山形県立米沢栄養大学・米沢女子短期大学:「米沢市映えcaféオープンプロジェクト」で輝く学生たち。地域と交わり自分を知る

山形県立米沢栄養大学米沢女子短期大学には、地域で知名度の高い「米沢市映えcaféオープンプロジェクト」という学生活動があります。活動では、キャンパスライフを充実させるため、学生たちがさまざまなカフェの企画を考えて実践しているのですが、米沢市の活性化にも一役買っています。2023年に始まってから、わずか2年で参加者50名を超える人気プロジェクトとなっています。

今回のインタビューでは、プロジェクトの発起人である山形県立米沢栄養大学・山形県立米沢女子短期大学 教務学生課 主任主事の川村麻耶さんと、プロジェクトに参加している学生のお二方、山形県立米沢栄養大学の倉持琳央さんと米沢女子短期大学の小林日世子さんに、具体的な取り組み内容や、活動を通してご自身の生活や意識にどのような変化が生まれたか、といったお話を伺いました。

学生が地域に出るきっかけづくりを

――米沢市映えcaféオープンプロジェクトは、どのようなきっかけで始めたのですか。

川村さん:学生たちから、大学周辺に学生が集まれる場所や遊びに行ける場所が少なくて、大学と自宅を往復するだけの日々を過ごしているという話をよく耳にしていました。

でも、私は学生には大学だけでなく米沢市の地域にも出て、いろいろなことを学んでほしいと考えていました。そこで、学生が外に出るきっかけを作れないかと思って、当時、山形県の総務部長だった小林剛也さんに相談したところ、「カフェは無条件で人の心を動かす力があるからいいよ」と提案されました。また、学生にも聞いたところ、カフェは「楽しそう」「映える」と好感触で、家から出るきっかけになるとのことでした。

私自身はカフェには全然興味がなかったものの、「それならカフェでいいか」と思って「米沢市映えcaféオープンプロジェクト」を企画しました。

参加のきっかけは、”無料”

下段中央が倉持さん、下段左が小林さん

――お二方は、なぜプロジェクトに参加しようと思われたのですか。

倉持さん:大学の掲示板にメンバー募集の案内が貼られているのを見て、「学生の負担は一切なく、無料でカフェ巡りができる」との文言に惹かれ、参加を決めました。

小林さん:私は、学内の掲示板やチラシを見て、お昼にパンを無料で食べられる会があると知り、「それは嬉しすぎる」と思って、説明を聞いてみることにしました。その後、昨年の活動を冊子で見て、「めっちゃいろんな活動してんじゃん。面白そう」と思って入りました。

――お二人とも無料に惹かれていますね。学生の興味を引くために、メンバー募集の方法も工夫をされているんですね。

川村さん:実は、このプロジェクトは米沢市から補助金をいただいて実施している事業なんです。初回のメンバー募集は、大学の目の前にあるベーカリーカフェでパンとドリンクを買って、「無料で食べさせるからおいで」って。

――振る舞い作戦が功を奏したんですね。プロジェクトには多くの学生が参加されていますが、お二方と同じような理由で最初は興味を持つ方が多いのでしょうか。

小林さん:私から友達に声をかけることもありますし、活動の噂を聞いて興味を持ち、参加してくれる学生もいます。徐々に学内でプロジェクトの認知が広がっているのを感じます。

川村さん:ホームページを通して、入学前から当プロジェクトを知ってくれている学生も増えています。入学前から、「入学したら、米沢市映えcaféオープンプロジェクトに参加したい」と言ってくれていた意識高い系の学生もいたそうです。その子たちは入学後に「パンじゃない、パンじゃない」と言っていました。

小林さん:パンじゃない…(笑)

不安があった米沢での生活

――お二人は米沢市のご出身ですか。

倉持さん:私は茨城県出身です。

小林さん:私は新潟市内のそんなに都会じゃないところの出身です。

――米沢に初めて来たときは、どのような印象を持ちましたか。

倉持さん:受験の時に初めて大学に来たんですけど、冬だったので雪がすごかったんです。「私、合格したらこの雪の中で生活していかなきゃいけないのか」と思うと寂しい気持ちになりました。

小林さん:私はアパートを決める際に初めて米沢に来ました。いろいろと手続きをしている時に初めて方言を聞いたんですが、「あ、異世界に来たぞ」と。やっぱり東北地方って方言が強いなと思いました。それで、最初は心細い気持ちにもなったんですけど、今では完全に馴染んで、たまに米沢弁がうつることもあります(笑)

――お二人とも地元とは環境の違う米沢で大学生活をスタートされていかがですか。

倉持さん:入学時はちょうどコロナの時期で、飲み会などもありませんでした。そもそも栄養大学は1学年45人で人数が少ないので、高校の1クラスがそのまま大学に移ったような感じで、施設だけは大学風なところに来たみたいな感覚です。想像していたキャンパスライフからはちょっと遠いですね。

小林さん:私はまだ米沢の雪を体験していないんですけど、冬がすごく心配です。キャンパスが市街地から離れた場所にあるので、バイト先がとても離れてしまう人が多くって。私の場合は自転車で約25分かかるんですよ。先輩から聞いた話では、冬は少ない本数のバスを上手く活用するか、歩くしかないそうです。市街地まで歩くと1時間ほどかかるらしいので、今から心配しています。

――なるほど。そういった背景があってのプロジェクトだということがよくわかりました。

“映えない街”から”映える街”へ、見える景色が変化

――プロジェクトでの活動を通じて、米沢の印象は変わりましたか。

倉持さん:私は映えcaféプロジェクトに参加して1年以上経ったんですけど、参加する前は自宅と大学を往復するだけの生活を送っていて、あまりやることもなく、正直、米沢は”映えない街”だと思っていました。

でも、この1年間でさまざまなイベントへの出店なんかを経験する中で、地域の特色や文化にも触れる機会が増えてきて、「米沢はやることがないような場所ではなかったんだな」って気づかされました。

――米沢の良さを知ってもらうことも、プロジェクトの狙いの一つだったのでしょうか。

川村さん:実は、そこまで狙っていたわけではないんですよ。私は前々から、学生たちが自分自身のことをよくわかっていないなと思っていたんです。本学の学生は第一志望に手が届かず入学してきた人が多くて、自分に自信がない学生が多いんです。

でも、自信がない割に考え方はしっかりしていて、しかも素直で誠実な学生が多いんです。そういう学生は社会に出たら重宝されるんだよって知ってほしかったんですよね。だから、「自分には意外と強みがあるんだ」「これが自分の好きなことなんだ」と大学生活の中で気づいてほしくて。

そんな想いでプロジェクトを始めたんですよね。でも、進めていくうちに、学生たちが自発的に地域貢献に関わるようになって、米沢を元気にしちゃって。だから、私の当初の狙いをはるかに超えたところへ、学生が旅立っていった感じです。

――では、プロジェクトの途中から学生さんたちが自主的に企画をし始めた結果、現在の活動につながっているのですか。

川村さん:そうなんです。実は、去年はカフェ巡りくらいしかするつもりはなかったんですよ。カフェを回って、最後にカフェマップでも作って終わるのかなと思っていたら、学生たちから「理想のカフェを作りたい」「カフェを経営したい」という話が出るようになりました。

それなら、どうぞやってみればということで。皆で好きなように企画してもらっています。

――小林さんは今年入学されてから約半年間、プロジェクトで活動をされていますが、いかがですか。

小林さん:栄養大も短大も、県外から来る学生が多いんです。だから私もそうなんですけど、最初は米沢は何が有名で、どんな街なのか全く分からないんですよ。キャンパスが市街地から離れているから、自分の足で街を知るのも難しいんです。そんな状況だったんですけど、私はこのプロジェクトでいろいろな場所に連れて行ってもらったり、いろいろな方と交流したりすることで、米沢は活気のある街なんだと気づきました。このプロジェクト以外にも、街には学生を支援してくれるような取り組みもあって、すごく面白い街だと感じるようになりました。

あと、川村さんがさっき言っていましたが、私たちが「こういうことをしたいんだけど、どうしよう」と迷っている時に、川村さんは「やってみたらいいじゃん」ってめっちゃ言ってくれるんですよ。その一言が自信になって、「じゃあやってみるか」って動けるんです。

最初はアルバイトとの両立が大変で、サークルに入るのは難しいかもって思ってたんです。そもそも、そんなにサークルの数もないし。でも、このプロジェクトに参加したことで、「いろんなやりたいことを見つけて、ちょっとやってみよう」って志が芽生え始めたので、だいぶ大学生活を楽しめてるかなって思ってます。

――米沢市映えcaféオープンプロジェクトを通して、学生自体が”映えて”きているんですね。

川村さん:そうなんですよ!映えcaféプロジェクトの写真をインスタに投稿すると、他のプロジェクトに比べていいねの数が50件くらい増えるんですよ。映えcaféの子たちは表情がいいから、反響を呼んでいるんだと思います。

――思ってもみなかった効果が生まれているんですね。

川村さん:全然思っていなかったんです。「何でもいいからとりあえずやってみよう」という感じで始めたら、学生が自発的にどんどん成長していって驚いています。

多方面に広がる活動

――プロジェクトにはリーダーはいるのですか。

川村さん&倉持さん:いないんですよ。

小林さん:いないんですけど、私は個人的に倉持さんがリーダーだと思っています。かなりやり手なので。私たちのプロジェクトは、例えば常設カフェを運営したいグループがいたり、企業とコラボして商品開発をしたいグループがいたり、いくつかのグループに分かれて活動していて、そのグループごとにリーダー的なポジションの人がいるんですね。

その中で、倉持さんはいろんなイベントに“お助けマン”として積極的に関わってくれているんです。たくさん飲食メニューを考えてくれたり、「企業さんからこんな話をいただいたんですけど、どうですか」って案件を持ってきてくれたり。そのおかげで、だいぶプロジェクトが活気づいています。倉持さんすげえな!って。

――今のお話を聞いて、倉持さんはいかがですか。

倉持さん:小林さんが言っているように、たくさんグループがあるんですけど、一つのグループの活動回数はそれほど多くないんです。私は皆より比較的暇なので、いろいろなグループにちょこちょこ参加した方が自分自身がいろいろできていいかなと思って。

――具体的に、どのような活動を行うグループがあるのですか。

倉持さん:去年は、「もし自分たちがカフェをやるなら、どんなコンセプトでしたいか」というちょっとふんわりしたテーマでグループ分けをしていたんですけど、今年からは「米沢市映えcaféオープンプロジェクトとして、どんなことを自分がやりたいか」っていうことを軸にグループ分けをしています。

例えば、常設のカフェをやりたいグループや文化祭に出店したいグループ、地域の企業とコラボして山形おやきを開発しているグループ、地域のコミュニティセンターでイベントを開いて、カフェメニューを提供しようと動いているグループもあります。

他には、近くのレストランの方がお庭でハーブを育てていらっしゃるんですが、そこの一角をお借りして自分たちでハーブを育てて、 他のグループが必要なときに提供してくれるようなグループもあります。

あと、東京農業大学の学生さんや専修大学の学生さんと連携して、横浜で開催される大学マルシェで米沢の素材を使ったスコーンを作って販売しようと動いているグループもあります。多彩なグループができていて、活動は多方面に広がっています。

――他の大学とも一緒に活動しているんですね。どんどんとつながりが広がっていきそうですね。

小林さん:地域の方々の間でも、映えcaféプロジェクトの認知度が少しずつ高まってきてて。私がバイト先でお客さんと話していたら、「俺んとこに空き家があるんだけど、映えカフェの子に貸したらどうかなって川村さんに話してみるわ」って言ってもらえたこともあります。

――プロジェクトが始まって2年で、これほど認知が広がっているのはすごいですね。

川村さん:今年の8月に地元で7万部くらい発行されているフリーペーパーの取材を受けたんですが、それから認知度が一段と高まったように感じます。

倉持さん:バイト先の居酒屋のカウンターの奥で作業していた時に、カウンターに座っているお客さんから「顔を見たことあるな。冊子に載ってたよね」と声をかけられました。そんなことがすごく増えましたね。

良い意味で想定外のプロジェクトに

――最初は米沢に対してマイナスな印象を持っていたというお話もありましたが、印象は変わりましたか。

倉持さん:1年生の頃は、「4年間の大学生活を終えたらスパッと地元に戻ろう」とガチガチに決めていました。

でも、映えcaféプロジェクトで活動を始めてから、米沢の地域活動にも参加するようになって、地元の茨城で築いてきた人間関係よりも、発展的な人間関係を築けているんですよね。

私は卒業して国家試験に合格すれば管理栄養士の免許を取得できるので、将来は病院で働きたいとずっと考えていました。ただ、働き先については、地元にするのか米沢にするのか、今は迷っています。

――学生に大きな影響を与えるプロジェクトになっているんですね。

川村さん:皆の人生なので、それぞれが自分の納得のいく選択をしてくれればいいと思いますが、映えcaféプロジェクトが地域を知るきっかけになったのはすごく嬉しいです。

――小林さんは卒業後はどのような進路を考えていますか。

小林さん:私はまだ将来が不明確なんですけど、地元に戻りたい気持ちもあります。

ただ、学業や興味の話でいうと、映えcaféプロジェクトからいい影響を受けていて。私は英語英文学科に所属しているんですけど、もともとは国語の方が良くて。

だから、最初は全然英語に興味がなかったんですよ。でも、映えcaféプロジェクトで英会話カフェという国際交流イベントを開催したのをきっかけに、米沢の国際交流協会に入ってみたり、地域の方と外国の方が接するイベントにも参加するようになったりして。

そのうちに、地域と海外とのつながりって結構面白いなと感じるようになって、英語がちょっと楽しいと思えるようになりました。

――マーケティングを行わずにプロジェクトを始めてみることも大事なんでしょうね。

川村さん:多分そうですね。学生たちのニーズを調査して、それに合わせて活動を考えると、活動の上限が決まってしまうと思うんです。だから、とりあえず始めてみて、集まってくれた学生たちには「あとは何やってもいいよ」と。許容される範囲でどんどん失敗してもいいと。

大人になると、失敗が許されてチャレンジできる機会はなかなかありませんからね。実際にやってみないとわからないこともありますし、こうした経験が大きな挑戦への第一歩になるかもしれません。

私自身、当プロジェクトを始めてから想定外のことしかないです。スタートしてまだ2年ですが、両大学合わせて700名ほどなので、参加者が50名を超えるとは思ってもみませんでした。

プロジェクトが社会への扉を開く第一歩に

――お二方にとって、米沢市映えcaféオープンプロジェクトとは何ですか。

倉持さん:映えcaféプロジェクトで学んだことや気づけたことが結構あります。地域の方々と交流することや、自分のやりたいことに近い活動をしている方に直接お話を聞くといった機会は、どこにも所属していない学生では持てないと思うんですよね。今そういった貴重な経験ができているのは、これからの自分にとってもすごく良い影響を与えるだろうなと思います。

小林さん:映えcaféプロジェクトは、第一歩になる場だと思っていて。私が携わった国際交流イベントでアンケートを取った際には、「普段、外国の方と交流する機会がなかったので楽しかった」とか、米沢への移住を考えている方からは「米沢の方と交流ができて楽しかった」といった感想をいただいたんですよ。そういう声を聞いて、このイベントが多くの方にとって新たな第一歩になっているなと思いました。

学生も映えcaféプロジェクトを通して自分の興味が広がったり、他のイベントをやっている人と新しくつながったり。やっぱりこのプロジェクトが第一歩になって、いろいろ広がっていくんだなと思います。

――米沢市映えcaféオープンプロジェクトは、学生さんたちにとって貴重な経験を積める素晴らしい場になっているんですね。

川村さん:実は、私は事業を新たに生み出す力を養う事業構想大学院大学というところに通っていまして。このプロジェクトを自分にとっての研究テーマにもしているんですよ。というのも、私自身が長い間、自分が本当にやりたいことを見つけられずにいて、そのことをすごく考えていたんですよ。「自分はこういうことが好きで、だからこの道を歩んできたんだ。ふむふむ」と気づくことができたのは、大人になってからです。だからこそ、学生にはもっと早い段階で、自分の好きなことや自分自身のことを知ってほしいんですよね。

なので、今日の取材で二人が映えcaféプロジェクトのことを「やりたいことを見つける入口」だと言ってくれて嬉しかったです。皆きっかけさえあれば、自分の興味を広げて、枝葉を伸ばしていくことができるんだと感じました。最初は「やりたいことがよくわからない」と言っていた学生たちが、ここまで成長している姿を見て、本当にすごいなと思います。