宮城県の南西部にある刈田郡七ヶ宿町(かったぐんしちかしゅくまち)は「県内一人口の少ない町」です。
東北地方では人口規模の小さな市町村の多くが平成の大合併で自治体としての姿を消しましたが、七ヶ宿町はその流れに飲み込まれずに独立しています。
そして充実した移住定住政策を打ち出し、平成28年から令和5年の8年間で300人以上の移住者を呼んでいます。
今回のインタビューでは、七ヶ宿町ふるさと振興課企画係主事の寺尾野々花さんに、七ヶ宿町の特徴や移住者への手厚い支援などについてお話を伺いました。
七ヶ宿町の概要
七ヶ宿町は宮城県の南西部に位置しており、山形県、福島県と隣接しています。町内には江戸時代に参勤交代で栄えた街道が通っており、その街道沿いに七つの宿場があったことが「七ヶ宿」という町名の由来になっています。
町の面積の9割が山林のいわゆる中山間地です。人口は令和6年7月31日の時点で1225人と県内では最も少なく、高齢化率も高い自治体になっています。
平成の大合併の時期にお隣の白石市、蔵王町と三者協議をしましたが、結局は合併せずに独立する道を歩むことになりました。
気候の面では、スキー場もあるので県内では雪が多い方だと思います。ただ、町内の西側にある山形県に近い地区と、役場などがある東側にある地区では雪の降る量が全然違いまして、西側では2メートル近く積もるのに対し、東側では30センチ積もるかどうか。夏でも、西側で雨が降っている時に東側は晴れていることがあるなど、面白い気候だなと思いますね。
ちなみに料理にも違いがありまして、例えば芋煮を作る際に、西側では醤油ベースで牛肉を使う山形県の作り方、東側では味噌ベースで豚肉を使う宮城県の作り方といった郷土料理の違いなんかもあります。
子育て支援が充実
七ヶ宿町では、平成27年度から移住定住に力を入れ始めました。というのも、「2044年には町の人口が706人になる」と国立社会保障・人口問題研究所の推計を基に独自推計されました。
町内にいる若者の定住促進はもちろんですが、元々の住民だけでは人口の維持は難しいだろうということで、町外から人を呼び寄せることにしたんです。
町の施策としては子育て支援を特に手厚くしていて、これは県内で一番、全国的に見ても充実度が高い施策だと思っています。
保育料・給食費・18歳までの医療費は第1子、第2子などに関わらず全員無料になっています。
また、町独自に「子育て応援支援金」制度を実施しており、第1子で30万円、第2子で50万円、 第3子以降は70万円を支給しています。これは出生の時に一括してその額を支給するのではなくて、小学校・中学校・高校へ入学する時期に分割して支給しています。
分割する理由としては、入学時にかかる負担軽減や町に長く住んでもらいたいことから分割しています。また、移住して1年以上経過した方であればどなたでも対象になります。例えば、お子さんの小学校入学前に移住してくれば、小学校入学以降からは支給されます。
20年住めば土地と住宅がもらえる
「地域担い手づくり支援住宅」という施策もあります。こちらは町外からの移住者限定なんですが、40歳未満のご夫婦で中学生以下のお子さんがいる世帯を対象に、新築の住宅を毎年2棟町有地に建てています。
この施策の凄いところは、建て売りではなくてデザインや間取りを含めて0からの建築なんです。家族構成によって間取りや部屋数の希望は違いますよね。なので、入居される方が建設会社と設計の相談をしながら建てることができるんです。しかも、20年間住んだら土地と家を無償で差し上げます。20年経つまでは、町営住宅と同じ扱いで賃料が月額3万9000円となります。
これまで、この施策を利用して18世帯78名の方々が入居しています。町としては、それだけの子育て世代が移住してきてくれているというのはとても大きいですね。
毎年2月頃に募集が開始されますので、気になる方は一度お問い合わせください。
◆七ヶ宿町農林建設課(TEL:0224-37-2115)
今後は定住支援もさらに手厚く
今後の移住定住施策の展望としては、補助金やハード面に関しては既にかなり充実しているので、これからはソフト面にも力を入れていきたいんです
元々、七ヶ宿町には三世代・二世代家族の世帯が多いんですが、やはり移住者は核家族で共働きの世帯が多いので、子育てに関する不安や心配事がある方もいらっしゃると思います。そこで、健康福祉課では毎月1回親子向けの講座を開いて、親御さん同士の交流だけでなくお子さん達も色々な大人と知り合える機会を設けています。
講座には町の保健師さんや栄養士さんも参加しているので、その場でお子さんの健康面や食事に関して気軽に質問することもできます。
そういった定住に繋がるような支援も手厚くしていきたいですね。
教育の手厚さも魅力
移住者の数については平成28年度から把握しているんですが、毎年40人前後、令和5年度までの8年間で305人です。仙台市やその近郊からの移住者が多くいらっしゃいます。その中には、一度他の地域から仙台へ移住して、さらにそこから七ヶ宿町へ、という方々もいます。
やっぱり、子育て世代の方は自然の中で子育てしたいというのと、子供一人一人に目の行き届く小規模校にお子さんを通わせたいという要望をお持ちの場合が多いですね。
七ヶ宿町には小学校も中学校も1つしかなく、1学年の児童生徒数が10人いない学年が多いので、手厚い教育を受けられるというメリットはあると思います。
子供達の発言する機会も多く、学習発表会や卒業式で、セリフが凄く多いんですよね。人口が少ない分、子供達一人一人が主役ですよね。それに、子供達は学年をまたいで仲が良いのも特徴です。
また、保育所も町内に1つだけなんですが、今年の4月に新しく建て替えたばかりです。町と県の木材をふんだんに使用した園舎になっており、すごく居心地が良いんです。現在保育所に通うお子さんのほとんどが移住者のお子さんですし、小学校・中学校の子供達も転入生が多いのですぐに打ち解けられる環境ですね。
移住者も地域の担い手になれる
数年前、移住者の方に「移住前に不安だったことは何ですか」とアンケートをとったんですが、「人間関係」という声が多く上がりました。田舎だからのけ者にされるんじゃないかとか、村八分にされるんじゃないかとか…。でも、来てみたら全然そんなことはなくて、消防団に入って親交が深まったり、「住民交流会」で郷土料理を地元の人と一緒に作ったりして、すごくあたたかい地域ということがわかるんです。
やっぱり移住者同士で固まってしまうと、うまく進むことも進みくなってしまったりもするので、移住者の方もお客様ではなくて、地域の担い手の一人として新しい風を吹かせてくれたらなと思います。
七ヶ宿町への移住者の中でモデルケースとなっている方がいらっしゃいまして、その方は「七ヶ宿まちづくり株式会社」で就業されているんですが、元々コーチングの仕事をされていたというのもあって、場の空気作りとか、住民交流会の企画などがとても上手なんです。もう、町の盛り上げ役としてなくてならない存在で、キーマンです。
寺尾さんご自身も移住者
私自身、8年前に仙台から七ヶ宿町へ移住してきました。そのきっかけは「わらじで歩こう七ヶ宿」というイベントだったんですが、これは冒頭でお話しした江戸時代の旧街道をわらじを履いて約11キロ歩くというもので、街道のところどころに町民の人達の協力で、漬物やフルーツ、かき氷などの色々なおもてなしがあるんです。
私はそのイベントに母と参加したことがあって、その時に「町民総出でイベントに協力するような、人と人との距離が近い町なんだ。もし私が行政の職員として働くなら、七ヶ宿のようなところが良いな」と思ったんです。その後、町役場の採用試験を受けて合格し、移住してきました。公務員として、「この人達のために働いているんだ」ということが見えるのはとても良いですね。