金沢星稜大学_石川美澄教授に訊く:県立金沢商業高等学校と共同する「観光実践プロジェクト」の取り組みと成果

今年度、金沢星稜大学経済学部の石川美澄先生のゼミでは、観光ならびに観光地の諸問題について調査し、その対応策を考えることを目的として、県立金沢商業高校観光サービスコースと共同で「高大連携による観光実践プロジェクト」をスタートさせました。初年度の活動テーマは南加賀エリアの観光産業界の人手不足の解消や体験格差の改善等。高大連携によって大学生が得た気づきとは?ツアーの準備のためのフィールドワークから、ツアーの企画・実施を見守ってきた石川先生に、取り組みの成果についてお聞きしました。

石川 美澄 先生
金沢星稜大学 経済学部地域システム学科 教授


博士(観光学)。株式会社クラブツーリズム、共栄大学専任講師を経て2018年度より金沢星稜大学経済学部准教授、2024年度より現職。主な研究成果として、「大学生の温泉地イメージに関する一考察:山中温泉におけるまち歩きアンケート調査を基に」『金沢星稜大学論集別冊』44-52ページ(2023年)、「拠点的な場所と〈あるじ〉の役割に関する研究:国内のゲストハウスを事例として」(博士論文)等がある。

高校生に「負けていられない」 大学生にも刺激

――どのようなきっかけで始まったのですか。

私が2022年度の後半ごろから金沢商業高校の人材育成に関する委員をすることになり、その会議の流れから県立金沢商業高校との高大連携ができればいいですねと、同校の教諭と話していました。ただ、時期的に2023年度からそれを開始するにはあまりに時間がなく、2024年度からのスタートとなりました。その教諭は本学の卒業生ということもあって話が弾み、連携が実現しました。

――高校生が観光商品に関する調査をするのは、石川県ではよくあることなのでしょうか。それとも珍しいのでしょうか。

県内の高校事情については詳しくありませんが、金沢商業高校の観光サービスコースは、10年以上も前から兼六園の現地ガイドをしたり、近年もモニターツアーを企画・実施していたりと、むしろ私たちよりも慣れていると思います。

――今年度に始まった連携の中で、最初の取り組みはワークショップだったのですか。

いいえ、最初は大学生が高校に伺い、お互いの自己紹介をしたうえで、大学生と高校生が今取り組んでいることを発表し合うというものでした(5月末に実施)。その後、7月上旬に高大合同のフィールドワークを行い、10月5日にモニターツアーを実施しました。

――高校生は何人くらいいましたか。

今回連携したのは、観光サービスコースの3年生13人です。

――先生のゼミには何人くらい学生がいますか。

私のゼミは、2年生21人です

――皆で最初に自己紹介と活動紹介をして、フィールドワークをしたのですね。

そうです。ただ、ゼミは火曜日に、高校側は金曜日に授業があるので、基本的に授業時間が合いませんでした。実際に高校に行ってリアルで自己紹介等をした大学生は、金曜に大学の授業が入っていなかった3人だけでした。あとの学生は自宅や学内からzoomで参加するなど、バラバラの参加となりました。7月のフィールドワークでようやく、高校生と大学生の計34人が揃いました。

――石川先生としてはゼミと高校との連携には、どのような狙いがあったのですか。

1つは、高校の商業科で「観光ビジネス」が科目として導入が決まって以降、観光をテーマとした高大連携に取り組んでみたいという個人的な考えがあったからです。もう1つは、学生たちの視野を広げたり、他の世代と交流し、自分の思っていることを他者に伝えたりする機会をつくりたいと思っていたからです。

本学経済学部の場合、2年生のゼミは1年間で終了します。3、4年生の専門ゼミに進む前に、限られた1年間という期間でいつも接しているメンバーとは異なる年齢の人たちと意見を交換したり、学外の人に対して自分たちの取り組みを言語化したりする機会が欲しいと思っていました。一方で、大学2年生の彼らも1年半前までは高校生だったので、両者の間にジェネレーションギャップ等はほとんどなく、学生たちの視野を広げるまでにはならないのではないかという不安・懸念もありました。それでも、高大連携という新たな取り組みに挑戦するよい機会だと考え、高校生と一緒に活動してみることにしました。

――実際に取り組んでみて、いかがでしたか。

最初に高校を訪れ、自己紹介と今回の活動テーマに関する進捗報告を行うために高校生たちと対面した時には、学生たちは「負けていられない」という気持ちになっていました。大学よりも高校の方が早く新学期が始まることもあり、自分たちのプロジェクトのペースが思ったよりも遅れているということに気づいたようで、良い刺激を受けていましたね。「あれ、僕たちこのペースで大丈夫かな」と危機感を抱いたようです。

7月の合同フィールドワークでは、1日の最後に、高校生と大学生の混合グループを作ってフィールドワークの振り返りをしたのですが、その時にも学生たちからは「高校生が持っていた視点は、自分たちにはなかった」「高校生に、自分たちのグループの内容を説明するのは難しかった」といった感想が聞かれました。また、振り返りが早めに終了したグループでは、高校生から大学生活に関する質問等も飛び交い、学生たちは「大学での学び」について振り返ったり、それを言葉にして他者に伝えたりしている場面もみられました。

今回、高大連携を実施しましたが、運営面で難しいところもありましたが、2024年度は「1回やってみましょう」ということに重きを置いていたということもあり、試行錯誤しながらでも互いに連携しながらモニターツアーの企画・実施まで完了できたので、良かったと思います。

高校生との対話を通じ、大学での学びを振り返る機会に

――フィールドワークでは、どのようなところに行ったのですか。

南加賀エリアにある小松市と加賀市を訪れました。「ゆのくにの森」という石川県の伝統工芸を体験できる観光施設や牧場、ブドウ園に行きました。石川県を代表する温泉地の1つ山中温泉街にも行く予定でしたが、ゲリラ豪雨にみまわれたためやむなく回避し、小松空港を見学してから、新幹線延伸とともにリニューアルした小松駅周辺を見て回りました。いずれの施設・場所でも、地元の事業者の方々にインタビューをしました。

――フィードワークをした結果を持ち帰って、ツアーの内容を検討したのですか。

そうですね。それぞれの訪問先は、学生たちが設定したテーマに基づいています。観光旅行や野外体験の体験格差をテーマにしたグループでは、観光施設事業者に対してインタビューを行い、「おてつたび」のように農業・観光業の人手不足を観光の視点から改善しようというテーマに挑戦したグループでは、牧場やブドウ園等でお話を伺いました。そして、各学校でツアーの内容を再検討するという流れでした。

――ツアーは10月5日でしたから、フィールドワークから3ヶ月ぐらい内容を考えていたということでしょうか。

大学生は夏休みを挟んでいたので、実質は1ヶ月強程度の時間しかありませんでした。その間は忙しかったですね。フィールドワークに行く前から、グループごとにツアーの大まかな内容を作っていましたが、7月末にゼミ内でコンペをして、大学生として実行するツアーを6つから1つに絞りました。モニターツアーに選ばれたグループの学生たちは、夏休み中に募集用チラシをつくったり、改めて下見を行ったりしていました。

高校生たちは、大学よりも夏休みが短いため、総活動時間も両者で異なっていたと思います。

――大学生にも高校生にもいろんなアイデアがあったと思いますが、どのようにアイデアを合わせていきましたか。

実は、そこがうまくいきませんでした。高大連携と謳うからには、両者の「いいとこ取り」のようなかたちでプロジェクトを進めたいという個人的な思いはありましたが、結局、大学生のツアー1本、高校生のツアー1本の計2本のツアーを10月5日に実施しました。高大連携と言いながら、合作のようなかたちで一つないし複数のツアーを企画・実施するのは難しく、その点は課題として残りました。

――お客さんはどういう方でしたか。何人集まったのですか。

高校側では、高校生たちの保護者や、金沢商業高校が持っている株式会社を通じてツアーを知った方が参加してくださったと聞いています。

大学側は4組(大人と子ども6人ずつの計12人)、高校側は6組(大人7人、子ども12人の計19人)が参加してくださいました。募集方法ですが、石川ゼミではInstagramとFacebookアカウントでの宣伝を、高校側では高校生の保護者や先生方のネットワークを通じて参加者を募りました。

――学生さんがガイドをしながらのツアーだったのですか。

観光ガイドを行うというよりも、行程や時間の管理をすることに取り組んでもらいました。もちろん、バスの中での案内やツアー出発時の受付、点呼もしていましたが、どちらかというと行程管理と安全管理を中心に行う添乗員のような業務を体験してもらいました。

――大学生側のツアーでは、どこに行ったのですか。

金沢駅を出発して「アドベンチャーガーデン能美」という野外アスレチック体験ができる施設に行き、その後、「ゆのくにの森」で各自昼食を食べた後に金箔貼り体験をし、最近オープンした「トレインパーク白山」という新幹線が見える施設に行くという内容でした。8時50分出発、16時30分到着の日帰りツアーでした。

――ツアー自体は、成功したという手ごたえはありましたか。

そうですね。参加者アンケートの評価を見ると、皆さんに満足していただいたといえます。

――学生さんはどういう感想を持っていましたか。

「親子の笑顔が見られてよかった」「やってよかった」という声が聞かれました。「自分が思っていたよりも説明がうまくできなかった」という反省もあったので、今後の学びの材料になると思います。また、今回は、モニターツアーに選ばれなかった学生も、全員ではありませんが当日参加していました。その学生からは、「自分たちが企画した内容には足りない点が多々あった」という感想が寄せられました。

――最初から全部ご覧になっていた先生から見て、一通りやってみた手ごたえはいかがですか。

高大連携をもう少しうまくできたらよかったと思っています。ただ、高校側にも色々と制約があり、教諭も大変忙しいので、私自身がもう少し先行研究や先駆的な事例・活動を研究する必要があったと思っています。個人的には色々と反省点も多い半年でしたが、プロジェクトとしては高校側との共同活動ができたこと、次年度以降に改善するべき点がみえたことが収穫です。教育面では、少ししか年齢が離れていないとはいえ、高校生と大学生で学び合う時間を共有することは、学生たちにとってモチベーションの向上等につながることがわかったので、一定の手応えはありました。また、高校の教諭と議論をするなかで、新たな知識や異なる視点からの意見がゼミ運営に取り入れられたということも、大きな成果となりました。

地域活性化の手段として観光に興味を持つ学生が多い

――先生の専門領域は、どういった分野ですか。

私の専門領域は観光学です。特に観光まちづくりを専門としています。そのほか、宿泊施設がビジネスだけではなく文化的な基地になるという観点から、宿泊施設と地域との関わりについても研究しています。

――宿泊施設が、よそから来た人に地域を紹介する拠点になるということですか。

そうですね。宿が地域のメディアのような働きをしているという研究をしています。最近は新たな研究テーマにも取り組み始め、ホップ農業とビールづくりをまちづくりに生かす「ビアツーリズム」にも着目しています。

――大学で「観光」「観光まちづくり」を教えていて、学生さんの関心はいかがですか。

私が担当する講義では、「観光まちづくり」の話はあまりしていないんですよ。私はもともと旅行会社で働いていたということもあって、観光ビジネスの特徴やビジネスモデル、観光業と社会の関わりについて講義で話すことのほうが多いです。

ただ、観光業界で働きたいという学生は、年々減ってきている気がしています。「地域の活性化として観光に注目しています」とか、「公務員になって地域づくりをする時に、観光の授業で学んだことが役に立つだろうと思っています」といった、地域の課題解決のための手段として「観光」に注目しているという学生が年々増えてきているように思います。

――地域のことを若い人が考えているというのは、時代を感じますね。

そうですね。私からすると「いや、そんなに『地域の活性化』や『地域をよりよくしたい』ということを考えなくてもいいんじゃない?」と思いますが、学生たちのなかには「石川のまちを良くしたい」「富山のまちを良くしたい」という思いがあり、そのために観光を生かしたいと考える学生が多いことにとても驚いています。18歳、19歳の若者が、なぜそこまで地域に貢献したいと思えるのか不思議なぐらいです。本学の学生は、地域愛着や郷土愛が強いのかもしれません。いずれにしても、観光と地域の関係を捉える価値観が変わってきている印象があります。

――学生さんはほとんど北陸出身の方ですか。

そうですね。全学的に7割ぐらいが石川県出身、2割が富山県出身です。新潟県や福井県、遠くは北海道や沖縄など全国各地から来ていますが、ほとんどは北陸出身の学生です。

――北陸好きの他地域の学生さんが来ても面白いかもしれないですね。

そうですね。地理的に岐阜県や長野県も近いです。北陸新幹線を使えば金沢~長野間も60分程度です。私がいる地域システム学科では「地域と観光」について学ぶことができるので、ぜひ色々な地域から本学に学びにきてほしいと思っています。