大阪樟蔭女子大学_高橋裕子副学長に訊く:地域貢献型プロジェクト「イキ×ラボ・チャレンジプロジェクト」の成果と活動に込める思い 

大阪樟蔭女子大学の「くすのき地域協創センター」は、地域の課題解決を目指す学生の活動を資金面や運営面で支援する「イキ×ラボ・チャレンジプロジェクト」を展開しています。センター長を務める同大学の高橋裕子副学長に、学生の活動内容や、支援に込める思いを伺いました。


高橋 裕子 先生


大阪樟蔭女子大学 副学長

くすのき地域協創センター長

学芸学部心理学科 教授

研究テーマ

「難病患者・家族に対する心理療法・心理的支援」

「慢性疾患・障害をもつ当事者・家族に対する心理的支援」

「不妊治療における心理的支援」

「障害・慢性疾患を持つ子どもの親を対象とした集団精神療法」

地域住民とつながりながら、地域の課題解決を目指す

――くすのき地域協創センターは、いつ設立されたのですか。

本学は地域貢献型の大学として、地域の方々とつながりながら地域の課題解決を目指す学生主体の活動を数多く行っています。その中で、くすのき地域協創センターは2015年に設立し、地域志向に特化した「イキ×ラボ・チャレンジプロジェクト」を進めてきました。

この夏、とくに精力的に活動しているのは、キャンドルナイトプロジェクトです。廃棄される食用廃油や、廃棄されるキャンドルを再利用して灯すイベントを開催しています。キャンドルを使った親子向けのワークショップも実施しています。

――大阪は大都市というイメージですが、地域の課題解決を目指しているんですね。

大学のキャンパスがある東大阪市は、大阪市から少し東に位置し、落ち着いた雰囲気の街です。多くの中小企業や新興住宅地、花園ラグビー場もあります。

本学は創立から100年以上の歳月をかけて地域の繋がりを築いてきました。東大阪市とも協力して様々なイベントに参加していますし、地元の方は、大学周辺を散歩中にポスターを見て、イベントにご参加くださることも多いです。

――地元の方にもずっと馴染みがある大学なんですね。

そうですね。大正時代に樟蔭高等女学校が設立され、樟蔭女子専門学校の設立と共に寮舎が建てられ、全国から入学する生徒はいましたが、多くの生徒は比較的近隣から通ってきていたと聞いています。大阪電気軌道(現:近畿日本鉄道)が通学用の列車を出してくれたそうで、袴姿の女学生がたくさん乗っている電車の写真も残っています。この時代には、人力車を引く車夫さんたちが回る場所が正門にあったという話も耳にしました。そうした歴史があり、今でも地域から愛されているのではないかと思っています。

食品会社でレシピを考案し、ヒット商品も

――学生さんは企業の方と一緒に新しい商品やレシピ開発もされているそうですね。

はい。「ニシンを食べよう!缶詰ラボ」のプロジェクトチームを結成し、少しでも国産漁獲物の消費拡大に貢献するために水産会社と一緒に国産イワシとニシンの需要増加を目指したレシピを開発し、商品化していただきました。

――学生さんは自分から名乗りを上げてそうしたプロジェクトに参加するのですか。

はい。身近なことから地球環境を守る活動をしたいと考えたecoプロは、複数の学科から学生が参加しています。マイクロプラスティック問題に着目して学内と附属幼稚園でペットボトルのキャップ、附属中学・高校と並行して使用済みコンタクトレンズケースの回収をしています。その傍らマイボトル運動を推進し、昨年、全学対象のアンケ―トによって学生の希望を調査して後援会に要望書を提出し、給水機を設置していただきました。また、近隣の小学校にSDGsに関する出前授業や企業におけるSDGsの取り組みをご紹介いただくイベントも積極的に開催しています。

メールの送信、書類の提出などを通じ、社会のルールを学ぶ

――活動がそのまま、就職した後にも生きるような内容ですね。

そうですね。最初、学生たちはお願いのメール1つ送るにも、どのタイミングで、どういう文章にしたらいいのかと、頭を悩ませて考えています。こうした経験を通じて社会のルールを学ぶことの意義も大きいです。

くすのき地域協創センターのプロジェクト担当教員や職員がきめ細かく面倒を見ながら進めていますので、学生も頻繁にセンターに出入りしています。書類の提出や交通費の請求などの段取りを覚えていくことも含め、楽しみながら努力しています。

――実践的な学びですね。

そうですね。ただ学生たちは、あまり学びだとは思っていないかもしれません。最初は友人たちと一緒に考えたことを何とか実行して行こうという意識だと思いますが、やっているうちに夢中になっています。メンバーによって多少温度差があっても、なるべく皆で平等になるように役割分担をするなど、折り合いをつけながら進めています。

――プロジェクトに参加すると単位は取れるのですか。

学士課程教育基幹科目のキャリア実習科目(旧:インターンシップ)に関しては単位が認定されますが、大学から予算がついて活動する『イキ×ラボ・チャレンジプロジェクト』については、課外活動として位置付けられ、単位はありません。より純粋に、この活動をしたいという人が集まっています。

絵本の読み聞かせや、化粧品を再利用したアート作品作りも

――お子さんに向けた活動もあるそうですね。

はい。グリムプロジェクトでは、児童教育学科の学生が中心になって絵本の読み聞かせや、お子さんたちに絵本を紹介するイベントをしています。

グリムプロジェクトは15年以上続いているプロジェクトで、先輩たちから受け継がれてきました。大学と協定を結んでいる東大阪市や門真市、奈良県香芝市、和歌山県かつらぎ町といった各地の図書館などで、お子さんたち向けにイベントをしています。

ちなみに本学では認定絵本士という資格を取得できます。毎年、絵本について専門に学び、自らも絵本が好きな児童教育学科の30人ぐらいが資格を取っています。

――そうした経験は就職した後、すぐに役立ちそうですね。

実際にお子さんと接するのは貴重な機会ですし、学生たちはどうしたら喜んでもらえるかと真剣に考えています。準備は大変そうですが、イベントが終わると充実感でいっぱいになりますし、次のイベントではもっと良くするためにどうしようかと考えているようです。

――廃棄する化粧品を使った活動もあるそうですね。

化粧品を買っても、全部使い切ることは滅多にないですよね。そうした使わなくなった化粧品を活かして学生たちは絵を描くイベントを行いました。キャンドルナイトのイベントやワークショップのために作るキャンドルの中にも化粧品を使って、色を付けたキャンドルがあります。

大学内でいらなくなった化粧品を集めると、学生が様々な種類のものを寄付してくれます。特に化粧ファッション学科の学生は、ヘアメイクに関心が高く、本当にたくさん持っていますので、「これまで捨てていた化粧品をこんな風に使えれば、もったいなくない」と、この活動を喜んでいました。

4年間で「技術」だけでなく人間としての「教養」を学び得る

――頭と体を存分に動かして活動しているのですね。

そうですね。もう1つ、ヘアドネーションのプロジェクトもあります。本学の教職員と在校生を対象にヘアドネーションイベントを行っていますが、化粧ファッション学科の美容コースの学生が、練習を積み重ねてきたドネーションカットをしてくれます。私も2年前、髪を切ってもらい、ヘアドネーションをしました。

美容コースの学生は、普段はマネキンでカットの練習をしていますが、その日は実際の人間の髪を切るので、「ハサミを持っていった時に体温を感じた」とか「肩があって切りにくかった」と感想を口にします。学生たちは役割分担をし、段取りを考えてシャンプーやドネーションカットをすることを通じ、ヘアドネーションについての理解を深めながら、サービスを提供することの充実感や緊張感を味わっています。

髪に悩みをもつ当事者の方たちとの座談会をして、「ヘアウィッグを作るためのドネーションも大事だけれども、髪に悩みをもつ当事者の方たちが、他人の目を気にしてウィッグをつける必要がない社会が来たらいい」とも感じたそうです。

また、髪があろうがなかろうが、一般的にヘアウィッグがおしゃれの1つとして気軽に使用されるようになれば、当事者の方たちもおしゃれの1つとして気軽にヘアウィッグを使用できるのではと考え、不要になったウィッグを学内で集め、ヘアウィッグの試着体験を通して、ヘアウィッグでおしゃれを楽しんでもらうイベントも開いています。

――そういう経験をした学生さんは、どういう進路に進んでいくのですか。

目指していた美容師になる学生が多いです。美容コースの学生は、4年生の最後には美容師国家試験を受けますが、こうした活動を通じて時代のニーズや社会への柔軟な対応力を身に着け、地域貢献や社会貢献に目を向けられる美容師として、美容業界を担う美容師になってくれると思います。

単に美しくなるための美容という側面だけではなく、ヘアドネーションやセラピーメイクのように、色々な意味で美容を必要としている方がいることを学べます。様々なお客様と接するときに必要な人間としての教養も、4年間をかけて深めることができると思います。

大学4年間の学びには「無駄」もあるように見えるかもしれませんが、若い頃に一見無駄だと感じるような物事から吸収することは、とても大事です。直接仕事の内容に結びつかなくても、自分の人生の中でいつの日か「あのときの話はこういうことか」とわかることもあると思います。このようなプロジェクトを通して多くの方々と出会い、その経験をもって社会に巣立っていってほしいです。そして、次の新しい場所で大学での学びを活かしていってほしいと願っています。