毎日の暮らしの中で、ちょっと外に出て歩いてみたくなる街があるとしたら――。鳥取県米子市は、そんな日常を実現するために「歩いて楽しいまちづくり」を進めています。買い物や通勤が便利で、ふらりと散歩すれば緑や海辺の景色に出会える。古くから「商都」としてにぎわった歴史を持ちながら、いま新たに「住んで楽しいまち よなご」を目指して変わり始めています。米子市が取り組むその歩みについて、米子市都市創造課の赤井課長にお話を伺いました。
(記事公開日:2026年2月10日)

「歩いて楽しいまちづくり」は財政面でもプラス
―米子市では「住んで楽しいまち よなご」をまちづくりビジョンに掲げ、そのビジョンを実現するための施策の一環として、公共交通と歩行者を中心とした「歩いて楽しいまちづくり」を推進されています。公共交通を軸にしたまちづくりは非常に重要だと思いますが、まずはこの歩いて楽しいまちづくりの取り組みが始まったきっかけを教えていただけますか?
米子市はいわゆる地方都市です。全国どこも状況は同じだと思いますが、本市においても中心市街地の衰退という現実に直面しています。
その大きな原因として、やはり「車社会」、つまり車移動が中心の、それを前提としたまちになっていることが挙げられます。車移動が増えると必然的に渋滞も増えるので、その緩和のためにバイパスを作ると、その周辺にいわゆるロードサイドのチェーン店が軒を連ね、少し郊外にいくと大型ショッピングモールが出来てきますよね。
そうなると人々はそちらの方に買い物に出かけるようになり、元々まちなかにあった昔からの個人商店やデパートが閉店していってしまう。その結果、まちなかから人が減り、高齢化も進み空き家が増えるという状況が生じます。
そのような中で、どうしたら再び中心市街地に人の流れを戻し、にぎわいを生み出していけるかということを考え始め、過度に車に依存しない、公共交通と歩行者中心のまちづくりを進めていこうというところから本施策がスタートしました。
―中心市街地活性化というのは、そこでお店をしている方、住民の方にはメリットが大きいと思いますが、行政側の視点ではどのような利点があるのでしょうか?
中心市街地というのは元々公共インフラがすごく整っています。一方で郊外にいくにつれ、新たなインフラ整備のための投資が必要になってきます。中心市街地から周縁にかけて無計画に市街地が広がっていく、いわゆる「スプロール現象」と言われる状態ですけれども、これが生じると、行財政的にも負担が大きくなります。
なので、そういった負担を解消するにあたっても、まちなかに人の流れを戻すというのは大事になってきます。
―なるほど。国土交通省も「ウォーカブル推進都市」という政策をやっていて、400近くの都市がそれに賛同しているところを見ると、課題意識は日本全国の自治体で共通しているように見えます。確かに「中心市街地活性化」はよく聞かれるワードですが、米子市にとっては特に重点を置いている分野なのでしょうか?
米子市の場合、これまで中心市街地活性化はどちらかというと民間側の事業が主だったこともあり、市としては十分に投資ができていなかった分野なんですね。
そこで令和2年に策定された「米子市まちづくりビジョン」の中に掲げた「住んで楽しいまち よなご」の実現に向けて、改めて中心市街地活性化に向けた公共投資を行い、まちなかを人中心の空間に変えていこうという取り組みを進めているというのが大きな流れです。
もう一つ、米子市ならではの事情として、市域を一体的に発展させたいという思いもありました。というのも、米子は山陰の玄関口とも呼ばれる交通の要衝で、JR米子駅を中心に市街地が発達してきたんですが、米子駅を境に市のエリアがざっくり北側と南側に分かれ、北側エリアが特にが発展してきていたんです。
市としては、北側南側で分断することなく、一体的な街の発展に繋げていきたいという思いから、南北を行き来できるような自由通路の整備を始めたんですが、そのことも「歩いて楽しいまちづくり」を推進するきっかけの一つになったと思っています。
自由通路の整備はちょうど終わったところですが、米子駅は山陰本線、境線、伯備線の3路線のターミナルに当たるので線路が多く、整備は結構大変でした。
―確かに米子駅を中心に松江、鳥取市、境港市、それから岡山の方にも行けますし、高速道路も山陰自動車道と米子自動車道が通っている、そして境港の方には米子鬼太郎空港もあり、まさに交通の要衝ですね。
米子は昔から人や物の行き来が盛んな地の利を活かして「商都」として栄えてきた歴史があります。お城はありましたが殿様がいたわけではなかったので、恐らくたくさんの人や物資が行き交う中で自然と商いが発展したのではないかなと。
今、日本全国でデパートが相次いで閉店していますが、米子では今も2つのデパートが営業しています。そういったところも、「商都」たる所以と言えると思いますね。
―なるほど。うろ覚えですが「逃げろ逃げろと言って米子に逃げて来て、米子で一旗揚げた」みたいなことわざがありますよね。
よくご存じで。「逃ぎょい逃ぎょいと米子に逃げて、逃げた米子で花が咲く」ですね。これは「困難な状況から逃れてきた人も寛容に受け入れる土地」という米子の土地柄というか米子の人の気質を言い表したものですね。
―そういう歴史がベースにあるからこそ、現代の車社会・車移動前提のまちづくりというのをしっかり課題として捉え、その解決策として「歩いて楽しいまちづくり」が導かれるというのは、なんだかすごくしっくりきました。

複数エリアを同時並行で整備
―ここからはその「歩いて楽しいまちづくり」の具体的な施策について伺いたいと思います。
先ほど国の「ウォーカブル推進都市」の話が出ましたが、本市もその事業を活用して様々な取り組みを進めています。基本的には道路の整備と公園の整備の2本柱です。
但し、道路の整備といっても今までのように車道を中心に考えるのではなく、できる限り歩行者が安全で快適に歩けることを念頭に置いていますし、公園についてもよりオープンな形で多くの人が憩えるような場所づくりを考えて実行しています。
―歩きやすい歩道、もっと言うと歩いてみたいと思える歩道ってすごく大事ですよね。
歩道のすぐ脇を車がビュンビュン走るような形ではなく、できるだけ車道と分離しながら歩行者優先の空間づくりを進めています。郊外や市外から来られた方にも「米子のまちなかを歩くと楽しい!」と思ってもらえるような空間を創出したいですね。
―米子市の中心街というと、先ほどおっしゃっていた米子駅とその北側、あと皆生温泉も観光の上では欠かせない場所だと思いますが、米子駅と皆生温泉は繋がるようになっているんですか?
米子駅から皆生温泉はバス路線があり、時間帯によっては10分程度で次のバスが来るので気軽に行けるかと思います。
昔は市民の方が皆生温泉に行くことってあまりなかったんですが、近年は皆生温泉のエリアでも活性化の取り組みを進めていて、新しいお店がオープンするなど、若い人たちも訪れるような場所に少しずつなりつつあります。今はまだ本当にその途上ではありますが、若い人たちでにぎわうような場所になるように、海岸沿いを歩けるような遊歩道を整備したり、歩いて楽しくなるような雰囲気の街灯を設置したりする取り組みを進めています。エリア内の空き家を活用して、新しいお店を出店してもらうような事例もあったりしますよ。
―そうなんですね。元々この辺りって浜が綺麗で風光明媚ですもんね。
はい。海岸沿いから見える大山(だいせん)なんかすごく綺麗ですよ。
海岸沿いということでいえば、米子港の方でも今、広場や公園、城址の整備を中心に、エリア一体の整備を進めています。米子港は中海に面しており、「オレンジロード」といって夕日が沈む頃にまっすぐとオレンジ色の光が伸びて見える場所もあったりして、海がとてもきれいに見える場所です。このエリアには米子城址もあり、数年前NHKの番組で米子城が「最強の城」として紹介されてから注目されるようになったんですが、米子城址も石垣が綺麗に見えるような整備を進めています。
「まちなか」といっても一か所だけではありませんし、一か所だけ集中して開発しても結局別のエリアに移動するには車が必要になります。そうすると私たちが掲げたビジョンの本来の目的が果たせないので、複数のエリアに同時並行で整備事業を推進し、市内の各エリアを徒歩や公共交通で回ってもらえるようにすることを目指しています。

ハード面の整備は大詰め
―なるほど、よく分かりました。先ほど米子市の中心市街地活性化は元々民間主導だったというお話しがありましたが、そこに行政・公共投資が入ってさらに整備が進んでいることに対して、地元の方はどのように受け止めているのでしょうか?
基本的にはポジティブに受け止めてもらっていると思います。公共投資による整備でまちなかがより安心・安全になることは良いことだし、民間の事業者さんの間でも「自分たちもまた何かやろう」という声も出てきています。公共投資を行うことで、そこに更なる民間投資を呼び込むような動きになってきているので、市としてもそこに対する支援・応援を行いながら、まちなかに新たなにぎわいが生まれることを期待しています。
まちなかがにぎわうことで、スプロール現象で郊外に居を構えているお年寄りも、車なしで生活できるまちなかに移り住むことができるようにもなります。
―素晴らしいですね。現在取り組まれている「歩いて楽しいまちづくり」政策を含む米子市の現在の都市計画は、令和元年度に策定されていますので、現在7年目ということですよね。
そうですね、都市計画マスタープランの策定や、国の「ウォーカブル推進都市」になったのは令和元年ですが、「歩いて楽しいまちづくり」につながる構想自体はもっと前からあって、例えば先ほどお話しした自由通路は令和元年よりも前から取り組んでいたものです。
ハード面の整備でいえば、令和4年くらいから「ウォーカブル推進事業」を活用して重点的に推進し始め、その計画が令和8年度で終わるので、来年度が一つの区切りかなと思っています。計画していた整備も概ね順調に進んできているので、ちょうど終わりが見えてきた頃ですね。
ハード面の整備が完了したこれから先は、先ほどお話ししたような民間のイベントのようなソフト面とどう組み合わせていくかを考えるフェーズに入ってくると思います。
また、ここまで公共投資についてハード面の整備にフォーカスしてお話しさせていただきましたが、別の観点では、公共交通の利便性を高める取り組みにも注力しています。まちなかを回る巡回バスのルートを増やしたり、交通系ICの導入の他、今年12月からは米子駅と鳥取大学医学部付属病院の間の区間でバスの自動運転の実証実験を実施する予定です。全国的にも運転手不足というのが問題になっていますが、自動運転がある程度うまくいけば、人手不足の中でも公共交通の利便性向上を図ることができますので、今後はそういったところも併せて進めることで、「歩いて楽しいまちづくり」の実現を目指していきます。
―これからも米子市の新しい発展の仕方に注目ですね。ありがとうございました。

