愛すべきローカル線「大糸線」の魅力を多くの人と共有したい:糸魚川市地域おこし協力隊_西山茂さん

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新潟県糸魚川駅と長野県松本駅と結ぶ総距離105.4キロのローカル線、大糸線。1957年の全線開通以来、北アルプスの雄大な山々から姫川の渓谷沿いを、沿線住民の日常と旅行者の非日常を乗せて走り続けてきました。どこか懐かしさを感じる自然豊かな景色や旅情を誘うディーゼル列車のエンジン音は多くの乗客の心を掴む一方、近年は利用者減少で採算割れの状況が続いています。

そんな大糸線の活性化に奮闘するのが、糸川市地域おこし協力隊3年目の西山茂さんです。スノーボーダー、鉄道ファン、ダムマニアであり、大糸線とその沿線の魅力を知り尽くした西山さんに、大糸線の楽しみ方や今直面している問題について語っていただきました。

画像引用元:Map-It

雪山を求めて移住先を探したものの、家探しで苦戦

――西山さんはもともと東京の方なんですね。なぜ移住先に糸魚川を選んだんですか。

スノーボードが好きで、雪山のある白馬村(長野県)に5年ぐらい住んでた時期があったんですが、その時に糸魚川まで足を延ばしてカニ食べに行ったりして、いいところだなあと思ってたんです。

その後しばらく実家でWEB制作の仕事をしながら母を介護して、落ち着いた頃に「また雪山に住みたいな」と思って移住先を探し始めました。全国で探していたんですが、移住フェアで糸魚川のブースを見かけて、地域おこし協力隊を募集しているのを知って「これだ」と。

――全国で探していたんですね。糸魚川での新生活は順調でしたか?

家を探すのに難儀しました。犬と猫を飼っているんですが、ペット可の戸建て賃貸って、全国探してもなかなかなくて。しかも趣味で車2台、バイク3台、スノーボードの板に、ギターも20本ぐらい所有しているので、アパートじゃ絶対無理ですからね。役場も親身になって一緒に探してくれたんですけどなかなかちょうどいい物件がなくて、自分で見つけてきたのが海沿いの8LDK。本当は雪山の近くがよかったんですが、まあ仕方ないです。築90年近い古民家で、ちょっと割高なんですけど、自治体の家賃補助で助かってます。

――日本海を一望できるのも素敵ですね。

そうなんです。本当に目の前が海なので、冬は台風みたいな風が吹いてびっくりすることがありますけど、雪はそんなに積もりません。今シーズン雪かきは5回ぐらいはしたかな。糸魚川は消雪システムもしっかり機能しているし、スーパーに買い物行ったり日常生活だけならスタッドレスもいらないんじゃないかっていうぐらい。

様々な思惑が交錯する、路線の赤字問題

――西山さんは鉄道が好きで、大糸線の活性化にも注力なさっているそうですね

はい。子どもの頃から鉄道が好きで、小学生の頃には撮り鉄やってました。電車より機関車が好きですね。ローカル線はディーゼル列車だったりするのでマニアにはたまらないです。

今、instagramで大糸線の魅力を発信していて、沿線の美味しいお店とか、見頃を迎えたお花の投稿なんかもするんですが、たまに独自路線で攻めています。たとえばJR西日本が管轄する南小谷駅から糸魚川駅までの区間は電化されていないんですが、沿線にはなぜか水力発電所がたくさんあったりするので、そういうところにも面白さを感じてもらえたらいいなと思って紹介しています。今、フォロワー数が2700人ぐらいなんですけど。

――2700人って、けっこうすごくないですか?

こういう全国のローカル線活性化協議会系のアカウントの中ではかなりいい数字だと思います。大糸線、実はけっこう愛されてるんですよね。しかも糸魚川市外の方もたくさんフォローしてくださってて。地域外の方に見てもらうっていうのは私が目指していたことの一つでもあるので、うれしいですね。

――赤字路線として存続を不安視する声もあるようですが、多くの人に愛されているんですね。

全線開通した1957年からほとんど変わらない所が多いですからね。駅も街並みも。そういうところに愛着を持っている方が多いんだと思います。JR西日本の区間には25キロ制限のところもあったりして、すごくゆっくりなんです。特に糸魚川から南小谷に向かう上り坂はディーゼルエンジンの音を響かせながら登っていくので、普通の電車では味わえない趣があると思います。五感で楽しめるというか。たまに野生動物が姿を現すのもまた一興です。

もちろんシビアな課題も山積しています。大糸線って南小谷駅を境に管轄がJR西日本と東日本に分かれていて、さらに沿線には松本市、安曇野市、松川村、大町市、白馬村、小谷村、糸魚川市と自治体が7つも絡んでいるので、その全部が足並みを揃えて一つにならないとなかなか解決には至らないでしょうね。地域ごとに大糸線への接し方、使い方は違いますし。たとえば信濃大町から松本の区間は通勤通学で使う方も多く市民の足として定着していますが、白馬から糸魚川の区間は、人口自体が少ないですから。市民の足という意味ではバスの方が便利なんじゃないかっていう声もあります。ただ、この鉄道インフラで大きく発展した地域もあるし、かなり待ち望んで作られた路線でもあるので、これまでの歴史や利用者の心情を思うと、存廃の話はシンプルじゃないですよね。
あとは、大糸線を観光コンテンツの一つにするのか、それとも住民や観光客の足として実用的な役割に徹するのか、位置づけが曖昧なところもあります。小谷村なんかは、観光協会のsnsで大糸線をかなり推してますけどね。その辺は地域によって温度差があります。

――大糸線の魅力にもっと多くの人が気づいてほしいですね。

そのためにも、コンテンツをもっと充実させたいですよね。前職でWEB制作をやっていた私が作ればいいんですが、大糸線41駅分の四季折々のコンテンツを集めるところからやると、人手も時間も足りません。協力隊の任期もあと半年しかありませんし、誰か受け継いでくれる人がいるといいんですけど。

――大糸線を盛り上げるためのイベントなどは開催していますか?

小谷村の“砂防ダムツアー”は何ヶ月も前から予約が埋まったりして、かなり好評みたいですね。大糸線沿線には黒部ダムとか高瀬ダムもあるので、ダムが好きな方にはオススメです。かく言う私もダムマニアなので、大糸線には飽きることがありません。撮り鉄ツアーなんかも開催したいですね。昨年、ツアー会社が企画した撮り鉄イベントが大盛況だったみたいですし。

ただ、イベントを打つにしても糸魚川の場合「外からどんどん観光客を呼んで盛り上げよう」というよりは「地元の糸魚川市民が喜ぶことをやろう」ということに重きを置いている印象を受けました。もちろん、どちらが良いとか悪いではないんですが。私が今いるのが都市政策課といって市民のための交通を担当する部署なので、観光にリソースを割くことは難しいのかなと思っていたのですが、最近は役場も少しずつ後押ししてくれています。せっかく魅力的な観光資源がたくさんあるので、まだまだアピールの余地はあると思っています。

――西山さん個人としては、大糸線のためにどんな取り組みをしていますか。

協力隊の仕事が次へ繋がるようにと思って、大糸線の非公認キャラクターを作りました。車掌の帽子をかぶったシカのゆるキャラで「おーいとさん」っていうんですけど。着ぐるみも発注して、それを着て活動したりもしています。自分の名刺代わりですね。ゆるキャラだけど喋るしギターもスノーボードもできる。そういうところもうまく活用したいんですが、1人では限界があって。イベントではお客さんにスマホ渡して「撮ってください」ってお願いしなきゃいけないですしね。あと2人ぐらいいたらいいんですけど。それでも、つながりはあちこちに増えてきていると思います。この前は地域の高校に出向いて着ぐるみ姿で授業をしました。

任期終了後も、大糸線沿線で家探し

――糸魚川市の地域おこし協力隊って何人ぐらいいるんですか。

今、14人います。私が大糸線担当で、あとは地域と学校をつなぐ「高校魅力化コーディネーターが5人ぐらいいて、他にも農業に従事したり、空き家対策や移住コーディネーターの仕事をしている方などいろいろです。

――大糸線のSNSアカウント運営に着ぐるみと精力的に活動していますが、次の一手は?

大糸線をテーマにしたお土産を作れたらいいなと思ってます。もちろん糸魚川にもカニとかB級グルメのブラック焼きそばみたいに美味しいものはたくさんあるんですが、せっかくなら大糸線という切り口で何かキャッチ―なお土産を生み出せれば面白いかなと。

あとは、「一緒に大糸線乗りませんか?」っていうだけのシンプルなイベントもやってみたいですね。白馬では以前「駅長と大糸線に乗ろう」っていうイベントがあって、30人ぐらい集まったそうです。大糸線で糸魚川まで来てご飯食べて帰るっていうだけなんですけど、気軽に参加できそうで良いですよね。そんな動きが自然に起こるような文化が根付けば、地域はもっと盛り上がると思います。

――任期が終わった後はどのように過ごす予定ですか?

まだ模索中です。とりあえず大糸線沿線で、できれば次はスキー場の近くで戸建ての物件を探そうかなと。地域の移住者のコミュニティにも入っているので、メンバーとも連絡を取りながらじっくり考えます。

――今後も大糸線沿線に住み続けるんですね。ここまで3年間、振り返ってみてどうですか。

地域によって文化や価値観の違いがあることを肌で感じられたことが一番面白かったですね。そんなの当たり前だろうと言われるかもしれませんけど、近隣の地域でも本当に全然考え方が違うんですよ。昔、マーケティングの仕事をしていた時から、地域性ということに着目していたんですが、なかなかそういうデータはなくて。それを地域おこし協力隊の経験を通して実感できたことは良かったと思います。あとはそれを今後どう活かしていくかですよね。

まあ、私のスタンスは「地域の外にも目を向けてみようよ」って感じでずっと変わらないんですけど。糸魚川の学校で授業する時も生徒たちに伝えています。「地元を愛しているなら、外のことも知らないと。外を知らないと、糸魚川の本当の良さは分からないよ」って。

――大糸線への愛あふれる思いをたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。西山さんの今後のご活躍も楽しみにしています。