北海道情報大学_近澤潤先生に訊く:自己実現スキルを育てる「アントレプレナーシップセンター」の取り組みとメッセージ

起業への関心の高まりもあり、アントレプレナーシップ(起業家精神)を養う教育に力を入れる大学が増えています。その中でも北海道情報大学は、アントレプレナーシップ教育が今ほど普及していなかった2015年に「アントレプレナーシップセンター」を設立し、起業家精神を育成するためのイベントや活動を続けてきました。

今回は、同センターの近澤潤センター長にお話を伺い、アントレプレナーシップセンターの活動内容や、活動を通じて学生に身につけてほしい力、受験生へのメッセージなどを語っていただきました。

近澤 潤 先生
北海道情報大学 情報メディア学部 情報メディア学科 講師アントレプレナーシップセンター長


2023年より現職。
研究テーマは「サービスデザイン」「アントレ教育」「コミュニケーション」。
一般企業での実務経験を活かし、ゼミナールやアントレ教育では、プロジェクト型学習を通じて、学生の主体的な学びの創出に取り組んでいる。

アントレプレナーシップ教育の手法を開発

――先生のご研究分野について教えていただけますか。

私は今、サービスデザインとアントレプレナーシップ教育の2本立てで研究を進めています。後者に関しては、アントレプレナーシップセンター(通称:アンプレセンター)のセンター長を務めており、アントレプレナー教育の効果測定や教育手法の開発、ワークショップの開発を重点的に行っています。

――先生ご自身は大学時代から、今のような研究分野を学んでこられたのですか。

私は北海道情報大学を卒業後、他大学の大学院修士課程に進学しました。その後は北海道の一般企業での実務を経て、大学教員の世界に足を踏み入れました。修士課程からモチベーション理論を中心にコミュニケーションを研究してきましたが、現在はその知見を活用してアントレプレナーシップ教育やサービスデザインの分野でゼミを開講し、実社会での経験を生かしながら、学生がより主体的な課題解決型の学びに取り組めるよう指導しています。

学年、学科の枠を越えて学生が集まる

――アンプレセンターはどのような経緯で始まったのでしょうか。

センターを立ち上げたのは、「アントレ」という言葉が今ほど普及していなかった2015年のことです。

本学は、経営情報学部 先端経営学科とシステム情報学科、医療情報学部 医療情報学科、そして情報メディア学部 情報メディア学科の3学部4学科で構成されていますので、それぞれの学科の特色を重ね合わせると、「ビジネス」「テクノロジー」「デザイン」という、イノベーションに必要な3要素が全て揃っている環境になります。

そのような本学の特色もあり、情報技術の専門的な知識だけではなく、変化していく社会の中でそうした知識を活用していくための素養を学生たちが身につけていくことも必要だと考え、アントレプレナーシップ教育に力を入れていくことにしました。

――アンプレセンターでの活動を目的に受験する学生さんもいるのでしょうか。

本学の入試制度である総合型選抜の中に「起業・スタートアップ人材育成枠(通称:アンプレ選抜)」を設け、情報技術や知識だけでなく社会に適応していくためのスキルも身につけたいという熱意ある学生を募っています。年度によってばらつきはありますが、毎年度5、6人ほどが合格しています。合格した学生はアンプレセンターの学生運営メンバーになり、私たちと一緒にイベントの企画もします。

――入学したらすぐ主体的に動ける環境があるということですね。

アンプレセンターに所属している学生であれば、キャンパス内の「アンプレルーム」を利用でき、大型モニターやソファーなどがある環境で、リラックスしながら情報交換やミーティングができます。

――アンプレセンターには、いろいろな学科の学生が所属しているのですか。

そうですね。センターとしては、ビジネス、テクノロジー、デザインの3要素を融合させ、学年、学科の枠を越えた取り組みを推進したいと考えています。

本学は全学で1600人規模の大学で、キャンパスも江別キャンパスだけとなりますので、学部・学科が交わりやすい規模感をプラスに捉え、センターでの活動が、多様な学生が交わるきっかけになればと思っています。

――アンプレセンターで活動したい場合、条件はあるのですか。

求めるのは、「何かやりたい」という意思を持っていることだけです。

起業家との交流機会を提供

――例えば3年生の8月ぐらいに、起業に急に目覚めた学生も、アンプレセンターの門を叩くことは可能ですか。
もちろん可能です。起業に関心をもってもらうためのイベントなども頻繁に開催しているので、早いタイミングで興味をもってくれればうれしいですが、起業したいと思うタイミングに早い、遅いはありません。

学生が意思表示をしたときに、大学として受け入れられる環境作りが大事だと思っています。もちろん、何をやりたいのかといった話は聞きますが、その思いを否定することはありません。むしろメンタリングという形で「こういうふうに活動してみようか」と、一歩踏み出しやすいように背中を押すことを心がけています。

――アンプレセンターの具体的な活動内容をご紹介いただけますか。

特に力を入れて取り組んでいることは3つあります。

1つ目は「Johodai Meet-up」というイベントです。北海道内外から起業家、クリエイターなどをお呼びし、少人数制のトークイベントを月1,2回程度開催しています。基調講演という形でお話もいただきますが、残りの時間はざっくばらんに交流できるような形式をとることで、参加者同士のネットワークも広げてもらう仕組みを構築しています。

2つ目は、昨年から始まった「チャレンジプログラム」という制度です。学生のプロジェクト活動に対して、大学が1プロジェクト最大10万円の活動資金を補助するという制度です。どうしても学生はお金がないという理由で、自分のやりたいことをやれないと思い込んでいたり、やるにしてもポケットマネーでできる範囲で、不完全燃焼で終わってしまったりする場合があります。そうした障壁を少しでも取り払って、学生のチャレンジ精神を後押しするためにこの制度を始め、昨年は3プロジェクトを採択しました。1つは、音を使った動きのある展示を通して、子どもたちの感性や音に対する興味を高めるというプロジェクトです。実際に札幌市内で子どもたちを対象に展示イベントを開催しました。そのほか、江別市の特産品や魅力をテーマにした謎解きラリーを開催し、子どもに江別の良さを知ってもらうというプロジェクトもありました。今年も地域とのつながりをテーマに、3~5プロジェクトの採択を目指して募集をしています。

3つ目は、高校生を対象にしたアントレ教育講座です。今年度はすでに北海道内の2校でワークショップを開催し、アイディアの生み出し方や、デザイン思考・デザイン経営という言葉で用いられる「デザイン」の重要性などについてお伝えしました。演習では高校生から私たちの予想を超える発想も出てきて、私たちも刺激をもらっています。

起業ありきではない

――アンプレセンターでの活動を経験して、就職せずに起業した方も出ていますか。
就職して、その後起業した卒業生はいます。在学中に起業した学生も、ここ2年くらいで3人ほどいます。

ですが実は、アンプレセンターの最大の目的は起業ではなく、「何かやってみたい」という自主性や、変化する社会に対応していく適応力など、自分のやりたいことを実現するためのマインドの醸成です。アンプレ選抜も、起業家になりたいとか、学生時代に起業を目指したいといった受験生だけを対象としているわけではありません。
私たちとしては、起業だけを促しているつもりはなく、まずは一度、就職して社会を見てほしいという思いもあります。その後に起業するのは大いに結構だと思っています。

――社会に出て世の中を理解してから事業を始めたい、と思うこともあるでしょうしね。

そうです。やはり社会に出て状況を観察することは大事だと思いますし、企業という組織の中に入らないとわからないこともたくさんありますよね。私自身も一般企業での実務を経験したからこそ、社会で求められるスキルを肌で感じてきました。そういった経験も生かして、アンプレセンターで学生と接しています。

――1つの経験しかないよりは、いくつかの道を経験しておいた方が生きやすくなるかもしれませんよね。
全くその通りだと思います。視野を広げるということは、それだけ可能性が広がるということです。アンプレセンターで視野を広げ、失敗を恐れずいろんなことに挑戦してほしいですね。私たちもできる限りサポートしていきます。


――卒業生が顔を出してくれることもありますか。

はい。起業した卒業生をイベントに呼んで、大学を卒業してからのキャリアなどを話してもらう機会もあります。こうした場がたくさんあるので、学生には、教科書や教室ではできない経験をどんどん積んでほしいと思っています。