株式会社ウチヤマホールディングス【“働き甲斐”をスタッフが持ってくれる状況の維持が肝心】

経営理念に基づくマニュアルの徹底化

 ウチヤマホールディングス(東証スタンダード市場上場。以下、ウチヤマHD)は傘下企業:さわやか俱楽部で、介護施設事業(ウチヤマHDの総売上高の約8割を占める)を展開している。介護付有料老人ホームをはじめとし2024年4月1日時点で、9業態:全国に121拠点を運営している。斯界では7位の規模になる。

 幅広い業態を展開してはいるが、介護事業の優劣は「介護スタッフの質」によって決まると言って過言ではない。それが入居率などの経営指標に深く関わってくる。ウチヤマHDでは介護士の育成・活力化をどの様に図っているのか。

 山本武博社長は、「経営理念である『慈愛の心』『尊厳を守る』『お客様第一主義』を社内の隅々にまで浸透させるため、研修の種類、頻度を充実させている」と語った。またかつて施設長も体験、(施設)運営指導部長を経て現在バリュークリエーション部部長の原野聖士氏は「介護現場でのDX推進、ICT活用において、業務効率化による生産性向上、ケアの最適化等が一層求められる。


 その実現の過程において、次世代ケアの実践に向けたオペレーション変更に伴う運営指導が必要になる」とした上で、「大前提は経営理念に基づくマニュアルの徹底化。例えば未経験者や外国人職員でも理解しやすいように写真を挿入したり動画版を作成するなど、常にアップデートを意識して取り組んでいる」とした。

処遇も可能な限り報いる

 ただ着目すべきは、マニュアルの遵守を一方通行的に強いるだけではない点に求められる。介護スタッフの為になる情報を提供するなど、網羅的な研修体制を適宜実施している。例えば「資産形成セミナー」。外部専門家を講師に新人や中途採用組などを対象に、客観的に「資産形成法」をレクチャー。好評を博しているという。例えば「スマートフォン機能講座」。介護現場のスタッフの9割方がスマフォを保有している。が70歳代~80歳代の介護士には「電話をかけるだけの道具の域をでない」という面々も少なくない。活用いかんで介護現場の効率化も図れる。宝の持ち腐れを回避する意味で、NTTドコモから講師を招き勉強会を開いているetc。

 ところで介護業界では、離職率の高さが指摘される。その要因として「(他業界に比べ)低い所得」が挙げられている。山本社長は「当社の場合、地方での展開が多い。離職率には常に関心を払っている。具体的には“働き甲斐”をスタッフが持ってくれる状況の維持が肝心だと捉えている。そのためには個々のスタッフを正当に評価して、それを給与に反映させている。また(当社が原資を支払う形の)確定拠出型年金制を導入して、退職後の資金づくりをフォローしている」とした。

 昨今大手のメーカーなどで、離職社員の出戻りに積極的な姿勢を示すところが増えている。現職時代に身に着けたハウツー・ノウハウを活かすためだ。興味深い。ウチヤマHDでは「ふるさと制度」を敷いている。一度離職したスタッフを、在籍時と同じ条件で再雇用する。「人の活かし方」を感じさせる。

現場からの提案には前向きに対応

 さて、そんな具合に総括的な研修体制の基で育てられ相応の環境下に置かれたスタッフ達は現にどう育っているのか。どんな存在となって寄与しているのか。

 こんな事例を知った。ある施設では敷地の空きスペースを活用し、スタッフと入居者による畑仕事を始めた。施設の食材として活かすだけではない。地域住民の使用もオープン。斯界では「例えば認知症者の施設であるグループホームなどは特に、地域エリアとの良好なかかわりが大事になる。定期的かつ持続可能な地域連携・協働による繋がりが大切」とされる。

 一つの事例として、施設が空き地を活用した「畑」を介して、地域との距離を密にする。山本社長は「かくかくしかじかの展開をしたいのですが、と施設長から打診を受けます。がその時点では既に実施が始まっていることが大方。トップダウンというケースは皆無に近い。いい兆候だと自負しています。結局我々の介護事業は、地域の活性化と密に関われることが大事だという認識です。件の畑の一件などは全国的に共有され、第二第三の畑が・・・」と語り、確かな手ごたえを掴んでいる様子が伺えた。がその背景には「現場との風通しの良さ」を作り出す、トップを初めとした幹部たちの頻繁な地方回りがある。「地域包括施設」の拡充はいまや、国策。そのためには、地域密着型の介護施設が不可欠である。

外国人従業員の活躍

 ところで添えた写真をとくとご覧いただきたい。ウチヤマHDでは現在140人の(身分に基づく在留資格者:永住、定住、配偶者等を除く)外国人従業員が介護士として従事している。周知のとおり少子高齢化のいま、外国人労働者を生かす方策が多角的に検討されている。

 同社のかかわりは、2018年6月に遡る。日本の労働力不足を背景に、技能実習制度の対象職種が拡大の動きを進めていた。「介護職」も対象となった。そうしたなかでウチヤマHDは、インドネシアに「日本語教育/職業訓練校」の運営会社を設立した。「自社の人材保、日本で働く人材の育成を目的」にである。具体的には、最大150人を受け入れ3~8か月で日本語や各分野の技術等を習得させる。月間20人程度の日本への派遣を目標とし、在留資格特定技能で就労する外国人に対しては来日後の生活支援も行うという枠組みだ。その職業訓練校の卒業生が、140人の外国人従業員という次第。


 原野氏は「施設の中でリーダー的な役割を果たす職員も誕生している。入居者に問うたアンケートでも『明るい』『元気』という評価を貰っている」とする。現在、ウチヤマHDでは外国人材の紹介・支援事業を手掛けているが同業大手への紹介も少なくない。

 人材の育成・活性化の礎は、企業規模の大小を問わず「経営者の考え方」を痛感する。