環太平洋大学:挑戦する力が社会を変える。学生が創るフリースクール「IPUブリッジ」の軌跡と未来

「学生が主体となって、不登校の子どもたちを支援するフリースクールを運営する」。そんな挑戦を実現しているのが、環太平洋大学の学生団体「アワーユニバース」です。アワーユニバースが立ち上げた「フリースクール『IPUブリッジ』」(“IPU”は環太平洋大学の略称)では、地域と連携したイベントや農業体験など、子どもたちに新たな学びの場を提供しています。

この活動は、単なる教育プロジェクトに留まりません。資金調達から運営まで、すべてを学生が主体となって行っており、その姿からは社会人にも負けないリーダーシップと実行力が見て取れます。大学教育の枠を超え、地域社会との連携を深めているこの取り組みは、学生たちにとっても社会で必要なスキルを磨く貴重な学びの場となっています。

この記事では、彼らの奮闘の軌跡とフリースクール運営を通じた成長、そして今後の目標について深く掘り下げていきます。彼らの熱意と実践から得られるヒントがあるはずです。

不登校の子どもたちの新たな居場所「IPUブリッジ」とは

――貴学の学生さんたちが主体となり、不登校や別室登校の子どもたちの居場所づくりを支援している「フリースクール『IPUブリッジ』」は、どのようにして誕生したのでしょうか?

キャリアセンター企業等就職支援室・キャリアカウンセラー 影山映里さん:
キャリアセンターでは就職支援だけでなく、学生たちと一緒に課外活動のプロジェクトも進めています。その折に、学生から「不登校の子どもたちの支援はできないでしょうか」という声が上がりました。そこで、「学生主体でフリースクールを作り、運営や教育プランを自分たちで考えてみない?」と声をかけてみたところ、5人ほどの有志の学生が集まってくれたんです。これが、私たちのスタートとなりました。

現在は、学内の申請や調整など、必要な場面には私たち教職員も関わっていますが、基本的には学生が主体となって開校し、運営しています。当初は教員を目指す学生が中心となって始まったプロジェクトですが、今ではさまざまな学科から約50名の学生が参加し、学科の枠を超えた大きな取り組みになってきていると感じます。

―― IPUブリッジを運営されている学生団体「アワーユニバース」に所属している学生の方から、団体やIPUブリッジについてご紹介いただけますか?

学生代表 野田拓雅さん:IPUブリッジの最大の特徴は、大学生が主体となって運営している点です。現在、「アワーユニバース」には約50名のメンバーが在籍しており、サッカー部や陸上部の学生、将来教員を目指す学生など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。

さらに、活動にあたっては大学以外の施設を活用している点も特徴です。たとえば、サッカーグラウンドを使った活動だけでなく、地域貢献の一環として「金山寺」という地域で農作業の体験ができる機会もあります。ほかにも、子どもたちと一緒にピザ窯を作ったり、そのピザ窯でピザを焼いてたべる体験など、さまざまな活動ができることもIPUブリッジの魅力のひとつです。

―― 学生のお二人がIPUブリッジに参加しようと思った理由やきっかけは何ですか?

野田さん:僕が参加しようと思った理由は、3つあります。まず1つ目は、大学生のうちにゼロから何かを作り上げる経験をしてみたいと思っていたことです。将来のビジョンを考えた際、こうした経験が役立つと感じて参加を決めました。

2つ目は、僕は将来教員になるかどうかは未定なんですが、もともと子どもが好きで、教員免許を取得予定です。IPUブリッジでは楽しみながら子どもたちと関わることができると思い、魅力を感じて参加しました。

3つ目は、IPUブリッジに関わり始めてから生まれた理由ですが、実は、僕の妹が不登校を経験していることも影響しています。全国には約30万人の不登校の子どもたちがいると聞き、そうした社会問題に対して自分も何か貢献できるのではないかと思い、活動を続けています。

学生副代表 高間晴暉さん:僕は、小学校の教員を目指しています。その中で、不登校の児童が増えている現状に強く問題意識を持っていました。

その中でフリースクールの存在を知り、不登校ぎみの子どもたちに何か支援ができないかと考えていたところ、IPUブリッジの活動に参加しないかと声をかけていただきました。自分もぜひ力になりたいと思い、この活動に参加しています。

―― 「アワーユニバース」での活動は楽しいですか?

野田さん:はい、とても楽しいです。僕を含め、他のメンバーも部活動やアルバイトをしながら授業を受けつつ、この活動に取り組んでいます。忙しい毎日ですが、授業では得られない貴重な経験ができていますね。特に、自分たちだけで運営するという点は、他ではなかなかできないことです。大変な部分もありますが、それ以上に学びや楽しさを感じています。

また、周囲の先生方も非常に親切で、僕たちが気づかない点や見落としてしまうことに対し、豊富な経験をもとに的確なアドバイスをしてくださいます。学生の僕たちとは経験の差があるので、そのサポートが本当にありがたいですし、おかげで安心して活動に取り組むことができています。

子どもたちの個性を尊重しながら向き合う

――アワーユニバースの方々も、過去に不登校の経験があるのでしょうか? また、子どもたちと関わる際に気をつけていることや工夫していることはありますか?

野田さん:私や高間さん自身には不登校の経験はありませんが、アワーユニバースの中には、子どもの頃に不登校ぎみだったメンバーも複数名います。

どうやって声をかければ興味を持って活動に参加してくれるか、自分に心を開いてくれるかを意識して関わるようにしています。無理強いはせず、自然に興味を持ってもらえるような関わり方を大切にしています。

高間さん:実際の活動を通じて、勉強が嫌いな子もいれば好きな子もいて、子どもたちそれぞれに違った特徴があることを実感しています。

個人的には、得意なことを伸ばすだけでなく、苦手なことにも向き合ってもらいたいと考えています。学校では、時に注意や叱責を受ける場面もあるかもしれませんが、IPUブリッジではそういった方法は取らず、提案型で子どもたちに接するよう心がけています。子どもたちが少しでも苦手なことを克服でき、得意なことをさらに伸ばせるようなサポートをしていきたいですね。

―― 中には、スポーツが好きな子や、農作業であれば熱中できる子など、さまざまな個性があると思います。そうした子どもたちにはどのように接していますか?

野田さん:子どもたちそれぞれに好きなことがあるので、そこにどうやって学びの要素を付け加えていくかが、僕たちにとって大きな課題です。まだ試行錯誤の段階ですが、子どもたちの興味を活かしつつ、将来役立つ知識やスキルをどう提供できるかを常に考えています。

今年完成した金山寺にあるIPUブリッジの施設では、農業やDIYの体験ができる環境を整えました。僕はもともとサッカー部として金山寺で地域のお手伝いをしていたのですが、そこでフリースクール「IPUブリッジ」を設立することになったんです。

農業やDIYの体験は、子どもたちにとって新しい学びの機会になると思います。そうした体験を通じて、子どもたちが楽しみながら新鮮な学びを得られるよう心がけています。

―― 子どもたちと接していて、嬉しかったことや子どもたちの変化を感じたエピソードはありますか?

野田さん:やはり、子どもたちが楽しそうにしている姿を見ることが、何よりも僕たちのやりがいであり、喜びですね。また、保護者の方から「IPUブリッジに通い始めてからこんなことができるようになった」「家に帰ると楽しそうに話してくれるようになりました」という声をいただくこともあります。

そういった変化や子どもたちが楽しそうに過ごしている姿を見られた時は本当に嬉しいですし、それが僕たちの活動の大きな励みになっています。

高間さん:僕も、活動を通じてそれまで子どもたちができなかったことができるようになる瞬間を見られることは、とても嬉しいです。

例えば、「苦手な勉強を何とかしたい」「新しいことに挑戦したい」という気持ちを持っている子どもたちが、僕たちを頼ってくれる時があります。「自分たちだからこそできる支援だな」と実感できる時が一番嬉しいですね。

学生たちの意欲と情熱に支えられる「IPUブリッジ」

左上から時計回りに降屋さん、影山さん、野田さん、高間さん

―― 教職員の皆さまは、活動に参加している学生さんたちの様子をどのように感じられていますか?

影山さん:学生たちは本当に意欲的に活動してくれていて、非常にありがたいですね。学内で新しいことを始める際は、どうしても行政的な調整などの壁にぶつかることがありますが、学生たちはそんな逆風にも屈せず、力強く前進していく姿を見せてくれます。彼らの活力や情熱に、私たち教員も元気をもらいながら進められていますね。学生たちが主体的にこの活動を引っ張ってくれていて、本当に頼もしい限りです。

実は、IPUブリッジに関わっている学生の中には、大学の授業や環境に馴染めず、退学すら考えていた学生も何人かいるんですよ。でも、今はIPUブリッジを通じて自分の居場所を見つけて、学年を超えた仲間と過ごす時間を楽しんでいます。

体育会本部/サッカー部コーチ 降屋 丞さん:
「学生が運営する」と打ち出した以上、それに見合った活動をしてもらう必要があるということは、当初から学生たちに伝えていました。「僕ら教職員は放置するよ」って。もちろん教職員もサポートしますが、宣言した以上は彼らが主体なので。

ただ、彼らも自ら考え、行動するようになってきていると感じます。例えば、僕らがいなくても自発的にミーティングを開くなど、彼ら自身の学びにも繋がっていますし、子どもたちのことを真剣に考える姿勢も活動を通じてさらに強くなってきていると思います。現在は50名のメンバーがいますが、団体としてはもっと大きくなって、活動の幅もより広がっていけばいいなと期待しています。

――単位授業ではないからこそ、本当に意欲と主体性のある学生さんが集うのでしょうね。だから逆風にも立ち向かえると影山さんが仰っていましたが、例えば、どのような障壁があるのでしょうか?

影山さん:知識や情報が乏しい中で、ゼロからプロジェクトを立ち上げていったので、初めは本当に手探りでした。また、岡山県自体、まだフリースクールに対する意識は高いとは言えません。加えて、現在の行政予算は不登校支援よりも学校の魅力向上に使われているのが現状です。大学などの高等教育機関がフリースクールを運営することに対し、個人的には応援してくださる方もいるものの、行政から助成金を受けるのはまだ難しい状況です。ここも、今後の課題だと感じています。

それでも、学生たちが積極的に活動していることで、さまざまな問い合わせが寄せられるようになってきています。一歩ずつ道を切り拓くしんどさはありますが、同時にその過程から得られる面白さもあり、学生たちと一緒にそういったものを味わいたいと思っています。もちろん、こうした動きを進めるのは私たち職員の役割ですが、学生たちも力を合わせて私たちの背中を押してくれています。

ゼロから始めた「IPUブリッジ」の成長と学生主体で切り拓く未来

―― 最後に、今後の目標や思いがあればお聞かせください。

降屋さん:もともとサッカー部でボランティアや地域貢献活動、子ども向けのサッカースクールなんかをしている中で、影山さんから不登校支援の話を持ちかけていただきました。部員たちが地域の方々や子どもたちと接する姿を見て、彼らなら不登校支援でも力を発揮できると思っていたので、実際に一緒に取り組めたことはとても良かったですね。

今ではサッカー部以外の学生も参加していて、現在はサッカー部員が半分、それ以外の学生が半分という割合になってきています。学生同士の繋がりが部活動の枠を越えて学内でも広がっている状況は、とても嬉しいですね。この活動が社会的に評価されるようになれば、学生たちにも良い影響があるでしょうから、もっともっと良い活動にして認知度を上げていきたいですね。

影山さん:私たちのフリースクールは、立ち上げから現在まで、大学からの資金援助をほとんど受けずに運営しています。施設や少額の経費は大学から提供されていますが、それ以外の資金は学生たち自身が協力企業の夏祭りで焼きそばを売ったり、フリーマーケットで物を販売したりして資金を作っているんです。また、農業体験やピザ作りの場所も、無償で子どもたちを受け入れてもらっています。これも、サッカー部の学生たちが週に2回そういった場所でお手伝いをしてきた実績があるおかげです。

そのように学生のマンパワーで成り立っている点が、この活動の大きな特徴です。最近では経営学部の学生たちも参加し、ゼロから一つのものを作り上げる経験を共有できています。

実は私自身、子どもが不登校を経験しています。学生が「不登校支援をしたい」と話をしてくれた時、この活動は今の社会に絶対に必要だと思いました。不登校児のお母さんたちの話を聞くと、特に岡山では助成金や補助金がないために、フリースクールに通えない家庭が多いんです。そういった家庭の負の連鎖を断ち切りたいという思いが私には強くあります。

現在の活動は、学生たちが主体となって運営しているからこそ、実現できている部分が多いと感じます。私たち教職員も責任を持ってサポートしていますが、学生の力でそういった課題を乗り越えていける、とても意義のある取り組みだと思っています。実は、IPUブリッジのベンチャー企業化を目指しています。

野田さん:最初は学生4人から始まったこの活動も、今では50名の学生団体に成長しました。少しずつ大きくなっている実感がありますが、これからもまだまだ拡大が必要だと感じています。

初めの頃は、イベントを企画しても子どもたちがなかなか集まらず、「どうやって子どもを集めるか」という課題からスタートしました。今年のゴールデンウィーク頃からようやく子どもたちが参加してくれるようになりましたが、次の課題は「学校に通えない子どもたちがこのIPUブリッジを通じて何を得るのか?それが社会にどう役立つのか?」という点です。

活動が大きくなる一方で、まだまだ課題は山積みです。メンバー全員が一生懸命取り組んでくれているので、リーダーとしては、これからさらに活動を広げ、企業や学校、行政との繋がりを増やしていくことが必要だと感じています。メンバーの頑張りをもっと多くの人に認知していただき、IPUブリッジの存在が社会に認められて、子どもたちにより良い環境を提供できるようがんばっていきたいです。

高間さん:僕は勉強が得意ではないんですが、コミュニケーション力や挑戦力には自信があります。実際に、大学内でコミュニケーション力を発揮してきたこともあり、アワーユニバースのメンバーにもさまざまな人脈を活用して頼もしいメンバーを集めることができました。

今ではそうした意識の高いメンバーが中心となって活動しており、みんなが挑戦する心を持って取り組んでいることに大きな可能性を感じていますし、僕たちは学力ではどうにもならないような、他の大学には負けない力を持っていると思います。

これからも、そんな力を不登校で心を閉ざす傾向のある子どもたちに伝えることで、少しでも心を開いてほしいですし、そうやって社会に貢献できる支援をしていきたいです。