするんですか?
ジョルジュ齋藤:
はい。最初に情報をくれたのは、先ほど話に出ました副顧問のOGの方だったんですが、それもダジャレ学の授業に取り入れたんです。そういった新しい視点も取り入れながら、学生さんと共に学びを深めていけるのはとても面白いですね。
過去ダジャレ学の授業で、いろんな歌の歌詞の分析をしたことがあるんです。数年前に流行った、あのちゃんの「Chu!!多様性」という歌をご存知ですか?あの歌の歌詞って日本語と中国語と英語がうまくミックスしているんですが、それを見事に分析し尽していたのがみくさんでした。
サークルだけでなく、授業の方でも実力を発揮してくれているので、今後社会に出てからもきっと活躍してくれると思います。
―ダジャレと社会人の活躍というのが自分の中で初めて結び付きました。愉快で興味深いお話をありがとうございました。
