本稿の主人公:kawaiiAI代表の川原梨央奈さんを知ったのは、1月26日付けの東京新聞の記事だった。『AIエンジニアリングで、働く障害者の負担を減らしたい「kawaiiAI川原梨央奈さん」』という見出しに、まず惹かれた。周知のとおり障害者雇用はいま、大きな社会的な課題。企業の就労比率が定められる(引き上げられる)などの施策が執られている。が、現実的には遅々たる進捗が現状。紙面には川原さんの顔も載っていた。後期高齢者の私には、失礼ながら「お嬢さん」。日々誌紙面に踊る「AI」云々になかなかついていけない身からすると、垂涎の的。
kawaiiAIを検索した。2023年5月に慶応大学の大学院生だった川原さんにより設立された「スタートアップ企業」。がそれが、僅か1年半余りで早くも日刊紙に採り上げられる事業を実現する企業になっている。取材のコンタクトを試みた。快諾を得た。取材に先立ちkawaiiAIにアプローチ、覗いてみた。「嘘を言わないAI」「CATTI」なる文字に出会った。前者はまだしも後者には「うーん」と唸るばかり。川原さんにメールで説明して頂いた。間違いがあってはならないので、返信(解説)を極力忠実に記す。
川原さんは、どんな経緯でkawaiiAIを起ち上げたのか
起業の原点には、こんな事情があったという。
「GPT-3はハルシネーションがひどく、かなり誤情報を出力しがちだった。例えば『この論文を書いたのは誰ですか?』という質問に対し、適当に思いついた名前を出力する。当時の日本ではGPTモデルだけ使用したプロダクトばかり流行っていたが、この程度ではユーザーには迷惑この上ないなと思っていた」。
「それを正すことが課題だと認識した。それを乗り越えたものを作ろうとした結果がCATTIです。CATTIの使用法・特徴としては<ユーザーが自由にドキュメント(PDFファイル)をアップロード><そこから読み取れるような質問をする><ドキュメント群から回答を探す><見つかれば答え、見つからなければ「分かりませんでした」と回答する>というもの。GPTにくっつけることでユーザーのアップロードしたドキュメントの範囲内で、ハルシネーションを防ぐアプリのようなものと理解して頂ければ結構です」。
「CATTIは東北大学乾研究室の日本語版BERTを使用して作成しました」。
なるほど、となんとか頷ける(分かった気がする)状況に身を置くことが出来た。ではそうしたご本人の知見は何故、起業に繋がっていったのか。
川原さんが、「自信をもって」慶応大学の受験と向き合っていた頃だった。そんな中で、お姉さんの就活活動を手助けすることを買って出た。希望企業に提出する「ES(エントリーシート)の作成を企業や業界などを踏まえて一緒に考える手助けをする機械」の作成である。極論すると企業はESの内容次第で、合否そのものを決めることすらある。「1時間程度プログラミングと向き合いました」。お姉さんは、合格。「あの頃の数少ない、嬉しい出の一つ。姉は私のAIを、一緒に就活を生き抜いてくれるお守り・心の拠り所のようにしてくれていたと思います」と、川原さんは振り返る。読者諸氏、あなたはプログラミングができますか!?
慶応に進んだ川原さんは、前記の「嘘つかないAI」⇔「CATTI」の作成に取り組んだ。
ベンチャーキャピタル
私が「期待のできるスタートアップ企業」と位置付ける前提の一つに、ベンチャーキャピタル(VC)の目がある。
言うまでもなくVCは、「将来の上場企業候補」を見出して融資(株式の保有)を行う。そして上場の暁にはキャピタルゲインを得る。
23年5月kawaiiAIの設立に際し、川原さんはこう発信している。
「世界の大企業が大規模LIM(言語モデル)を発表しており、AIは人々にとり身近な存在となりました。世界各国がAIに関する技術力を競い合っている。kawaiiAIはそうした国際情勢下、日本をして国際的リーダーシップを担う位置づけの国とすることを目指しています・・・」
それが「夢」「希望」の域であったら、設立早々の段階でVCの姿を確認することなどできない。が以下に記す「存在感が認められる事例」を目の当たりにすると・・・
早々に積み重ねられ始めた実績
それはこの間矢継ぎ早に実現させた冒頭に記した東京新聞に記された案件であり、「エンジンのミカタ」との一件である。

東京新聞の一件は、こんな内容だ。一口で言うとKawaiiAIはAIを使って、障害のある人でも容易にネットショップ出品できる仕組みを昨年8月に開発した。「ピピン」。いわゆる「就労継続支援A型事業」を展開する:root64の谷口佳穂さんとの共同開発だった。試行錯誤。例えばカメラとパソコンをつないで固定させることで撮影を可能にしたり、商品情報をデータベースに蓄積できる仕組みを採り入れたり・・・etc。川原さんは「研究は人のため」とし、谷口さんは「仕事に前向きになり、導入前より目の色が変わって、精神状態が良くなる利用者が多い」と語っている。
やはり昨夏に「エンジニアの収入アップ」を掲げる:エンジニアのミカタと提携した。周知のように経産省の試算でも、「2030年には国内のエンジニア不足は最大79万人に達する」という。その背景は、AI/DXの遅れがある。両社の提携はkawaiiAIの「深層学習技術」「LLM(大規模言語モデル)に関わるアルゴリズム開発」を活かしエンジニアスキルの詳細な分析や、高度なマッチングを実現し外部委託エンジニアのパフォーマンスの最大化を目指す点にある。
川原さんは、着実に事業家の階段を昇っていると言える。