人口を取り合うのではなく関係人口を増やしたい:甲州市移住促進プロジェクト

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 山梨県の中程に位置し、桃・ぶどう・ワインの産地として有名な甲州市。魅力的なふるさと納税返礼品があることでご存知の方も多いのではないでしょうか。

 こちらでは、山々に囲まれた自然豊かな環境に惹かれて移住する人が近年多くなっているようです。行政としてもそんな移住者や移住希望者のための施策を様々に展開しているとのことで、担当である甲州市役所 政策秘書課 地域未来戦略室の町田さんにお話を伺いました。

画像引用元:Map-It

ぶどう作りが盛んな盆地

――まずはじめに、甲州市の環境と特徴について教えてください。

 甲州市は平成17年に塩山市、勝沼町、大和村が合併してできた市です。果樹栽培が盛んで、特にぶどうの生産量は日本一となっています。また市内に45社のワイナリーがあり、ワインの生産地としても有名です。

 気候としては、盆地なので基本的には夏は暑くて冬は寒いです。夏は本当に暑く、39℃や40℃の最高気温を記録したことも。冬もマイナス温度になりますが、雪は年に数回積もるか積もらないかくらいですね。車はチェーンがなくてもスタッドレスタイヤで充分です。

首都圏からのアクセスは良いが、生活に車は必須

――と言いますと、やはり生活に車は必須なのでしょうか。

 そうですね。自転車でスーパーや駅に行く方もおられますが、どうしても車がないと不便なので1人1台持ってらっしゃることが多いです。駅の周辺に商業施設がたくさんあるわけでもないので、駅近に住んでも結局何かしらの交通手段が必要になってきます。また、移住をしたい方は多少眺望や自然環境も希望されるところかなと思いますので、そうなると車で移動できた方が住まい探しの選択肢は広がりますね。

 ただ首都圏からのアクセスは良好ですよ。東京や新宿から特急かいじが出ていますので、1時間半ほど電車に乗れば来ることができます。またお車でも、中央道で勝沼インターまで2時間もあればアクセスできますので、電車でも車でも来やすい場所ではありますね。
 移住された方の中には、首都圏との2拠点生活をされている方もいます。また東京の方へ通勤する方もいらっしゃいますので、首都圏から職を変えずに移住することも不可能ではないのかなと思います。
 市では、学生さんが都心に通学するための補助を行っていますが、人によっては千葉の方まで通われている方もいました。

特急が停車する塩山駅ホーム

子育て支援が充実

ーー都心に通学される学生さんへの補助があるのですか。進学の選択肢が広がりますし、交通費がかなりかかりそうですから、親御さんにとってもありがたいですね。

 甲州市では子育て支援がとても充実しているんですよ。妊婦さんへの訪問健診、給食費無償、18歳までの医療費助成など、子どもさんが生まれる前から大きくなるまで様々な支援があります。2024年の9月からは0歳から2歳までの保育料無償化にも取り組んでいて、移住された方からもありがたいと言っていただいています。

市内にはシェアオフィス

サテライトオフィス

――移住するにあたっては仕事探しも不安要素の一つですが、甲州市に移住して仕事を探すとなれば、どのような仕事探しの方法がありますか。

 仕事探しはやはりインターネットでされる方が殆どかなと思います。市内にもハローワークはありますが、求人をハローワークに出さない事業者さんもいますので、インターネットで調べたり、もしくは地域の繋がりの中でお仕事を探したりされることが多いですね。
 ただ甲州市内でお仕事を探すというより、車で30~40分あれば甲府市の方にも通勤ができますので、職場については山梨県全体で探していただければ幅が広がるかなと思います。

――リモートワークという働き方も近年増えてきていると思うのですが、甲州市ではいかがでしょうか。

 やはりコロナを機に、リモートワークやフレックスタイム制を推奨する企業が増えたので市内外問わず需要があると感じています。
 甲州市には「シェアオフィス甲州」というコワーキングスペースがありますが、毎日10~15人ほどと、利用者はコロナ前よりも増えてきた印象です。施設の中にオンラインブースを設置しているのですが、近頃様子を見に行くといつも埋まっていますので、非常に有効活用していただいているなと感じています。山梨県はそもそもコワーキングスペースの数が限られていますので、利用が集中しているという側面もあるかもしれませんが、1日200円で24時間使えるというのは利用者の方にはとても魅力的なようです。駅から少し遠く、車がないと利用が難しいのがネックですが、移住者の方でも車をお持ちでしたらどんどん使ってもらえればなと思っています。

移住して農業を始める人も多い

――冒頭のお話にもありましたが、甲州市では果樹栽培が盛んなのですよね。やはりワイナリーや農業をしたいと思って移住される方も多いのですか。

 そうですね。ただ、実際にワイナリーで仕事の現場を見ているとやはりやっていくのが難しいと思われたり、大小さまざまなワイナリーがあってなかなか新規で醸造を始めることはハードルが高かったりするのが現状ではありますね。

 一方就農を希望して移住される方には、特化型の協力隊があり、3年間指導を受けながら技術を学び、独立して農業を続けていただけるような制度があります。移住された方の中には地域おこし協力隊制度を利用せずに、直接地元の農家さんのところに飛び込んで、畑をやっていく方もいらっしゃいますね。また県内には農林大学校がありますので、そこで勉強しながら地域の方と繋がりを作り、畑を取得する方もおられますね。
 最初はお手伝いから始めて、人間関係を構築しながら技術を磨き、最終的に独立するケースが多いかなと思います。

 農業の担い手不足はどの自治体でも問題かとは思いますが、甲州市でも高齢化が進み、後継者が都会に出ていってしまうなどして離農する農家さんも多いです。移住者の方が農業をやりたいと言ってくださるのはとてもありがたいので、どんどんチャレンジしていってほしいですね。

住まい

――移住するにあたっては、家も大事になってきますよね。住まい探しはどのようにする方が多いですか。

 定年退職後移住をされるような方は、空き家バンクや不動産で戸建てを購入される傾向にありますね。都心に比べれば庭があったり部屋も多かったりしますので、かなりゆったりと暮らしていただけるかと思います。
 また、空き家だったところに入っていただけると、獣が住みつかなくなったり、家の明かりが一つ増えたことで家周りの雰囲気が明るくなったりするので、周辺住民の方は喜ばれますね。もちろん田舎なので自治会の活動や行事に参加していただくなど、うまくコミュニケーションを取っていただくことは良好なご近所関係を築く上で大事かなと思います。

 一方でアパートなどの賃貸物件はあまり多くないです。甲州市は昔からお住まいになっている地元の方がほとんどで、また大きな企業や大学もないので賃貸物件が比較的少ないんです。賃貸を希望される移住者の方はいらっしゃるんですが、なかなか手ごろな物件がないのが現状ですね。子育て世代の方や若い方などはいきなり戸建てを購入するのが難しいと思いますので、賃貸物件が少ない点は移住促進という側面から考えるとまだまだ弱いところかなと思っています。

お試し移住事業

――住んでみないとわからないことも多いと思うので、いきなり物件を買うのは勇気が必要ですものね。そんな方のために移住体験ができる「お試し住宅」を貸し出す事業もやっていらっしゃるとお聞きしました。

 はい。市内に2箇所、団地の1室と戸建てをお試し住宅としてご用意しています。短くて2泊3日、長くて6泊7日まで滞在していただくことができ、無料でご利用いただけます。春夏秋冬それぞれの季節を体験できるよう、年度内に4回までのご利用が可能です。

 やはり住んでみないとスーパーや病院へのアクセス、地域の雰囲気も分からないと思いますので、少し長く滞在していただくことで甲州市の暮らしを体験する機会になればと思い、この事業を始めました。実際に家探しや仕事の面接で利用していただき、移住した方もいらっしゃいます。利用者さんのお声など、詳しくは甲州市移住支援ポータルサイト「甲州らいふ」に掲載していますのでぜひご覧ください。

 「甲州らいふ」では移住関連のイベント情報や移住者インタビューなどを掲載しています。また、甲州市の見どころや暮らしを伝えるフリーペーパーの発行も行っています。サイトでもご覧いただけますので、併せて見ていただけると嬉しいです。子育て支援情報や移住支援情報などもたくさん掲載していますので、甲州市が気になっている方はぜひ見てみてくださいね。

数々のお試し住宅

全国から移住者が集まる甲州市の魅力

ーーお話を伺っていると、町田さんの甲州市に対する愛が伝わってきました。ご自身も甲州市のご出身なのですか。

 はい。県外の大学に進学し、卒業後は市役所に就職する形で甲州市にUターンをしたのですが、改めて都会にはない落ち着いた静かさや素敵な観光スポットがあることに気づきました。特に最初の配属が観光課だったので、学生時代には知り得なかった観光の情報や魅力的なコンテンツを知ることができました。その後移住の担当になり、甲州市の魅力に惹かれて移住された方々とお話をする中で、全国の方に知ってもらえるような魅力が甲州市にはたくさんあるんだなと感じています。

今後の課題と展望

ーー素敵な魅力が詰まっている甲州市ですが、今後移住を促進していくにあたって課題はありますか。

 移住相談窓口に来てくださった移住者の方は把握ができるのですが、相談なく移住された方についてはなかなか関係性を持てないという点が課題かなと思っています。転入転出の把握は市民課で行なっていますが、助成金などの相談がなければなかなか政策秘書課には来られないので、移住者全員を把握することが難しい状況です。
 また、市役所職員は異動がありますので、移住者の方と一度関係性を築いていても人事異動で担当が変わるとその関係がばったりと切れてしまうという点も課題だと感じています。

ーー移住者の方との関係作りが主な課題ということですね。では最後に、移住支援事業における今後の展望について教えてください。

 人口減少対策の一環として移住促進を行なってきているわけですが、結局それでは日本国内で減っていく人口の取り合いを自治体同士ですることになってしまいます。もちろん人口を減らさない取り組みは必要ですが、甲州市ではどちらかというと関係人口を増やしていく方向に転換できないかと考えています。

 実際に他の自治体ではファンクラブ制度を導入したり、情報発信をして認知に力を入れたりしているところがありますが、そうした自治体を参考に甲州市ではどういった取り組みができるか考えているところです。
 具体的には甲州市はふるさと納税が全国的に見ても人気ですので、寄付者様たちを中心に呼び込んで訪れていただき、甲州市のファンになっていただきたいなと思っています。きっかけは返礼品の果物でも、このぶどうおいしいから現地にも行ってみようかな、と足を実際に運んでいただくところに繋げられれば、そこからまた良い展開を産むことができるのかなと。そういう方たちが、たとえばいずれリタイアして移住先を考えた時に「甲州市、よかったな」と思っていただける、移住先の候補の一つになる、そんな市になっていけたらいいなと思います。

ーー関係人口を増やす、という視点はどの自治体にとっても今後必要になってくるのかもしれませんね。町田さん、今回はありがとうございました。