地方への移住を考える人にとって、温暖な気候や、おいしい産物の取れる地域は憧れです。中でも、自然の豊かさと人柄の温かさで人気の自治体の一つが、宮崎市です。海の近さ、空港などへのアクセスの良さなど地の利もありつつ、移住者へのサポートも手厚い宮崎市。今回はその移住の実際について、移住センターでコンシェルジュをお務めの長友さんにお話を伺いました。
夏の感じ方が変わる温暖な宮崎市
――宮崎市はプロ野球のキャンプ地になるほど温暖なイメージがありますが、移住者にとっても温暖な地域なのでしょうか。
宮崎にずっと住んでいる私からすると、これが当たり前なので、他との比較は難しいんですけれども。県外から来られた実際の移住者さんのお話を聞くと、もともと住んでいたところに比べて「やっぱり宮崎暑いですね」とか「冬もあったかいですね」っていう言葉はよく聞きます。
平均気温としては年間を通してだいたい18度くらいです。冬でも晴れる日はダウンがいらないですが、逆に日が落ちると寒く、冬の寒暖差はありますね。それでも、盆地である近隣の都城市に比べれば、冬場や夕方の冷え込みは厳しくなく、雪も降りません。
宮崎市は純粋に日差しが強い印象があります。日中外を歩くとなると、周囲に高い建物がなく、地下道もないので、今は男性でも日傘をする方が多いです。その代わり、都会でよくあるヒートアイランド現象の様なものはないですね。また海が近く、風もあるので、風のおかげで暑さが紛れるところはあるかもしれません。
九州なので、台風も来ることがありますし、雨も多いです。でも、梅雨時期もずっと降るというより、一気にざっと大雨が降って、カラッと上がって、雨上がりはすごく気温が上昇します。
移住された方は、「夏の感じ方が違う」といいます。沖縄ほどではなくとも、やはり温暖というイメージはありますね。

交通手段は車と空港利用が便利
――宮崎市は合併によって山から海まで広がっていますが、主な移動手段はどうですか。特に市街地は平らで、自転車で走りやすそうな印象がありますが。
現在の宮崎市はもともと、海沿いの旧宮崎市と、佐土原町という北のエリアのほか、山沿いの田野町、清武町、高岡町が合併してできました。旧宮崎市は沿岸部で平野なので、移住される方が特に心配されるのが、津波です。ハザードマップで見ると沿岸部は高いところがないので、特にご家族で移住される方は、山寄りの地域を検討される方もいます。
沿岸部は確かに坂もあまりなく、歩いていても勾配を感じないので、最近は自転車に乗る方も増えてきています。ですが、実際の宮崎県はやっぱり、車社会ですね。全国的に見ても保有台数が多く、一家に1台といわず、1人1台です。私も今実家住まいなんですが、両親含め私も車を持っているので、3台を所有しています。2台までは賃貸に含まれたり、マンションで借りられたりしますが、3台目からは駐車場問題が出てきますね。戸建てを建てられる方も、カーポートを3台分まで広げるなど、駐車スペースは必須になりますね。
――ちなみに、大都市部からの移住者は、車を持っていない方も多いと思いますが、そういう方はどうされていますか。
全く乗ったことがないという方は、やっぱりご苦労されるみたいです。宮崎への移住を機会に、車を購入されたり、免許をも取られたりする方もいます。あとは、ペーパードライバーで、いきなり運転するのが怖いので、車を使わなくていいエリアに引っ越す方もいます。中心部の中でも、特に公共交通機関が通りやすい箇所に移住し、自転車やバスの利用だけで済ませられるようにする方もいます。
でも、一人暮らしやご夫婦だけとかであれば問題ないんですけど、お子さんがいたり、何かしらの趣味を持っていて、休日はちょっと遠出をしたりという場合は、やっぱり車がないと不便というご意見があります。キャンプに行くにも、サーフィンに行くにも、基本的に車は必須ですね。
あと、宮崎で就職するとなると、必須資格として運転免許が入っていることが多いです。就職するにあたり、運転免許を持っていない方が苦労されたという声は、たまに聞きますね。
――ということは、ずっと宮崎県にお住まいの方は、あまり電車には乗らないんでしょうか。
乗る機会はなかなかないです。私が子どものころは、小学校の体験で電車に乗ってみようという授業があって、運賃を握りしめて切符を買う体験をしました。あとは、幼少期に旅行を兼ねて、電車に乗っておじいちゃん、おばあちゃんちに行くといったことはありました。けれども、電車を待つ時間より、車で移動してしまった方が早いです。本数も、1時間に1本の時もあれば、休日ダイヤになるともっと本数が減ることもある。そこを考えると、車の方が、最短時間で移動できますね。
それに宮崎県内では、駅と自宅の距離が遠いことが多く、「最寄り駅」という概念がそもそもありません。駅の間隔が広いので、都会の様に「1駅歩く」みたいな感覚は、宮崎の方は分からないかもしれません。

――基本は車なんですね。その他公共交通で言うと、空港が市内にあって便利そうですね。
そこは宮崎市もPRしているポイントです。宮崎の市街地から空港までが車で15分ぐらい。空港から東京には飛行機で90分、大阪だと60分、福岡だと45分ほどで移動できます。なので、宮崎に移住後も、お仕事の都合で東京や大阪との行き来を頻繁にしたい方は、日帰り出張もできます。空港のアクセスがいいという理由で、宮崎市を選ぶ移住者も多くいます。
空港が市街地に近いといえば、福岡市もありますけれども、宮崎は特に「こんな真上を飛んでて大丈夫なのかな」っていうくらいの、飛行機との近さを感じられる点がいいところですね。サーフトリップとか、ゴルフとか、キャンプもそうですけれども、まずは旅行で気軽に一度来ていただいて、その利便性を感じた上で移住される方もいます。
飲食店街を中心とした市街地
――例えば休日に家族で買い物へ行くとしたら、中心部に車で来ることが多いんでしょうか。
買い物といえば、イオンモール宮崎ですね。あの辺りは田園風景が広がる地域だったんですけれど、イオンモールができてから、飲食店や住宅が増えました。また、中心市街地であれば、2020年に「アミュプラザみやざき」ができました。その宮崎駅から、駅前の「あみーろーど」を通っていくと、一番街と呼ばれる商店街までまっすぐ行けます。その辺りには、おしゃれな飲食店とか雑貨屋ができ、以前に比べると街中も賑わいを取り戻してきていると感じます。
街中は、飲み屋街が多いです。「ニシタチ」と呼ばれる商店街があるんですけれども、宮崎の人はそこに飲みに行くことが通例になっていて、夜はすごく賑わっています。その分、昼間は閉まっているお店が多かったので、今後はそこを活性化しようとしているところです。

それに宮崎は、食材がとても美味しいです。旅行者さんにはよく「どのお店行っても美味しいですね」と言われることが多いですね。宮崎に暮らしている身としても、宮崎の飲食店では、都会ではちょっと高くて手を出せない宮崎牛も、安価で食べることができます。また、新鮮だからこそ提供できる部位もあるので、ちょっと珍しい食材も食べられます。
外食も楽しいですが、食材を自分で買って作る場合でも、楽しくなったというお声をいただきます。県産の珍しい野菜もそうですが、「宮崎に来る前は美味しいと思ってなかった野菜も、宮崎に来て好きになりました」と言われることもあります。都会の野菜とそんなに味が違うっていうところは、私たちは実感していないんですけど、多いみたいですね。









子育て支援
――子育て支援に関する政策はどうですか。
子育てサポート体制としては、市が設置する地域の子育て支援センターが、市内だけで、35か所もあります。数が多いので、最寄りの子育て支援センターを利用いただけます。未就学児のお子様とその保護者の方、妊婦さんが無料で利用でき、遊具もありますので、保護者の方同士の交流も含めて行えます。
宮崎は公園も多いですけれども、雨の時に利用できる屋内施設が少ないです。そこでずっと自宅でだけ育児をしていると、保護者の方もストレスが溜まりますよね。そこで、ちょっと預けられる体制や、子どもたちが遊んでいるのを見守りつつ自分たちはリラックスできる様な場所があるのは、良いかと思います。
全国的にある制度としては、ファミリーサポート(ファミサポ)もあります。ボランティアが所属されていて、送迎や一時預かりなど育児の手伝いを行うものですね。都会ではそういった制度を利用する枠に満員で入れないとか、相談すらできないというお話を聞きますが、宮崎はそこまで満員という状況ではありません。なので、利用しやすい状況にはあると思いますね。

お節介好きな県民が繋ぐ、起業の輪
――移住するにあたって、どうしても仕事を変えざるを得ない人は多いと思いますが、移住をきっかけにお店を開いたとか、農家になったとかいうように、起業される方もいらっしゃいますか。
宮崎の場合は、特に飲食業、観光業、宿泊業などについて、起業される移住者さんは比較的多いと思います。移住後に事業やビジネスを考えられる方からは特に、「人が集まってるところを知りたい」というご相談や、「移住者さんと知り合える場所ないですか」というご相談を受けることがあります。そういった時に、宮崎市移住センターとしてもコミュニティ形成イベントという形で、移住者向けのイベントを実施したり、市内にいくつかあるコワーキングスペースが独自でやられている、異業種交流をご案内することもありますね。
そういった起業サポートは宮崎に限らず全国どこでもあるかとは思うんですけども、その中で、宮崎で起業する方から言われるのは、「人を繋いでくれる人が宮崎に多い」ということです。宮崎の方は、ちょっとお節介好きなところがありますね。例えばこれがしたいっていう相談を受けたとして、情報をくれるだけでなく、「同じ様なことしてる人ここにもいるから、話聞いてみたら」みたいな感じで顔をつないでくれるとか、「まずは友達作りが大事だから、こういうイベントに一緒に参加しようよ」と誘ってくれるとか。その“ぐいぐい感”がちょっと苦手な方もいるかもしれませんけれども、そういうお節介好きの方が多いという点は、起業された方からすれば助かったと言われることが多いです。なので、まずはそういった「つないでくれる宮崎の人」と知り合うところが、コミュニティに馴染めるコツにもなるのかなと思います。
宮崎にもローカルルールがありますし、特に観光シーズンに人が多くなるのが苦手という地元の方は、一定数らっしゃると思います。けれども、移住された方でも一度懐に入れれば、宮崎の方はすごくウェルカムって感じです。私たちの様なサポート機関に対しても、偏見もないことがほとんどです。なので、まずはコミュニティに飛び込むもよし、地域の行事やボランティアに参加するもよし、こういったサポート窓口にご相談いただのもよしということで、入りやすいところから入っていただければと思います。
起業と移住支援の強化
――移住支援金については、東京限定などの自治体が多い中、宮崎市は東京以外の人にも範囲が広げられていますね。
宮崎県では、東京近郊の首都圏のほか、大阪を中心とした近畿と、名古屋圏域、九州では福岡といったところが該当します。国の制度では東京23区限定のことがありますが、やっぱり関西圏の移住者も多いので、そこを拾えるよう、宮崎県独自の施策として行っています。市としても、県の施策に則って行っています。
――ほかにも行政として特に力を入れている政策はありますか。
宮崎市としては、移住センターを担当する都市戦略課が主導で、公民連携に力を入れています。その一つとして、宮崎市公民連携総合窓口「みやPORT」があります。そこでは、市の持つ課題をテーマとして挙げ、一緒にやってくれる事業者さんを募集し、民間の企業さんとタッグを組んで、宮崎市の課題解決に取り組んでいます。
そこでの移住というテーマに関して、宮崎市は独自で「移住アンバサダー制度」をやっています。民間の企業・団体さんに、移住アンバサダーというボランティアにご登録いただき、移住者の方のメリットになる情報発信を行うものです。例えば宿泊業の方から移住者向けプランをご提案いただいたり、アンバサダーさん主催で移住者向けコミュニティイベントを行ったりする場合もあります。移住センターとしても、こうした活動を移住者向けにSNS等で発信しています。
加えて、行政には相談しづらいけれども、アンバサダーである地元の方には相談しやすいということもあるかと思います。市役所に行くのはまだハードルが高いといったとき、まずは身近なカフェの店員さんとか、先輩移住者さんで、移住アンバサダーになっている方に相談することができます。
他にも、起業やスタートアップの新拠点という形で、新しく「MOC」ができました。宮崎駅の近くの中心部に複合商業施設「HAROW」が4月にオープンし、その施設の1階に入っています。そこを運営する宮崎オープンシティ推進協議会には、市役所職員から民間の方まで、いろんな方が所属していて、いろんな目線で、新規創業者向けの支援をされてます。
この場所で新規創業者や移住者さんとかの輪が、広がっていくのではないかと思います。移住者さん同士も、情報交換ができる場がなかったり、あっても限られたりするので、MOCでのセミナーや交流を通じて、移住者さんの活動の支援につながると期待しています。
2025年4月にオープンしたばかりですが、ぜひ皆さんにも利用していただけたらいいなと思います。



私たち自身も、行政の立場で移住者さんとお話をする機会はあるんですけれども、移住相談だけだと情報が限られている面もあります。実際、移住者さんがなぜ宮崎に移住したいと思ったのかとか、移住された後の生活がどうなのかっていうところを聞ける機会も、なかなかないんです。なので、そういったイベントに私たちも積極的に参加して、忌憚ない意見を聞きたいと思っています。どういう情報を皆さんが求めてらっしゃるのか、どういう場所を皆さんが求めてらっしゃるのかは、時代によって変わりますしね。
ただ、少し前は、コロナ禍を機に移住者数が増えた面がありました。移動の制限もなくなった今は、以前に比べると移住に関しての興味もだいぶ落ち着いてきたように感じます。なので、ここからさらに移住者数を増やすのは難しいと思っています。あとは、来られた移住者さんにどれだけ定住いただけるかというところが、宮崎市移住センターとしての課題です。今後は移住後のサポート体制をいっそう充実させて、コミュニティを継続させることに取り組みたいなと思っています。
地元では当たり前の魅力も、移住者と発掘したい

私はこの仕事をしていて、逆に移住者から宮崎市について学ばせてもらっているなと常に感じています。移住の仕事をするまでは、宮崎に移住者がそんなに来ていることも知らず、一市民として「なんで宮崎なんかに来るんだろう」と思っていました。それが、移住者の方から「宮崎こんなにいいところじゃないですか」とか言われて、納得することがすごく多いですね。
宮崎で生まれ育った人よりも、移住者さんの方が宮崎に愛着を持ってくださっているようにも感じます。「なんで宮崎市もっとみんな知らないんだろう」とか、「もっとPRした方がいいですよ」とか、そういう風に言っていただく移住者さんも多いので、こちらとしては、ちょっとお尻を叩かれる感じなんですけれども。
――宮崎の人っておっとりしているイメージがありますしね。
そうなんですよ。なかなかファーストペンギンが出ない、手を挙げないっていうところが、県民性かもしれません。移住者の方にご意見をいただくことで、気づけることもあります。住んでいる人からしたら、食材とか、海とか、温暖な気候とかも、身近にありすぎて、ありがたみがあまり感じられてなくて。なので、移住された方に「こんなにいい場所があって、こんなに美味しい食べ物があって、宮崎こんなにいいところなのに、なんで言わないんですか」みたいに言われてしまうんですよね。そこをもうちょっとPRできるようになるといいかなと思います。
――宮崎にはあまり詳しくない私からしても、すごく魅力的なイメージがあります。移住して実際住んでいるからこそ気づけることは多いだろうと思いますね。
すごくありがたいなと思います。あとは、移住した方がどれだけ、宮崎を住み心地が良いと感じてくださるかが重要なので、今後もサポートを続けていきたいと思います。
